// R-18 //

反転心理の法則
ある晴れた午後のことだった。常夏のジャバウォック島・第3の島にある病院で。俺と罪木はウサミと対面していた。
「絶望病でちゅ!」
力いっぱいステッキを振り上げながら、謎の単語を口にするウサミ。その直後、水を打ったように病院の廊下は静まり返った。言われた俺も罪木もポカンとして、ウサミをただ見つめるだけ。シン…と音が消えてしまった空間に耐えきれず、ウサミはそろそろとステッキを下ろし、小さく呟く。
「あ、あの………、何か言ってくだちゃい。お願いちまちゅ…」
「……あ、ああ。悪い。意味が分からな過ぎて、リアクション出来なかった」
「でちゅよねー! あちしもどう説明ちたらいいか、分からなくって。えへへ!」
てへぺろ!と表情を和らげるウサミに、俺は口の端がひくりと上がる。ウサミが空気を読めないのなんて、百も承知で。いつもならそれに対してももっと冷静でいられるのに、今日はどこか落ち着かない。…何でだろう? そう考えて、ふと恋人の優しげな微笑みが頭に浮かんだ。ああ、そうか。今は狛枝が傍にいないからだ。長く一緒に居過ぎた所為だろうか、僅かでも離れてしまうとこんなにも心が脆くなる。俺はぎゅっと拳を握り締めて、ウサミを見据えた。
「そこはちゃんと説明してくれ、ウサミ。仮にも引率の先生なんだろ?」
「あ、はい。ごめんなちゃい…。絶望病はでちゅね、その名の通り、絶望ちてちまう病気なのでちゅ!」
「説明どころか、まんまじゃないか!」
ツッコミを入れると、ウサミは「あっ、そうでちたね!」とおどけて、自分の頭をコツンと軽く叩く。再び顔を覗かせるイライラを抑えて、俺は腕を組んで考え込んだ。何だよ、絶望病って。病と付くからには病気の一種ってことだよな? だけど初めて聞いたぞ。いや、でも…。それにしては何だか妙に馴染む語呂だ。…本当に聞いたことないか? 唸る俺と同じく、隣にいる罪木も神妙な面持ちだった。
「具体的な症状はどんなのなんだ? それが分からないと罪木も看病出来ないだろ。朝なんて大変だったんだぞ?」
「はいぃ…。分かる範囲で良いので、絶望病のことを教えていただけませんかぁ?」
罪木は両手を胸の前で組んで、申し訳なさそうにウサミの返答を待っている。当の白ウサギはというと、冷や汗をダラダラ流しながら「え、えーっとでちゅね…」とハッキリしない態度だ。午前中は姿も見せずにいて、今更顔を出したと思ったらこれか。俺の強い視線を受けたぬいぐるみは、しどろもどろといった感じでやっと顔を上げた。
「狛枝くんの症状はでちゅね、う…、嘘吐きになっちゃったんでちゅ…。嘘吐き病っていって、絶望病の一種で、」
「嘘吐き病って、何だそれ! おかしいだろっ!!!」
「ご、ごめんなちゃい! でもでも、本当なんでちゅよ。……あ、ダメでちゅ! いやあああっ、耳を引っ張らないでぇえええ!」
「日向さん、止めてあげて下さぁい! ウサミさんが可哀想ですよぉ。とりあえず、落ち着いて…!」
罪木に横から弱々しく二の腕を掴まれて、俺は耳を掴んで持ち上げていたウサミを床に下ろした。この修学旅行がどこかおかしいのは分かってたけど、いくら何でもぶっ飛びすぎだ。ウサミは俺が睨むと、ひぃ!と悲鳴を上げて罪木の足元に隠れてしまった。


狛枝が絶望病とやらに罹ったのは今朝のことだった。レストランにふらふらとした足取りで登場した狛枝は、それはもう誰が見ても顔色が悪かった。最初に異常に気付いたのはもちろん俺だ。…仮にも恋人である訳だしな。まぁ、それは置いといてだ。狛枝は明らかに普通じゃなかった。蒼白になった顔のまま、へらへら笑い「ボクは本当は女の子なんだ」だの、「十神クンは花村クンに殺される」だの、滅茶苦茶なことを言い出す始末。俺が罪木に診てもらおうと呼びに行く前に、狛枝は見たことのない色の泡を吹いて、その場にパタリと倒れてしまった。
七海に罪木とウサミを呼ぶように頼んで、俺は病院まで狛枝を担いで運んだ。気絶している大の男を背負うのは意外と重労働で、病院のベッドにやや乱暴に彼を寝かせたのは内緒である。私服から病院着に着替えさせる時は、薄らと汗の浮かぶ裸身を視界に入れないように細心の注意を払った。その…何だ、勃ったら…困るし。そして罪木の看病もあり、何とか狛枝は微熱程度まで熱を下げることが出来、今はすやすやと寝息を立てている。
