// R-18 //

01.であい
「それじゃ、狛枝くん。自己紹介をお願いするわね」
「…は、はじめまして。狛枝 凪斗と、もうします。これからよろしくお願いします…っ」
緊張しているのかランドセルの肩紐をぎゅっと握りながら、黒板の前のその子は深々とお辞儀をした。


転入生が来るという噂が出回ったのがつい3日前のことだ。転入生の母親らしき女の人が担任の先生と話していたと、クラスの情報通が話して回って以来、教室では転入生が男か女かで大騒ぎになっていた。
「女だろ、女! 澪田みたいにうるさくない静かな奴がいいぜ」
「和一ちゃんは失礼っすねー。唯吹はどっちでもいっすよ。可愛い子かなぁ〜」
「男の子だと…ゲームの話が出来るし、嬉しい…かもしれない」
「あまり食べないような奴だったら、俺が代わりに給食を食ってやっても良い…」
昼休み、教室の一角。クラスのカリスマである十神の席を囲うようにして、それぞれが好き放題言っている。俺はその輪には入らなかったけど、密かに思ってたのはやっぱり女の子が来ることだ。すごく可愛い天使みたいな子だったら…。チラリと横目に自分の隣の席を見やる。誰も座ってない窓際の1番後ろの席。きっと転入生が来たらここに座る。ドキドキしながら俺は転入生の来る日を今か今かと数えて待っていた。
そして、今日。とうとう噂の転入生が教室の扉を開けて入ってきて、教室内はシーンと静まり返った。みんなその子に釘付けだったからだ。その子はとても可愛かった。灰色が混ざった白っぽいふわふわの髪、不思議な色の瞳、綺麗に整った人形のような顔。太陽を知らないような透き通る白い肌は、窓辺で静かに本を読むのがさぞ似合いそうだ。やってきた転入生―――狛枝は一見すると深窓の美少女だったが…。
「あんだよ、男かよぉ…」
ボソッと俺の斜め前で左右田が密かに頭を抱えていた。持っているランドセルは紺色だったし、服装はピシリとアイロンの掛かったシャツと半ズボンだったし、何より名前が男だ。男、そうだよな…男…。左右田と同じく心の中でひっそりと溜息を吐いていると、狛枝は担任に指示されたのか俺の隣の席までおどおどした様子で歩いてくる。途中の席から時折掛けられる声にビクッとしながら、ぎこちない笑顔で応えていた。
「ふぅ…」
ランドセルを机の上に置いた狛枝は小さく息を吐いた。その仕草に俺の心臓はドキンと跳ねる。遠目からよりも間近で見る方が圧倒的に可愛い。クラスでトップクラスに可愛いのはソニアか七海くらいだが、狛枝は男なのに同じくらい…いや、それ以上に綺麗で可愛かった。本当に男なのか?と疑問になった俺はさり気なく狛枝の股間を見る。うう…、服の上からじゃちんちんついてるか分からないぞ。
「あ、あの…よろしく、ね?」
俺の視線に気付いたのか狛枝ははにかんで頭を軽く下げる。うわ…っ、笑ったらもっと可愛いんだ。でも男なんだよな、俺と同じ…。くそっ、惑わされないぞ!
「あ、あぁ…よろしくな」
俺が名乗りもせず素っ気なく挨拶をすると、狛枝は傷付いたのか悲しそうな顔をしてみせる。う…べ、別に男なんだし、優しくする必要ないよな? 俺は間違ってない! ああ、もう…何でこんなにモヤモヤするんだよ! 宝石みたいにキラキラとした大きな瞳がこっちをじっと見てるのが分かる。見るなってば! うるさい心臓の音を無視して、俺は正面に向き直った。

休み時間になる度に狛枝の席には人が集まった。みんな転入生に興味津々なんだ。女子が楽しそうに質問攻めにするのは分かるけど、男子もそこそこ話に入っていて、俺はムカムカと1人で腹を立てていた。何でこんなにイライラするんだろう。みんなに注目されてヒーローになれる狛枝が羨ましいのか? 机に突っ伏して不貞寝しようとした時のことだった。
「狛枝くんのお父さんって何してる人?」
「え、えと…その…」
「この間学校に来てたのってお母さんだよね?」
「いや…、あっ、その人は…」
歯切れの悪い狛枝の声に俺は鬱蒼と顔を上げた。声の方を見れば、騒ぎ立てるクラスメイト達の体の隙間から真っ青な顔をした狛枝が見えた。目はぐるぐると混乱し、唇はわなわなと震えて、額や頬には冷や汗を掻いている。ひゅーひゅーと苦しそうに息を吐いてるその様子に俺は体を起こした。質問してきた奴に言葉を返そうとしてるけど、明らかに辛そうだ。唇をきゅっと結んで何とか耐えている狛枝に俺は苛立って席を立った。
「おい、狛枝。ちょっと来いよ」
「はぁ? 何だよ、日向! 今喋ってんだから勝手に持ってくなって」
「うるさいな。良いから後にしろよ」
反論してきた奴をキッと睨み付けて黙らせると、俺は狛枝の手を無理矢理取って席から立たせる。男のクセに全然力強さのカケラもない、白くて細い女の子みたいな腕だ。ふらふらと狛枝が立ったのを確認してから、俺は彼の手をぐいっと引いて教室から廊下へ出た。残されたクラスメイト達は追いかけることなく茫然としている。不思議とさっきまであったイライラが消えていた。人のいない階段の踊り場まで来ると掴んでいた狛枝の腕をパッと放した。俺の力が強過ぎたのか、白い肌に跡が残ってしまっている。でもこいつは男なんだし、俺が謝る必要はない。
「お前さ、嫌なら嫌ってハッキリ言えよ」
「え…」
「すげぇ耐えてるって顔してたぞ。さっきのお前…」
「……そっか。あは…。ごめんね、迷惑かけて」
しょんぼりと顔を伏せる狛枝にズキズキと胸が痛む。違う…。俺はこいつにそういう顔をさせたくないんだ。でも思い通りに言葉が出て来ない。そもそも何で俺は男なんか助けたんだ。俺が夢見てたのは可愛い女の子と仲良くすることで、狛枝なんかどうでも良いはずなのに…。狛枝は黙っている俺を上目遣いで見るとうるうるとした瞳を向けてきた。ヤバい、俺の心臓が破裂しそうになってるぞ…!
「助けてくれて、ありがとう」
「あ……!?」
「キミが連れ出してくれたから、あの場から逃げられた…」
「やっぱり嫌だったのかよ」
「うん…。注目されるの苦手でさ。でも…上手く言えなくて」
モジモジと両手を胸の前で組んで、狛枝はぽつぽつと言葉を漏らした。そうか、こいつは別にヒーローになってちやほやされたい訳じゃなかったのか。そうと分かってしまえば、むしろ狛枝に親近感が湧く。
「さっき名前言ってなかったよな。俺は日向 創だ!」
「日向、クン? んぅ…、ボクは狛枝 凪斗だよ」
「それは朝自己紹介で聞いたから知ってるぞ」
「ふふっ、それもそうだね。本当にありがとう、日向クン」
顔をほんのり赤らめて狛枝はふんわりと笑った。まただ。また心臓が変になってる。何だろう…この気持ち。初めてだ、こんなに頭がモヤモヤするのは。今日会ったばっかりなのに、ただのクラスメイトで男なのに。狛枝と話してると何か調子狂う。嫌いって訳じゃない。どっちかというとすごく良い奴だ。訳が分からない。
「……ねぇ、日向クン」
「ん? 何だよ」
「…すごくおこがましいんだけど、キミにお願いが…あるんだ。……あの、あのね」
「〜〜〜ッ、早く言えよ、狛枝。別に怒ったりしないから」
いつまでも遠慮がちじゃ話しにくい。つっけんどんに言葉を急がせると、狛枝はぎゅっと目を瞑って思い切ったように口を開く。
「ボクと…友達に、なってほしいんだ!」
「………は?」
狛枝のいうお願いは俺の予想よりもあまりにささやかなものだった。友達ってお願いしてなったりしないだろ。自然とそうなってるもんだろ。そう突っ込みたかったけど、体を縮めて一生懸命言ってきている狛枝を見たらとてもじゃないけど言えなかった。こいつにとっちゃ、友達ってのは必死になるようなもんなんだろうな。俺に対してそう思ってくれてるってことは単純に嬉しい。だって俺のこと好きだってことだもんな!
「何だ、そんなことで良いのか。お安い御用だ」
「!! 良いの?」
「良いに決まってるだろ。俺とお前は友達!」
俺に言われて嬉しいのか、ほっぺに両手を当ててふにゃふにゃと顔を緩める狛枝。すごい可愛いぞ。本当に何なんだ、こいつは! 男なのに何で可愛いんだ! くそっ、俺はおかしくないぞ。こいつが可愛いのがいけないんだ。…いや、ちょっと待てよ。この"可愛い"ってのはひょっとしたら犬とか猫に対する可愛いかもしれない。…うん、きっとそうだ。女の子に感じるのとは別だ、別! ふわふわの白い子犬が俺に懐いて甘えてきてるのと一緒だ。想像してみろよ。可愛いと思わない方が変だろ? だから俺はおかしくない。
「もうそろそろ休み時間も終わるな。教室戻るか」
「うん、そうだね」
「なぁ、狛枝。今日一緒に帰ろうぜ。家どっちにある?」
「え、え…、一緒にって…。日向クン、ボクと一緒に帰ってくれるの?」
もしかしてこいつ、今まで友達がいなかったのか? 驚いたように大きな瞳を瞬きさせる狛枝に俺は得意げに笑ってみせる。
「バカ。他に誰がいるんだよ」
「んぅううう…、嬉しいな。ふふふっ。ボクの家はね、商店街の向こう側だよ」
「おっ、それじゃ同じ方向じゃん。もしかして家近いのかもな!」
狛枝と一緒に教室に向かって歩きながら色々話した。今まで俺の周りにいなかったタイプだけど思ったよりも喋りやすい感じがする。何より素直そうで俺に可愛らしく甘えてくる所なんて堪らない。やっぱりドキドキする…。ここに来て間もないから知らないことも多そうだし、腕の細さからしてすごい弱そうだし、虐められたりとかしたらさっきみたいに俺が守ってやらないとな。
「これからよろしくね、日向クン」
「ああ、こちらこそよろしく」


