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01.超高校級のバカップル 15日目
ここは朝のレストラン。ウサミアナウンスで起きた全員が、ここで朝食をとっている…はずだった。
「お2人共、仲良く遅刻でちゅか…。はぁ。朝食に来てくれないとミナサンが迷惑するんでちゅよ? 何か理由があったんでちゅか?」
ウサミは腰に手を当て、ぷんぷんとフェルト地から湯気を出している。その前には少年が2人並んでいた。1人はツンと尖った髪型が特徴で学生服を着た少年―――日向 創、もう1人はふわふわと白い柔らかそうな髪を持ち、深緑色のコートを着ている少年―――狛枝 凪斗だった。2人はアナウンスが鳴っても、朝食の時間を過ぎても一向にレストランに現れず、ウサミにお説教をされていた。彼らにとって今回の遅刻は初めてではない。色々と修学旅行始まって以来の問題児達なのだ。どう問題かと言うと…。

「ごめんね、ウサミ。日向クンが朝になっても中々離してくれなくって…」
眉を下げた狛枝が悲しそうに遅刻の理由を答える。なるほど、そうなのか。日向が遅刻の原因らしいとウサミは理解したが、それに反論するように日向は声を荒げる。
「おい! 何 人の所為にしてんだよ。お前が抜くなって言ったからだろ?」
「そんなこと言ってないよ。大体抜けなくなったの、誰の所為だと思ってるのかな?」
抜く…。抜く…!? 2人から飛び出た単語に、静まり返るレストラン。今は朝だ。作業の前の朝食タイムだ。しかしそれを気にすることなく、2人の会話はヒートアップする。ウサミですら止められない。止めてくれる人は恐らく誰もいない。何故こいつらを修学旅行に連れてきたんだ…。レストランにいる誰もがそう思っていた。
「そ、そんなの狛枝の厭らしい穴の所為だろ。何だよ、遠回しに誘ってるのか?」
「…勘違いしないでくれるかな? 誘ってないよ。キミこそテクもないのに、何でそんなに自意識過剰なの?」
「なっ、どの口が言うんだよ。昨日の夜も俺のを根元まで銜え込んで、『あぁん、日向クンの…すごいぃ…』って、ずっと啼いてたじゃないか!」
「…ねぇ、ウサミ。今の見た? 日向クン、すごい悪党面。どう見ても彼が悪いよね? ボクは無実だよ」
「! 卑怯だぞお前…。人に罪擦り付けようとする狛枝の方が、どう見ても悪人だよな? ウサミ!」
「は? 自分のこと棚に上げるの? 日向クンが「何だよ、狛枝が「キミが「お前が「キミ「おま(以下略
勢揃いした修学旅行メンバーの前で、堂々と痴話ゲンカを始める2人。際どいセリフの数々にレストランの空気が強制冷却されていく。今は夏だ。ジャバウォック島はトロピカルな南国で、空にはカンカン照りの太陽が浮かんでいる。それなのにレストラン内は真冬の如く寒々しいツンドラ気候であった。
「……えっと。ミナサン、採集と掃除の担当は決まってまちゅか? もうそろそろ時間なので、朝ご飯を食べ終わったら、作業場所に行ってくだちゃいね! 以上でちゅ!」
ウサミは2人の存在を脳内から抹殺することに決めたようだ。これは正しい選択だと誰もが思っているだろう。
「ちょっとウサミ、聞いてよ。この間なんて、日向クンいきなりボクにナースプレイとか言って、」
「狛枝、何告げ口してんだよ! お前の方こそノリノリで『早くお注射欲しぃよぉ』とか言ってたじゃないか!」
「やめてぇええ! お2人とも早く作業場所にダッシュでちゅ! あちしなかったことにちときまちゅから!! 記憶改竄ちまちゅから!!!」

これが修学旅行の問題児達である。不幸にも絡まれてしまったウサミに、レストランにいた全員(終里以外)は心から同情した。
「…日向くん、狛枝くん。あちしついてけないでちゅ…。遅刻には目を瞑りまちゅから、もう勘弁ちてくだちゃい。先生は同性愛に反対しまちぇん!」
「ウサミ何言ってるの? ボクの話ちゃんと聞いてる? 日向クンが夜の公園に連れ込んで、首輪」
「いやああああああーーー!! もーお願いでちゅから黙っててくだちゃぁぁああああい!!」
レストランにウサミの悲痛な叫びが響いた。