「全く…。ウサミの奴、適当なこと言って!」
「まぁまぁ、日向さん。病気になってしまったものは仕方ありませんよぉ…」
「…そうだけどさ」
ウサミが脱兎の如く逃げ、病室には俺と罪木と狛枝が残された。清潔感のある四角い空間には微かに消毒薬のような匂いが漂っている。俺は黙って、ベッドに寝かされた狛枝を見下ろした。白い枕に白いシーツ、白い髪に白い肌。青い病院着以外に色がないその姿はまるで蝋人形のようだった。
「狛枝さん、朝より体調は快方に向かってますぅ。今日の内に治れば良いんですけどね」
「ありがとうな、罪木。狛枝を助けてくれて…」
「い、いえぇ…。私は当たり前のことをしただけですから。…でも日向さんにそう言って頂けて、すごく嬉しいですぅ」
眉を下げて、罪木は照れたように笑った。彼女の献身的な看病と的確な処置で、病気の内容が判明する前に7割方落ち着いてしまった。さすがは超高校級の保健委員だ。「コテージとドラッグストアから必要そうな物を取ってきますね」と言った罪木を病室から見送り、俺は備え付けの赤い丸イスに腰掛ける。蒸し暑い外の熱気を入れないように、窓は早々に閉めた。程良く空調が効いた室内には、ベッドの他に点滴を掛けるガートル掛けや白い布製の衝立、診療器具の入ったサイドボードなどがあった。まぁ、面白い物なんて置いてない。俺は眠っている狛枝へと視線を戻した。
「早く良くなれよ。狛枝…」
眠っているだけなら、俺にだって狛枝を看ていられる。彼が起きている時に俺に言った言葉。ウサミの言うことを信じるならば、あれは嘘らしい。俺を見た早々「日向クンなんて顔も見たくないよ…」と言われた時はハッキリ言って相当傷付いたけど、病気の方向性が分かってしまえばダメージはそこそこ軽減された。
氷枕は替えたばかりだし、水だってさっき罪木が飲ませていた。よっぽどのことが無ければ、このまま安静にしてるだけで大丈夫だろう。抜けるように白く滑らかな肌には、玉のような汗がポツポツと浮かんでいる。サイドボードに罪木が薬や体温計や水差しを準備してくれていた。その中からハンドタオルを取ると、狛枝の額や病院着の合わせから覗く肌を軽く拭ってやる。
「ん……んん…っ」
皮膚に触れるタオル地の感触に、狛枝は微かに唸り声を漏らす。形の良い眉が歪んで、その下の端正な眼がゆっくりと開いた。瞳の色は薄い緑が混じった綺麗な灰色だ。だけど今は更に中心目掛けて螺旋を描くように、混沌とした黒が入り込んでいる。
「……日向クン、まだ…いたの? 早く帰っちゃってよ…。キミと2人きりだなんて…、ありえないよね」
「…狛枝」
「日向クンの顔を見てると、…最悪な気分になってくる。こんなのボクには耐えられないよ。はぁ…」
顔色が悪いまま、狛枝はそう告げた。これを嘘吐き病だと考えれば、狛枝は俺にここにいてほしい、顔を見てると最高の気分だと言ってることになる。何て可愛いことを言うんだ…。俺は恋人の捻じれた告白にほぅと溜息を漏らす。
……いや、待て。いくら何でも俺のこと好き過ぎないか? 本当に真逆かどうかも分からないのに。俺が口を噤んでいると、狛枝は左手を弱々しく俺の方へと差し伸べた。俺は反射的にその手を握る。少しだけ冷えた綺麗な手だ。狛枝は俺の指を1本1本確かめるように、ぎゅっぎゅと力を入れると、安心したかのように目を細めて微笑んだ。
「もしかして、口だけが嘘吐きってことか…?」
問いかけても狛枝はたおやかな笑みを向けるだけで何も言わない。繋いだ彼の手の甲にキスを落とすと、狛枝は「嫌だよ…」と呟いたが、相変わらず頬は緩ませたままだった。
「……あ…、ボクは、嘘吐きじゃない…、よ」
「…ああ、分かってるぞ」
「日向クンのこと、嫌いなんだ…。嫌い、嫌い…、大嫌い…」

(日向クンのこと、好きなんだ…。好き、好き…、大好き…)

自分の口から飛び出す嫌悪のフレーズを否定したいのか、狛枝の目からは大粒の涙がスッと落ちていく。それを見た俺の胸が柔らかく痛んだ。きゅんと甘いその痛みに流されて、イスから立ち上がった俺は横たわっている狛枝の唇に口付ける。手を突いたパイプベッドが軽い音を立てて軋んだ。