狛枝が転入してきて以来、俺は学校が楽しくなってきた。元々学校が嫌いだった訳じゃないけど。狛枝に声を掛けてくるクラスメイトは他にもいたけど、こいつは俺と一緒にいる方が好きらしい。何かにつけてニコニコと「日向クン、日向クン」と後を追いかけてきた。すごい優越感だ。俺のこと慕ってくっついてくるなんて、狛枝は本当に可愛い。
今日も一緒に帰ることになって、俺と狛枝はそれぞれランドセルに教科書やノートを入れて、帰り支度をしていた。机の中から取り出した緑色のハードカバーの本を狛枝は大事そうにランドセルに仕舞う。ここ数日その本を読んでいて、とうとうさっきの休み時間で読み終えたらしい。狛枝は俺と同い年なのに難しい本を読んでるみたいで、家の本棚にはたくさん本があると楽しそうに話してくれた。
「日向クンにおすすめしたいのあるんだ」
「へぇ、今度持ってきてくれよ」
「うーん、いっぱいあるんだけど…。どういうのが良いのかなぁ。日向クンの好きなお話とかある?」
「…好きな話か? 俺普段そこまで本読まないから、いまいち好みとか分からないぞ」
親には無理矢理本を読まされてるけど、本を読んでいるより外で体を動かしてる方が好きなんだよな。読めって言われるのも芥川龍之介とか太宰治とか有名な文豪とかばっかりで、どんな話が好き…というよりどんな話があるのかすら分からない。狛枝は腕を組んで眉に皺を寄せていたが、やがて名案が浮かんだのかパッと俺に笑顔を向けてきた。
「そうだ。今日これからボクの家に来ない?」
「お前んちに?」
「うん、本見ながらどういうお話かボクが説明するよ。そしたら好きなの選べるでしょ?」
「っ…!?」
狛枝にきゅっと手を握られて、俺は恥ずかしさからそれを振り払ってしまう。何だろう、考える前にそうしていた。触れた所が火傷したんじゃないかってくらい熱くなってる。全身に心臓の鼓動が響いて、マトモに狛枝の顔が見れない。俺…、どうしちまったんだ?
「ご、ごめんね…勝手に触って。嫌…だよね。ボクなんかに誘われて、」
「っ違う! それは違うぞ! 今のはちょっとビックリしただけでっ」
「…日向クン?」
「その…俺、お前んち行ってみたい…」
俺の言葉を聞いて、狛枝は嬉しそうにその場で飛び跳ねた。そして弾んだ声で「じゃあ、行こう?」と小首を傾げて俺を促してくる。紺色のランドセルを揺らしながら先を歩く狛枝を俺は足早に追った。友達の家に行くことなんて初めてでも何でもない。だけど狛枝の家ってだけですごい緊張してきた。どんな家に住んでるんだろう。部屋って何があるんだ? 家の人に何てあいさつしたら良いんだろう。ぼんやりと考えていると、校門を抜けた所で狛枝がガタンとランドセルを背負い直しながら俺の方を振り向く。
「んぅうう…、日向クン元気ないよね。やっぱりボクんち来たくない?」
「あ? あー…俺がいきなり行って、家の人に迷惑じゃないかなって…」
「…あのね、ボク…お父さんもお母さんもいないんだ。……死んじゃった、から」
「えっ…、死んだって」
衝撃的な狛枝の告白に俺は耳を疑った。狛枝にはお父さんとお母さんが…? 当然のように一緒に暮らしているはずの両親が彼にはいない。開きかけた口からは気の利いた言葉が出て来ず、俺は生唾を飲み込むだけだった。
「狛枝…」
「ボクがここに来た日にさ両親のこと聞かれて、頭が真っ白になって…。でも日向クンがその時外に連れ出してくれたよね?」
狛枝は少し寂しそうに笑う。今にも壊れそうな微笑みに俺は胸が潰れそうな思いだった。あの時の真っ青な狛枝の顔は良く覚えている。あれは両親のことを聞かれて、亡くなった時の思い出が蘇ったからだったんだな。
「日向クンが助けてくれて、ボク本当に感謝してるんだよ…。頭がクラクラして気持ち悪くなって、自分じゃどうしようも出来なかったんだ」
「…俺、その時お前を助けようだなんて、思ってなかったぞ」
「思ってなくても、助けてくれたことには変わりないよ。嬉しかった…。キミだったら、ボクの…友達、になってくれるかなって思って…、だからね…。んぅううう…」
眉を下げて恥ずかしそうに赤面した狛枝は唇に指を当てる。ふにふにとしたピンク色の唇が美味しそうで、何となくじっと見つめてしまった。空いているもう片方の手を思わず取って握ると、狛枝はハッと顔を上げる。
「俺も狛枝と友達になれて、良かった…」
「うん、うん…!」
目尻を下げた狛枝の瞳には涙の粒が光っていた。バカだな、そんなことで泣いちまうなんて…。狛枝に胸がキュンキュンしてしまうのは前からだったけど、俺は今でも自分の気持ちが何なのか分からないままでいた。


そこからは他愛もない話をしながら帰った。いつもの商店街を2人で話しながら歩いて、住宅地ブロックに入る。方向は一緒だけど途中から俺と狛枝の家が逆方向になっちゃうんだよな。俺は右に曲がって、狛枝は左に曲がるんだ。今日は狛枝の家にお邪魔するから左に曲がる。
「あそこの角を曲がったらボクの家だよ!」
指し示してニコニコしながら俺の方を振り返った。ふんわりと柔らかい髪が揺れる。学校では滅多に見せないような笑顔ですごく嬉しそうに見えた。俺と遊ぶのを喜んでくれてるのか? だとしたら嬉しい。狛枝が道を渡ろうとした所で後ろから車が来たので、俺は反射的に先を歩く彼の腕を引っ張った。
「うわ…っ!」
「狛枝、危ないぞ。車来てる」
「う、うん。ありがとう、日向クン」
反動で狛枝の体を抱き込む形になった。間近に礼を言ってくる狛枝がいて、思わずその顔に見惚れてしまう。睫毛は長いし、鼻や唇は小作りで人形みたいだ。男だってのが信じられないくらいに可愛いぞ。狛枝はじっと見つめてくる俺にきょとんとしている。変な間が空いてしまった。
「あ、あの…日向クン?」
「っ悪い」
ついつい見入ってしまったことに気付いて体を離そうとした時のことだった。
「ねぇ、ナギトくん…だよね?」
「え…っ?」
通り過ぎたかと思ってた車が俺達の前で停車した。シルバーのどこにでもある普通の車。ウィンドウが音を立てて下がっていって、中から顔を出したのは知らない人だ。お兄さん? おじさん? 狛枝の名前を呼んだから狛枝の知り合いかもしれない。何だか焦っているみたいなオーラが出ている。
「えっと、そうですけど…。おじさんは誰ですか?」
「おじっ…オレ、隣に住んでるスズキだけど。ナギトくんは覚えてない?」
「んぅううう? 鈴木さんは知ってるけど、あなたのことは…すみません、知らないです…」
狛枝はおどおどしながら申し訳なさそうにそう告げた。相手の男は頭を掻いて「参ったな…」とか呟いている。
「あのね、落ち着いて聞いてほしいんだけど…君のお家の人が倒れて病院に運ばれたんだ」
「!?!? おばさんが!? どうして…」
「おばさん…? そう、おばさんがね具合悪くなっちゃったみたいでさっき救急車でさ。もし良かったらナギトくん、病院までオレの車で送ろうか?」
「い、行きます…! 連れてって下さい! おばさんのこと、心配だもん」
「狛枝、病院行くのか?」
俺の問い掛けにハッとして、狛枝は目をパチパチと瞬かせた。病院にお見舞いに行くことにしたのなら俺とは遊べない。それに狛枝も気付いたようだ。折角遊ぶ約束をしたのに断ってしまうことを悪いと思ってるのか、「ごめん…」と下を向いて零す。
「良いって。俺のことなんか気にしないで行って来いよ。おばさん大変なんだろ?」
「うん…」
お腹の前で組んだ両手は微かに震えていた。怖い…のかな? 両親が亡くなったって言ってたけど、事故とか病気とかが原因だったんだろうか。もしそうなら今だってすごく不安だろう。身近な人が病院に運ばれただなんてただ事じゃないもんな。どうしよう、狛枝を1人で病院に行かせたくない…。
「すいません、おじさん!」
「おじっ!?」
「俺も一緒に行って良いですか!? こいつ、1人だと心配で…」
「…君はナギトくんのお友達?」
「はい! 日向 創っていいます!」
勢いで言ってしまった。だって狛枝だって1人は嫌だって思うはずだ。俺が助けてやらないと、俺が傍にいないと…。男は顎に指を添えて、じっと俺を見つめてきた。神妙な面持ちで上から下まで舐めるように視線を動かしてから、何かボソボソ独り言を言ったけど聞き取れない。やっぱり付き添いなんて大きなお世話だったか?
「日向クン…、ボクと一緒に来てくれるの?」
「俺、お前が心配で…。心細くないか? 1人でとか…」
「んぅうううう…! 嬉しいな、日向クンがボクなんかのこと心配してくれるなんて」
「……2人はとても仲良しなんだね。ナギトくんはハジメくんのこと、好きかい?」
「うん、好き! 大好き!」
狛枝は無邪気に弾むような声でそう言った。男は「そうかそうか」と笑顔でそれに頷き返す。俺…狛枝に『大好き』って言われた! そのことで俺の頭はいっぱいだ。友達同士のことだって分かってるけど、狛枝の気持ちをハッキリと聞けたからかテンションが上がる。
「ハジメくんは? ナギトくんのこと…好きか?」
「…っ、す、好きだ…。狛枝のこと、好きだぞ」
恥ずかしいけど、俺は狛枝が好きだ。今まで可愛い女子とか気になったことはあった。でもこんなに意識するなんて初めてだ。狛枝は、男なんだけど…。先生は男だって言ってたし、ランドセルだって紺色だし、ズボン穿いてるし。女じゃないよな? ちんちんだってちゃんと付いてるんだよな?
「じゃあ、2人とも後ろに乗って。病院に行くよ」
もうちょっとカッコいい車だったら良かったのになと思いながら、ガチャと後部座席のドアを開ける。狛枝に「先に乗れよ」と促すと、彼は「よいしょ」と言いながらよじよじとシートに這いつくばる。奥に座っておいでおいでと手招きしてくるから俺も後から乗り込んだ。弾力のあるシートに腰掛けてドアをバタンと閉める。
「2人とも、喉乾いてるか? シートポケットにジュースあるから飲んでいいよ」
「ありがとうございます!」
病院に連れてってくれて、ジュースまで奢ってくれるなんて良い人だな。俺は運転席の後ろにあるポケットから炭酸オレンジの缶を引っ張り出した。キンキンではないけどそれなりに冷えてる。狛枝も飲むかな?ともう1本を手渡そうとしたら、ふるふると彼は首を振った。
「要らないのか?」
「うん。飲み物は大丈夫だよ。おばさんが心配で、胸がいっぱいなんだ…」
狛枝は意気消沈してて言葉数が少ないし、男は運転に集中しているのか俺達に話し掛けてこない。暇だな…。缶ジュースのプルタブを引っ張って、それに口を付ける。ん? これ炭酸抜けてるんじゃないか? 全然しゅわしゅわしないぞ…。ちょっとガッカリしつつ、半分くらい飲んだ。助手席の足元にある黒いバッグが気になった。旅行にでも行きそうなくらい大きいやつだ。
「日向クン、大丈夫? 何かふらふらしてない?」
「……え?」
「ハジメくん、眠いんだったら横になってても良いよ」
何だろう…。頭がふわふわする…。狛枝が俺の手から缶ジュースを取って、それからぐらっと目が回って…。あれ…? ……。………。