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02.超高校級のバカップル 26日目
作業も自由時間も終わった夜のレストラン。1日の終わりに、今日あった出来事を互いに話しながら、穏やかな時間が流れていた。そう、穏やかだった。修学旅行きっての問題児である日向と狛枝はイチャつくことなく、黙って食事をしていた。それならば周囲も心を削らずに済み、安心なのだが。
いつも以上に静かな2人に、左右田は微妙な空気を感じ取っていた。片時も離れず、食事も隣同士の2人だったのに今日は別れて座っているのだ。左右田を挟んで右と左に、それぞれ日向と狛枝が座っていた。
「…今日のオメーら、何か変じゃね? 一言も喋ってねェみてーだし。……さてはケンカか? ホモのくせに」
比較的話しやすい日向の方に、こそっと声を掛けてみる。すると彼は食事の手を止め、悲しそうに俯いた。
「…俺は多分、何もしてない。突然 狛枝が目を合わせてくれなくなって…、グスッ」
「だー! 泣くな! ったく、いいか? 自分が悪くなくてもとりあえず謝っとけ。狛枝はメンドーな奴だって分かってるだろ!?」
狛枝だけでなく、日向も含めて面倒だった左右田は適当なアドバイスをしてみせる。それにすぐさま納得した日向はしな垂れていた頭のアンテナをピンと回復させた。
「! そうなのか…。分かった。おいっ、狛枝。こっち向け!」
日向はスッと立ち上がり、狛枝に向かって声を上げた。ちまちまと食事をしていた狛枝が怪訝そうにしながらも顔を上げる。
「ごめん。俺が…悪かった。俺には狛枝しかいないんだ。頼むから許してくれ」
「……もう女の子とばっかりデートに行かないなら……、許してあげるよ…」
「ああ、誘わない。お前に誓う。狛枝…好きだ。お前だけを、愛してる…!」
どうやら日向が女子ばかりデートに誘っていたのが気に食わなかったらしい。キリリとした凛々しい表情の日向が真っ直ぐに狛枝を見つめている。それを見た狛枝は乙女よろしくポッと頬を染めた。既に日向にメロメロ状態といったところか。仲介役になった左右田は『やれやれだ』とでも言うように頬杖を突いている。その頭上で2人は熱く手を握り合ってるわけだが。
「日向クン…、キスして?」
「ああ。いいぞ…。んっ」
幸せでほのぼのとした空気が怪しい方向へ転がり出す。良く考えれば、このバカップルが仲直りだけで済むはずがなかったのだ。レストランで話すメンバー達の口数が減り、辺りは段々と静まり返っていく。あろうことか日向と狛枝はレストラン内で堂々とディープキスをし出した。2人の唇から銀糸が滴り落ち、左右田の頭にツッと線を描く。

「………ぉぃ…オメーら……」
「…日向、クゥン。ボク…、もうダメみたい。今すぐ…ん、シたいよぉ…。ぁ、我慢でき、ない…ッ」
「それに同意…だ、狛枝。……くっ、仕方ない、今ここで、」
「ってオッパジメんじゃねェよッ!! このバカップルがああああ!!」
とうとう我慢の限界に達した左右田が勢いよく立ち上がる。頭の先には熱烈にキスを交わす2人がいた。強烈な頭突きアッパーを喰らい、日向と狛枝は顎を押さえてしゃがみ込む。
2人の所為で夕食は半ば中断していた。だが、被害は最小限だ。全員(終里以外)は左右田に感謝した。あのソニアでさえも感謝した。同時にウサミ以外にも彼らを止めるマトモな人物がいることに涙さえした。というかレストランにいたウサミは既に泣いていた。

「先生、手を繋ぐのは許ちまちゅけどね。体を繋ぐのは許可ちまちぇんから! 食事中はダメ、絶対!でちゅよ。クビにちまちゅからね!!」
夕食終了後に日向と狛枝はウサミに呼び出され、直々にお説教を受けていた。しかし2人の表情は明るい。視線を交わしながら愛おしげな表情を見せている。2人の手は固く繋いだままだった。

