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01.塑性インペリアリズム 目撃
「狛枝クン、帰らないの?」
画面に向かって、集中している狛枝の耳に心地好いアルトが聞こえてきた。ドキリとする鼓動を携え 顔を上げると、そこには大学で1番付き合いの長い苗木が立っている。
「うん。レポートまだかかりそうなんだ。中々考察が纏まらなくって…」
「狛枝クンなら大丈夫だよ! 教授も素晴らしい出来だって、前の論文褒めてたじゃない? ボクなんかこの間3回も再提出喰らっちゃってさ。あ! これから霧切さんの所のゼミと合同で飲みなんだけど、キミも良かったらおいでよ。大学前のいつものお店だよ」
「そうなんだ…。目処がついたら参加させてもらうよ」
「狛枝クンもたまにはハメ外した方が良いよ? あんまり研究ばっかりしててもね。っと、電話掛かってきた! じゃあ後でね!」
苗木はそう言うと、狛枝の返答も聞かずにバタバタと外に出て行った。慌ただしい同期の挙動を狛枝は苦笑しながら見送る。同期の中では1番仲が良い人物、それが苗木だった。狛枝は大学を1年留年している。苗木は1つ年下なのだが、学年が同じだ。自分とは正反対な性格の苗木。前向きで明るくて気遣いの出来る彼とは、同じ教授の講座を取るようになってから親しくなった。そして今では同じゼミに所属している。引っ込み思案な自分に明るく話し掛けてくれた苗木は、狛枝の憧れでもあった。
「飲み会、か」
他のゼミと合同なのは珍しい。苗木に誘われたものの、狛枝は飲み会に参加する気は全くなかった。元々飲み会は好きではない。下戸であるのも手伝って、顔見せ程度には参加するものの、いつも適当に見切りをつけて早々に帰っている。それに他ゼミと合同だなんて、知らない人が多くて行きたくない。
「そんなことより早く終わらせないと」
狛枝は1人呟くと、傍らの缶コーヒーに口をつける。そして再びパソコンのキーボードに手を掛けた。


……
………

腕時計を見ると、午後9時を回っていた。パソコンに向かって、実験データを纏めていた狛枝は、事務用回転椅子に背中を寄せるとぐーっと伸びをした。経費に厳しい大学の割に良い椅子だと狛枝は思った。スプリングが背中に合わせて、しなる感じが気持ち良い。そろそろ帰ろうかと立ち上がって、辺りを見回す。
あまり広くない研究室は人気もなく、シンとしていた。1時間ほど前まではゼミのメンバーがチラホラ出入りしていたが、今は誰もいない。狛枝は研究室の扉を開け、外の様子を窺った。廊下には人1人いなかった。廊下や学科事務、自習室など個室になっている部屋は、全て照明が落とされていた。恐らく階下にも、誰も人は残っていないのだろう。静まり返った空気が狛枝を包み込んだ。
「ボクももう帰ろう」
誰が聞いているという訳ではなかったが、狛枝は自然と口から言葉を零した。パソコンを使っている時のみ掛けているメガネを外し、ケースに仕舞った。途中まで仕上がったデータを上書き保存し、パソコンをシャットダウンさせる。周りに散らばった資料を纏めながら、ふとパーテーションの向こう側にあるデスクに目が行った。
「苗木クン……」
彼もとっくに帰っているのだろう。飲みに行くと言った彼はコートも着て、バッグも持っていた。そのまま帰っていてもおかしくはない。飲み会に顔を出していれば、彼と少しは話せただろうか? ふと浮かんだ考えを狛枝は頭を振って追い出した。今日もそうだったが、苗木は気軽に狛枝に話し掛けてくれる。苗木は会えばいつでもその眩しい笑顔を向けてくれた。
「………」
本当に満足しているのか? 思い込みじゃないか? 最近、狛枝は思う。苗木には友達が多い。ゼミの内外問わず、彼と知り合った人間は自分を含めみんな、彼のことが好きだ。苗木と仲良くなる友達が増える度、狛枝との時間は必然的に減った。自分にとっては苗木が唯一の存在だが、彼にとって狛枝はそうではない。
「当たり前か…」
シュンとパソコンがシャットダウンする音が机の上から聞こえたが、それを無視してフラフラと苗木が座る席に足を進める。
「苗木クンの机…」