Menu 〕  〔 Next 〕 



02.とらわれ
「――きて、日向クン! ねぇ、起きてってば…!」
「ふぁ〜…?」
耳元から狛枝の声が聞こえて、俺はぼんやりと目を覚ました。眉を下げた心配そうな顔をしている狛枝が目の前にいる。俺が「こまえだぁ…?」と呟くと彼はあからさまに安心したようでホッと息を吐いた。俺、さっきまで車に乗ってたよな? でも今は部屋のような場所で横になってる。肩や背中に当たってるのはベッドとは違う硬い感触だ。床に寝かされてる…? 良く良く目を凝らすと狛枝も俺と似たような感じで横たわっていた。
病院ってもっと白くて明るくて、パイプベッドとかがいっぱいあるんだよな? でも今俺達がいる場所は窓がなくて、ちょっと薄暗い感じの部屋だ。間接照明っていうのか? クリーム色のライトに花柄の壁紙が照らされ、アンティークな雰囲気のシャンデリアが天井からぶら下がってる。うーん、どう見ても普通の部屋じゃないぞ。
「こ、狛枝…? どうなってるんだ? ここ、病院か!?」
「……ごめん、日向クン。ボクにも分からないよ。気が付いたらここに…」
狛枝は自分の背中側を気にするように体を捩った。何だよ、これ。起き上がろうとして体勢が崩れた。……あ、手が動かせない。後ろ手に縛られているのか、手首に何かが食い込んでギシギシと痛む。足を見るとロープでぐるぐる巻きにされていた。これやったのって、まさか…。
「さっきの奴、何なんだよ!? あいつが俺達にこんな…っ!」
「…もしかして、ボク達誘拐されたのかな?」
「はぁ!? ゆ、誘拐って…冗談だよな?」
「んぅううう…、ダメだ。どう頑張っても外れてくれないよ…」
しょんぼりしてぐったりと転がる狛枝。くっそー! どうにかして逃げないと。狛枝の言う通り誘拐されたってんなら、身代金とか要求されんのか? 最悪、殺されたり…とか。絶望的な未来を想像していまい、ゾゾゾッと背筋が凍りつく。俺と狛枝…これからどうなるんだよ!? 頭が真っ白になって放心していると、後ろから物音がして誰かがこっちに近付いてきた。
「ナギトくんにハジメくん…。2人とも起きたんだね? 気分はどう?」
「ちくしょう! これ外せよ!!」
「知らない人についてっちゃダメだろ? 小学校で習わなかったのかなー?」
バカにしたような口調で俺の頬をツンツン指で突っついてくる。齧ってやろうと口を開けるも寸での所で男の手は逃げていってしまった。狛枝は半ば茫然としたように俺と男のやりとりを見ていた。顔が真っ白で具合が悪そうだ。
「狛枝、大丈夫かっ!?」
「へ、平気…。あの、おじさん! おばさんは、おばさんは…無事ですか?」
「? ああ、ごめんね。お家の人が倒れたってのは嘘だから」
「嘘だったのかよ!? このクズ!! 最低野郎!!」
「ハジメくんは生意気だなー。ちょっと黙ってろよ!」
「うぐ…っ」
「!! 日向クン…!」
上から思いっ切り腹を踏まれて、胃から吐き気がせり上がってくるが何とか耐えた。ぐりぐり足で踏まれて、段々と気持ちが悪くなってくる。意識がまた薄れていく。
「お、お願い! もう止めて下さい! 日向クン虐めないでぇ…」
「げほっげほっ……、うっ、…狛枝ッ」
泣き叫ぶような狛枝の声が聞こえて、体を踏み付ける足はスッと引いた。助かった…。ポロポロ涙を流す狛枝がひたすらに可哀想だった。俺が怪しいからって車に乗るのを引き留めていれば良かったんだ。でも過ぎたことを後悔しても仕方ない。今は逃げることだけ考えなきゃ!
「何が目的なんだよ、アンタ! 誘拐は…犯罪なんだぞ!」
「はー…。年上に対する口の利き方がなってないね、ハジメくんは…。あ、そうだ。良いこと思いついたよ」
「え? 良いこと?」
男はしゃがみ込んでニコニコ笑いながら、俺と狛枝を見比べる。動けたらこんな奴殴り倒してやるのに!
「これからハジメくんがオレに逆らったら、ナギトくんに酷いことをする。ナギトくんがオレの言うことを聞かなかったら、ハジメくんに痛い目見てもらう。これでどうかな?」
俺が何かしたら狛枝が被害に遭うってことかよ。俺のこと気に食わないならそのまま俺を痛めつければ良いのに。
「き、汚いぞ…!」
「あーあ、そういうこと言うんだ。君がそんなこと言ったらナギトくんどうなるのかな?」
立ち上がった彼は狛枝の傍に歩いていって、涙に濡れた頬を指先でそっと撫でる。狛枝が歯をガチガチと震わせながら、目をぎゅっと瞑って怯えていた。うっ、俺が逆らったら狛枝があいつに痛めつけられるのかよ! 卑怯だ! でも…でも…!
「わ、かった…。言うこと聞くから! 何でもするから! もう止めてくれ…」
「おーおー、良い子だなー。ハジメくん♪」
「狛枝だけは離してやってくれよ。そいつ、両親も死んじまって…可哀想な奴なんだ。殴られるのも蹴られるのも、身代金…はそんなないかもしれないけど! 俺が引き受けるからっ、だから…頼む…!」
「………」
男は黙って俺の方をじっと見た。冷たい瞳にゾッとしつつも俺は睨み返す。狛枝に怖い思いをさせたくない。殺されるかもしれないけど、でも…狛枝のためなら、俺は…! 心の中で固く決意した。狛枝を守るんだって。ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた男は今度は俺の方に近付いてくる。
「ハジメくんはナギトくんが本当に好きなんだ…」
「な、何だよ! そんなの当たり前っ、」
「ひょっとして、ナギトくんのこと…エッチしたいくらい好き?」
「っ!? は…? な、何言って…」
男に小声で囁かれてカーッと顔が熱くなる。こいつ…エ、エッチ…って言ったぞ! エッチってつまり…そういう話、だよな? 狛枝のことを俺が…。何故か男に反論することを忘れて、俺は向かいに寝転がってる狛枝に視線を移した。ふわふわの柔らかい髪の毛、つるつるとした白い肌、キラキラ輝く灰色の瞳、薄ピンク色の可愛い唇。見惚れる度に、あの半ズボンの下に俺と同じようにちんちんがあるんだって、何度も自分に言い聞かせてきた。
「あ、…狛枝、は…男、だぞ!」
「男同士でもエッチ出来るんだよ。まぁ、小学生は知らないか…」
「バカにすんなよ!」
「ハジメくんは可愛いなぁ。そっかそっかー、ナギトくんのことそんなに好きかー」
「っちょ、勝手に頭撫でんな!」
良く分からないけど上機嫌な男に頭をぐしゃぐしゃされた。狛枝は俺達の会話が聞き取れなかったようで「んぅううう?」と首を傾げている。
「うんうん、ショタ同士ってのもおつだよな…。滅多にないぞ、こんなこと。折角2人いるんだし、視姦プレイってのも良いかもしれない」
「な、何考えてんだよ。怖いぞ…」
「ちょっと顔貸せよ、ハジメくん。これはチャンスだ。……オレの所為にして、ナギトくんとエッチしちゃおう?」
グッと肩に腕を回され顔を耳元に近付けられ一言。え、何? こいつ、今なんて言ったんだ? 一瞬何を言われたのか分からない。俺はすぐに言葉が出て来なくてパクパクと口を開いたり閉じたりするだけの間抜け面を晒してしまう。
「!? え…っ、狛枝と…俺が…?」
「そう。オレに命令されたってことにすればナギトくんも嫌だって言わない。あの子は優しいだろう? 受け入れてくれるさ」
「で、でも…それって、あいつを騙すってことじゃ…」
「オレは言わないし、ハジメくんだって言わないだろ? だったらナギトくんは分からないじゃん。君がナギトくんの初めての人になれるチャンスだよ?」
俺が狛枝の…初めての人に? 男の言葉を口の中でリピートする。男同士でもエッチが出来るってことすら信じられない。俺は小学生で子供だから射精ってやつもまだだ。こいつの取り引きに応じたら裸で狛枝と抱き合って、キ…キスとか他にも色々出来るってことだよな? あの…狛枝と…。それを考えただけで股間が熱くなってくる。でもそんなのって…。頭に浮かんだピンク色の妄想を慌てて打ち消す。
「……や、嫌だ。狛枝にそんなこと、俺は出来ない…。だって俺達、友達なのに…」
「じゃあ君はずっと想いを伝えないまま片想いなんだ?」
「俺なんかに告白されたら狛枝はきっと困るぞ。あいつだって女の子が好きなんだ」
「っていうかオレがナギトくんとエッチしても良いんだぜ?」
「っ!? それはダメだ!!」
「だよね? 見ず知らずのオレと大の仲良しである君…。ナギトくんはどっちとエッチをする方がマシなのかな〜?」
そんなの…俺に決まってる! こんなクソったれな誘拐犯に、狛枝が裸に剥かれて好き放題されるなんて許せない。そうだよな、狛枝…? 俺の方が良いよな。だって仲良いもんな。学校でだって一緒にいるし、今日だってお前んちに遊びに行く所だったんだ。それくらい俺と狛枝は仲良しなんだ。

