01. | |
ただでさえ冷え切って手がかじかむほどの寒さだというのに、上空からは凍てつく風がびゅうっと吹き付けてくる。ふと響く、コツンというブーツの小さな靴音。目の前で暖かそうなコートの裾が翻り、俺はハッとして顔を上げた。だがそのコートを着た女性の横顔を見て、再び地面に視線を落とす。…違う、俺の待ち人じゃない。 「はぁ…」 吐いた息は真っ白く、真冬の空気の冷たさをひしひしと主張してきた。隠し切れない遣る瀬無さに肩を落としながら、俺はぼんやりと考える。もう諦めて帰った方が良いんだろうか…。正直寒くて堪らないし、腹も減っていた。帰って風呂にでも入って、買い置きのインスタント食品でも良いから口に入れたい。でももう少しだけここで待っていたい気持ちもあった。体がマグネットにでもなったかのように、噴水縁から離れてくれない。 両手で包んだプレゼントの箱を僅かに擦る。手袋をしてこなかったから指先まで冷たくなっていたが、箱と接している掌だけは温かい。待ち合わせ時間からどれだけ経っているか知りたくなかったので、腕時計は見ていない。だけど体感的には結構な時間が経過しているのは分かっていた。 俺の傍で再びコツンと石畳を踏む音が聞こえたので顔を上げるが、またしても外れだったようだ。そこにいるのは寄り添う恋人同士や楽しそうに笑う家族連れ、きゃっきゃとじゃれ合う女子大生達ばかり。 「俺…振られたのか…」 口に出してから初めて心臓がツキンと痛み出した。認めたくなかったけど、現実はこうなのかもしれない。きっと夢を見過ぎたんだ。待ち人が『遅れてごめんなさい』とか『あなたに急いでプレゼント用意したのよ』とか言いながら、申し訳なさそうに小走りで駆け寄ってくるんじゃないかって。校舎も学部も違う、高嶺の花的存在の先輩。そんな彼女に無謀にも『一瞬で良いので会って下さい』って頭を下げた自分がバカだったんだ。 「何やってるんだろ、俺…」 自嘲気味な呟きは背後にある噴水の水音に掻き消された。これは賭けだからと自分で言い聞かせたクセに、いざ振られるとこんなに凹むなんて。一縷の望みを胸にSNSを確認する。でも俺が先輩に飛ばしたメッセージは未読のままだった。ああ、虚しいクリスマス・イブだ。帰りたい…。だけど後5分だけ。今帰ったら擦れ違いになってしまうかもしれない。そう自分に言い聞かせて、ケータイをコートのポケットに突っ込んだ所だった。 「ねぇ、キミ。相手が来なかったの?」 突然、斜め後ろから声が投げられた。慌てて振り向くと少し離れた噴水縁に俺と同世代くらいの男が座っている。一言で表すなら優男。クセ毛なのかふんわりとした白い髪がすごく目立っていた。俺と同じように待ちぼうけしているようで、手にはプレゼントらしき紙袋を下げている。 「あの…」 「ボクもね、ずっと待ってるけど来ないんだ」 「そう、なんですか。…待ってるって、どのくらい?」 「んー…。かれこれ4時間、かなぁ」 何でもないことのように彼は腕時計を見やって、そう言い放った。…4時間!? 「そんなに!? 風邪引くぞ!」 「分かってるんだけど…何だかさ、離れがたくて」 「う…、気持ちは分かるけど」 相手の掛けてくる声がフレンドリーだったからか、俺はついつい敬語にするのを止めてしまった。服装も大学生っぽいし、ものすごく年上ってことはないだろう。4時間も待ってるって…相当好きなんだな、相手のこと。これほどまでに一途に想っているのに報われないなんて可哀想だ。 彼はすっと立ち上がり、俺の傍まで歩いてきた。さっきまでは景色が薄暗くて顔が良く見えなかったけど、今は真横から噴水広場の街灯が照らしている。光の射したその面立ちはとても整っていた。緩やかに弧を描く眉、夜に煌めくキリリとした双眸、小さな作りの鼻と口。背も高く、脚も長い。男に対して美しいという形容詞は間違っている気もしたけど、そうとしか言いようがない。ここまで視線を吸い寄せる人間に会ったのは初めてだった。 「ボクもキミも…今日は諦めてさ、一緒に帰らない?」 へらりと表情を崩す彼に俺はドキッとして、すぐに言葉が返せない。な、何だ…今の。心臓が変な動きしたぞ。バカ…、落ち着け! 女を目の前にしてる訳でもあるまいし。 「でも…一緒に帰るって」 「これも何かの縁だよ。イブの夜に2人揃って振られちゃうなんてさ」 「…そう、かもな」 「2人でパーって盛り上がって、飲み明かそう? あ、ボクなんかが相手じゃ…嫌かな?」 両手を広げてオーバーアクション気味だった彼だが、俺の微妙な反応に申し訳なさそうに首を竦めた。「嫌っていうか…」と言葉を濁して、俺は黙り込んだ。男2人でイブを過ごすなんて不毛にも程がある。しかも相手は友達でも何でもない初対面の男だ。断ろう。そう思って、誘ってきた相手に顔を向ける。彼は穏やかに目を細めて、俺の返事を待っていた。 「………っ」 言おうと思ってた言葉を俺はゴクリと飲み込んだ。4時間も待ちぼうけを食らった男…。もし俺が断ったら、こいつは2人に拒絶されたってことになる。誰にも相手にされることなく1人でイブを過ごすんだ。同じ境遇で落ち込んでいる他人なんか放っておいても良いのに…。俺に声を掛けたのはきっと彼が優しいから。気に掛けてもらったのにそれをふいにするなんて、知らない人とはいえ失礼だよな? 「じゃあ、お言葉に甘えて…飲みに行くか!」 「っ!! …ありがとう、付き合ってくれて」 「いや、こちらこそ。1人でいるより誰かといる方が良い」 「あはっ、そう言ってもらえると嬉しいな。あ、自己紹介がまだだったね。ボクの名前は狛枝 凪斗だよ」 「こまえだ、か。俺は日向 創だ。よろしく」 「よろしくね」 にっこりと笑って、狛枝が右手を差し伸べてきた。握手…だよな? 丁寧なんだな。骨張った白い手をそっと握ると冷え切っていて、まるで氷のようだった。驚きのあまり、俺はパッと手を離してしまう。狛枝はそれに目を丸くしたが、気にしてないのか笑顔のままだ。 「日向クンっていうんだ。大学生だよね? もしかしてボクと同い年かな」 「狛枝、手…すごく冷たい。本当に風邪引いちまうぞ!? とりあえずどこか入ろう」 「あ、あのね…ボク家に食事の用意してたんだよ。ここから近いからそこで飲まない?」 これは予想外だった。俺はてっきりどこかの飲み屋かなんかを想像していたから。さっき会ったばかりの人間なのに信用出来るのか? …彼が優しいことには変わりないし、4時間待っていたのも手の冷たさで分かる。か弱い女って訳でもないし、不審者を警戒するなんてする必要はないだろう。俺は狛枝に「案内してくれないか?」と水を向けた。 狛枝は公園近くのアパートで1人暮らしをしているらしい。道中は狛枝が人懐っこく話し掛けてくれるので、初対面とは思えないほど話が弾んだ。食事用意してたってことは今日会う人のためだったんだよな? 男なのに料理するのか。尽くすタイプなのかな、こいつ。