ツッと冷たい感触の樹脂素材のデスク。ここにいつも苗木が座っている。そう思うと体全体がカッと熱を帯びてきた。自分が変だと自覚し始めたのはいつの頃だったか。話す機会が少なくなってから、それとももっと前? そんなことを脳裏に巡らせながら、狛枝は自分の衣服に手を掛ける。ダメだ、こんなことしちゃいけない。そう言い聞かせつつも、服の上を這う手は止まらない。ベストの下からシャツのボタンを外し、ベルトを寛げた。
「……っ。ん…」
大学なのに、公共の場なのに。頭で考えるのとは裏腹に、狛枝はどんどん大胆になっていく。素肌を撫でる自分の指にゾクゾクと毛が逆立つ感覚。思い描いていたのは苗木のあどけない表情。パーカーなどのラフな格好を好む彼は、大学生なのに中学生くらいに間違えられる体躯をしていた。
「はぁ、ハッ、あぅ…くぅ、んっ…」
欲望が大きくなり過ぎて、ズボンのチャックが上手く下りない。震える手でゆっくりゆっくりと金具を動かす。漸く下がり切り、出来た空間からはボクサーパンツがふっくらと盛り上がっていた。逸る気持ちを抑えながら、狛枝は自身を取り出す。頭を擡げたそれは狛枝が撫でるとむくむくと成長し出した。もうこうなっては1度出してしまうしかない。
「ん…んんっ、あ、はぁあっ、うぅ、んぅ」
苗木の無邪気で可愛らしい顔立ち、小柄な体を包むパーカー…。自分は頭がおかしい。苗木になら全てを委ねても良いと思ってしまっている。ヌルヌルと先走りが滑りを良くして、扱くスピードが速くなる。グチュグチュといやらしい水音が室内に響いて、そのミスマッチさに狛枝は更に熱に浮かされた。
耐え切れなくなり、上半身を横たえる。靴をポイッと乱暴に脱ぎ散らかし、左足をデスクに乗せた。足を開いて、正面にいる幻の苗木に局部を見せつける。頭がスパークして、火花が散る。ああ、もうダメだ…。
「うぁあッ、アッ、や…はぁっ、あ、ああっ」
右手でシュッシュと擦りながら、体が高みへと上りつめていく。苗木はこの姿を見てどう思うだろうか? そう考えるだけで興奮度が増す。イく、出す、射精する! 敏感な所だけを刺激しながら、狛枝は発射体勢に入った。
「くっ…うっ…」
ビュルビュルと出た熱い迸りを右手で受け止めながら、狛枝の体がビクビクと痙攣する。最高の瞬間だった。剥き出しの本能。ホワイトアウトした空間には自分しかいない。その所為で、狛枝は全く気付かなかった。
「おい…何、やってんだ…? お前」
自分以外の第3者が目撃していることに。狛枝の目の前には、苗木と日向が呆然と立っていたのだ。
狛枝の頭は一瞬にして冷えた。


「なぁ…お前、何やってんの? ははっ」
日向は歪んだ笑いを顔に浮かべながらこちらを見ている。背が高くルックスも良い部類に入る、大学でも指折りの人気者で、狛枝や苗木より1年先輩だ。正確には狛枝と同い年である。霧切と同じゼミに所属しており、苗木と同じく彼を慕う者は多い。女子から告白されることも数多くあると、噂では聞いていた。誠実な態度と明るく男らしいさっぱりとした性格。だが狛枝に対しては見下したような言動が多く、狛枝は日向を苦手としていた。
「……狛、枝…クン……?」
「苗木クン…っ」
欲望の対象にしていた苗木。妄想の中での彼は優しく狛枝自身に手を這わせ、慈しむような視線で狛枝を満たしていた。しかし目の前のコートに身を固めた現実の苗木は真っ青な顔色で、狛枝のことを得体の知れない物でも見るような戸惑いの籠った視線を投げかけている。その冷たい目に狛枝の胸はズキンと痛んだ。
「研究室でオナニーってお前! 狛枝…! あっ、ははははっ!」
「………」
「一応写メ撮っとくぞ。良い開脚具合だな」
「!? 日向クン…!」
3人しかいない室内に日向の乾いた笑い声だけが響く。ジャケットの内ポケットから素早く携帯を出した日向は、狛枝にレンズを向けて構えた。苗木が反応して止めようとするも、カシャッとシャッター音が鳴り、日向は口元を歪める。
「あ…!」
突然過ぎて体を隠すまで頭が回らなかった。日向は画面を見ながら「やらしいな」などと笑っている。素早く上下に動く親指からして、きっと携帯メモリーには狛枝の痴態が収められているのだろう。どうすればこの危機を脱することが出来るのか。写真を消すように頼む、いやその前にこのことを謝って…。混乱したままの狛枝はふと苗木と視線が合ったが、向こうは眉間に皺を寄せ、すぐに逸らしてしまった。