『……2人はとても仲良しなんだね。ナギトくんはハジメくんのこと、好きかい?』
『うん、好き! 大好き!』

狛枝は俺のこと、大好きって言ってくれた。うん、俺も好きだよ。狛枝のこと大好きだ。エッチしたいくらい好き。分かってくれるよな? 狛枝は優しいもんな。今は友達にしか思ってくれてないけど、もしかしたらこれから俺をもっと好きになるかもしれない。狛枝もエッチしたいくらい、俺のことを…。
「俺…、狛枝と、エッチ…したい」
「ハジメくんならそう言ってくれると思ったよ。取り引き成立だ…。縄は外してやるけど、暴れたり逃げたりするなよ? ナギトくんがどうなっても知らないからな」
「分かってる。抵抗しない…」
何もかもが初めてで怖いはずなのに、俺の声は自分で思ってるよりもしっかりと室内に響いた。男は俺の後ろに回って、手首をぐいっと引っ張った。一瞬ロープがきつく締まったけどすぐに緩められて、床に軽い音を立てて落ちていく。足首の拘束も解かれて、俺はよろけながら立ち上がった。解放された両手首に跡が残っていて、しみじみと見てしまう。戦う気は、ない。逃げる気すら、ない。ここで抵抗したら狛枝が傷付けられるかもしれないし、何より狛枝とエッチが出来なくなってしまう。
「日向、クン…?」
拘束を外され立った俺に、狛枝が腑に落ちないといったように呼び掛けてくる。床に転がされている狛枝が可哀想で可愛い。ごめんな、狛枝。俺どうしてもお前が欲しいんだよ。嫌だって拒絶されるかな? 怖いって怯えさせるかな? でも俺がお前とエッチしなかったら、こいつがお前に触れることになるんだ。
「ナギトくん、良い子にしててね。暴れたら…ダメだよ?」
地を這うような低音で男が狛枝に囁く。「ひっ」と小さく悲鳴を漏らしつつ、狛枝はぶるぶる震えながら何度もこくこくと頷いた。男は軽々と狛枝を持ち上げて、ベッドに下ろした。それから大きな黒い鞄からビデオカメラと三脚を取り出して、ベッドサイドに設置する。
「な、何だよそれ!? 俺達を撮るつもりかよ!」
「そうだよ。ハジメくんとナギトくんの記念としてね」
「へ? 俺と狛枝の記念…?」
もしかしてこいつ良い奴なのか? そんなことまでしてくれるなんて。男は「早くベッドに乗って」と俺に発破をかける。ベッドに寝ている狛枝は大人しくしていた。全てを諦めたかのように絶望している。ベッドは俺の部屋にあるのよりも大きくて高さもあって、乗ると柔らかくて体がすごく沈む。ギシリとスプリングを軋ませて、俺はベッドによじ登った。
「これからずっと大人しくしてくれるならナギトくんの拘束外していいよ」
「狛枝、ああ言ってるけど…どうする?」
「……っ、ひ、日向クンが…外してくれる、なら…」
唇を戦慄かせて狛枝は蚊の鳴くような声で返してくれた。俺とは違って狛枝は手錠を付けられてるようだ。横からポイっと男が鍵を投げてくる。シーツの上のそれを持ち上げるとチャリンと金属音が鳴った。ええっと鍵穴は…。右手側の輪にそれらしき穴を見つけて差し込むとカチャリと鍵が開いた。
「あ、りがとう…日向クン」
「うん」
自由になった両手を軽くにぎにぎさせてから、狛枝は力ない笑顔をこっちに向けた。痛々しいけど絶望にほんの少し希望が宿っている。この室内で狛枝の味方は俺だけだからな。狛枝の顔の両脇に手を突くようにして俺は上から覆い被さっている。狛枝が上目遣いに俺を見ている。やっぱり可愛いな、狛枝…。最初はおどおどしててイラついた時もあったけど、今はそれすら愛しい。守ってやりたいって思う。
「テープ勿体ないから早くしてくれないかな?」
「早くって…何すれば良いんだ?」
「そっか。何するかどうかも分からないんだっけ。いいねぇ、子供ってそうだよね」
「く…っ、ガキで悪かったな!!」
咄嗟に言い返すと男はケラケラと軽く笑った。
「いやいや、良いと思うよ。誰だって最初は子供じゃないか。まずはキスかな」
「っ、キ、キキキ…キスぅ!?」
「そうだ。だってナギトくんとシたいんだろ?」
「ねぇ、日向クン。何の話してるの…? キスって、何? ボク怖いよぉ…」
「あいつが狛枝にちゅーするって」
「!? やっ、やだ…。あの人とちゅーなんてやだぁ…! ううっ、ひっ…日向クン」
狛枝はしゃくり上げながらポロポロと涙を零す。そして俺のTシャツの裾をくんと引っ張ってきた。
「大丈夫、狛枝。俺とするならあいつはしないでくれるから」
「んぅう? よく分かんない…。日向クン、ちゅーは女の子とするんだよ? ボクもキミも男の子だから…。ちゅーするの、変…だよね?」
「そんなことないよ、ナギトくん。男の子同士もキスはするよ」
男にそう言われて狛枝はますます悩ましげに唸ってみせる。嫌だからこんな反応するのか? でも俺をじーっと見つめた後にぽわっと頬を赤くした。そして恥ずかしそうにもじもじしてたかと思えば「日向クン…」と俺に呼び掛けてくる。
「狛枝…?」
「い、いよ…。日向クンなら…。ちゅー…、しよ?」
「え…っ!?」
衝撃的な一言を放って、狛枝は目をぎゅっと瞑った。今、いいって言ったか? 俺とちゅーしても、いいって…狛枝が…! ちゅーを待つようにちょっとだけ突き出された狛枝の薄ピンク色の唇。可愛らしいそれに凝視したまま固まってると、狛枝は「んぅうう…」とますます力を入れて目を瞑る。夢じゃないんだよな? ちゅーして良いんだよな?
「………」
ゆっくりと体を密着させて狛枝の唇に自分のそれを近付ける。可愛い綺麗な唇…、狛枝の…。するからな? 狛枝、俺…ちゅーするぞ。初めてのキスの相手がお前。ドキドキしながら俺は目を閉じた。多分真っ直ぐそのまま進めば唇に辿り着くはずだ。しばらくしてふわりと顔周りが温かくなって、遅れて唇に柔らかいものが触れる。ちゅ…と軽い音が鳴った。
「んっ、ひなた…クン」
「……狛枝。もっと、ちゅーしていいか?」
「うん…、する。ちゅーするぅ…」
とろんとした顔つきで狛枝に言われて、また唇を合わせる。ふにふにして気持ち良い。それにあったかい。狛枝も俺の胸に両手でしがみ付いて、俺にちゅっちゅと顔を寄せてくれる。時々息継ぎで顔を離しながら、狛枝は甘えるようにちゅーをねだってきた。最初はぎこちなかったのが少しずつ自然になっていって、俺達は夢中でキスをした。
「はぁ…、こまえだ…?」
「んっ、んぅ…ひなた、クン…。ひゃっ…」
勢い余ってペロッと狛枝の唇を舐めると驚いたように声が跳ねた。目をぱちくりとさせて俺を見つめてくる狛枝だったけど、嫌そうな顔は一切してない。きょとんとしながら「ねぇ、日向クン…」と話し掛けてくる。
「な、何だ…?」
「今のは…ちゅー、なのかな?」
「ハジメくん、ナギトくん」
カメラが映している画面をチェックしている男が口元を歪めながら、俺達の名前を呼んだ。
「それは大人のキス…だよ」
今のが大人のキス…? 俺と狛枝は思わず顔を見合わせる。そういえば何だかちょっとえっちな感じがするぞ。ざわざわして厭らしくて熱っぽい。俺はもう1度狛枝の唇を舐めてみた。
「んっんんぅ…。…ちゅ、んふぅ…! ひぁたクン、はぁ…」
今度は驚かずに狛枝は俺の舌を受け入れてくれた。ペロペロとふわふわした唇を舐めていると、狛枝の口がちょっとだけ開いて中から湿った舌が出て来る。ちろちろと舌先でお互いに突っつき合う内に段々と絡み合っていく。
「こまえだ…っ、んっ、お前の舌、甘いぞ…」
「ぷはっ、…日向クン、は…オレンジの味…」
車の中で飲んだオレンジジュースか。「ふふっ」と楽しそうに笑いながら狛枝はちゅっちゅと積極的に唇に吸い付いてくる。さっきまで怯えてたけど怖くなくなったのか? 狛枝の口を食べるようにはむはむするとクスクスと笑って体を捩って逃げようとする。
「ははっ、狛枝…逃げるなよ!」
「んぅううう…、だって、んちゅ…あっ、あはっ…んっ」
口元を涎塗れにしている狛枝。つやつやと光るそれにまた目を奪われてしまう。狛枝の唇可愛いな。う…。ずっと見てたら、何か体が変な感じになってきたぞ。落ち着かなくて俺は咄嗟に狛枝から体を離した。
「んぅ、日向クン…?」
「…何か、さ。ちんちん…、ムズムズして…おかしい、から」
「そ、そうなの!? 日向クンのおちんちん、どうしちゃったんだろう…」
俺の股間に心配そうに視線を向けて、その手で優しくズボンの上から撫でてくれる。ダメだっ、そんなことしたら余計におかしくなるぞ。
「狛枝…、頼むから離れてくれ…っ」
「え…? ううっ、日向クン。ボクのこと嫌いになっちゃったの?」
「そうじゃなくて、お前に触られたら…っ、ち、ちんちんが変になるんだよ!」
「ボクの所為なの…? ごめんね、日向クン。ボクなんかが、触ったから…」
狛枝が悪いとかじゃないんだけど、でもこいつが触ったら変になったんだ。ちんちんが熱い、すごく。ズボンのホックを外して上からそっと中を覗くと、いつもと変わらないように見える。うーん、パンツの中か? パンツの中はどうなってるんだ? 暗くて良く見えない。狛枝は「大丈夫…?」と俺のちんちんの様子を見ようと体を乗り出してきた。
「わっ、いきなり見てくんなよ!」
「だって…日向クンのおちんちんが病気かもしれないのに…」
「お、俺は病気じゃない!」
「ハジメくんのおちんちん、腫れてるのかもしれないね。ナギトくん脱がせてあげたら?」
男が横から口を出してくる。くっ、こいつのことを忘れてたぞ。狛枝は男の言葉にこくこくと頷いて、俺のズボンに手を掛けてきた。
「ちょっ、ちょっと待てよ! 何でここで脱がないと…、」
「だって…。お願いだから、ボクにおちんちん…見せてくれない?」
「ハジメくん、見せてあげなよ。シたいんでしょ? だったら脱がなきゃ」
「っ!!」
そうだった。俺…、狛枝とえっちしたいから今こうしてるんだ。狛枝は真剣に俺のちんちんの心配をしてるらしい。えっちって具体的に何するか実は分かってないけど、裸になることくらいは俺でも分かる。狛枝も裸になってほしいな。……そうだ!
「狛枝が脱いでくれたら俺も脱ぐ…」
「はぁ!? ボ、ボクが脱いだらって」
「友達の前でなんて恥ずかしいだろ! 1人は嫌だ」
「わがままだよ、日向クン! もう、しょうがないなぁ…」
サスペンダーを下ろした狛枝は、ブラウスのボタンをプチプチと外していく。ブラウスの合わせから透けるような白い肌が見えて、俺は口をあんぐりと開けたままそれを見ているだけだった。ちらちらと俺を窺いながら赤い顔の狛枝が服を脱いでっている。ブラウスをパサリと脱いで、下着も「よいしょ…」と言いながらすぽっと頭を通した。ふわんと柔らかい髪を揺らした狛枝は俺に見つめられているのに気付いて、上半身裸になった自分の体を手で隠す。
「あっ…。あんまり…、見ないでくれるかな」
「見ないでって、言われても…」
見るに決まってるだろ! 好きな奴の裸なんだぞ!? 俺が見逃すはずもなかった。胸元にささやかながら薄ピンク色の乳首が2つついていたのを。
「俺も脱ぐ!」
Tシャツを裾から引っ掴んで乱暴に脱ぐ。ポイっとその辺に投げて、俺達は上半身裸で向かい合った。
「日向クン、何で下脱いでくれないの?」
「お前が脱いだら脱ぐって言っただろ?」
ぷぅっと膨れた狛枝はズボンのボタンを外して、チャックを下ろす。時々迷うような素振りを見せながらゆっくりとズボンを下ろすと、白いブリーフが中から現れた。っていうか細いな、こいつ。ちゃんと食ってるか心配になってきた。どこもかしこも日焼けしてなくて生っ白い。もやしみたいだ。
「んぅうう…。パンツ脱いだら、日向クンも脱いでくれるんだよね?」
「俺は約束を守る男だぞ!」
「じゃあ、脱ぐからね…」
ドキドキしながら固唾を飲んで見守る。お尻を持ち上げてブリーフを下げ、すんなりとした足を上にあげる。しかし「きゃっ」と素っ頓狂な声を漏らして、狛枝は後ろにころんと転がってしまった。転んだ拍子に狛枝の白いつるつるとしたお尻がしっかりと見えた。割れ目にあるきゅっとした窄まりとぷっくりとした小さな玉も。汚いとか全然感じなかった。可愛くて綺麗で撫で回したらさぞすべすべして気持ち良いんだろうなって思った。
「ボク脱いだからね? これで良いんでしょ? 日向クンも! 脱いでよ…!」
「わ、分かった!」
何にしろ狛枝は脱いでくれた。真っ赤な顔でちんちんを両手で隠しながら必死に訴えてくる。俺は慌ててズボンのホックを外してパンツと一緒に脱いだ。2人とも今度こそ裸になった。生まれたままの姿ってやつだ。
「日向クンのおちんちん、どうかな…? 変になってる、んだよね?」
狛枝にそう言われて無言で呟く。恥ずかしいけど足を開いて、ちんちんを狛枝に見せた。いつもと様子が違うんだ。ちょっと膨らんで熱くて、僅かにビクビクしてる。狛枝は眉を顰めながらそっと俺のちんちんに触った。
「うっ…」
「っもしかして、痛かった?」
「いや。痛くはないけど…」
痛くないと言うと狛枝はホッとしたような顔でもう1度触ってきた。ああ、俺狛枝にちんちん触られてるんだ。狛枝がいつも鉛筆持ったり、欠伸をしたりする時のあの小さな白い手が…俺のを…! ちんちんのムズムズが大きくなる。じっとしていられない。腰が動く。
「はぁっ、はー…! こまえだ、もっと…触ってくれ」
「日向クン…? う、うん。触るね」
狛枝は頷いてちんちんの先を優しく撫でてくれた。何でだろう、気持ちいいぞ…。今までちんちん触って気持ち良いだなんて感じたことなかったのに。さっきよりも大きくなって、狛枝に撫でてもらってるのが嬉しいのかずっとビクビクと跳ねている。狛枝がきゅっと握って揉み込むと電気が走ったかのように背中が撓った。
「あっあぁ…こまえだ、も、あっ…んっ…ふ、あぁ…!」
「っ、あ…日向クン…! ……ん? …何か、出てきたよ?」
頭が真っ白になった俺はベッドに倒れてしまった。今のは初めての感覚だった。突き抜けるような衝撃。体が痺れて動けない。そんな俺の横に狛枝は膝立ちで移動してきて、右手を見せてきた。何だ…? 半透明で少しとろりとした液体が狛枝の手についてる。まさか…!
「っお、俺、おしっこ漏らした…!?」
「ううん、違うみたい。だって変な臭いとかもしないし…。何だろうね?」
狛枝はすんすんと自分の手の匂いを嗅いで、ペロッとその液体を舐めてみた。
「バカっ! そんなもん舐めるなよ!」
「味は…良く分かんないね。んぅう…、ボクのおちんちんからも出るのかなぁ…?」
小首を傾げながら狛枝は俯いて自分のちんちんを見ている。狛枝のは色も薄くてぷにぷにしてて俺のよりほんのちょっとだけ小さい。芯は白いのに先が濃いピンクですごくえっちだ。触ったら狛枝もムズムズするんだろうか。
「狛枝、今度は俺が触ってみていいか?」
「何…? 触るって何を、」
「お前の、ここ…」
無防備に曝け出されてる狛枝のちんちんを軽く握ると、「ひゃう…!」と悲鳴が上がった。
「きもちいか? 狛枝も、ちんちん触られると…」
「わか、分かんないよぅ…。やっ、日向クン…ひなたクン…! おちんちん触っちゃダメぇ…」
力なく俺を押し返そうとするけど無駄だ。毎日外を走り回って遊んでるし、体力は俺の方がある。優しく優しく、痛くしないように…。狛枝の可愛いちんちんをふわふわと柔らかく握る。先のピンク色を指でくりくりしてやると、狛枝は「ひぅっ、ひぅう〜…」と目に涙を浮かべて嫌々と首を振った。
「嘘ついたらダメだぞ。本当は気持ち良いんだろ…?」
「ちがっ、違うよぉ…!」
否定してるけど狛枝のちんちんは熱くなってるし、たまに体もビクンビクンしてるから俺と同じように気持ちが良いんだと思う。さっきみたいに白いの出るかな? 狛枝のちんちんから、出るかな。でもいくら擦っても中々狛枝は出してくれなかった。俺が下手くそなのかよ、クソ!
「ハジメくん、ナギトくんのおちんちん舐めてみたら? そしたらもっと気持ち良くなってくれるよ」
「狛枝のを、舐める…?」
しばらく黙っていた男がアドバイスなのか口を開いた。でも…おしっこする時に使うもんだぞ、ちんちんって。それを舐めるだなんて。ちょっと俺でもそれは無理かもしれない。そう思いながら顔を上げると、狛枝が泣きながら涎を垂らしていた。
「んやぁ…ひにゃたクン、も…やぇてよぉ…! おちんち、んっぅうう…!」
「狛枝…」
腰の動きが更に厭らしくなってる。ゆらゆら揺らして俺の手にちんちん擦り付けてるような感じだ。止めてって自分で言ってるのに気付いてないのか? 俺は改めて狛枝のちんちんを見た。濡れたような光を放っていて、ピンク色がとても美味しそうに見えた。何て言うか口に入れたら甘い味がしそうだ。狛枝とちゅーした時も甘かったよな? ……舐められる、かもしれない。
「あ…。んぅうう…、やめちゃうの? ひ、なたクン…。んひぃいいっ!?」
「じゅるっ、ちゅぷっ…はぁ、狛枝の、ちんちん…!」
意外と舐められるもんだな…。どこか他人事のように思いながら狛枝のちんちんをしゃぶった。口に入れた瞬間こそ変な味がしたけど、舐めてる内に唾液に混ざってって今では柔らかいミルクのような味だけがする。
「あふっ、あっあ、あぁああッ! ひにゃらクン、らめっらめぇ…!」
「んんっ、ちゅぼっ…じゅるる…、はぁ、ぷちゅ…ん〜…」
「おひんひん、食べちゃ…んぅううう〜! あっうぁあッ、あんっ」
足を無理矢理広げて、喉の奥まで狛枝のちんちんを食べる。口の中でぷるぷる震えてる柔らかいそれが美味しくて堪らない。舌で先を擽るとぶるぶると狛枝の白い太ももが痙攣する。
「ひぅっ! やらぁ…でちゃうっ、でひゃう、よぉ…! はなしてっ、おしっ、こ…出ちゃっ、やぁああッ!」
「っ!?」
狛枝の『おしっこ』という発言にビックリして口を離す。一際大きな悲鳴を上げた狛枝は体をガクガクさせながら仰向けに倒れてしまった。ちんちんからおしっこが漏れた様子はない。っていうか何も出てないぞ。何だったんだ…?
「狛枝…? 大丈夫か?」
「はふっ、はふぅ…! ボク、出ちゃった…? おしっこ、出ちゃったの?」
えぐえぐ泣きながら俺に聞いてくる狛枝。自分じゃ分からないようだ。「出てないぞ、何も」と言って安心させるように頭を撫でてやると、狛枝はふにゃりと表情を崩して笑った。