というかこんなイケメンが振られるんだから世の中不思議だ。 「着いたよ、日向クン。2階の右側がボクの部屋!」 白い息を空に散らしながら、狛枝が振り向いた。彼が指差したのはレモンイエローの小奇麗なアパートだった。3階建てで中央に螺旋階段があり、左右それぞれに部屋があるタイプの建物だ。カンカンと軽やかに階段を踏みながら、狛枝はチラチラと俺に視線を寄越す。すごく嬉しそうだった。 そうだよな、俺も嬉しい。先輩に振られて1人で過ごすつもりだったクリスマスイブなのに、ひょんな出会いから誰かと一緒に酒を飲むことになるなんて驚きだ。一期一会という言葉もあるし、出会いは大事にしたい。邂逅は時と場所を選ばないものだしな。狛枝は話題が豊富で、話のテンポもとても心地好い。そして何より俺を気遣ってくれる。失恋した心にはそれがすごく染みるんだ。友達…になれたら、楽しいだろうな。 ガチャンと鍵を開けて、狛枝は扉を大きく開けた。急いで電気を点けて、「どうぞ」と俺を中へと促す。流石にまだ暖房が入っていないので室内は冷えていたが、外よりは全然マシだ。「お邪魔します」と軽く頭を下げて、俺は玄関で靴を脱いだ。男の1人暮らしにしては清潔感がある部屋だ。白を基調に纏まっていて、玄関にはミント系の芳香剤の香りが漂っている。俺のアパートとは大違いだ。 「ごめん、すぐにエアコンつけるから。コート貸してもらえる? ハンガーに掛けるよ」 「すまない。ありがとな」 狛枝はテキパキと俺からコートを受け取り、フックに掛けた。何というか立ち居振る舞いがすごくスマートだ。こいつ絶対女にモテるぞ…。 「ほとんど作り置きかデパ地下で買ってきた物だから、口に合わないかもしれないけど…」 「食べれるなら何だって良いよ」 「ちょっと冷えてるね。レンジで温めてくるよ。…んぅう、サラダならすぐに食べられるかな?」 「先になんて食べる訳ないだろ? 待ってる」 「う、うん…」 俺がニッと笑うと狛枝が照れたのか少し頬を赤らめた。そそくさとチキンの乗った皿を持っていってしまう。…あれ、また心臓が変だ。おかしいぞ、俺。どうした、俺。初対面で、男の狛枝を…可愛いと思ってしまうなんて。本当にどうかしている。温めた皿を持って戻ってきた狛枝を真っ直ぐ見つめることが出来ず、俺は必死に騒ぎ立てる心臓を鎮めようと密やかに深呼吸を繰り返した。 … …… ……… 用意していたクリスマス用の料理は結構美味しかった。コンビニとかレトルトで済ませる日も多いから余計にそう思う。脂の乗った骨付きチキン、ミートソーススパゲッティ、ジェノベーゼピザ…魚介がたっぷりのサラダに温かいコーンポタージュ。どれも大量に用意してあったのに狛枝は食が細いのか全然食べない。「食べないのか?」と声を掛けても、「ボクはお腹いっぱいだから」と皿を俺の方へと寄せてくる。なのでどんどん平らげてしまった。…ちょっと遠慮しておけば良かったと後悔してる。 「日向クン、良く食べるね!」 「狛枝は逆に食わな過ぎじゃないのか? 体も細いし」 「いつもこんな感じだよ。本当にお腹いっぱいなんだ…」 グラスに注がれたシャンパンを少し煽って、狛枝はへにゃりと頬を緩める。色白の頬がほんのりピンク色に染まっていて、何だか幼い印象を受けた。摘まみにと出されたクラッカーやチーズを口に運びながら、俺もシャンパンを飲む。普段はビールだからシャンパンなんて飲まないけど、飲み慣れてない俺でもこれがかなり良い酒なのは分かる。やや甘めだけど味に深みがある。舌を滑るとピリピリと良い感じに痺れて、それがクセになりそうだ。 シャンパングラスなんてないから普通のグラスだ。別に飲めれば何だって良い。豪快に飲みたかったが、根っからの貧乏性が仇となってチビチビとしか飲めてない。それにしても良い酒は飲みやすい反面、酔いが回るのが速い。特別酒に強いとまではいかないが、3、4杯飲んだだけでクラクラすることなんて初めてだ。狛枝がグラスを傾けながら、テーブルに頬杖を突いている。底から浮かんでくる気泡を目で追いながらポツリと呟いた。 「あーあ、あの人…今頃何してるんだろうな」 「…4時間待ってるって言ってたけど、それって5時くらいから待ってたのか?」 「そうだよ。仕事の合間に抜けられそうだからって言われたんだ」 相手は仕事をしてる人なのか。社会人? それともバイトか? 「……やっぱり、ボクみたいな大学生は…あの人にとっては、コドモ、なんだろうね」 「………」 自嘲気味に笑ってシャンパンボトルに手を伸ばそうとしたから、それより先に俺はボトルを手に取り、狛枝のグラスにトクトクとシャンパンを注いでやった。「ありがと…」って舌っ足らずに礼を言われたけど、これ大分酔ってるんじゃないのか? 目線が定まらないまま狛枝は言葉を紡ぎ出す。 「初めて、尊敬出来る人だったんだ…。家柄も学歴も完璧で、何より本人が素敵だった」 「そう…か」 「高校の時に告白したけど、自分は教師し、ボクは未成年だから駄目だって言われて…。だから成人してから想いを伝えたんだ」 「…高校の……って、ええ!? 相手って…が、学校の先生…なのか?」 「うん…。年は倍以上も離れてたかな。ボクなんかじゃ釣り合いもしない…大人の人だよ」 な、何かとんでもないこと聞いてしまったかもしれない。多分全部俺に吐き出してスッキリしたいんだろうけど、話についていけなくて俺はマトモな相槌すら打てなかった。狛枝がうんと年上の女性と付き合ってるなんて俄かに信じがたい。 「成人したらボクとのこと考えても良いって言ってくれてたからずっと待ってたんだ。先生の恋人になれた時は嬉しかったなぁ」 「よ、良かったな…」 何とか合いの手を入れるものの、思考回路が狛枝の話についていけなくて焼き切れそうになっている。そんなことは露知らず狛枝は話を続けた。 「ん…。でも先生はすごく忙しいから、あんまり会ってくれなかった。仕事ももちろんだけど、家庭のこともあったみたいで…」 「ぶっ!?」 俺は思わず飲んでいたシャンパンを吹き出してしまった。な、ななな…? い、今…何て言った!? 「…か、家庭って、ど、どういうことだ…?」 「先生は…結婚してるんだ。そんなのは高校の時から知ってたから全然問題なかったけど」 「は…?」 いやいやいやいや、問題ありありだろ!? どう考えたって不倫じゃないか! この話、俺が聞いても良いんだよな? 冗談だろ…、こんなに狛枝がアグレッシブだったなんて…。教師と生徒という禁断の間柄をクリアしたかと思ったら、不倫…。 「…日向クンって、不倫とか許せない人かい? だったらもう…この話は止めるよ」 「許せないっていうか…俺自身は、そういうの絶対しない…けど。狛枝は不倫がしたかった訳じゃなくて、その人が好き…だったんだろ? それなら良いと…、あ、いや…別に不倫を正当化したりしないぞ! 悪いことだと思う。でも…死ぬほど好きでどうしようもない!