「な、苗木クン」
「日向クン。…ボク、もう…帰るね」
「ああ! 苗木、お疲れ!」
ショックが隠し切れないような引き攣った表情のまま、苗木はふらふらと踵を返して、研究室の出入り口に行ってしまう。それを能天気に日向は手を振ると、狛枝を見てニヤッと笑いかけた。
「あ…、待って。苗木クン…!」
閉まりかけのドアに向かってそんなことを言っても意味がないのに。狛枝はカラカラになった喉を振り絞って声を上げる。しかし出たのは蚊の鳴くような声。苗木は振り返ることもせず、ドアはガチャンと無情にも閉まった。
「…ぁ……」
「あーあ、苗木って冷たいんだな。狛枝、お前もいつまで肌蹴たままなんだよ」
悔しさと絶望感で心がいっぱいになった。もし来週ゼミで顔を合わせても、苗木はきっと今までのような笑顔を向けてはくれない。異常な物でも見るような目付きで狛枝を見て、腫れ物にでも触れるような扱いをするのだろう。そう思うと悲しさで涙が出てきた。自分が苗木を性の対象としたことで、大切な物を壊してしまったのだ。狛枝は自分のしたことを深く後悔した。
「あ、…うぅ…」
「まさかお前がこんな大胆なことするなんてな。ビックリしたぞ」
「………」
厭味ったらしい日向の言葉を無視して、狛枝は身支度を整えようとした。無視された日向はプライドが傷付いたのか不機嫌そうに眉を顰める。狛枝は日向の視線に耐えながら、曝されている局部を隠そうとしたが、その手には生温かい精液がべったりと付いていた。
辺りを見回すとデスククリーナー用のウェットティッシュがあったので、それを1枚引き抜いた。白濁を拭っている最中でも日向は構わず狛枝に話し掛けてくる。しかし狛枝は日向に対して何も返す言葉が見当たらなかった。沈黙を守ったまま、くしゃくしゃに丸めたウェットティッシュを握る。
「狛枝…。なぁ、元気出せよ。そんな凹むことじゃないだろ?」
日向の反応とは裏腹に狛枝はどんよりと落ち込んでいた。こんな所を苗木や日向に見られて来週から大学に来れるのだろうか。ゼミ内に変態がいるからと教授に告げ口されてしまえば、自分は言い訳出来ない。
「…別に、言わないって」
「………え」
「苗木も言わないだろ。あいつそんな性格じゃないしな」
その言葉に狛枝はホッと肩を落とした。しかし安心したのは一瞬で、すぐに先ほど日向が携帯で写真を撮ったことを思い出す。決定的証拠であるあの写真は日向の手にあるのだ。日向がどんな意図で写真を撮ったが分からないが、早く削除して貰わなければ大変なことになる。
「あの…、日向クン…? さっき撮った写真…」
「ああ。冗談だよ、冗談。お前もやるなぁ。大学でなんて」
「じゃ、じゃあ…消してくれるの!?」
日向は小さく頷き、親指で携帯を操作している。削除してくれるのだろう。しかし画面を見て、何かを思ったのか「ん?」と首を傾げる。何か言われるのだろうか、ビクビクしながら相手を見ると彼はふいに口を開いた。
「お前、ホモなのか?」
「え…」
「だってここ、いつも苗木の座ってる席」
「!?」
ビクリと大きく体を震わせたのを肯定のサインと受け取ったのだろう。日向は再び最初目撃した時のニンマリとした笑顔を取り戻す。ゆっくりと近付いて、狛枝の顎を掴むと力強く正面に向かせる。
「お前、変態の上に…ホモなんだ…。ははっ、これ他の連中が知ったらどう思うかな?」
「お願い…、や、やめて…」
「オナニーだけだったらただの笑い話だけど、苗木を狙うホモって分かったらさすがに笑えないぞ?」
「…言わないで!」
「どうしようかな。…そもそもお前はタダで俺に挑もうって考えなのか?」
「日向クン……。ボク…、」
あまりにも絶望的な状況に自然と涙が溢れてくる。もしかして金のことを言っているのだろうか? それなら何とかなるかもしれないと狛枝の心は少しだけ上昇してくる。両親の死と引き換えに手に入れた遺産は、使い切れないほどあった。しかし金額の交渉をしようと口を開く前に、日向の言葉が返ってくる。
「別に金には困ってない。ただ最近セックスしてなくてさ」