Back 〕  〔 Menu 〕  〔 Next 〕 



03.ひとつ
「ハジメくん、ナギトくん。ほら、もう少しだよ。頑張って」
カメラの向こうにいる男がポイっと投げて寄越したのは、透明な液体が入ったチューブだった。チューブを斜めにすると中の液体がとろりと流れる。朝食にトーストが出たらパンに塗る…ハチミツみたいなチューブだ。俺は朝はご飯派だけどな。手に取ったチューブを光に翳しながら俺は男に話し掛ける。
「何だよ、これ」
「それをナギトくんのお尻に塗ってあげるんだよ」
「?? 尻に塗ってどうすんだ?」
「お尻の穴に塗って、中を解して上げるんだ。そしたらハジメくんのおちんちんを入れてあげようね」
一瞬、息が止まった。何を言ってるのか分からない。狛枝の、尻に…俺のちんちんを、入れる…!?
「っ!?!? はぁ…!? 頭おかしいんじゃないか!?」
「失礼だね。それが正しい男同士のやり方だよ」
「日向クン、何の話? ボクのお尻に何かするの…?」
裸で寝転がってた狛枝がむくりと起き上がりながら聞いてくる。緑がかった綺麗な灰色の瞳に俺は思わず目を背けた。俺は狛枝が好きだけど、狛枝は俺のこと…好きって訳じゃないんだよな。ただの友達だと思ってる。そんな奴にキスされて、ちんちん舐められて、挙句の果てに尻に入れられるだなんて…可哀想過ぎる。もし自分の立場だったら泣き叫んで暴れてるだろう。
「あのな、狛枝…。お前の尻の穴に…俺のちんちん入れろって」
「え…っ?」
見る見る内に狛枝の表情が歪んで、ぶわりと涙が目から溢れた。ぽたぽた流れるそれを拭おうと手を伸ばしたけど、止めた。どう考えても俺は狛枝に嫌われるんだ。何で好きになってもらえるかもしれないって思ったんだろう。嫌いになるに決まってる。こんな酷いことをする奴が友達な訳ない。しくしくと泣いていた狛枝はしゃくり上げながらゆっくりと口を開く。