って気持ちくらい、俺なら汲んでやりたい」 自分でも訳の分からないことを言っている自覚はある。何ていうか、支離滅裂だ。不倫なんて絶対にするべきじゃないし、周りに迷惑を掛けるだけの独りよがりな行為。でも狛枝が話す時の切なそうな顔を見ると、あからさまに否定も出来ない。傷付いてほしくないから。要するに俺はただの偽善者で、俺の言ったことは綺麗事なんだ。狛枝はシャンパンを一口飲んで、呆れたように俺を見つめる。 「……あはっ、日向クンの言うことはどっちつかずで曖昧だな」 「っ!」 「でもキミの言いたいことは伝わった。正直に言ってくれて嬉しいよ」 「悪い…。気の利いたこと言えなくて」 「ううん。…ボクのこと気遣ってくれてるんだろ? ……ありがとう」 微笑む狛枝に俺は頭を振った。彼に比べたら俺の悩みなんてどうってことないように思える。片想いの先輩に一方的に迫った挙句、デートをすっぽかされたなんて狛枝に話したら絶対に笑われるな。 「その…相手の人とは、付き合ってどれくらいだったんだ?」 「ええっと、ボクが成人してからだから…1年半くらいかな? ああでも、これは付き合ってるって言えるのかな。その間、何もなかったんだよね…」 「? 何もって? ああ、キスもなかったのか」 「日向クゥン、それは違うよ…」 吐息交じりに否定して、狛枝は俺を軽く睨んできた。酔っているのか目がとろんと蕩けていて、睨みに力がない。俺が首を傾げていると、狛枝はグラスをコトンとテーブルの上に置いた。 「はぁ…、鈍いなぁ。セックスだよ、セックスぅ…」 「セッ……!? !?!?!」 「何でそんなに驚いてるの? 付き合ってるんならそれくらい当たり前じゃないか」 「え、あ…っ、そ、そうだな」 確かに狛枝の言うことには一理あるけど、初対面の俺にそんなハードな話を振ってくるなんて思いもしなかったんだ。ただただ衝撃だった。狛枝は色も白くて顔立ちも中性的な、所謂美青年だ。その彼が欲望を満たそうと、女相手にガンガン腰を打ち付けている姿なんて欠片も想像出来ない。相手とは肉体関係がなかったと言うのだから今日までプラトニックな関係だったのだろう。いや、そもそも狛枝がそういう欲求を抱えてるってことが、信じられなかった。でも童貞だったらこんなこと話せないよな? その…何というか、……ああ、どう言ったら良いか分からない! くそっ、……頭がぐるぐるするぞ。 「日向クンにはなかったの…? 恋人とセックスしたい…とかさ」 「俺の場合は、片想いだったし…。まだそこに至るまで気持ちが辿り着いてないっていうか。…キスは、まぁ…したかったけど」 「へぇ…、キミって純情なんだね。男前だからもっと女慣れしてると思った」 クスリと口角を上げる狛枝が俺よりずっと年上に見えた。俺の知らないことをたくさん経験している。彼の経験談もそうだけど、1つ1つの些細な仕草や大人っぽい雰囲気、身に纏う色気からそう感じた。 「何だかボクばっかり話してるよね。キミのことも聞かせてよ。愚痴でも何でも」 「狛枝の大変さに比べたら全然…。足元にも及ばないつまらない話だ。憧れの先輩にプレゼント渡したくて待ってただけ」 「そうなんだ。キミ噴水広場で人が通る度にガッカリした顔してたから、ああ…相手の人に恋焦がれてるんだろうなって待ってる間考えてたよ」 「いっ!? …み、見てたのか、俺のこと」 「ごめん、覗き見なんて悪趣味だよね。実は声を掛けるより前から、日向クンのこと見てたんだ。あの人ずっと待ってるな、ボクと同じだなって…」 見られていたとは恥ずかしい。俺、変なことしてなかったかな。先輩のことだけ考えて今か今かと待っていたから、周りなんて全然見えてなかったし、もちろん近くに狛枝がいたことにも気付いてなかった。ケータイを何回も見たり、落ち着かずに10秒置きに脚を組み替えてたのも見られてるかもしれないな。 「勝手にね、あの人が諦めたらボクも帰ろうって思ってたんだ。でもキミ、中々帰らなかったでしょ? 気になってさ、結局声掛けちゃった…」 「…俺、全然気付かなかった」 「気にしないで。ボクは日向クンから死角に入ってたし。…ねぇ、それって先輩へのプレゼント?」 狛枝はちょっと体を乗り出して、俺の傍らに置かれた小箱を指し示した。俺はそれに黙って頷く。前日に先輩に似合うかなって、アクセサリーショップで選んできたネックレスだ。女の子がどういうデザインが好きか分からなかったけど、今は冬だし雪の結晶を象ったものなら外れないだろうと直感でチョイスした。プレゼント選んでる時はあんなに楽しかったのにな…。箱を見てるだけで目の奥がツンとしてきたので、俺はつい勢いで狛枝に小箱を差し出した。 「あのさ…これ、貰ってくれるか? 女物で悪いけど、渡す人いないし」 「え! だけど…キミが想い人のために選んだんでしょ? そんな心の籠った品をボクが受け取る訳には、」 「いや、良いんだ。もう…忘れたいんだ。彼女は、俺のことなんて見てないし。いつまでも未練たらしく持ってるのもバカバカしいだろ? 使い道がなかったら、捨ててくれても構わない」 困惑顔の狛枝だったが、俺の言葉を聞いて「分かったよ」と返事してくれた。俺の掌にある小箱を優しい手付きで受け取ってくれる。これで、良いんだ。忘れよう、なかったことにしよう。前だけ見て、進んでいくんだ。いつもは失恋したら引き摺るタイプだけど、今回は何だか妙に気分がスッキリしている。小箱を受け取った狛枝はしばらく思案しているようだったが、決心がついたのか後ろにある紙袋を引き寄せた。 「日向クンがそうするなら、ボクも…。これ、キミにあげるよ」 「!? あ、ありがとう…」 「実用的な物じゃないけど、もし機会があるなら誰かに使ってあげて?」 「…うん、大事にする」 「これでボクも…あの人のこと、忘れられると良いな」 狛枝から受け取ったのはA4サイズくらいの箱が入った手提げ袋だった。大きさの割には軽い。振ると中からはコトコトと音がする。実用的な物じゃないってことはきっとこれも女性用なのだろう。俺達はプレゼント交換を済ませて、また酒を飲むことにした。 … …… ……… テレビのクリスマス特集を見ながら、2人で取り留めのない話をしていた。あっという間にシャンパンを全部空けてしまったが、まだカクテルチューハイとビールが残っているらしく狛枝はいそいそと缶のプルトップを引いている。大分酔いが回っているらしい。狛枝の目は座っており、壁にずるずると寄り掛かりながらグラスの酒を舐めるように飲んでいた。 「んっ…、んぅうう…。あれ? もうおさけが…」 「飲み過ぎなんじゃないのか? 水は、」 「ふぅ…みず、は、れいぞうこ、に…はいってるよぉ」 「本当に大丈夫か?」 「…ふぁ、らいじょぶぅ…」 呂律が回ってないぞ。もっと早く水を飲ませてやれば良かったのかもな。キッチンの冷蔵庫を開くとミネラルウォーターのボトルが立て掛けてあったので、新しいグラスと一緒に持ってリビングへと戻る。