「んっ……」
やっぱり体は嘘を吐いてないんだ。狛枝は顔を逸らす素振りすら見せずに、俺のキスを受け入れている。カサついてはいるがふわっとした優しい感触に、俺は無意識の内に舌で味わうように狛枝の唇を舐めていた。体重を掛けないようにそっと彼の上から覆い被さり、更にキスを深くしていく。狛枝はもっとと強請るように、自分の舌で俺のそれをチロチロと舐め回した。
「日向、クン…、いやぁ…止めてよ……、どいてぇ…!」
「んんっ、ぅ、……狛枝…ッ」
嫌だ嫌だと言いつつ、狛枝は俺のネクタイを掴み、こちらに引き寄せている。これ以上すると止まらなくなりそうだ。俺は吸いついてくる狛枝の唇から逃れ、少しだけ顔を離す。狛枝は熱に浮かされたような表情でうっとりと俺を見つめていた。青い病院着の合わせから覗く透き通るような肌は、汗ばんで艶めかしく俺を誘っている。半開きの桜色の唇からは涎が垂れていて、むっと匂い立つような色香を纏わせていた。並外れた彼の妖艶さに俺はゴクリと生唾を飲み込む。
狛枝は嘘吐き病だ。俺に対して、必ず逆のことを言ってくる。それはつまり『嘘を吐くこと』を誤魔化すのは不可能であり、裏を返せば逆の答えが『絶対に』真実となる。俺が「狛枝…」と呼び掛けると、彼は混沌混じりの灰色の瞳をうるうると潤ませた。
「………抱いても、いいか?」
その刹那、透明な光を纏った灰色が大きく見開かれる。俺の問いかけは病に伏せている狛枝にとって、とても残酷なものだと思う。だけど浅はかな俺はそれを自制することが出来ない。どうしようも、出来ないんだ…。こんなに愛しい存在は初めてで、誰よりも大切にしたい。愛しているはずなのに、辛いと分かってることを強いろうとしている。そして俺は、狛枝がどんな答えを返すか知っていて聞いている。狛枝はネクタイを掴んでいた手を離した。そしておずおずと口を開く。
「キミに抱かれるなんて、……最悪だよ。悪夢以外の、…何物でもない、ね…」
「狛枝……っ!」
「放っといてよ、日向、クン…。ボクは、1人でも寂しくない……っ」
紡ぐ言葉は予想通り過ぎて、あまりの健気さに目頭が熱くなる。彼は穏やかに微笑んで、俺をじっと見上げている。胸元を這う狛枝の上肢が首筋を撫で、俺の頬へと行きつく。親指で徐ろに唇に触れられた時には、俺は逸る気持ちを抑えられずベッドに乗り上げていた。


白い頬を撫でると、狛枝は気持ち良さそうにしみじみと目を瞑った。俺は纏わりつく湿った前髪を退けて、額に掌を当てる。じんわりと狛枝の温度が伝わってきた。汗を掻いているから体温が高いのかと思っていたけど、想像よりも狛枝の体は熱くなかった。罪木の処置が良かったのか、絶望病のウイルスが元々弱いものだったのか。病気に関して素人である俺には分からない。
俺は寝ている狛枝の上に跨って、額にキスを落とす。それから涙が溢れた目元、ほんのり色付いた頬、髪に隠れた形の良い耳へと順に口付ける。最後に薄く開いた唇に…。狛枝の甘い唇の感触を楽しみながら、病院着の上から手を滑らせると、ビクッビクンッと体を大きく痙攣させる。狛枝は、とても感じやすい。本当に全身が性感帯らしく、どこを触っても頬を赤く染め、蕩けた顔で感じ入るのだ。内股ギリギリの所を俺の指が掠めると、狛枝は一層大きく喘いだ。
「んっ……あぅ…、アンっ、日向、クン……、いやっ、そこ、…あっはぁ」
涙目の狛枝が俺に懇願してくる。普段抱いている時でも素直じゃなかったから、ここはいつもと変わらない。彼のそのままの言葉通りに手をそこから遠ざけてやると、狛枝は悲しそうな顔で唇を震わせた。どうやら不満らしい。ちょっと意地悪し過ぎたか。謝りの意味も込めて、もう1度深く口付ける。口の端に筋を作っている涎を舐め取りながら、おとがいを越え、下へ下へと移動した。
「……ふ、ちゅ……、ちゅッ、ここは…? 嫌いか? 狛枝……」
「き、…きらいぃ…! やめ、やめて……ヤぁ、ああッんっ、んっ、んぅう…!」
ほっそりとした首筋に唇を押し当てながら、狛枝に囁きかける。喉仏がゴクリと動いて、男にしては薄い胸が苦しそうに呼吸を繰り返していた。すぐにでも脱がしてしまいたい気持ちを抑えて、俺は浮き上がった狛枝の鎖骨をペロリと舐める。