狛枝がどう足掻こうと日向の立場は揺るがない。彼の自信が滲み出ている顔からも良く分かる。しかし唇を震わせ、涙をポロポロと流す狛枝を見て、途端に表情を無くしてしまった。視線にはオスの熱が籠っている。
「女とはヤったことあるけど、男の体ってどうなんだ? 狛枝、教えてくれよ」
「く……、」
嫌な予感がした。しかし逃げ出そうと体を捩ったが既に遅く、狛枝はデスクに押し倒される。ズボンを脱いでいたため足を上手く動かせない。それを見て日向は狛枝の両足の上に乗り、完全に抑えつけてしまった。
「はな、離して…。どいてよ…!」
「嫌だ」
ガタガタとデスクを揺らしながら何とか下半身を抜こうとしても、日向が全体重を掛けているため少しもずらせない。撥ね退けようと両腕で抵抗するも素早い日向の動きに、右腕そして左腕と強い力で掴まれる。
「はぁ、ちょっとは大人しくしろよ。俺良いこと思いついたんだ」
「何するつもり!?」
頑なに抵抗を続ける狛枝に、日向はふっと馬鹿にしたような溜息を吐いた。自分のネクタイをシュルッと抜き取ると、狛枝の両手を一纏めにして手首で固く結びつけてしまう。その冷えた瞳に狛枝は背筋が凍った。
「良いことって言ったら、1つしかない」
「何、を……。まさか、」
「さすが狛枝は賢いな。分かってるよな。写真、捲かれたくないだろ?」
『写真』という単語に狛枝はビクッと大きく体を震わせた。先ほど聞いた携帯のシャッター音が頭の中でリピートする。自分は一体どんなポーズで画面に収まっているのだろうか。
「悪いようにはしないぞ?」
ギラリと光ったように見えた日向の目は、腹を空かした獰猛な肉食獣を彷彿とさせる。近付いてくる顔を睨み付けながらも自衛する手段は何もない。どうすることも出来ない。狛枝は顔に吹きかかる熱い息に混乱しつつも、最後まで逃げようと動かしていた両腕から力を抜いた。

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02.塑性インペリアリズム 上下
時計の針は何時を回っているだろうか。腕時計を確認したかったが、生憎とネクタイで縛られたまま解放されていない。デスクに仰向けになっている今の体勢では、キャビネットが邪魔で壁に掛かっている時計さえ見えなかった。提出されたレポートや研究資料が散らばってる場所で、よもやこんな行為が行われているとは誰も想像つかないだろう。
「なぁ、ここも自分で触ってるのか? ……おい、垂れてきてるぞ」
「ん…っ、あぅ…」
日向は狛枝の首筋に顔を埋めながら、右手で萎えている狛枝のペニスを軽く握った。それからアナルへも指を滑らす。自分ではないゴツゴツとした手で触られていることに自然と酔い痴れていく。苗木はストレートだ。自分とこんな行為に及ぶことは一生掛かってもないだろう。バラバラになっていた妄想の苗木が組み上がっていく。
「その感じ方だと指入れてんな。それにすごい柔らかい…」
「何を…、離してよっ、ボク…! あ、」
「すんなり入るぞ。指の付け根まで全部…。もう1本も余裕だな」
「ふ、んぁ…っはぁあッ! ああっア、ああ…、日向クン…んん、」
ヌプリと日向の長い指が自分の肉壁を押し退けて侵入しているのが分かる。普段狛枝が触るのとは桁違いの気持ち良さに、快楽がビリビリと脊髄を駆け巡った。ピクリと自分の欲望が頭を擡げたのが伝わる。
「勃ってるよ。後ろで感じるんだ、お前」
「ひ、なた、クン……! ん、んんっはぁ、あ、うぁ…やぁっ」
「イイな、何か。頑張っても無駄なのに耐えてる感じがさ。ホント馬鹿らしくて」
耳元で「笑える」と苦笑混じりの声で囁いて、日向は狛枝の膨張してきたペニスを先走りの滑りに任せて扱いた。狛枝は日向の酒の臭気を帯びた呼気にあてられて、何だか頭が朦朧としてきた。視界は日向がほとんど埋めていたが、端からは天井に設置された蛍光灯や無線LANの中継機が見えて、それが今の非現実さを引き立てる要素となり、ますます狛枝の体の熱が上がる。
「アアっ、ひなたクン……ふぁ…ぃや、ひゃっ! んッ、」
ペニスを触られてるだけでも興奮するのに、日向は狛枝の着ているベストを上に捲り上げ、Yシャツのボタンを器用に片手で外していく。空気に晒された裸の体には2つの胸の飾り。日向は躊躇することなく乳首に吸いついた。ジュルジュルと吸われ、溢れた唾液が皮膚を滴り落ちていく。