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03.超高校級のバカップル 37日目
左右田は1人砂浜を歩いていた。時刻は自由時間も終わった夕刻だ。赤い夕焼けが横から降り注いでいる。後1時間もせず、空は暗くなり、夕食の時間が始まるはずだ。本当はコテージでダラダラと機械いじりをしているのが、彼の常であったが、たまには散歩をして体を動かすのも良いだろうと外に出てきたのだ。
そんな左右田が呑気に鼻歌を歌いながら、歩みを進めていると、…何か変なものを見た。ゴシゴシと自分の目を擦ってみるが、それは消えることはない。段々近付いてくる2人の人物に、左右田はギクリとし、その足を止めた。錯覚だと思いたかったが、そうではないらしい。左右田の顔は蒼白になった。

「…オメーら、何やってんだよ!! ここ砂浜だぞ! その前に色々おかしいっつーか、何で狛枝が裸で首輪付けてんだッ!!」
唾を飛ばしながら勢いよく捲し立てるも、相手の反応は鈍い。超高校級のバカップルである日向と狛枝は、左右田が何を言っているか理解出来ないといった表情で互いに顔を見合わせた。
この状況はどう考えても異常だ。揶揄でも冗談でもなく、左右田のいうような状況の2人が砂浜にいた。日向は犬用の赤いリードを持っている。その繋がれた先は狛枝の首辺りに続き、繋がれた当人はコート以外は裸で四つん這いになっていた。
「ははっ! 良く見ろよ、左右田。裸じゃないぞ、ちゃんとコート着てるだろ?」
「いや、コートの下裸ですよね!? ってかオメーらマジで何してんのッ!?」
ガタガタと震え、引き気味になりながらも左右田は追究をする。嫌な汗が流れ、パニックになるが、目の前の2人は妙に落ち着いていて、その反応が更に異常性を掻き立てていた。
「何って…、見りゃ分かるだろ? 散歩だよ。飼い主が犬の散歩をするのは義務なんだぞ。左右田、何か問題あるのか?」
「いや、普通にありまくりだろ!! 犬じゃないし狛枝だし。何なんだよオメーら。まだそういうプレイしてたの!!?」
「それは違うぞ! 狛枝じゃない犬だ! プレイじゃない躾だ!! こいつは俺が大事に取っておいた草餅を勝手に食ったんだ」
苦悶の表情を浮かべる日向を、地面に這いつくばった狛枝が心配そうに見ている。『ごめんね、日向クン』とその目は訴えていた。
「何言ってんのオメー! つーか草餅1つでこんなことするなんて、器小さ過ぎだろうが。許してやれよ!!」
尤ものようで尤もではない指摘をする左右田。何故自分ばかりこんな目に遭うのだろうと、彼は心の中で涙していた。