「…鎖骨、どうだ? んっ、…ちゅるっ……。狛枝、感じる、よな…?」
「ふ、や、ァあん…ッ! 感じ、ない…、あ、あ、あふっ、ンぁあッ…! はぁああっ、あ、アッ」
静かな病室に狛枝の嬌声が響く。段々、嘘吐き病とやらに慣れてきた気がする。いや…言葉なんて聞かなくても、狛枝が何を伝えたいか俺にはすぐに分かった。その瞳が、その表情が、その体が…俺を求めて、愛してくれと言って止まない。
「………狛枝。このままじゃ、舐められないから…。服、…脱がすぞ?」
「やらぁっ、や、ダメ…、ひぁたクン、脱がしちゃ、…ダメだよぉ……。アンっ」
最初は普通に脱がそうと、病院着の結び目に手を掛けようとした。しかし少しだけ考えて、俺は狛枝の肩口から病院着の内側へと指を滑り込ませる。汗で湿った布地が肌に貼りついていたのを剥がしながら指を進ませていると、素肌を直接撫でられた所為か狛枝の胸元がふつふつと粟立った。俺の手の動きに合わせて、するりと青が取っ掛かりもなく落ちていく。
「………っ!」
あまりにも扇情的な狛枝の姿に、俺は言葉を失ってしまった。彼は確かに男であるはずなのに、何故こんなにも惹かれるのか。初めて抱いた時はそんな気持ちも心のどこかにあった。だけど今では、そんなことは些細な要素でしかないとハッキリ分かる。例え男であっても、俺は狛枝が欲しかった。性別という絶対的な壁を飛び越えた先の美しさを、彼はその身に宿している。それはもう…溜息を吐いてしまうほど、綺麗だった。花魁のように淫らに色白の肩が曝け出され、隠されていた桃色の乳首も丸見えだ。狛枝はじっと見つめる俺の視線から逃げるように顔を背け、ツンと尖った胸の飾りを隠そうとする。
「お願いぃ…、ひなたクン……。ひっく…、ボクを見てぇ…! もっと、もっと、よく…」
そこも逆になるのか。しゃくり上げながら、あべこべのことを口にする狛枝に俺はゾクゾクと背筋を逆立てた。胸の前でクロスさせている腕を掴んで開かせると、美味しそうにぷっくり膨れた小さな実が2つ。それを味わおうと唇を近付け、舌先でちょんちょんと突くと、狛枝はその度に体をひくつかせた。
「いやぁ…ッ、胸、舐めちゃいやッあうぅう、んやァ…! ひぁたクゥン、ア、あんッ」
「は…。すごくえっちだぞ、狛枝…。やらしくて、かわいい…。ンっ」
「ひぅううッ!! あ…舌、が……っ、…アンっあんアあんッ、やぁ、っしないでぇ…!」
少しだけしょっぱくて、薬っぽい狛枝の汗の味。皮膚が薄く柔らかい乳輪をくるくると舐め回すと、中心の芯は更に硬くその存在を主張し始める。コリコリとした乳首を舌で押し潰して、指で摘まんで…。考え付く限りの方法で虐めてやった。
「…っあ、ふああッ、日向クン、日向クン…! …アンっ、んあっあ、あ、ひぃいいんッ!」
「狛枝、こまえだ…! 気持ちイイだろ? はぁ…、もっと啼けよ…」
「うぁっ、あああっ、ん、んッ、あはぁ…っ、アん、ふっんはっ、あ、いぁ、イヤぁあ…っ」
口に含んで吸い上げて、ちゅっちゅとわざと音を立てる。引っ切り無しに漏れる狛枝の力ない悲鳴に、俺のペニスは更に膨らんでいく。熱を孕んだまま放置しておくのはさすがに辛い。狛枝の乳首を舐めながら、俺は投げ出された狛枝の右太ももに股間を擦り付けた。快楽を少しずつ解放するように、ゆるやかに腰を揺らす。刺激を受けたそこはあっという間に完全にエレクトし、伸縮性の少ないズボンを穿いている所為で鈍く痛む。それにパンツが粘着力を含んだ液体で濡れていた。…少し気持ち悪いな。
「ふぅ、ンッ、んん、くぅん…、ああッ、日向クンの、おちんちん…。ん…、ボクの足ぃ……」
長い睫毛を揺らしながら、狛枝が下方を見る。俺の股間の状態を察知したのか、そろりそろりと筋張った白い足を開いていく。本能を俺に見せつけるような大胆なそのポーズ。くしゃくしゃに乱れた病院着は、腰の結び目だけで辛うじて狛枝に纏わりついている形になっている。下に穿いているチェックのボクサーパンツはテントを張っていて、その頂点の生地は染み出した体液で黒く湿っていた。