「う…んっ! そ、んな…っ、アンっひぅん、ふぁぁあん、日向クン、やぁ…!」
「はぁ、…狛枝。すごくエロいぞ、お前。…はぁ、俺も…」
切羽詰まった日向の声に狛枝が視線を下に向けると、日向のズボンの股間を押し上げている物体が見えた。あの下には日向のペニスがある。そう思うと自然と生唾が出てきて、狛枝はゴクリと喉を鳴らした。
そんな狛枝の思考を知らず、日向はズボンのチャックを下し、下着からペニスを取り出した。既に半勃ちのそれは先端は赤いが、竿は浅黒く血管が浮き出ていて、狛枝自身より一回り以上も大きい。太く重そうな質量のそれに狛枝は唖然としてしまった。それと同時に日向のペニスを口に入れたい衝動に駆られる。
「俺も苦しくなってきたし、とりあえず手でしてもらおうかな。ああ、これ外してやらないと」
狛枝の知っている日向はリスクを常に考えている。だから体がどけられても手枷を外しても、狛枝が逃げるとは考えていないと日向は踏んでいるのだろう。実際狛枝は逃げるつもりはなかった。写真のこともあるからだ。携帯を奪ってしまえば彼との立場は対等になるが、腕力に自信のない狛枝にはその選択肢は頭にない。
「………っ」
両腕を解放されて、そっと日向の顔を見た。「どうした?」と首を傾げながら相変わらず馬鹿にするような笑みを浮かべている。腹が立った。一泡吹かせてやりたいが、そんな手段なんてと少し考え込む。
「どうしたんだよ、さっさと扱けよ」
イライラした口調で肩をぐっと掴まれ、日向のペニスの前に引き出される。大きく赤黒くそそり立つペニス。ヒクヒクと鈴口が開閉して、先走りがテラテラと光を帯びて、垂れている。狛枝にとって、それはとてもおいしそうに見えた。狛枝の性対象は男性だったが、積極性のない性格が災いして、誰とも行為に及んだことがなかった。自分以外の男の体は日向が初めてだったのだ。彼のを口に含んだらどんな味がするのか、舌で嬲られたらどんな反応をするのか。考えるだけでドキドキしてしまう。
「!? おい、お前…っ、ンんッ」
「ハァ…んぷ、んん、はぁはぁ、んぅ…日向クンの…おちんちん……!」
気付いたら、狛枝は日向のペニスを頬張っていた。自分ではない他人のモノを舐めている今の自分に、喜びさえ感じる。舌で先端を突き、ねっとりと舐め上げれば日向は堪らず息を漏らした。ペニスがピクンと揺れたのに満足して、狛枝は更に奥までペニスを飲み込む。これがもし、苗木のペニスだったら…。何時間でも舐めていられる。そう考えると相手を気持ち良くさせたくてどんどん舌の動きも大胆になっていく。
「この、んっ…うぁ」
デスクを跨ぐように座っている日向のペニスを、狛枝は四つん這いになって無我夢中で舐めている。でもズボンのチャックからでは満足に全部舐められない。日向は肩で息をしながらも自分のベルトをカチャカチャと外し、ズボンとその下のトランクスを下げた。出された日向の下半身に狛枝はむしゃぶりつく。
「く…っ、狛枝の変態…! チンコ舐めて、勃ててるなんて…っ」
「ふぅ、んんっんくぅ、ハァ、あんんっうぅ、むぅ」
チュクチュクと唾液だけでフェラチオをしていたのが、今では日向の先走りも混じり、ヂュクンヂュクンと大きな音が狛枝の口元から零れていた。滑らかな亀頭、裏筋の括れ、皮膚の薄い竿、毛が生えてチクチクする双球。苗木の物と思えば全てが愛しい。息継ぎの合間に想い人の名を呼ぶが、返事はない。
「狛枝。お前、報われないよ。あいつ最近彼女出来たって自慢してたから。多分霧切じゃないのか?」
「ん、…はぁ、……っ」
「…泣いてんのか? ホモなんて気持ち悪いだけなんだから、諦めろって」
自分が、泣いている? 日向に言われて初めて、頬を伝う涙を意識した。それでもペニスを味わうことを止められない。吐き捨てるような言葉尻とは裏腹に、狛枝の頭を撫でる日向の手は優しかった。
日向の息が乱れてるのが分かる。短く吐き出されるそれを追い詰めようと、狛枝はフェラチオを激しくする。熱くビンビンに反り返ったペニスを舌でグチュグチュと攻める。日向は赤い顔で苦しそうに耐えていた。
「っ、もう、…出るっ! ぅ、…ッ!!」