狛枝はぐったりとカーペットの上に寝転がっていた。半分目を閉じ掛けているけど、このまま寝かせたら不味い。きっと明日には地獄のような二日酔いが待っているから。 「おい、狛枝。悪いけど起きてくれ」 「んふぅ…。ひ、なた…クン?」 ミネラルウォーターをグラスに注いで一先ずテーブルに置いた。 「とりあえず水だけは飲んどけよ」 俺が声を掛けると狛枝が体を起こそうとするが、すぐにくんにゃりと力が抜けてしまう。慌てて体を右手で支えて、左手で水の入ったグラスを取り、狛枝の口へと運ぶ。半開きの薄い唇にグラスの縁を着けて、ゆっくりと傾けると狛枝はこくりこくりと喉を鳴らしながら水を飲んだ。俺の胸に抱き込むような形になってしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 それにしても本当に綺麗な男だ。至近距離で顔を見ていると尚更そう感じる。薔薇色に染まった頬は艶々しているし、肌自体も滑らかでキメ細かいのが良く分かった。長い睫毛の下にはうるうると濡れた瞳。息継ぎのためにグラスを離した時の小さな喘ぎに、一瞬手元が狂いかけた。平常心、平常心…。相手は男だ。悟られないように深呼吸をしてから、もう1度グラスを傾ける。彼はちゅうちゅうと赤ん坊のように薄ピンクの唇をグラスに吸い付かせて水を飲んだ。 「はぁ…」 「もっと飲めるか?」 「…うん」 グラスが空になったのでミネラルウォーターを注ぎ直す。狛枝は安心しきってるのか俺の胸板にぎゅっとしがみ付いて、すりすりと頬擦りしている。可愛いな…。待て待て待て、日向 創。こいつが高校教師と不倫して、セックスしたいと俺に嘆くほどに高レベルなヤリチンということは忘れてはいけない。人は見かけによらないもんだ。 2杯目を無事に飲み干して、狛枝は俺の腕に抱かれながらうつらうつらしていた。眠いんだろう。でもリビングに寝かせたままじゃ風邪引くし…。せめて寝室に運んで、ベッドで寝かせるべきだ。狛枝って結構身長あるよな。俺でも持ち上げられるか? 狛枝の腕を首に回してみるが、立とうとするとよろけてしまう。せめて自分で歩いてくれれば…。 「っ…狛枝、立てるか? 寝室どっちだ? ベッドまで肩貸してやるから」 「んっううう〜…。……ベッド?」 「そうだ。今日はもうお開き。楽しかったよ、狛枝。ありがとな」 「ぁ…うぁ、ベッド、で……だいぇ、くれるぉ?」 「ん? 何言ってるんだ? ほら、頑張れ」 「あぅ〜……」 足元の覚束ない狛枝を支えて、寝室まで運ぶ。どうやら廊下の右手側がそうらしい。寝室らしき部屋のドアノブを回し、電気を点ける。室内は物があまりなく、綺麗にしつらえたベッドとパソコンデスクとタンスがあるだけだった。ベッドに肩を組んだままの狛枝を座らせて、体を横たわらせてやる。ベッドの沈む感触に意識を取り戻した狛枝が薄らと目を開けた。 「狛枝、気分悪くないか? もっと水飲むよな?」 「う、ぁ…? や、やだ…! い、かない、で…」 「? どうしたんだよ」 「っう……、すんっ、ふ、……んくっ」 「っ!? おい、狛枝…!」 狛枝は俺を見るなりぽろぽろと涙を零し始めた。な、何だ…? 振られたから人恋しくなったんだろうか。えぐえぐと泣きじゃくる狛枝の頭を撫でていると、彼は俺の首に腕を回してぎゅっと抱き着いてくる。 「っ、こま…!」 「う、うぅぅ〜…」 いきなりのことでビックリしたけど、振り払う訳にもいかずそのままにした。ずっと辛い思いをしてきたんだろうな。気軽に会えなくて色々我慢してたストレスが、今になって噴き出したのかもしれない。しばらく考えて、俺はそっと狛枝の腰に腕を回した。すると彼はより一層強く俺をしがみ付いてくる。細い…。折れそうなくらい細い身体だ。それに酒臭い。男だから当たり前だけど、筋張ってて硬い。でもすごく温かくて…。俺は腕を解くのも忘れて、少しの間狛枝を抱き締めていた。 | |
02. | |
大きく鼻を啜る音にハッとして、俺は抱き締めていた腕を緩めた。それに気が付いたのか狛枝も俺の首から腕を外す。俺の顔を窺うように見つめてから、バツが悪そうに俯いた。僅かに肩を揺らしてしゃくり上げていたものの、大分落ち着いているようで涙は流していない。きっと酒の影響もあるんだろう。 「もう、大丈夫…か?」 「……う、ん。…ごめんね。変な所見せちゃって…。ボクみたいな男に抱き着かれて、気持ち悪かったでしょ?」 「いや、そこまで意識してなかった。驚いたけどな」 「……ボク、あの人のこと…ちゃんと忘れられるのかなぁ」 狛枝は虚ろげな瞳で真っ直ぐ前を見ている。彼の気持ちが痛いほど分かった。真剣に好きなんだって。でもそれと同時に俺の腹の底からは、言いようのないイライラ感が込み上げて来ていた。俺が先輩に振られるのは別に良い。最初から望みは薄かったし、相手にも『来れそうなら行くけど、期待しないで』と言われてたから。だけど狛枝は1年半も付き合ってた恋人にすっぽかされたのだ。指定された時間と場所でその人を4時間も待ち侘びていたのに。よりによってイブの夜に残酷な結果を突き付けるなんてあんまりだ。 俺だったら…。もし俺が、狛枝の待ち人だったら…長い時間待たせずにすぐに迎えに行ってやるのに。……いや、これは俺が女だったらって仮定の話だ。そう、仮定。飽くまで、仮定だ。人として常識だろ? 待ち合わせの相手を待たせちゃダメだってことは。別に狛枝に気があるとか、そういうのは一切ない。本当だ。確かに狛枝は男だと分かっていても、変な気を起こしてしまいそうなくらい綺麗な顔をしてるけど。 「思えば、あの人の前では…常に背伸びしてたよ」 「えっ」 「図書館で無理矢理詰め込んだ知識を一生懸命頭から引っ張り出してさ…。会話についてくのがやっとだったけど、ボクの話を聞いて自分の考えを楽しそうに話してくれるのを見てるだけで嬉しかった」 「狛枝…」 何でこんなにイライラするんだろう。今日は俺と一緒にいたじゃないか。なのにどうして約束を破った恋人のことばかり話すんだ。そんな薄情な女のことなんて忘れちまえ!って言いたい。…何だよ、俺。嫉妬してるのか? 「どうしたら、忘れられるのかな? 彼より好きな人が現れる…?」 「ま、まぁ…失恋には新しい恋って良く聞くけどな。そんなに焦らなくても良いんじゃないか? 今日はもう寝ちまえよ」 「………。…うん、でもシャワー浴びたい、かな…」 顔色もさっきよりもマシになってるし、俺がいなくても大丈夫だろう。腕時計の時間を確認すると0時前だった。ギリギリ終電に間に合うかもしれない。最悪終電を逃してもタクシーで帰れる距離だ。 「狛枝、俺もう帰るな。今日は本当に楽しかった」 「っ日向クン、帰っちゃうの…?」 「1人で大丈夫だろ? リビングは適当に片付けておくから」 「……ねぇ、今日泊まってかない? 外寒いし、…あっ、それに疲れてるでしょ?」 「でも、これ以上長居するのも悪いし…」 「んぅううう…。