ああ、何とも素直な反応だ。言葉は嘘を吐いても、体は嘘を吐かない。パンツの下で勃起したペニスがピクンピクンと小さく跳ねているのが分かる。早く口いっぱいに頬張って、狛枝を善がり狂わせたい。…でも、まだダメだ。もっともっと可愛がって、全身蕩けさせてからだよな。自然と口内に湧き出る涎を飲み込んで、俺は胸元への愛撫を再開させる。
「はぁうッ、んぁ、あ、あっアアッ! あぁん、うやぁあッ、ひなたクン…、ふ、っ…」
狛枝の肌はすべすべしててキメが細かい。胸から腹へと這わせた舌は引っ掛かりもなく滑っていく。病院着の結び目を解いてしまわないように、彼の腹筋を舌でなぞった。狛枝の腰ラインの厭らしさは格別で、コートの上からでもじっくり眺めてしまうほどにそそる。すんなりとしているように見えて、その下の素肌は意外にもちゃんと筋肉が付いている。ただ俺よりかはやっぱり細くて、きゅっと括れるように臍の横ら辺に筋が入っていた。
「綺麗だよ…、狛枝……。お前の体…、どこもかしこも、きれい…」
「…んふッ、……ふゃああっ、い、ひぃ…い、い、あぁ、ッんあ、んくぅ…あ、あんっ」
啜り泣くような切ない喘ぎだった。何て腰に響く声出すんだ…! 股間にドクドクと大量の血液が集まってきて、本格的に苦しくなってくる。もう、これ以上は無理だ。バッと体を離した俺のことを狛枝は食い入るように見上げた。俺は興奮に打ち震えながら、縺れる手でベルトを引き抜き、ズボンとパンツをずり下げる。中からビンビンに成長し、天を向いて勃起した俺の一物が現れる。それを見た狛枝は「はっはっ」と犬のように息を切らせながら、目をキラキラさせていた。
「はぁあッ! 日向クンのおちんちん……、舐めたくなんか…、ないんだからねっ…!」
「? …お、おう」
「ボクのおちんちんもぉ…、ぜったい、ぜったい、ペロペロしちゃダメだよ…? ね?」
狛枝はそう言って、淀んだ瞳を薄らと細めた。…ああ、なるほど。そういうことか。狛枝の背中に手を回して、体を横向きにする。それから顔を蹴らないように注意しつつ、俺もベッドに身を沈ませた。狛枝とは上下逆方向に。所謂69ってやつか。
「んっ、ひなたクンの、おちんちん……ふんんんッちゅぶ、ちゅぶぶッ、んはぁ、ンんッ」
「っ!? ぅあっ、こま、えだ…! あ……んっ、いきなり…ッ!」
横になって3秒も経たない内に、俺のペニスが生温い何かに包まれる。狛枝の口の中だろう。ここからじゃ良く見えないが、相当激しく頭を動かして俺のをしゃぶっているようだ。ジュボジュボッという淫音が派手に響いている。湿っている狛枝のパンツからペニスを取り出そうとするが、勃起している所為で引っ掛かってパンツから出しにくい。腰部分のゴムをちょっと引っ張りつつ、ずるっと下げると先端から糸を引いたペニスが勢い良く飛び出してきた。
「っ…は、狛枝のパンツ、ぐっちょぐちょ…。ん、ふっ、チンコも、濡れ濡れだ…」
「んっンんッ! ふんッううっはぁはぁ、ちゅるるッちゅぐッ、ぷはぁ、んっんぁ!」
聞こえるように言ってやったのに、狛枝は夢中になって俺のを舐めているのか全く聞いていない。クソッ、このまま負けていられるか! 舐めやすいように片足を持ち上げて、足を広げさせる。先端はもちろん、竿から根元の下生えにまで先走りが濡らしていた。俺に全身を舐められている間に、とろとろと零していた訳か。射精していないのが寧ろ不思議な位だ。目の前に出された狛枝のペニスに舌を絡めると、狛枝はビクビクと体を震わせ、フェラチオの動きを止めた。
「ひゃっ、アンっ、やぁッ、あぁんっ、全然、感じないよぉ…! 日向クン、アッああっふぁああ!」
「…ちゅぶっ、ちゅ、んん、んはっ、じゅるるッ、じゅる、ハァハァ、狛枝…。イきそうか?」
「はぁんッ、無理だよ。イけな、ぃ、だめぇ…! あああッ、はっはひっひぃんッ! らめぇ…」
「ぢゅううっ、んんっ、ん、んぅ…、口離すなよ、ちゃんと舐めるんだ。一緒にイこう。な? …狛枝」