最初の衝撃は忘れようにも忘れられない。修学旅行が始まって1週間した頃の自由時間のことだった。左右田はジャバウォック公園で堂々と結合している日向と狛枝を目撃してしまったのだ。「よぅ、左右田! ソニアは誘えなかったのか?」と(狛枝をバックで突きながら)明るく話しかけてくる日向に、左右田は初めて恐怖を感じた。
それまで左右田は日向に対して、普通の友達として接していたが、この時から距離を置くことに決めた。全てがこの日をキッカケに変わったのだ。修学旅行きっての問題児、超高校級のバカップル、迷惑過ぎる変態コンビ。彼らについたあだ名は不名誉なものばかりだったが、日向も狛枝も全然気にすることはなく、人目を憚らず相変わらずイチャイチャしていた。
「そう目くじら立てるなよ。もう夕方だぜ? 砂浜に人なんて残ってないじゃないか。大丈夫だよ。俺にだって常識くらいある」
「いや、ねぇから! 服脱がして、ペットよろしく紐で引くなんてありえねー。つーかまだオレがいんだけど!!」
日向と左右田が生産性のない口論を続けていると、下方から狛枝が縋るような視線を日向に投げかけてきた。四つん這いになった彼はプルプル震えながら、顔を真っ赤にしている。やがてぎゅっと目を瞑った狛枝は、キュルキュルとお腹を鳴らした。途端に日向の顔色が変わる。
「狛枝、…腹減ったのか? しょうがないな、餌用意するからちょっと待ってろ」
「エサってお前なぁ…。そういうプレイは人様の迷惑が掛からないような、室内か僻地でやれって何度も…」
左右田はブツブツ文句を言っていたが、特に怒るつもりはなかった。この2人にマトモに噛みついても取り合ってくれないと諦めたのだ。
日向は透明なビニール袋の中からパンの耳を取り出し、掌に乗せると狛枝に差し出した。狛枝はごく自然に日向の手に口を寄せ、動物のようにパンを食べている。末期。その光景を目撃した左右田の頭にその二文字が浮かんだ。以前は普通にイチャついてた狛枝も既に手遅れだった。
気まずい沈黙が流れる。狛枝から零れるハグハグという荒い息に、周囲の空間が占拠された。左右田は広く青い海を見つめ、遠い目をしていた。無我の境地。高確率で変態2人に遭遇する運の悪さに歯を食いしばり、心の中で嘆く。
「あ、左右田もやってみるか? 狛枝は賢いんだぞ!」
「当たり前だろ。狛枝は人間、って何でパンの耳…? あ、狛枝! 来んな! こっち来んなぁ!!」
日向に手の上にパンを乗せられ、きょとんとしていた左右田だったが、次の瞬間息を乱した狛枝を視界に入れてしまい、ビビりながら後ずさった。灰色の瞳が一直線に左右田を捉えている。日向はニコニコと楽しそうに、狛枝に声を掛けた。
「狛枝、左右田の手に乗せたパンを全部食え。そしたらご褒美にナニしてやるからな!」
「ナニって何だ!! おい、狛枝止めろ…。冗談だろ?」
「はぁ…はぁ…!」
「うわっ、ちょ、どけよ!! うぐ、重いって…。え? ァアッ、舐めるなぁ…アァ…ん」
狛枝は左右田に馬乗りになって、パンの耳を頬張っている。弾みなのか何なのか、色々な所をペロペロと舐めている。色々な所というのは…、とにかく色々だ。言葉に表わすには箇所が多過ぎる。
「みぎゃああああああああっ!!」
砂浜に泣き叫ぶような左右田の悲鳴が上がったが、それを聞いて助けに来る者は1人としていなかった。

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04.超高校級のバカップル 48日目
最終日も近い修学旅行48日目。朝食が済んだレストランで。ウサミは学級目標の作業を確認しようと、日向に近付いた。傍に狛枝を侍らせているのはデフォルトだったので、もう気にも留めない。
「日向くん、今日の作業分担なんでちゅけどね」
「ちょっと待ってくれないか、ウサミ」
「はぇ?」
きょとんと首を傾げるウサミ。日向は狛枝を後ろから抱き締めながら、何やらテーブルの下でもぞもぞと手を動かしている。
「折角狛枝のココが良い感じに濡れてきたんだ。ほら、すごい勃ってる」
「アぁんッ…。ひなたクン、もっとやさしく 扱いてぇ。あ…もぅイッちゃうぅッ」
「……あのやっぱりいいでちゅ。十神くんに聞いてきまちゅ…」
「そうか?」
「やっ、日向クン、あっあっ、あーっ、も、でるぅ……っ!」
蕩けそうな顔で涎を垂らしながら、甘い悲鳴を上げ続ける狛枝。それを見たウサミは言葉もなくそっと離れた。らーぶらーぶなのは良いけど、激し過ぎるのは問題だ。しかし修学旅行メンバーは日向と狛枝に対し、免疫をつけてしまったようで、誰も文句を言うことはなくなった。
「ああああっ、あ、…やぁあんっ!」
「やっとイったか…。おい、テメーら! 後片付けサボんじゃねぇぞ!」
高らかに響いた狛枝の喘ぎに、淡々と反応する九頭龍。
「あ、いいよいいよ。ここのお皿はアタシが片付けとくから」
「おねぇ手伝うよ!」「わ、私もお手伝いしますぅ」「唯吹も唯吹もー♪」
それをフォローするのは小泉。小泉を手伝うのは西園寺、罪木、澪田だ。
「これって異常でちゅよね…、どうちまちょう…」
自分の所為で、みんなが変態に目覚めてしまったら…。ウサミは自分の指導力の無さを嘆いたが、既に時は遅かった。

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