日向はぶるりと体を震わせると、大量の精液が狛枝の喉の奥目掛けて発射させる。鈴口に残る精液まで丁寧に舐めとると狛枝は口を離した。舌の上にはまろやかな液体がとろりと漂っている。それを一息で飲み干した。
「はっ、飲んだのかよ。頭おかしいんじゃないか? ホント気持ち悪いな、狛枝」
「…もう、良いでしょ? 写真…、削除してくれないかな? 今ここで」
「まだ満足してないって顔に書いてあるけど。いいのか? それ、そのままで」
「あ…っ」
指された先には緩く勃ち上がった狛枝のペニス。フェラチオしている間もずっと興奮しっぱなしだったのだ。口籠って答えられない狛枝を無視して、日向は無言で狛枝に圧し掛かった。間近に見える凛々しい顔立ちに、狛枝は気まずくなり目を逸らした。しかし無理矢理正面を向かされ、口付けられる。
「!!? …ひな、た…クン…?」
「まだ写真は消せないな。だってお前に指図される筋合いないしさ。そもそも俺、お前のこと嫌いだし」
バサリとコートを脱ぎ捨てた日向は、しばらく考えてからジャケットも脱いだ。黒のストライプが入ったクレリックのYシャツは、ボタンが下まで外され、その合わせから綺麗な胸筋と腹筋が垣間見える。
「そんなに見るなよ、狛枝。ばら撒かれたくなかったら、舐めろ」
乳首を舐めろと言っているのだろうか。デスクに座り、上半身は後ろに手を突いて支えている日向。恐る恐る狛枝が体を寄せて、乳首に舌を這わせると、ペニスとは違った男の汗の味がした。平たいそれは刺激している内に中央が固くなっていく。日向は片手で狛枝の尻を揉み始めた。
「柔らかい…。お前って男なのに綺麗な尻してるんだな」
「……ん」
「すべすべしてるな。白いし…」
酩酊しているのか、日向はさっきと違って言葉が厳しくない。乳首はペニスと違って決定的な快楽は与えられないのだろう。心地良い刺激が続いているらしい日向はうっとりとしている。
「っ、もういい。尻上げてこっち向けろ。四つん這いになれ」
「え…、でもっ、ボクは…」
「良いからさっさとしろ。俺の言うことが聞けないのか?」
「…うん」
誰かにこんな屈辱的な姿を見せることになるなんて。もっとも恥ずかしい部分を、しかも見せつけるように相手に突き出す。狛枝は悔しさに唇を噛みながらうつ伏せになり、言われるがままのポーズを取った。


背後のことは分からない。しかし人の気配という物は割と敏感に察知出来るものらしい。尻に近付く日向の気配に狛枝は目を瞑って恥ずかしさに耐えた。大きな手が足から尻を厭らしい手付きで撫でる。それから中央の窄まりに指を一気に2本入れた。あまりの衝撃に狛枝は目を見開き、声を上げる。
「いっ…やぁ……うぅ、やめ、やめてよぉ…!」
「余裕だろ。どこだっけ感じる場所。…ここか?」
「ひぅっ!!」
指をくの字に折り曲げられ、前立腺を刺激される。その度に狛枝の体はビクンビクンと大きく仰け反る。窓のブラインド近くには教授がじょうろを持ち込んで水をやっている背の高い観葉植物。周りに並んでいる他のデスクやパーテーションは当たり前だが昼と同じままだ。そして今自分が乗っているデスクはいつも苗木が使っている。
「ふ、ふぁ…んんッ、アッアッああっんあんッ、日向クンの、ゆびぃ…っ!」
「腰振ってんじゃねぇよ…。そんなに気持ちいいのか? 変態」
誰かに見られてたらと気が気でないにも関わらず、狛枝はどんどん大胆になっていった。声を抑えることが出来ない。日向の言う通り、感じるポイントに指が来るように腰を揺らしている。きっと日向は軽蔑するような目で自分を見ていることだろうと狛枝は思った。でもそれで良かった。体を痺れさせる甘い快楽で狛枝は我を忘れ、またたびを与えられた猫のように善がっていた。
「…っ、指が…っ! んあっく、くぅ…アアっ」
指が2本から3本へと増える。狭い場所に無理に入ってくる痛みで膝がガクガクとして崩れそうになるが、日向が狛枝の腰を支える。しかしその体勢でズチュズチュと抜き出しされている内に段々と痛みにも慣れ、日向の指を簡単に飲み込むようになった。もう足りないとさえ思うくらいだ。
「もっと太いの、欲しいか…?」
「ん、うう……ひぅ…ほ、ほしぃよ、…あ、ひなた、クン」