―――酷い。最低。嫌いだ。

きっとこんな言葉をぶつけられるんだろう。耳を塞ぎたかったけど意味はない。でも狛枝の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「ひっ、く…、ごめん…っ。ひなたクン、ごめんね…」
「っな、何で謝るんだよ…!?」
「だって…、ボクなんかの、汚いお尻に…おちんちん入れないといけないだなんて、とんでもない罰ゲームだよ…!」
「そんなこと言ったらお前だって嫌だろ!? 俺のちんちん、尻に入るんだぞ!」
「ボクは日向クンになら何されたって良いんだ。大人のちゅーだって、お…おちんちん舐められたって、お尻好きなようにされたって、良いんだもん…」
「狛枝…」
泣いてる顔なんて見たくない。掌で狛枝の涙を拭いてやってからそのままぎゅって抱き締めた。裸だからあったかくて心が落ち着く。背中をあやすように撫でてやると、くったりと力を抜いた狛枝が肩口に寄り掛かってきた。すべすべしてて指に吸い付くような肌の感触だ。気持ち良いな…。まだしゃくり上げてるらしい狛枝は、体を小刻みに揺らしながらすりすりと俺に甘えてきた。
「もう、泣くなよ…。な?」
「だって、だって…。日向クン、絶対ボクのこと…嫌いになっちゃう」
「ならない。嫌いになんて…。俺達、友達だろ?」
「……本当、かな? 嫌いにならない保証…ある?」
保証? 難しい言葉使うなよ。保証とか俺には良く分からないし、出来ない。でも俺は狛枝を嫌いにならない自信がある。だってお前男じゃん。ちんちんついてるのだってちゃんと見たんだ。それでもお前が好きだから。控え目でおどおどしてるけど、優しくて頭が良くて色んなこと知ってて。俺に嫌われたくないって泣いちゃうお前が可愛くて、堪らなく好きだから。
「好きだぞ、狛枝。お前のことが…大好きだ」
「日向クン…!?」
「好きだから、俺はお前とえっちしたい。お前の尻にちんちん入れたい」
「え…えっち、って何…? えっ、えっ…?」
「お、男同士のえっちはそうするんだって…あいつが言ったんだ」
「そう、なんだ…。好きだから、…えっち、するんだね」
俺から体を離した狛枝はカーッと耳まで赤くなっていた。ベッドに落ちていたチューブを手に取る。何となくやり方が分かるような気がした。えっちのやり方が男が言うので合ってるのなら男女で違いはあるけど、ちんちんを穴に入れるってのはどっちも同じだ。狛枝の尻の穴にこれ塗って解すんだっけ。そしたら俺のちんちんが入るんだよな?
「狛枝…、その、シていいか?」
「う、ん…。ボクも日向クンのこと、好きだよ。ボクと日向クン、両想い…?」
上目遣いに聞いてくるから返事の代わりに軽くちゅってした。狛枝も唇を突き出して答えてくれる。
「で、でも…良いのかな? ボク達、まだ子供なのに…」
「お互いに好きなんだから、悪いことじゃないだろ?」
狛枝をベッドに寝かせたけどちょっと前からじゃやりにくいな…。
「うつ伏せになってくれるか?」
「うん、分かったよ。お尻上げた方が良いかな?」
「ああ、頼む…」
言われるがままに狛枝はくるりと後ろを向いて寝そべる。そしてツンと突き出して、俺のやりやすいようにポーズをとってくれた。つるつるの真っ白い尻を撫でて揉んで、その感触に浸ってると本来の目的を忘れそうになる。チューブのキャップを外して、ドロッとした中身をそのまま狛枝の尻に掛けた。
「ひゃぁん…! うう…。日向クン、冷たいよ」
「悪い…。我慢してくれ」
割れ目をグッと開いて、くすんだピンク色のキュッと閉じた穴に指で恐る恐る触る。狛枝が「んぅ…!」と声を漏らしながら小さく反応した。くにくにと撫でて少し力を込めて指を押す。つぷりと指が穴の中に沈み込んだ。
「うっ、うう…」
「痛いか? 平気か?」
「ん、ん…ちょっと痛い、けど…大丈夫。我慢、するよ…。あぅ…!」
慎重にやらないとな。丁寧に時間を掛けて狛枝の尻に指を出し入れする。ドロドロの液体のお陰で大分スムーズに入れられるぞ。ジュボジュボと狛枝の尻をいじる大きな水音が室内に響き渡った。狛枝もふぅふぅ小さく息してるけど、ちょっと声を出すくらいですごい痛がったりはしてない。俺のちんちんが入るくらい解すってどこまでやれば良いんだ? もう1本入れても大丈夫だよな。
「狛枝、指…増やすぞ。頑張ってくれ」
「…うん。早く…日向クンの、おちんちん…ほしいよぅ。あん…ッ」
「っ!! お、おう…」
何か今のですごい興奮してきた。俺だって早く入れたい。1つになりたい。逸る気持ちを押さえながら2本目の指を突っ込む。ぎゅうぎゅうと締め上げてきたけど、クチュクチュと指を出し入れしている内にゆるゆると柔らかく指に吸い付いてきた。俺のちんちんもこんな風にきゅってされるのかな。
「よし、もう1本入れるぞ!」
「大丈夫だよぉ…。きて、きてぇ…! あっ、んぅッ…あはぁ…ふぅん、うぅ」
すごい…、すごいぞ…! 3本も指入れてるのに全然痛がってない。むしろ気持ち良さそうだ。ざわざわと中の肉が纏わりついてきて、俺の指を一生懸命食べてる。奥にあるしこりをぐりぐりするとそこが感じるのかビクンビクンと体を震わせた。
「もう十分じゃないかな、ハジメくん。ほら、おちんちん…挿れなよ」
俺達をずっと見ていた男がまた口を出してくる。最初はウザったく感じてたけど、もうどうでも良い。目の前の狛枝が可愛過ぎて、他が視界に入らないんだ。
「あっ…は、はぁ…入れて、良いのか…? 狛枝に、もう…」
「ちょうらぃ…! ひにゃたクン、ボクのお尻に…おちんちんっ、あっふぁあ…!」
指を抜いて、俺はちんちんを狛枝の尻の穴に当てた。いじる前の穴は閉じっぱなしで特に何もなかったのに、今ではグチョグチョに濡れてヒクヒクと開いたり閉じたりしてすごく厭らしくなってる。ピンク色の入り口に俺は思いっきりちんちんを押し当てた。
「ひぎぃいいいい…! あっ、うっ、ふ…あ、あぐ…! ぐぅうう…!」
「っきつ…! 狛枝ぁ、すごく…きつい、ぞ…!」
「痛っ、痛いよぉ…。うぇ…うぇええん…! やっ、あ、中に…きてりゅ…あぁ…!」
あんなに柔らかくしたのにかなり狭い。これ入るのか? 狛枝は嗚咽を漏らしながら必死に耐えていた。シーツを掴む白い手からは一層血の気が引いている。ごめん、ごめんな…、狛枝。痛くしてごめん。でもまだ半分くらいしか入ってないんだ。
「あっあ、狛枝、こまえだ…! 俺達、今…1つになって、るんだぞ」
「っんぅ…ひと、つ…?」
「そうだよ…。えっちして1つに、繋がってるんだ…!」
「ふぁ…ひなたクン、と…ひとつ? ……あはっ、嬉しい…なぁ。ふふっ」
青ざめた顔で呟く狛枝が可哀想だったけど、ここで終わらせたら2度とないかもしれないんだ。もう力尽くでも入れてやる! 狛枝を後ろから抱き締めるようにして、俺はじわじわと腰を進めた。何度も後ろから狛枝の名前を呼んで、「好きだ」って言ってやる。すると不思議なことにあんなにきつくて狭かった穴が途端にうねって、俺のちんちんをどんどん飲み込んでいったんだ。入る…、入るぞ。俺のちんちんが…全部、狛枝に入った!
「入った…、狛枝。分かる、か? 俺のが…お前の中にあるんだぞ」
「あふぅ、分か…るよ。ひぁたクンのぉ…おちんちん、が…、んぅ…奥までぎゅううって、あぁんっ…届いてる…!」
もげるかと思うくらいの痛みが消えている。狛枝のお尻の穴は限界まで広がっていて、俺のちんちんが入っていた。適度な締め付けできゅっきゅと俺のを気持ち良くさせてくれる。
「ハジメくん。指と同じように出し入れしてね」
「はぁ…、んっ、こうか?」
男は固定してたビデオカメラを持って近付いてきた。俺と狛枝の繋がってる部分をズームして撮っている。言われた通りに体を前後させてちんちんを出し入れすると、穴を広げるのに使ったドロドロがびちゃびちゃと穴から零れ落ちる。パチュパチュッ、ぐちゅ…にゅぷっ! 狛枝の尻に体をぶつけるようにして俺は夢中でちんちんを動かした。
「…っ狛枝、きもちいぃ! ヤバいっ、あっ、狛枝の穴が…ンッ、ふぅ…俺のをぎゅってしてるぞ…!」
「ひにゃたクン、ひにゃらクゥン…! あふぅ…お尻、いいっ、いいのぉ…っ。んぁっ、ふっ、ジンジンしてりゅ…! はぁ、はぁ…」
狛枝も腰を揺らして、俺に合わせてくれた。えっちってこんなに気持ち良いんだ。ちんちんが燃えるように熱いし、それを包み込む狛枝の穴はもっと熱い。中が生き物のように纏わりついてきて、離してくれない。ああっ、狛枝…! 狛枝ぁ!
「ふぁっ、こまえらぁ…きもちぃ! ハァッ、俺…さっきの、また出すぞ! ネバネバのっ、白いのっ! くっ出そうっ、あっ…出るっ! お前の…中にっ、あっ…狛枝ぁ…!」
「あんっあぁんッ! ボクもっ、おひっこ…しちゃうっ! いっぱいぃ出ちゃうのぉ…! やらぁ、おもらし…やらのにぃ…! ぁうっ、ひぅ…いっ、あっあぁあああッ!」
強烈な気持ち良さがちんちんから飛び出して、俺はふっと意識が一瞬遠のいた。体を支えることが出来なくて狛枝の上に倒れ込む。狛枝は俺に潰されてぺしゃりとベッドにダウンした。俺…どうしたんだ? うーん、どうでも良いか? すごく気持ち良くて何も考えられない。眠い…。瞼が上がらなくて、うつらうつらしてきた。
「んぅうう〜、日向クン。重いよぅ。どいてぇ…」
「あ…。悪い。今退くから!」
狛枝が潰れた蛙のような声を出した。ついそのまま寝そうになっちまったけど、狛枝を潰したままは可哀想だ。慌てて体をどかすとずるりとちんちんが狛枝の尻の穴から抜けた。ああああ、すごいことになってるぞ。穴からドロドロが大量に流れてて、シーツが濡れちゃってる。
「狛枝? 潰してごめんな。どっか痛くないか?」
「うん、痛くないよ。……あのね、日向クン。ボクもおちんちんからキミと同じようなトロトロなのが出たんだよ。ほらっ」
そう言って狛枝は足を広げてちんちんを見せてきた。本当だ。先からとろんと白っぽい液体がほんの少し出ている。おしっことは違うらしい。狛枝も気持ち良くなったから出たんだよな。だとしたら嬉しい。そんな満足感に浸ってると、狛枝はほっぺをりんごのようにしながら「日向クン…」と俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「えっち……、気持ち良かった、ね」
「うん、そうだな。すごかったぞ」
「……あのね、あのね。ボク…また日向クンと…、したいなぁ」
狛枝にニコッと無邪気に微笑まれて、俺は何て返したら良いか分からなかった。気持ち良かったから…また、したいだって?

―――何てえっちで可愛いんだ…!!

俺だってまたしたい。狛枝の言う通り、ちんちんがすごく気持ち良いってのもある。だけど狛枝が俺のこと好きって言って、ぎゅって必死に抱き着いてくるのを見ていたくて…。
「今度は前から挿れてあげたら?」
男がビデオカメラで俺達を撮りながら口を挟んでくる。「狛枝…?」と耳元で呼び掛けてやると、彼も男が言ったことを聞いてたらしい。ほわんとした顔のまま黙ってコクコクと頷いた。俺のちんちんも狛枝の尻の穴もまだびしょびしょに濡れている。萎れちまったちんちんとぷくぷくの球の下でひくんひくんと開いたり閉じたりしているそこ。指を入れてくちゅくちゅ弄ってやると柔らかくて温かい。
「狛枝…。じゃあもう1回、ちんちんいれるぞ」
「はぁあ、ひにゃたクゥン…!」
ピンク色の穴に俺のちんちんをぴたりと当てる。さっきより硬くないけど入るのか? ちょっと心配だったけど慎重に進めていくとぬぷぬぷと狛枝の中にちんちんが吸い込まれていく。狛枝は小さく息を吐きながら苦しそうにしていた。
「あっ…、うう、はぁ、はぁ……! うぁ、」
「大丈夫だぞ、狛枝…。さっきも入ったから、大丈夫…」
「うん、うん…!」
2回目だけど辛いよな。自分でも何が大丈夫だか分かってないけど、それでも狛枝を安心させるのに俺は必死だった。名前を呼んで体を撫でてやると、少しだけ笑ってくれる。根元まで全部入ってからゆっくりと腰を振り始めた。慣れてきたのかな…。ぐにゅぐにゅと突き刺さったちんちんを、狛枝は目を閉じて受け入れている。体を揺らす度にぷるぷるの小さなちんちんが上下に揺れた。
「はふぅ、はふっ…あんっ、あああ…! きもちぃ、アァんっ、ボクの…おしりがぁ…っ」
「こまえらっ、こまえらぁ…! いいぞ、中でちんちん、擦れてる…っあ、俺っ、ううっ」
「ひぅ…、アんっ、ひぁたクンのが、ボクのお尻に…れたりはいったり、ひてるよぉ…!」
「すごい、こまえらっ! じゅぼじゅぼって音してる! 俺のちんちんとお前の穴で、はぁっ、うぁああッ!」
「あつぃ…、おしり、あついの…、はぁ、あふっ…おちんち、からぁ…おしっ、あぁああ〜…」
俺と狛枝の悲鳴が同時にあがり、またあの頭が真っ白になるやつがきた。全身が熱くなって、背中から大量の汗が吹き出してくる。狛枝もぴくぴく体を震わせて、ちんちんからぴゅぴゅっと白い液を飛ばした。多分俺も同じのが出てると思う。狛枝を潰さないようにそのまま体を後ろに引くと、ちんちんがぷちゅ…と水音を立てて抜けた。とろりと出てきた白い液が最初よりも増えてるような気がする。
「はー…、狛枝…。気持ち、良かったか…?」
「ふぅ、ふっ…よか、たよ…。日向クン、……んっんぅうう…」
「こまえだ?」
目がとろんとしたかと思えば、狛枝はそのまま目を瞑ってしまう。疲れたんだろうな。このままだと風邪引くよな? でも体が汚れてるのに布団かけても良いのか? 俺がどうしようかと迷っているとビデオをベッドサイドに置いた男が近付いてきた。
「な、何だよ。狛枝が寝てるんだから起こすなよ!? 指1本触れさせないからな!」
「………」
すっぽんぽんで何言ってるんだみたいな顔で見下げられるけど俺は怯まないぞ! 狛枝を守るように体を前に出して、キッと男を睨んだ。
「別に何もしないよ。オレはこれで満足だから。ハジメくんもナギトくんもありがとうね」
「はぁ…?」
「ナギトくんが目を覚ましたら、2人でシャワー浴びて帰っていーよ」
「も、もう良いのか!?」
「オレが想定してたより2人とも頑張ってくれたから…。うん、すごかったよ」
俺から視線を逸らしながら男はそう言った。何だろう、顔が赤いみたいだけど。でもまぁ良いか! これで俺達帰れるんだもんな。狛枝の目が覚めるまで俺も隣に寝っ転がることにした。ベッドに投げ出された手に自分の手を重ねて、寝顔を見守る。痛い思いをさせて悪かった想いもあったけど、抱き合えて嬉しかった想いの方が大きい。狛枝とずっと一緒がいいな…。白い小さな手を軽く握るとふんわり柔らかくて、思わず笑顔になる。
体を動かしたから死ぬほど眠かったけど、男が狛枝に何するか分からないから頑張って起きていることにする。眠っちゃダメだ、起きてなきゃ…。俺が、狛枝を…守るんだから…。絶対に守るぞ…! ぜった、い…、……、………。