お願いだよ、まだ帰らないで…」 灰色の瞳に上目遣いで懇願されて、心がぐらぐら揺らぐ。狛枝は会って数時間しか経ってないし性格も少し変わってるけど、話が合うしすごく仲良くなれそうな気がする。どうしよう…。帰らないといけないってことはないんだよな。狛枝は急かすことなくしおらしく俺の返事を待っている。くそっ、俺ってこの顔に弱いのか? そうでなかったらこの気持ちは一体何だ!? 1人にしておけないなんて、成人してる男相手に思うことじゃないのに…。嫌とは言えない。言いたくない。 「わ、かった…。迷惑掛けてすまないけど…今日は狛枝の所に、泊まらせてもらう」 「迷惑だなんてそんなことないさ! そうだ、シャワー先に浴びてきなよ」 「えっ、いやいや…シャワーなんて家主が先だろ」 「うーん、ボクもう少し酔いを醒ましてから入りたいんだよね」 「………」 狛枝の押しの強さに負けて、俺はシャワーを借りることにした。バスタオルや寝間着は用意してくれるとのことで、俺は渋々風呂場に行く。シャンプーとかボディーソープとか勝手に使って良いんだよな? 海外製の高級品らしいラベルの貼ってあるシャンプーに、俺は「うーん…」と思わず唸った。すごく、使うのに勇気がいるぞ。石鹸はどこかにないものか…。洗顔料やバスグッズが並べられている簡易棚があったので何となく覗いてみる。 「この辺に置いてあったり、……ん? っ!!? こ、これ…」 ぽとりと棚からオレンジ色のスポンジが落ちた。だけどそんな物なんか目に入らないくらい、俺は"それ"に釘付けだった。何でここにあるんだ? どうして狛枝が持ってるんだ? 答えが出るはずもない疑問が頭の中を侵食していく。俺の注目を攫った"それ"は入浴剤で誤魔化すように隠してあった。 「も、もしかして……、バイブ、って…やつか?」 バイブなんて、初めて見た。わなわなと震える手で俺はそれを手に取る。どこからどう見てもバイブだ。卵型とか真っ直ぐな棒とかだったら見過ごしてたかもしれない。だけど俺の手の中にあるバイブはそれはそれは立派な男根を象った代物だった。色は青味がかった透明で、毒々しさは然程ない。だけど良く見ると、大きく張り出したカリとか芯にあるイボイボとかがリアルでかなりエグい。 「……狛枝の、だよな?」 狛枝の家の風呂場にあるのだから、当然彼の物だろう。これを相手の女に使うつもりだったとか? まさか…そんな…。あんなに優しい狛枝が…大人のオモチャを使うスーパーヤリチンだなんて…。違う、違う違う違う…! きっとこれは風呂場のオブジェなんだ! どこかにスイッチがあって、こう…ぽわっとロマンチックに光るやつ! そうじゃなかったらこれはクリスタルであいつは選ばれし光の戦士!! ってそんな訳あるか!!!! 「はぁっ、はぁッ…!」 心の中で思いっきりツッコミを入れて、息切れしてしまった。落ち着け、冷静になるんだ…日向 創。狛枝がヤリチンだからって、俺がショック受けてどうする。俺は…、俺が見た狛枝を信じれば良いんだ。振られた俺を気に掛けて、誘ってくれたのは他でもない狛枝だろ? 例えあいつがヤリチンでもそれは変わらない。俺は大きく息を吐き出してから、バイブを元通りに隠した。 「………」 石鹸は諦めて、高級感漂うシャンプーを使ってみる。ポンプを押して出て来るとろりとした液体を頭につけて、ワシャワシャと泡立たせた。…良い匂いだな。爽やかでしつこ過ぎなくて、品のある香りだ。狛枝ってこんなの使ってるのか。流石女にモテモテでヤリチンだけある。……ん? 「さっきのバイブ、誰に使ったんだ…?」 ふとした疑問が口を衝いて出た。風呂場にバイブがあるのなら…ここで使ったか、どこか別の場所で使ってここで洗ったんだろう。新品のバイブを風呂場になんて置いておかない。1つの疑念が心に生まれ、俺は頭を洗う動きを止めた。相手の女教師とは1年半以上プラトニックだと言っていた。それより前に買ってた物か? …あれ、そもそもおかしいぞ。男ならバイブじゃなくて、オナホ買うんじゃないのか? 「??」 色々と辻褄が合わないが、明確な答えを得られず俺はシャワーで泡を流した。スポンジがないので体はサッと手で洗う。ボディーソープを体に塗りたくって、狛枝が言っていたことを思い出してみた。セックスしたいと嘆いていたのが印象に残ってるな。後は何て言ってたっけ…。 『どうしたら、忘れられるのかな? 彼より好きな人が現れる…?』 彼…。……彼? あの時はスルーしたけど、狛枝は彼って言ってたのか? 話の最中、あいつは恋人を『あの人』と呼んでいたし、女とは限定していなかった。狛枝の相手は男、なのか? …それだったらここにバイブがあるのも説明がつく。あいつは恋人に構ってもらえず抱え込んだ情欲を1人で発散させようと、バイブを使って慰めていたんだ。……待て、…多分早とちりだ。俺の聞き間違いか、狛枝の滑舌が悪かっただけ。男の狛枝が、男とセックスしてる…なんてありえない。あいつが…狛枝が…! 「…ぅ、……はぁ、勃って、る…!」 酒に酔った狛枝の赤い顔を頭に浮かべた途端、俺の股間がピクリと反応した。ビクッビクッと痙攣しながらムクムクと膨らんでいく分身に、俺は目を閉じて念じ始める。くそっ、元に戻れ…! 俺は女が好きだし、そっちの趣味は一切ない。そうだぞ、息子よ…。狛枝は男。しばらくして股間に集まっていた熱が徐々に引いていくのが分かった。……うん、治まってきた。どうやら正気を取り戻してくれたようだ。 「……もう、出よう…」 こんなに疲れる湯浴みは初めてだ。湯船に浸かってないのに逆上せそうなくらい頭も体も熱い。深く考えたら負けだ。狛枝と顔を合わせても平静を保つんだ。もう後は寝るだけしかないんだし、狛枝を問い質すつもりもない。平和に終われる。風呂場から脱衣所に移動して、用意してくれたタオルで体を拭く。寝間着はTシャツとスエットだ。狛枝とは身長も近いし、丈もピッタリだった。 「上がったぞ、狛枝。…狛枝?」 寝室を覗くと、狛枝がベッドですやすやと寝息を立てていた。声を掛けてから寝かせておけば良かったとも思ったが、彼は眠りが浅かったのかすぐに目を覚ました。 「んっ、んぅう…? ひなたクン…。あはっ、寝ちゃってたよ」 「起こして悪い。水飲んだか?」 「後で飲むよ。シャワー行ってくるね。…あ、キミ用の布団敷くの忘れてた」 「気にしないでくれ。今すぐじゃなくても良いから」 狛枝は「そう?」と小首を傾げる。…いちいち仕草が可愛いのは、狙ってやっているのだろうか。考えないようにしてたのについ頭に浮かんでしまう。モヤモヤする。あのバイブは誰に使ったんだ? 直接狛枝の口から解を得ることなく確かめる術はないものか…。 「日向クン、どうしたの…?」 「な、何でもない」 じっと勘繰るような狛枝の視線に根負けして、俺は寝室から慌てて出た。リビングに行くと、テーブルは料理を平らげた後の皿が所狭しと並び、床にはカクテルチューハイやビールの缶が何本も転がっている。