俺が声を掛けると狛枝は同意してくれたのか、再びペニスにねっとりと舌が絡み付いた。ただひたすらに狛枝自身を飲み込み、舌で愛撫する。足を持っていない空いている手で、狛枝の双球とアナルを撫でると一層ペニスがビクついた。狛枝も俺の腰にぎゅっとしがみ付き、更に激しく俺のペニスを舐め回す。生き物のように彼の舌が蠢いて、俺を追い立てる。ああっ、ヤバい…! すぐそこに来てる! 熱い熱い熱い…。腰が、溶ける。狛枝のペニスを愛する悦びと、狛枝にペニスを愛される悦びで、体中が熱く燃えてしまいそうだ。
「んんっンぅ…んっハッ、ンんッ日向クン、ボク出ないぃ…! 精子、でないよっアアああッ」
「狛枝、出すぞ! んっちゅぶッじゅるるッんんっ、全部飲めよ、出すからな…!! …っ!」
狛枝の口の中に堪らず射精したのとほぼ同時に、喉の奥に勢い良く彼の精液が発射された。腰がガクガクと震え、そこに纏わりつくように回された狛枝の腕もだらりと解けていった。口に広がった独特の味を、眉根を寄せつつ嚥下する。狛枝は当たり前のように俺の精液を飲んでいることだろう。いつもそうだ。味わうように舌で唾液と絡ませながら、ゴクゴクと戸惑いもなく飲むのだ。俺は起き上がって、狛枝の顔を覗き込んだ。
「…狛枝、大丈夫か? 体は平気か? 気持ち悪くなってたりしないか?」
「平気じゃないよ! 日向クンの精子で体力削られちゃったよ…。キミのって毒か何か?」
ニッコリと笑顔でそう言われて、俺はホッと息を吐いた。まだ絶望病は治っていないようだが、悪化している様子はない。このまま体を拭いて、また寝かせれば問題ないだろう。そう考えて、狛枝から体を離そうとすると腕をパッと掴まれた。
「ん。どうかしたのか? 狛枝…? っ! …わっ」
腕を引っ張られ、狛枝の上に乗るような体勢になる。鼻先が触れる距離で俺達は見つめ合った。吸い込まれそうなほどに美麗な灰色の瞳が目の前にある。狛枝が小さく「日向、クン…」と俺の名前を呼ぶ。その後に続く言葉はなかったけど、彼の言いたいことは朧気に伝わってくる。まだ終わりたくないんだ。彼が傍にいないだけで、心が苦しくて、上手く息が出来ない。愛し過ぎて、おかしくなるくらい…俺は狛枝に溺れている。涎で濡れてテラテラと光る桜色の唇に強く口付けた。
「……好きだ、狛枝、好きだ。好き…すき…、誰よりも、好き…あいしてる…」
「日向クン…! 嫌い! っ!? あっ…うぅッ、嫌い嫌い嫌い…ああぅ、大、嫌いぃ…!」
『嫌い』という言葉を口にした途端、狛枝の顔が悲痛に歪む。俺に向けて、その言葉を発してしまったのが相当ショックだったようだ。
「ありがとう、狛枝…。分かってるから、そんな顔するな」
「きらい、きらいぃ…ひなたクンが世界で1番…、ふぅうッ、あッ、嫌いだよ…。ひっく、うぁあッ」
狛枝はしゃくり上げ、瞳からポロポロと透明な雫を零した。目元は薄ら腫れて、鼻の頭も赤くなっている。ぐしゃぐしゃだ。泣くなよ、狛枝。お前には泣き顔なんて似合わない。笑えよ。俺だけに笑って見せろ。…お願いだから。落ちていく涙を指で拭うと、狛枝は鼻を啜りながら俺を見る。
「知ってるよ。お前の気持ち、俺はちゃんと知ってる…」
言葉なんて要らないよ。そういう意味を込めて、狛枝のふわふわの髪を撫でてやる。
思えば初めて出会ってから、もう1ヶ月以上経っていた。顔見知りから、友達になり、想いを通じ合わせて恋人になった。狛枝が何を考えてるか分からないのなんてしょっちゅうのことで、突然希望だの幸運だの語り出すこいつに俺は散々振り回されてきたっけ。だけどそれでも俺は彼のことが好きで、どうしても手放したくなかった。ずっとずっと、狛枝だけを見てきた。
1番近くにいるはずなのに、どこか掴み切れていないと感じる瞬間がある。爽やかな人好きのする笑顔が、良く出来た偽物だと気付いたのはいつのことだっただろうか。心の底から笑っている彼を見たい。狛枝を俺の手で幸せにしてやりたい。俺は本当の彼を探して、今もなお暗闇の中を歩き続ける。怖くはない。狛枝のことを、信じているから。
「ひ、なた…クン。おねが、ぃ……、ボクに、ぁ、…っいれない、で…、」
「俺も、同じこと考えてた…。体、辛いだろ? 優しくするから」
「…うん。やさしく、してぇ……。ボクのこと、うぁッ、日向クン…、ひなた、クゥン…」