狛枝が涙声で懇願すると、背中越しの日向は鼻で笑った。指がズルリと引き抜かれ、狛枝は脱力して突いていた手を崩してしまう。指よりもっと太い物…。日向と考えが同じであれば、と想像するだけで狛枝はぶるりと歓喜で小さく震える。そしてアナルに丸い弾力のある熱い物体が押し当てられた時、ペニスがビクリと反応して先走りをドクンと吐き出した。くる…入ってくる…。つぷりと静かにそれは侵入してきた。
「ああっ! ふぁアッ、あ、あ、んぁ! ひ、なた、クン…! ひゃああっアあんっあぅ!」
「…うるさいぞ、狛枝」
アナルに奥まで収まった日向の熱いペニスに、狛枝は全身の鳥肌が立った。額から冷や汗がじわりと湧き出てきたのにも関わらず、体はカッと燃えるように熱い。ピストンで最奥を突かれる度に電気が走ったような錯覚を受け、目に映っている室内も白い火花が散った。
自分は最初何がしたかったのか? 狛枝はふとそれを忘れそうになる。自慰をしている写真を日向に撮られて、それを取り返すために言いなりになったのに。今はそんな目的さえ忘れかけて、快楽に身を委ねている。
「やぁ、あぅ、あっああっうぁッ! はぅ、ハッはぁ、やぁぁあ!!」
「…ふん、本当に変態。気持ち悪い、女みたいに喘ぎやがって」
「ああんっアんっアンっ! ひぁあっアアっ! やめて、日向クン、はげし、ア、んぁああっあ、あぁ!」
日向が狛枝のペニスに手を添えて、律動に合わせて緩く扱いてきた。更に気持ち良さのボルテージが上がり、狛枝は意識が飛びそうになる。グチュングチュンと水音を室内に響かせて、同性同士でもあるのに自分は日向とセックスをしているのだ。大学の研究室が公共の場であることも相乗し、狛枝は一層腰を振り、奥へ奥へと日向のペニスを飲み込む。
「ひゃあううっ! んっ! ううっああ、アアんッんっあぁああっ!」
「バカかお前…。乱れ過ぎ。こんな腰振って、く…っ」
文句を言う日向の言葉の端から感じているのが垣間見える。結合部からヌチュヌチュと聞こえる水音が耳を犯す。しかし日向の体から伝わった振動音に、真っ白になりかけた頭は現実に引き戻された。
「…ん。誰からだ?」
電話が掛かってきたらしく、背中に密着していた日向は狛枝から離れていく。後ろから携帯を操作する音が微かに聞こえて、狛枝は聞こえるかもしれないという恐れから徐々に動きが大人しくなっていった。日向だけは乱暴に狛枝のアナルを突いていて、最奥まで届かずともゆったりとした心地に狛枝は目を閉じる。
「……。もしもし、お疲れ。苗木か? 何だ、どうした」
「!?」
『苗木』。日向が口にしたその単語にパッと狛枝は目を開けた。勢い良く顔だけ振り返ると意地悪そうに歪めた日向の顔と克ち合う。狛枝の動揺をすぐに察知した日向は素早くボタン操作をした。
『あのね…。さっきのことで。えっと、日向クン今どこにいるの?』
「ん? 外だよ外。しばらく酔い冷ましてから帰ろうと思って。終電まで時間あるしな」
電話越しの苗木の声が狛枝にまで聞こえる。日向はスピーカーホンに切り替えたのだ。狛枝はショックを受けながらも、聞こえてくる苗木の声に興奮を隠せなかった。今自分のアナルを犯しているのがまるで苗木のようで、じわじわと逃げ出した体の熱が戻ってくる。
『あの、狛枝クン……大丈夫かな? 研究室であんな…』
「狛枝? それなら今俺が慰めてやってるよ。ストレスが溜まって、思い切ったことしてみたかったんだってさ」
『そう…そうなんだ。今一緒にいるんだね?』
「ああ。電話代わろうか? あいつも気分持ち直したみたいなんだ」
しめた、と思った。電話を代われば、あの画像も狛枝の手で削除出来る。日向の言うことを聞く義理もない。
『…ううん、大丈夫だよ。狛枝クンの携帯に掛け直すから。それじゃあね、日向クン』
プツンと通話が切れる音がして、日向はデスクの上に携帯を置いた。そして狛枝の腰を掴み、勢い良くペニスで攻め立てる。息を切らしながら「残念だったな」と日向に耳元で囁かれて、狛枝はまた涙を目に浮かべた。
「苗木の行動パターンくらいお見通しだから。もしかしたらお前に電話掛かってくるかもな」
「ひぅっ…ん、ん、んんっ、はぁっ、日向……ク、ンっ」
「お前の締め付けヤバいな。すっごい気持ちいいぞ。さすが普段咥えてるだけある」