お菓子の袋も散乱していて、目も当てられない状態になっていた。掃除した方が良いよな。空き缶を集めて潰し、適当なビニール袋に突っ込んだ。皿はシンクへと運び、水を掛ける。 「後は…」 一通り片付けて他にゴミになるような物がないか、キョロキョロと辺りを見回す。何気なく視界に入ったのは狛枝から受け取ったプレゼントだ。そういえばこれ、開けてなかったな。狛枝は相手に何を贈ろうとしたんだろう。俺は紙袋から箱を取り出した。クリスマスらしい赤い包み紙で、緑色のリボンが掛かっている。包み紙にはサンタやトナカイやクリスマスツリーが散りばめられて、何とも可愛らしい。リボンをシュッと解いて、ペリペリと裏のテープを丁寧に剥がす。 「ん? …何だ、これ」 透明なケースにふわふわの真っ白い何かが入っていた。ファーってやつか? 首を捻りながらファーを摘み上げると、赤い布地と紐がくっついてきた。服? …というより、下着か!? そうか、分かったぞ…! これはランジェリーだ! 透け透けのそれを箱から出して広げてみた。まごうことなくランジェリーだった。胸元はふわふわの白いファーであしらわれていて、中央のリボンにも同じく白いポンポンが付いている。裾も全てファーで縁取られていて可愛らしい。しかしセットになっているであろうパンティは最早赤い紐同然で、穿いたら尻が丸見えになること請け合いだ。 「っ…は、うぅ……!」 興奮する。熱い血がドクドクと下半身に集まっていく。俺は唇を噛み締めて、波を必死に乗り越えた。認めたくない…。これを着た狛枝で勃起した、なんて。 箱にはまだ何か入っているようだ。面倒になってひっくり返すとポロポロと中の物が落ちてくる。入ってたのはサンタ帽ともふもふとしたしっぽだった。サンタ帽のもこもこした白い縁取りに"Merry*Christmas"と赤い刺繍がしてあり、更には犬耳までついている。そしてしっぽは…根元にさっきほどじゃないけど小型のバイブが取り付けられた、大人のオモチャだった。 「………」 俺は言葉を失う。…何も見なかったことにしよう。それが良い、そうしよう。俺はランジェリーをくしゃくしゃに丸めて箱に突っ込んだ。犬耳付きサンタ帽もしっぽもまとめてその上に乗せて、蓋を閉める。そして一呼吸。狛枝はスーパーヤリチンで、相手の女教師にこれを着せようとしてた…。そうに違いない。だから、早く…! ランジェリーを着た狛枝が男に跨って厭らしく腰振ってる妄想は捨てるんだ!! 無心でラッピングを元に戻してリボンを適当に巻きつけ、紙袋に仕舞う。そろそろと下を見ると、案の定息子がビクビクとスエットの中で震えていた。うう…、何てことだ。せめて狛枝がシャワーから上がる前までに治まりますように。元気な息子をよしよしと撫でて、俺はリビングにそのまま転がった。 … …… ……… 「――クン、日向クン! 風邪引いちゃうよ?」 「…あ?」 体を揺さぶられてハッと目を覚ますと、眉を下げた狛枝が俺を覗き込んでいた。 「お布団敷いたからそこで寝てね。ここじゃ背中痛いでしょ?」 「……ああ、サンキュー」 頭をボリボリと掻いて、俺はゆらりと起き上がった。体感的には結構寝たなって気はしたけど、時計の針は10分かそこらしか進んでない。狛枝はさっきまで着てた服ではなく、フリース地のルームウェアを着ていた。ぼんやりする俺にクスクスと笑みを零している。 「ふふっ、寝惚けてるの? ボクが寝室まで連れてってあげようか?」 「こら、バカにするなよ! 平気だ」 悪戯っぽく歯を見せる狛枝に凄んでみせるけど、彼は笑顔のままさらりと俺の文句を躱す。そして俺の傍に黙ったまましゃがみ込んだ。 「? …何だ?」 「日向クン…、プレゼント開けたんだ」 「っ…あ、ああ。気になったからな」 「どう思った?」 「えっと、その…どうって言われても、大胆だな…としか」 「……ボクのこと、気持ち悪い?」 その一言にひゅっと息を飲む。狛枝の瞳は真っ直ぐに俺を捉えていた。何て答えたら良いんだよ。目が泳ぐ。狼狽して口を噤んだままの俺に狛枝はフッと笑った。そして髪の毛を掻き上げる。 「日向クンって嘘が吐けない人なんだね」 「ど、どういう意味だよ」 「その反応…。やっぱりお風呂場でアレを見たんだね」 「アレって……。っ!? 別に見ようと思って…、見た訳じゃ…」 「あは…、簡単な鎌掛けに引っ掛かっちゃうんだ」 「はっ、…はぁ?」 俺、鎌掛けられたのか? 茫然とする俺に狛枝は悲しそうに微笑んでみせた。表情が暗い。今にも崩れ落ちてしまいそうなくらい絶望的な顔をしている。 「やっぱり気持ち悪い、よね。男が男に…なんてさ。どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。そしたらあの人にも迷惑掛けることもなかったのに…」 「狛枝」 「珍しく向こうから会えるって言われたから、賭けをしようと思ったんだ。エッチな衣装を着て、誘ってみるって。抱いてもらえれば今まで囁かれた愛の言葉は嘘じゃなかったことになるし、誤魔化されたり引かれて逃げられたらそれっきり終わり…。でも、あの人はその賭けすらさせてくれなかった」 「………」 「あはは、バカみたいだ。ねぇ、日向クンも思うでしょ? ボクのこと、気持ち悪いって…」 「狛枝…」 狛枝はボロボロ泣き始めた。涙の粒がポトポトとカーペットに落ちる。思わずその俯いているふわふわの頭を胸に抱え込んだ。ごめんな、狛枝…。慰めの言葉が思いつかないんだ。お前がどれだけ辛い思いをしてきたか分かってやりたいけど、俺はお前の全てを知らない。それでも狛枝の気が晴れるなら、少しでも力になりたい。 「優しく、しないで…。罵ってよ、思いっ切り…! どうしようもない変態!ゴミムシ!ってさ」 「…嫌だ、言いたくない。狛枝は気持ち悪くなんかないぞ…」 「ダメだよ、止めてくれ。…優しくされると、好きになっちゃうんだ。…そんなの嫌でしょ? ボクなんかに好かれたらドン引きだろ? だから…」 「っバカ! そのまま俺のこと、好きになれば良いだろ…!」 「!? ひな…、あっ」 もうダメだった。涙ながらに健気なことを言われて、頭で考えるより先に体が狛枝を抱き締めていた。洗いざらしの髪からはシャンプーの匂いが漂っている。狛枝が男だろうが構うもんか。イブに出会ったばかりだから何なんだよ。これで好きになるなという方が無理だろ? カッコ良くて綺麗なのに、それでいて優しくて一途で可愛い。好きになってしまった。恋に、落ちてしまった…。 「んっ、んぅうう…」 「あ…、ごめん。苦しかったか?」 頭を胸板に押し付けるように抱いてたから、狛枝がくぐもった声で体をもぞもぞと動かした。腕を緩めると狛枝は顔を上げて、神妙そうに俺を見つめる。 「日向クン、気を遣わなくても良いよ。同情なら間に合ってる」 「っ違うぞ! 