狛枝は大きく首を振った。…本当に大丈夫か? 心配だったけど、彼がそう言うならなるべく望み通りにしたい。俺はサイドボードから軟膏のチューブを取ると、その中身を絞り出し、狛枝のアナルにたっぷり塗りつけた。窄まりに指を差し入れ丁寧に解していくと、大した時間も掛からず内側は柔らかくなり、俺の指を猥りがましく咥え込む。狛枝は我慢が出来ないのか、ゆらゆらと腰を揺らした。
「もう大丈夫だな。行くぞ、狛枝…。激しくするから、舌噛むなよ…!」
「日向クン…、中出しはダメだよ! ボク絶対妊娠するからね。日向クンの精子で赤ちゃん出来ちゃうんだ…!」
「〜〜〜〜〜っ!!」
狛枝の口から飛び出た衝撃的過ぎる発言に、俺は頭を抱えた。例え嘘だと分かっててもかなりクるセリフだ。頭から水を掛けてもらいたい位、全身の血が沸騰する。………。まずは深呼吸で落ち着こう。…とんでもないな、絶望病! わなわなと震えつつ、気を取り直した俺は狛枝の片足を持ち上げて、腰を少しだけ浮かせる。そしてアナルにペニスの先端を押し当てた。
「んっ……! ンんんッ、あ、あ、ああ……ふっ、」
苦しそうに狛枝が喘いだ。ぐぐっと腰を進めると、軟膏のお陰か案外スムーズに奥へと入っていく。中は心地好く湿って、温かい。放っておくと追い出されてしまうほどに、濡れた肉壁がぎゅうぎゅうと締め付けてくる。それに逆らうように俺が徐々に体を開いていき、やがて全てを狛枝に埋め込むと、彼は感慨深げに深く息を吐いた。
長い睫毛が震えて、恍惚の表情を浮かべた狛枝と視線が合う。目は口ほどに物を言うとはこのことだ。『もう待ち切れないよ』と瞳で訴える彼に、俺は黙ったまま頷く。そしてゆっくりと腰を揺り動かした。ヌルヌルとしたアナルの感触に産毛がぞわりと逆立つ。ピストンをしているとやがて間を置かずに、狛枝はアン…アン…と甘い声で啼き始めた。
「あ…っああ…っ、日向クンのおちんちん、あああッ、ボクの中に、ふああ……っ、アン…、ああん…っ」
「狛枝、ここ好きだろ? きもちいか? ほらっ……ここだッ!」
「きゃうううっ! あああッいやっぁあッ…。あ、ア、あはぁああッ…ひぃいいいい…」
突かれるのも気持ち良いらしいが、出す時の感覚も半端なく感じるようだ。肩に乗った狛枝の足がビクッと引き攣る。ガクガクと揺さぶられ、パイプベッドがギィギィとけたたましく軋んだ。耳障りな音に合わせて、ペニスで狛枝の中をぐりぐりと抉る。コテージのしっかりした作りの物とは違い、簡素なパイプベッドはかなり不安定で、波打つような動きで更に欲情を煽った。
「うぁああ…、やぁ、だよぉ…、日向クンの、や、だぁ……んッ、あっんん、んぅ…、」
「…俺も、気持ちイイよ……ッ、狛枝…、はっ、もう、お前なしじゃ、生きてけないかもな…っ」
「い、い、いぁあッ、ひなたクンっ、…ッん、あ、あはッ、…ふう、くッ、あ、あああぁ」
じゅぶじゅぶと力任せに狛枝を突き上げると、また良い所に当たったのか体を大きく反らせた。狛枝は息を切らせながらも、俺に合わせて一生懸命腰を振っている。狂ったように体を捩らせるその動きは激し過ぎたのか、とうとう病院着の結び目も解けて、彼の括れた白い腹が俺の視界に飛び込んできた。
「あっ、アンっ、あんッあぁんっ! 日向クン、ああああっ、ボク、はぁあっ、ンぁあああッ!」
「好きだ、狛枝…。っく、もっと、感じてくれ。んっ、俺ので。もっともっと狂って、おかしくなってくれ…!」
「アアんッ日向クン、好きぃ…! あっ、アッああ、おちんちん、すごいよぉ…、ボクの中、うはぁああっ」
「!? …おい。今、お前……!!」
狛枝の口から飛び出た肯定の言葉に、俺は反射的に顔を上げる。もしかして、絶望病が治った、のか……? だけど狛枝は気付いていないのか、歓喜に満ちた顔で涎を垂らしながら、喘ぎまくっていた。皮膚がぶつかり合うパンッパンッと乾いた音が静かな病室に木霊する。
キラリと灰色が光った。狛枝が俺を見ている。涙に潤んだ淫蕩な眼差しが、ゆらゆらと揺れていた。誘うように開かれた唇からは赤い舌が覗いている。桃色に染まった肌に汗の雫を浮かばせ、狛枝はベッドの上で妖艶に跳ねた。強請るように体をくねらせる狛枝。それに急かされるように抜き差しは激しくなった。粘膜とペニスが擦れ合って、火が着いたように熱い。ドロドロに溶けそうだ…!