「あ、アアっ、やぁ、ひなた…クン、ふ、ふぁ…んん、う、…ぁ!?」
「ん?」
ビクンと狛枝が大きく体を跳ねさせたことに日向は疑問の音を零したが、すぐに狛枝のズボンポケットから小さく響く着信音に合点がいったようで、スルリとポケットに手を突っ込んで携帯を持った。
「狛枝? 苗木から電話掛かってきてるぞ」
「………っ!」
「出ないと怪しまれる。さっき俺と一緒にいるって言っちまったからな」
言外に出ろと言っているのだろう。片手を後ろ手に回し、狛枝は何とか携帯電話を受け取った。通話ボタンを押そうとして一瞬戸惑う。今のこの状況が聞こえてしまったらどうしよう。出ないべきか? いや…、日向が「一緒にいる」と言ってしまった以上、電話に出ないのはおかしい。なるべく会話を短くしてさっさと切ろう。
ドキドキする。両手が自由になった日向は先ほど以上に激しく狛枝を犯している。気持ち良さと言い知れない不安で頭はいっぱいだ。乱れた息を深呼吸で整えながら、意を決して狛枝は電話を取った。
「…はい」
『もしもし、苗木だけど。…あの、狛枝クン。電話大丈夫?』
「うん…っ、平気、だよ。………」
『…狛枝クン? あのね、ボク…気にしてないから。さっきの。……? 狛枝クン?』
「あ、うん。…ぅ…っ!」
日向のペニスが感じるポイントに当たって、狛枝は甘い吐息を漏らした。しかし苗木に悟られてはいけない。限界まで声を抑えて、息を止める。
『ねぇ…、今イスがぶつかる音したけど、キミまだ大学にいるの?』
「ううん、外だよ。電車を待っていて、もう…来る、から」
電話越しに結合している音は聞こえないのだろうか。狛枝のアナルを埋める激しい水音はこんなにも室内に響いているのに。早く通話を切らなければ、いつ喘ぎ声を苗木に向かって発してしまうか分からない。
「…おい、狛枝。もうイきそうだ…っ! くっ、…後少しで」
「え…!? 日向クン? 待って、待ってよ!」
ガツガツと突き上げている日向から苦しそうな声が聞こえて、狛枝は後ろを振り向いた。中に出される…?
『! ど、どうしたの? 狛枝クン。今声したけど、日向クンに呼ばれた? 電車?』
「う、うん。んぅ…電車来たみたい、だから…、切るね」
『分かった、また月曜にね』
「ふぁっアアっあ、アアっんぁっ! ひなたクン…! やあああっはげし、や、あああッん!」
通話が切れたと同時に携帯を投げ捨て、狛枝は大きく喘いだ。もうどうなってもいいとさえ感じる。日向が膨張しきったペニスを狛枝のアナルに突き入れ、獣のようなセックスをしている。ただ快楽を受け入れるだけ。この場所が大学であろうと関係ない。今狛枝の体は絶頂を迎えようとしている。
「イくっ、出す、出すぞ…お前の中に、全部……!」
「あアアっ、ボク、も出るぅ、出ちゃうぅ、日向クン、あん、あ、ひもちぃ、あっあっアアっひゃあっ!」
「…あ、う…く…、」
「ぅあっ、やぁ! 日向クン!! イく、イクぅ! あああああああっ!!」
日向のペニスがビクビクと痙攣して、欲望が流れ出す。狛枝に日向の精液がドクドクと注ぎ込まれるのが分かった。それと同時に狛枝のペニスからも白濁が飛び出し、デスクを汚した。熱い滴りがアナルの奥にまで染み渡っていくのを感じながら、狛枝は自分が汚した箇所を霞がかった頭で見る。
「ふぅ。…あ、もう終電近いし。帰るか」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ! 写真は!? 消してくれるって」
「何言ってんだ? セックスしたら消すなんて、俺一言も言ってないんだけど」
涼しい顔をしながら日向はデスクから下り、身支度を整える。やや上気した顔も段々と普段通りの顔色に戻り、これから誰と会っても直前に性交してきたとは分からないくらいだ。
「ちゃんと片付けとけよ。みんなが使うデスクなんだからな」
「…何」
「じゃあ、狛枝。また来週な!」
コートを着込み、ニコッと爽やかな笑みを浮かべた日向は狛枝の言葉を無視し、ドアから颯爽と出て行く。狛枝は半裸でデスクに座り込んだまま動くことが出来なかった。

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