俺は、本気でお前が…す、好きなんだ!」 「本当に? 一時の気の迷い…なんじゃないかな。キミ、ノーマルでしょ? 男のボクなんかに興奮出来るの?」 出来る、というより…既にしました。裸は見てないけど、表情と声だけでも勃起する。それくらい狛枝という男は厭らしい。苦しそうに、それでいて気持ち良さそうに喘いでいる狛枝の顔を妄想して、俺はぶるりと体を震わせた。狛枝となら、俺…絶対セックス出来る。 「あ…、ひ、なたクン…。んぅ…、勃ってる……?」 「うっ…!」 上擦ったような狛枝の声が聞こえたと思ったら、スエットの股間部分をやんわりと揉まれて、変な声が漏れてしまった。するすると撫で上げられてから、形を確かめるように握られる。スベスベとした狛枝の白い手が俺のチンコを…! 「すごい…! 本当に、おちんちん…おっきくなってる…」 「はっ……、これで、分かった、だろ…? お前に、興奮…してるんだ」 「…やっぱり信じられないよ。ボクにだって、キミと同じようにおちんちん…ついてるんだし」 「〜〜〜ッ、だったら確かめれば良いだろ!」 俺は傍らにある紙袋からラッピングされた箱を取り出した。包装を剥がして、中の箱からランジェリーその他諸々を引っ掴む。そしてそのまま狛枝に突き出した。 「これ、着てくれ」 「え?」 「誘ってみて、賭けをするつもりだったんだろ? 俺でやれば良い」 「でもそんなことしたら、キミが…」 「…もし望んだ結果が出なくても、俺は狛枝から逃げたりなんかしない」 狛枝は促されるまま俺の手から衣装を受け取る。不安そうな彼に俺は黙って頷いてみせた。ランジェリーを胸に抱えてもじもじと恥ずかしそうにしてた狛枝だけど、決心が着いたのか「日向クン…」と俺の名前を呼んだ。 「日向クンって、犬…好き?」 「? 犬…? あ、ああ…まぁ。飼ったことないけど、好きだぞ…犬」 「そっか。あの…、じゃあ…着る、から。ベッドで、待っててくれる?」 「お? おう…」 何で犬のこと聞かれたんだ? 意味が分からない。というかこの場で着るんじゃないのか。ベッドで…。その意味を頭に巡らせてゴクリと生唾を飲み込む。リビングから出る間際振り向いたけど、狛枝はカーペットに座ったままの体勢だった。ほ、本当に…着てくれるんだよな? そうだよな? 俺は狛枝の背中に何度も心の中で念押ししてから、リビングを出た。 寝室のベッドにギシリと腰を下ろす。…ドキドキする。先輩に感じたのとは比べ物にならないくらいの緊張だ。初めて、セックスするかもしれない…。体が火照って熱い。指先も震えてる。室内には俺の荒い呼吸音と壁時計の秒針の音だけが響いていた。 | |
03. | |
今か今かと待ち侘びる間に股間は腫れて熱を持ち始めた。ちょっと長くないか? 脱いで着るだけにしては時間が掛かり過ぎている。早く見たい…。あのまま寝ちまってたりしないよな? 心配になってベッドから腰を上げようとした所で、カチャ…と控え目にドアノブが下がった。 「っ狛枝…?」 「う、ん…。入って、いい?」 自分の部屋なのに何でそんな遠慮するんだよ。と言いたかったけど、ドアの隙間から覗いた狛枝の恥ずかしそうな顔に俺は口を噤んだ。堂々と入って来れるような格好してない…ってことだよな。 「恥ずかしがらなくて良い。来いよ…」 「……んぅ」 俺の声、ちょっと震えてる…。狛枝はキィとドアを押して、そろそろと室内に入ってきた。目の前に現れる薄い赤に、俺は言葉を失う。『気持ち悪くない』『俺は良いと思う』『意外と似合うじゃないか』。童貞なりにそんなセリフを用意してたけど、狛枝を見た瞬間それが全部吹っ飛んでしまった。 「いい…!」 俺の口から飛び出したのは、誰にでも言えるようなつまらない単語だった。だけどそうとしか言いようがなかったんだ。サンタ帽の白い犬耳は垂れ気味なのだが、それが肩身狭そうな狛枝の雰囲気にピッタリだった。男にしては白く華奢な体に、透け透けの赤いランジェリーのコントラストが際立つ。布が薄い所為か、淡い色の乳首も少し浮いた肋骨も全て見えた。ふんだんに白いファーがあしらわれているから隠れてる部分もあるけど、もじもじと狛枝が体を揺らす度にチラチラ肌色が見えたりして、そのもどかしさにまた興奮する。極めつけは赤い紐のパンティだ。女物を無理矢理着てるからか、股間部分にある僅かな布がチンコでパンパンに膨れていた。はみ出そうになってる狛枝のチンコを見ても、昂りは増すばかりで俺のは一向に萎えない。抱きたくて、堪らない…。 「変じゃ…ない?」 「全然…! すごく、可愛いぞ…狛枝」 おいでおいでと手招きすると、狛枝はビクビクしながらベッドに乗ってきた。何でこんなに震えてるんだ? この部屋はエアコン効いてるから寒くないのに。まだ緊張してるのなら仕方ない。俺だってすごくドキドキしてるし。しばらく俺と狛枝はお互いを見つめ合った。ここからどうすれば良いか全然分からないぞ。正直間近で見る狛枝の整い過ぎた顔とか肌の滑らかさだけでお腹いっぱいだった。それなのにランジェリーから覗く薄い胸やすんなりと括れた胴回り、ベッドに投げ出されたすらりと長い脚も堪能せずにはいられず、目が2つではとてもじゃないが追い付かない。 「………」 「………」 だけどこのまま見てるだけじゃ進まない。まずは…そう、キスだ! 両想い、だよな…俺達。背中でこっそりと手汗を拭いてから、狛枝の両肩をがしっと掴んだ。 「こ、こ、こ、…狛枝!」 「なっ…、何?」 「キ、キス……しても、良いか?」 俺の一言で狛枝の緊張も解けたようだ。自分より緊張してる人間を見ると逆に落ち着くのかもな。彼は柔らかく微笑んで、体を更に密着させた。俺の頬に狛枝の白い手が添えられる。目を閉じたら唇の位置が分からないよな? でもキスの時に目を開けてるってのもどうかと思うし。迷った挙句目を瞑って、俺は顔を前に出す。すると唇にちょんと軽い感触が落ちてきた。 「っ…あ、」 「日向クン…」 これが、狛枝の唇…。反射的に目を開けると、蕩けたような狛枝の顔が間近にあって、僅かに体が跳ねてしまった。キス、キス…。もっとしたい。もっともっと。俺の心情を汲み取ったのか狛枝はスッと目を閉じる。長い睫毛に見惚れながら俺はもう1度狛枝の唇に触れた。さっきよりも長い。一瞬唇を離したけど、再びくっつける。ちゅ…ちゅ…と小さな音を立てながら、狛枝と何度も何度もキスをした。 「はぁ…、んっ、んぅう…」 唇が濡れた何かで撫でられた。…舌か? ゆっくりと口を開くと、ぬるぬるとした柔らかい舌がずるりと入り込んでくる。俺も必死に舌を絡めた。口に広がっていく狛枝の唾液。くるくると翻弄するように巻き付いてくる舌。時たま唇を離されても、舌だけはレロレロと俺のを弄ぶ。漏れる吐息も本能を掻き立てるばかりで、段々と意識が朦朧としてきた。…というか、こいつ、キスが上手い…! 初っ端から腰砕けになるようなディープキスかましてくるなんて相当だぞ!? 