「ふっ、ヤバい……、狛枝…、これ以上は…!」
眩暈がする…。こんなに激しいセックスは久しぶりだ。前後不覚。ありえないほど気持ち良かった。もう俺には狛枝しか見えていない。心と体が炎に包まれて、カーブを描き、急速に上昇していく。『登り詰める』という表現は正に的を射ているなといつも思う。もうすぐ辿り着くであろう先に見えるただ1点を越えたくて、俺はガンガンとペニスで狛枝の奥を荒々しく突いた。
「そこっ、あたるぅ…。はぁああッ、感じちゃうッボクのおしり、ひなたクンのおちんちんで…! はぁああ…」
「…、狛枝ぁ…っ、ハ……、俺も、かんじる…! お前の中、うねって……すごい、絡みついてく…っ」
「!! ひゃああうううっ、いいッすごい、いいの…! きもちいッ、もっとして、もっとしてぇ…。日向クンの、アンっアアんッおちんちん…いいよぉ、おっきくて、きもちいぃ…。ボク、おかしくなっちゃうよ、」
真っ赤な顔で悦びを口にしながら、俺に手を差し伸べる。それをパッと掴み、俺は絶頂へと駆け上がろうとした。だが…。
「っ頼む、狛枝……クッ、ちょっと、緩めてくれ……、このままじゃ、中に…ッ」
「日向クン、あンッ、それはダメだよ…。おちんちん、ひいっ、ン、抜いちゃいや、だ……、アンッ、んぁああんんっ止めないで…っ、ずっとしてぇ、ずっとずっと、ねぇ…、ふぁッ、してよっ、ボクを、っ!! イくぅ、イっちゃうううう、あ、イくイくイく〜〜ッ!! …あああああッ!」
狛枝は自身の腹の上に勢い良く白濁を散らす。ぎゅううと強く締め付ける狛枝に、俺の思考が脳内で白くスパークする。
「っく、バカ、……! こまえだ、あっん、うぅ…!!」
出そうだと思った時にはもう遅かった。ペニスを抜くタイミングを逃した俺は、大量の精液をドプドプと狛枝の中へと放っていた。
「……あ、…っはぁ、ハァ、っ、ハッ、狛、枝……」
肩で息をしながら狛枝を見やると、彼はぐったりとベッドに手足を投げ出していた。目を閉じた状態でピクリとも動かないから、一瞬死んでしまったのかと心臓が冷えたけど、良く見ると胸が小さく上下していて、俺はホッと安心する。どうやら気絶してしまったらしい。かなり激しく突いたからな。狛枝に夢中になり過ぎて、途中から絶望病のことがすっかり頭から飛んでいた。…大丈夫か? 小さな声で「狛枝…」と呼び掛けたその時だった。

「あ、あのぉ……」

世界の外側から、音が降ってきた。遠慮がちな小さな声が聞こえ、俺はバッとその方向に顔を向けた。病室のスライド式の扉が開いており、そこにはオドオドと体を縮ませた罪木と、ピキッと石像の如く固まったウサミが立っている。罪木の泣きそうな黒い瞳に射抜かれた俺は、指先一つ動かせなくなってしまった。
「あ………、え……っ」
え……、何で…。嘘だろ…? 足音なんて、しなかった。…見られてた、よな? いつの間に…!! と、とにかく何とかしなくては! 頭が真っ白になった俺は狛枝から慌てて体を離す。狭苦しいアナルから俺のペニスがずるっと抜け、狛枝が微かに「ん…」と呻く。

ぶぴゅ…っ、ぐぷぷ…、こぽ……ッ!

静寂な病室内に、狛枝のアナルから精液が飛び出す生々しい音が響き渡る。散々繋がり合った時に空気が入ってしまったのだろうか、ヒクヒクと収縮を繰り返す結合部からは、白濁がぷくっと気泡を作り、そして割れる。遅れてどろりとした白が乱れたシーツへと零れ落ち、とろとろと透明な染みを作っていく。その濃厚な情欲の名残に誰も言葉を発することはない。狛枝の安らかな呼吸音が耳に入ってくるだけだ。ああ、今すぐ気絶したい…。ふにゃふにゃと幸せそうに頬を緩ませ眠る狛枝を、俺は心底羨ましく思った。


その後…。2人一緒に正座をさせられ、ウサミに怒られたのは言うまでもない。

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