……
………

「――クン、日向クン! んぅうう…、起きてよ…!」
ゆさゆさと体を揺さぶられて、俺は反射的にその手を振り払う。良い気持ちで寝てるんだから起こすなよ…。前にもこんな風に呼ばれて起こされたような気がする。いつだっけ…? ごろんと背中を向けようとしたけど、肩を掴まれて、そのまま唇に柔らかい何かが触れた。
「っ!?」
「あはっ。日向クン、やっと起きてくれた」
「…こ、狛枝!? 今っ」
バッと勢いよく起きると、俺の横には裸の狛枝がちょこんと座っていた。「おはよう」とニコニコする狛枝。ここは…、誘拐犯に連れて来られた部屋だな。俺、寝てたのか…。あ! あいつは…!? キョロキョロと辺りを見回すと男はソファに座ってテレビを見ていた。
「えへへ…、全然起きないからちゅーしちゃった。前に王子様がお姫様にキスをして起こしてあげる絵本を読んだんだ。それでやってみたくって…」
「あいつには何もされてないかっ!?」
「う、うん…。多分だけど、大丈夫だと思う」
「俺が確かめる!」
狛枝に万歳をさせて全身をチェックした。うん、傷とかはないよな?
「もう、平気かな? 日向クン」
「…こっちも見せてくれ」
「え…? あ、んぅううう…そこは、ンっ」
狛枝を四つん這いにさせて、尻の穴を触ってみる。ぴちょ…と俺が出した白いのが溢れて来るだけで、男に何かされたって感じじゃないな。ピンク色の穴に指を突っ込むとトロトロと後から後から出て来る。狛枝は尻を震わせながらシーツを噛んでいた。
「やぁあ…、ひぁたクン…! ボク、もう…」
「狛枝…ッ」
「ひぁッ、や、らめぇ…、うっ…ひ、あぁッ!」
「はいはい、2人ともそこまで〜。オレが見てない間に勝手に盛っちゃって…とんでもない子達だねぇ」
男が俺達の声を聞きつけて、テレビを消した。こいつも本当に何だったんだろう? 最初は縛られたりしたけど、後は大したことしてこなかったしな。ビデオに撮られたけど俺達の記念だって言ってたし…。変な奴だ。じっとり見つめてると男に急かされたので、俺は狛枝から指を抜いてやった。
「起きたんならシャワー浴びて」
「「はーい」」
裸の狛枝と一緒にお風呂に入った。ぶくぶくする装置?がついてて泡風呂になるんだ! 黄色いドロっとしたのを入れて、スイッチを押すとビックリするくらいぶくぶくする。何だろう、レモンかな? グレープフルーツかもしれない。とにかく甘酸っぱくて良い匂いだ。
「日向クン、すごいね! ボクこんなの初めてだよぉ…」
「ちょっとそのままでいろよ、狛枝」
「?」
はしゃいでいる狛枝の髪の毛がへにゃへにゃになってるのを見て、俺は泡を掬って頭につけてやった。これでいつもと同じもふもふだな!
「んぅうう〜、頭が泡だらけになっちゃった。もう、日向クン!」
「ははっ、泡枝って呼べばいいか?」
「こうなったら、日向クンも泡向クンにするもんね! えいっ」
「おわっ!?」
仕返しされて俺も泡だらけになる。そんな俺を見て、狛枝は笑っていた。真っ白い泡に包まれていて、天使みたいに可愛い。俺は思わずその手を取って、自分の方に引き寄せた。水の浮力でふんわりと軽い狛枝の体が俺の上に乗る。きょとんとこっちを見て小首を傾げている泡塗れの天使。俺のちんちんが狛枝の尻に当たってるのが分かった。胸元の泡が水ですっと落ちて、薄ピンク色の可愛い乳首が現れる。
「ちゅ…んくっ、ん…狛枝…、んんっ」
「あんっ…、ひぁたクン…、おっぱい、すわないでぇ…あはぁ…、んぅ」
息を吐きながら目を閉じて、俺の頬に手を包む狛枝。無意識なのか? 俺の頭を自分から胸に押し付けてるぞ。すごくえっちだ…。乳首から唇を離すと、顔を赤くした狛枝と目が合った。
「こまえだ…」
「はふぅ…、ひにゃたクン…」
ちゅっと唇にちゅってする。俺の狛枝に対する気持ちって何だろう。友達とは違う。親友よりもっと上。家族とはこんなことしない。男同士でえっちする関係って? コイビト…? 狛枝が俺の、恋人…か。何だか幸せな気分になって、俺は狛枝の腰にぎゅって腕を回して、何回も何回もキスをした。

Back 〕  〔 Menu 〕  〔 Next 〕 



04.ひみつ
「今日あったことは他言無用だ…。ハジメくんもナギトくんも良い子だから出来るよな?」
「ん? タゴンムヨウってどういう意味だ?」
「誰にも喋っちゃダメってことだよ、日向クン」
「ふーん」
シャワーの後に俺と狛枝が着替えている時に男にそう言われた。誰にも喋るなって、喋れる訳ないだろ! 狛枝とえっちなことしちゃったなんて…、誰にも言いたくない。俺と狛枝だけの秘密にしたい。だけじゃないか、こいつも知ってるんだよな…。男が知ってるのはムカつくけど仕方ない。こいつがいなかったら、狛枝と友達以上になれなかったし。
部屋の外に出ると、薄暗い怪しい感じの廊下だった。同じようにいくつもドアがあって、部屋番号がピカピカ光ってるのもある。歩いていく男の背中を追って、ランドセルをカタカタ鳴らしながら非常階段を狛枝と一緒に下りる。建物の裏口から外に出ると辺りは真っ暗になっていた。来た時と同じように男の車に乗った。
「狛枝…?」
車が動き出してから隣を見ると、狛枝は表情を暗くして俯いていた。何だろう? ぎゅってした時はあんなに楽しそうにしてたのに…。「どうかしたのか?」って声を掛けても、ふるふると黙って首を振るだけで何も教えてくれない。何か悩んでるのか? 俺じゃ力になれないのか? でも無理矢理聞き出すのも良くないと思って、俺はただ狛枝の手を握るしかなかった。


夜になっているせいで、見覚えがある風景だと気付くのに少し時間がかかった。街灯が照らしてるのは家から1番近い公園だ。その裏手側にゆっくりと車を止めた男は「降りろ」と短く俺達に言ってきた。俺が先にトンと地面に降り立ち、狛枝の手を取って、車から降りるのを支えてやる。尻にちんちん入れられてからちょっと上手く歩けなくなってるからな。その内治るって男は言ってたんだけど…。
「日向クン、ここ…どこか分かる?」
「大丈夫だ、分かるぞ! お前んちまでは俺が送ってってやるからな」
「うん、ありがとう」
忘れ物がないか確認しろって母さんにいつも怒られてるから、しっかり座席をチェックしてからバンと扉を閉める。すると車はすっと流れるように走ってしまった。
「あ!」
「どうした、狛枝…?」
「車のナンバー見れば良かったね。んぅううう…、もういなくなってるなぁ」
「腹減ったなー。もう晩ご飯の時間かな? 帰ろうぜ、狛枝」
手を引いて帰ろうとするけど、狛枝が歩かないから俺は後ろにバランスを崩した。何だよ、帰らないのか? 狛枝はランドセルの肩をぎゅっと左手で掴んで、車の時と同じしょんぼりとした顔をしている。
「狛枝? 何か嫌なことでもあったのか?」
「うう…」
「俺にも話せないことか?」
「ねぇ…日向クン。ボクと…これからも、友達でいてくれる?」
泣きそうな顔で俺を見つめる狛枝。予想外の言葉に俺は目を見開いた。俺は狛枝と離れるつもりもないし、学校だってそれ以外だって一緒にいるつもりだった。「当たり前だろ!」と言おうとして、ハッとした。ああ、狛枝の言いたいことが分かったぞ。
「友達。じゃないよな…、俺達」
「そ、そんな…。日向クン…」
「恋人、だぞ。俺と狛枝は!」
「……こい、びと? ボクと日向クンが…?」
「だって、したもんな。……えっち」
最後の言葉を耳元で囁くと、狛枝は耳まで真っ赤になって唇を震わせた。
「日向クン、ボク…、ボク…」
「友達より親友より、ずっと仲良しって意味だぞ?」
「うっ…嬉しいよ、日向クゥン」
「だ、大好き…だぞ。狛枝…」
「うん! ボクも日向クン大好き!」
やっと狛枝もにっこり笑ってくれた。やっぱりお前は笑ってる方が可愛いぞ。狛枝を無事に家まで送り届けると、中から心配そうな顔をしたおばさんが出てきた。親戚の人かな? 俺は別に1人で大丈夫だったんだけど、そのおばさんが危ないからって俺の家まで送ってくれた。玄関口で手を振る狛枝に手を振り返して、俺は家に帰った。母さんにはめちゃくちゃ怒られちゃったけど、狛枝と恋人になれたから何とも思わなかった。怒られてる間も狛枝のことばっかり考えてて、早く明日にならないかなって上の空になってたら、母さんに頭を叩かれた。


あの事件から俺と狛枝は恋人同士になった。学校でも仲良しで一緒だし、家で遊んだりもするから表面上は友達だ。だけどたまに学校のトイレで体を触り合ったりしてた。だって狛枝が触ってほしいって言うんだ。だから休み時間とか放課後とか、先生に見つからないようにエッチなことをたくさんした。その内何も言わなくても顔だけで分かるようになった。狛枝が熱っぽく見つめてくると、俺は目配せをして1番人気のない図工室近くのトイレに入る。個室でズボンとパンツを下ろして、お互いにちんちん触り合って気持ち良くなるんだ。
「あぁん…、ひにゃたクン……! おちんちん、きもちぃよぉ…」
「バカ、こまえだ…っ、声抑えろよ! もし聞かれたら、」
「んんぅ、ごめんね…日向クン。あっ、そこ、はぁ、はぁ…あっんっんぁあ〜…」
「っは…、俺もちんちん、きもちいぞ…! 握って、ぐちゅぐちゅしてくれ、うっ」
「あんっあはぁ…、出ちゃ、いそうだよ、…ひなたクン…あっん、んぅうう…」
泣きながら俺の手にちんちん擦り付けてくるから、狛枝はエッチ過ぎて可愛いよな。白い液体は出る時と出ない時がある。でも出なくても体が変になったりするから良く分からない。

1回だけ寄り道で川まで遊びに行った時は、河原の橋の下でエッチした。上は電車が通るからガタガタうるさいけど、その代わりに声を出しても人には気付かれにくい。2人ともランドセルを背負ったままでやりにくかったけどな。壁に手を突いた狛枝からズボンとパンツを下ろして、あいつが持ってたハンドクリームで尻の穴を解すんだ。
「ひぅう…! あっ、ひぁたクンの指ぃ……入って、あぁ、あ、アッ」
「…もう大丈夫そうか? 狛枝、ちんちん入れてもいい?」
「んっ、いい、よぉ…。おちんちん、ちょうらい…はぁ、はぁあ…」
「行くぞ…。力抜いてろよ? っく、うぐぐ……!」
「うう…、あぅう…、あっあっ、みゃっ、あんっ、あぁああ〜…ん、ひっ」
後ろから突き上げる度に狛枝が生まれたての子猫みたいに鳴くんだ。可愛い声が聞けるし、あったかい狛枝の中にちんちん入れられるのはすごい気持ち良かった。だけどランドセルが邪魔だし狛枝の肌の温もりを感じたいから、俺は橋の下でするのがそこまで好きじゃない。狛枝は外で誰かに見つからないかドキドキしたから、またしたいって言ってたけど。

狛枝を家に泊めた時は触りっこよりももっとエッチなことをする。うちの家族は全員早寝だから、寝静まるまでは寝たフリをしてやり過ごす。寝たなって分かったら起きて、小さい灯りをつけて狛枝に声を掛けるんだ。狛枝のパジャマの裾から手を入れて体を触ると、向こうも同じように俺の体を触ってくる。うるさくすると見つかっちまうから音を立てないように静かに静かにな。
ちょっとずつ脱いでって、最後に裸になってからはぎゅって抱き合うんだぞ。何となく安心する。狛枝の胸とかちんちんとか尻とか触ってると、体が熱くなってくるんだ。布団の中だからかな。でも布団剥いでも熱いままなんだよな。不思議だ。
「あぅうう…おちんち、きもちいよぅ…、ひぁたクン、はっあんっあ、ああぁンッ」
「狛枝っ、こまえだ…。俺もきもちいぞっ。もっと、あぁ…もっと、」
「ひぃ、あっア…んぁあ〜…! あっ、らめ…あぁあ、出ちゃっ、あんっ…おちんちんから、っん」
「好きだぞ、こまえだ…っ。お前が、1番…好きだっ、あ、すきだっすき、だ…!」
「ひにゃたクン、しゅきぃ…ッ! ひな、あぁああッ、すきッ、も…あっあっああッ…!」
どっちかが眠くなるまでずっとエッチしてるんだ。大体狛枝の方が先に眠くなるんだけどな。自分で「ボクは夜型だもん!」って胸張ってたのに。でもふにゃふにゃの顔で眠ってる狛枝はとっても可愛いので文句は言わない。尻をティッシュで拭いてから、お休みのキスをして俺も寝るんだ。

俺と狛枝の秘密の関係は、小学校を卒業して中学に進んでも、別々の高校に入学しても続いた。


……
………

綺麗に晴れた空を見上げて、息を肺いっぱいに吸い込む。春の先駆け、3月の匂いだ。卒業式典が終わって、講堂から教室に戻る時に見えた空は雲1つない清々しい青色だった。自分の教室に入ろうとした所で、隣の教室から左右田が出てきた。
「よぉ、日向〜! 卒業おめでとさん!!」
「左右田か。そっちも卒業おめでとう」
「アターック!!」
「…うおっ!?」
左右田と話してる最中に、背中にドンと衝撃が走った。遠慮のないこの攻撃が地味に腰に来る…! こんなことをしてくるやつは1人しかいないよな。
「澪田ー!?」
「ああ〜、卒業式眠かったっすー!! お疲れちゃーん!」
「っていうかオメー寝てただろ。七海と2人ですげェ目立ってたぞ」
「まぁまぁ、大目に見てちょうだいな! そうそう、和一ちゃんも創ちゃんもヒマっすか? 保護者同伴でこれから食事会って話が出てるっす!」
テンションの高い澪田に誘われるけど、俺は首を振った。狛枝の学校も今日が卒業式って言ってたから、終わったら落ち合う約束をしてるんだ。俺の反応に左右田はピンと来たらしく、「狛枝かよ…」とうんざりとした顔をしていた。
「何で左右田が知ってるんだよ」
「っていうかあいつ正門の所にいたぞ。学校終わるの早過ぎじゃね?」
「!? 狛枝、来てたのか?」
左右田の言葉を聞いて、俺は慌てて教室に入る。正門を見渡せる教室の窓をガラリと開いて、首を伸ばすと正門に気だるげに背を預けている少年がいた。ふわふわの白い髪、恐ろしく等身が高くモデルのような体型のその人は狛枝 凪斗に間違いなかった。うちの学校の女子がきゃあきゃあと黄色い声をあげながら、遠巻きに彼を見ている。何か男も見てるのがいるぞ!? でも声を掛ける勇気のある奴はいないようだ。きっとあまりにも綺麗過ぎるから近付けないんだ。
「狛枝…」
ぽつりと呟くと何故か狛枝がふっと顔を上げた。もしかしてこんな距離で聞こえたのか? ビックリしたけどそうではないらしく、俺の方を見てにっこり笑い、ひらひらと手を振ってくれた。可愛くて、綺麗で、カッコいい…。本当はみんなに「こいつが俺の恋人なんだ!」って自慢したいけど、俺と狛枝は秘密の関係なのでそれはタブーだ。
「相変わらずの人気だなァ。あいつも黙ってりゃモテんのに、口を開けば残念だもんなー」
「そうか? 狛枝は口開いても要領良いからお前よりはモテると思うぞ」
「日向、オレをナチュラルに凹ませるのは止めろ」
女子にボタンを毟られたのか、狛枝はブレザーもYシャツもボタンが留まってなくて、セクシーな鎖骨と胸元が惜しげもなく見えている。卒業式にボタンをもらうなんて、時代遅れにも関わらずあれだけの人気ってことだよな。じっと狛枝を見つめてしまう俺。中学に入って、狛枝はぐんぐん背が伸びた。小学校の頃は俺の方がちょっと背が高かったんだけど、中学であっという間に抜かされたんだ。

『あーあ。追い越しちゃったね、キミの身長…』
『だったら何だよ。別に身長なんてどうだって良いだろ』
俺の言葉を聞いて、狛枝は俯せだった体をごろんと横向きにする。そして髪を掻き上げながら唇を歪ませた。腕を上げた箇所から体を隠していた布団が滑り落ちる。真っ白でしなやかで整った体。溜息を吐くほどに最高に厭らしくて美しい。
『ふふっ。そんなこと言って、本当は気にしてるクセに』
『………』
『んぅううう…。小学校の頃は日向クンにいっぱい可愛いって言われてたけど…、もう180cmだし、ボク可愛くもないんだよね』
『……可愛いぞ』
『えっ』
『狛枝は今でも可愛い! 誰が何と言おうと可愛いんだ!』
『ひ、日向クン…?』
『最近はその、…たくさんは言ってなかったけど。狛枝は可愛いし綺麗だしカッコいいから…!!』
自分でもすごい恥ずかしくて顔が熱くなってるのが分かる。目を丸くしていた狛枝だったけど、嬉しそうに目を細めてくれた。ドキドキが止まらないのに耐えられなくなって、俺はガバッと布団を被った。

確かに狛枝の方が背が高かった時もあった。ちょっと悔しかったけど、俺の気持ちは変わらなかった。俺はあいつが好きなんだ。狛枝は中学で色んな女の子に告白されてたけど、全員断ってたみたいだ。狛枝が告白された噂を聞く度に俺のことが好きなんだって胸に染みて、その晩は激しくあいつを抱いた。
狛枝は県内でもトップクラスの高校に進学したから離れちまったけど、それでも俺達はずっと付き合ってた。そして今日は高校の卒業式。俺も狛枝も都心の大学に通うことが決まっている。2人で上京して、一緒に住む約束もしてるんだ。あいつとずっと一緒にいられるのが嬉しくて、卒業式まで指折り数えて幾晩も過ごした。
「はい、席ついてくれー。みんないるかー?」
背後から担任の声が聞こえてきた。振り向くとみんな席に着き始めて、ガラガラと椅子を引く音が響く。左右田も澪田も自分の教室に帰ったらしくいない。結構な時間狛枝を見つめてたんだな。俺は正門前にいる麗人に軽く手を振ってから、俺も席に座った。


「日向クンの学校、終わるの遅いね。待ち草臥れちゃったよ」
「悪かったよ。校長とか偉い人が祝いの言葉を話すからな」
「そっか」
狛枝の胸元が開いているのは厭らし過ぎるので、俺が持ってる安全ピンで留めてやった。いつものように俺の家に向かう。親は働きに出ていて夜まで帰ってこない。狛枝もそれは知ってるので「お邪魔します」と小声で呟いてから勝手知ったる顔で洗面所で手を洗う。
「ねぇ、日向クン。今日は面白い物持って来たんだよ」
「何だよ、面白い物って…。まさか変な物買ってきたんじゃないだろうな!?」
「それは違うよ…。すごく懐かしいもの、かな?」
俺の後ろに続いて部屋に入ってきた狛枝は、いつも座るベッドじゃなく俺の机の方に歩いていった。パソコンに手を掛けるのを見て、俺は「あっ」と声をあげる。
「ちょっ、狛枝…!?」
「あれ? あれあれあれあれ? もしかして、女の人のエッチな画像とか集めちゃってる?」
「べ、別に…そういうんじゃ、」
「あはっ。日向クンは嘘吐くのが下手だね。大丈夫だよ、ボクそういうの気にしないから」
「……狛枝。何でパソコンなんて…」
「パソコン使わないと見れないんだよ。だからちょっと借りるね?」
狛枝は俺の目の前で何かを振ってみせた。小さくて四角くて青い何か。SDカード? 顔を傾けてスロットを見つけ出した狛枝はカードを差し込んだ。自動で現れたダイアログボックスにあるのはどうやら動画ファイルらしい。1と書かれたファイルをダブルクリックするとすぐに映像が流れ始めた。映っているのは…。
「何で、これ…」
「…うん、キミとボク、だね」
『な、何だよそれ!? 俺達を撮るつもりかよ!』
『そうだよ。ハジメくんとナギトくんの記念としてね』
画面越しにこっちを睨み付けてる小学生の俺。小さいけど確かに俺だ。この映像は…紛れもない、あの時の誘拐事件だった。子供の俺からカメラがゆっくりと動いて、ベッドで倒れている狛枝が映る。小さくて可愛くて女の子みたいだ。目にいっぱい涙を溜めて、『日向クン…』と力なく俺の名前を呼んでいた。それを見た瞬間、俺の股間はズグンと脈動した。
「昨日ね…、差出人不明でボク宛に届いたんだよ。SDカードと『卒業おめでとう』ってメモだけ」
「もしかして、あいつが送ってきたのか?」
「みたいだね…」
俺は画面から目を離せないまま、椅子に座った。狛枝は俺の後ろに立って、肩口から手を回して抱き着いてくる。流れる映像がおぼろげだった俺の記憶を辿っていく。男に指示されるまま、小学生の俺は狛枝にキスしてる。余裕がなくて混乱してたけど、これが俺のファーストキスだった。
「この時ね、怖くて怖くて仕方なかったけど…キミがいてくれて、良かった」
「狛枝…」
狛枝が後ろから囁いて、俺の耳たぶにちゅっとキスをする。ふわんと吐息が当たって、股間がさっきよりも膨らむ。気持ち良さに声をあげている、画面の中の俺と狛枝。子供なのに…、あんなに小さいのに…。何も分からないまま裸になって、エッチなことをしている。背徳感が体の奥底から湧いてきて、ゾクゾクしてきた。
「ボクね…初めてが、日向クンで良かったよ。小さいのにボクのこと、一生懸命守ってくれた…」
「そんな、俺は…」
「これまでも、これからも…ボクはキミのものだよ。日向クン…」
「…狛枝。俺も、お前のものだよ。ずっと、ずっと…」
抱き着かれていた腕を外し、狛枝と向かい合う。幼い頃と同じままのガラス玉のように綺麗な狛枝の瞳。頬を優しく撫でて、キスをする。そしてそのまま抱き締めた。
「んぅうう…、日向クン」
「好きだぞ、狛枝」
「うん。……ふふっ、ボクも大好き」
腰を抱いたまま狛枝をベッドに誘う。小学校、中学校、高校と、このベッドの上で何回も愛し合った。パソコンからは小さな狛枝の泣きじゃくりつつも感じてる声がひっきりなしに聞こえてる。その声を背後に俺は狛枝の制服の安全ピンを外して、細い首筋に唇を寄せた。
「あっ、ん…ひなたクン…あ、あぁ…、やぁ、んっんふぅ…」
「はぁはぁ…、狛枝…!」
ベッドにボスンと押し倒されて、狛枝は体を捩る。俺はすべすべとした白い肌を撫でて、キスの雨を降らせた。初めて会った時から狛枝が好き。これからもずっと一緒だ。感じる部分に触れると、狛枝は喉を仰け反らせてビクビクと震える。パソコンから聞こえる幼い狛枝のか細い悲鳴に、少し低めの掠れた喘ぎ声が交じり始めるのにそう時間は掛からなかった。

Back 〕  〔 Menu 〕