「うぁ…、こまっ、んんっ…」 「ふぅ、ふぁあ…。んっ、ひぁたクン…?」 口から溢れた涎が顎へと滴っていく。キスって、こんなに気持ち良いのか。圧倒されて他に何も出来ない。狛枝とのキスに溺れていると何かが俺の股間に触れた。 「っ!? あ…っ!?」 「日向クン…もうギンギンだね。エッチだなぁ…」 「お、おい! そこは…っ」 「ねぇ、ボクに見せてよ…。キミの希望をさ」 狛枝ははふはふと息を荒げながら俺の股間を揉んでいた。希望って、お前何言ってんだ!? しかしキスで体の力が抜けてる俺は抵抗出来ない。されるがままに股間を揉みしだかれて、溜息のような喘ぎ声が出てしまう。狛枝は俺のチンコがテントを張っているのを満足そうに見た。そしてキスを止めてその場に膝を曲げて俯せになる。 「舐めて、あげるね」 赤い舌をチラつかせながら、俺にそう告げた。今まで散々俺の口内を蹂躙していた舌がチンコを舐めてくれる…。狛枝は俺の足を広げてその間に収まった。キラキラとした目を見るに喜びでいっぱい…って感じだ。脱がせてくれるのかと思ったが、狛枝はそうはせずスエットの上からチンコに舌をレロッと這わせた。 「んっ、ふぅ…んふっ…。はぁ…、分かるよ。…伝わってくる。キミのおちんちんが、ドクドク脈打ってるのが…」 「う…、……狛枝…!」 「刺激が足りないって顔してるね。もうちょっと待ってよ…」 確かに少し物足りなかった。カプッと横から噛まれた時が1番気持ち良かったけど、それ以外は撫でられてるのとあまり変わらない。焦らされてるんだ。直接舐めてほしかったけど、がっついてると思われたくて俺は狛枝に何も言えなかった。這い蹲ってペロペロと犬のようにチンコを舐める狛枝。サンタ帽についてる犬耳が余計に彼を犬っぽく見せる。それに赤い紐パンの向こうにはふさふさとした白いしっぽもあって…。……しっぽ? はぁ!? 狛枝の尻からしっぽが生えてるぞ!? 「ちょっ…待ってくれ、狛枝!」 「んぅ? どうかしたの?」 「お前、その…しっぽ…! 何で生えてんだよ!?」 狛枝は俺の股間から顔を上げて、不思議そうに首を傾げている。そして何でもないようにしっぽを手で持って、「これ?」と聞いてきた。 「犬のしっぽだよ! 今日のボクはサンタ犬なんだ」 「っそうじゃなくて! それ、どうやって…」 「ああ…。もちろん…、お尻の穴に挿れてるんだよ?」 ねっとりと纏わりつくような声で狛枝が囁く。尻…、尻…? 俺はテンパって固まっていた。箱に入ってたあのしっぽ付きバイブが狛枝の尻に入ってる…? 挿入するのに時間が掛かってたってことかよ。一言も発さない俺に狛枝は怪訝そうに問い掛けてくる。 「……日向クン、もしかして引いてる?」 「えっ」 「う、うう…。い、いくら犬が好きでも、犬の真似とかされたら気持ち悪いよね。こんなの変態のすることだもんね…そうだよね」 「ちがっ…引いたりなんて! ちょっと、驚いただけで…」 ちょっとというより、かなり驚いている。衝撃的だろ、初めてのセックスが犬プレイなんて。童貞にはハードルが高いぞ! 何とか取り繕おうとしたが、誤魔化せる空気じゃない。俺を見つめる狛枝は既に泣きそうになっていた。ふるふると体を震わせて、飼い主に叱られた犬みたいに縮こまっている。俺が犬好きだって言ったから? そんなことのために犬の格好してくれたのか? 「…本当に驚いただけだって。俺、初めてだから…」 笑いかけて、何とか取り繕う。ここまで来たんだ。何があっても驚いちゃダメだ、日向 創。動揺すればするほど、狛枝が不安にさせるだけ。腹を括るんだ、日向 創。犬の狛枝なんて、可愛いじゃないか…。犬は従順で賢くて、何でも言うことを聞いてくれる。童貞なりに精一杯狛枝のプレイについてかないといけないんだ! 「俺のため、か。ははっ、狛枝は良い子だな。よしよし…」 「んぅうう〜」 気持ち良さそうに目を閉じて、頭を撫でる俺の手に感じ入っている。よし、決めたぞ…。やってやる! 犬の狛枝とセックスしてやる! 「俺の…舐めてくれるんだよな?」 「……わん!」 狛枝は満面の笑みで返事をしてくれた。犬語で。再び俯せになり、俺のスエットのゴムを口で咥える。そして引っ張りながら下げた。パンツも同じようにゴムを口で咥えて下ろしてくれる。中から勢いよく飛び出してきたチンコに舌を伸ばして、ペロペロと先端を舐め始めた。ぬるりとした舌に割れ目を攻められ、俺の鈴口からはすぐにカウパーが染み出してくる。それを舌で掬い取りながら狛枝はぴちゃぴちゃと夢中で舐る。 「あっ、はぁ…すごい、きもちい…こまえだ、あっ、う…!」 「んんぅう〜、はふっ、はぁ…んちゅっん、ンぷっ」 最初は先っぽだけだったのがじわじわと深くなる。狛枝の口の中に、俺のが飲み込まれていく。じゅうじゅうと吸い上げて、ちゅぽちゅぽと水音を立てながら、狛枝は俺のチンコを厭らしくしゃぶった。俺の感じてる顔をチラチラ窺いながら、芯を下からねっとりと舐め上げて、更には裏筋を擽る。フェラチオの気持ち良さは想像以上だった。自然と腰がビクビクして、気を抜けば速攻で射精してしまいそうになる。弱点を突く巧みな舌遣い、心地好い生温かさ、しっとりとした湿り気…。どれも素晴らしかったが、俺が1番興奮したのは狛枝の表情だった。 「ちゅぶっ…じゅぶ、んんぅ、んっ、じゅぼっ…ぶちゅちゅ…んふ〜っ」 「う……、あ、んぐ、…ふっふっ…ハッ…!」 グロテスクとしか言いようのない俺の一物を、狛枝は目尻を下げて美味しそうに頬張っているのだ。ただ舐めるのとは違う。チンコを口の中で扱いて柔らかくし、染み出たカウパーも味わって飲んでいる。嬉しそうに尻を振る度に、ふわふわのしっぽが左右に揺れた。 「はぁん、…ひぁたクンの、おちんちん…おっきくて…全部、口に入らないよ…。ンっンッ…!」 「っ〜〜〜! そこ、あ…ダメだ、感じる…!」 「ぷはっ…出そう? 精子、出ちゃう? ちゅっ、ぢゅぶっ、ふんっ、ふぅ…!」 「うっ…ぐ、ぁああッ…! こまえ、ふ、ぅ…ッ」 狛枝が激しく頭を動かし始めた。サンタ帽の白いポンポンが視界の端であっちこっち飛び跳ねる。口内でチンコをぎゅうぎゅうに絞られて、俺は無意識に腰を突き上げ始めた。すごいっ、すごいっ、気持ち良いぞっ、最高だ! このまま出したい、出したい…! 狛枝の口の中に、精液をいっぱいぶちまけたい! ぶちゅぶちゅとうるさく響くフェラチオの音に体全体が燃えるように熱くなる。腰から球にぎゅっと熱が凝縮された。 「あっ、あーっ、…く、あ、出、る…あっ、うっ!」 「んぅうっ、ぷちゅっ…ン、んぁ…っ!」 ドクッドクッと温かい狛枝の口に射精する。打ち付けていた腰の軸が勢い余ってずれてしまい、口から俺のチンコが弾き出されてしまった。びゅっと空中に飛沫が飛んだ。ずっとオナニーしてなかったから、かなり溜まってたと思う。真っ白でドロドロとした精液が、狛枝の顔をべっとりと汚していた。辺りには微かに独特な臭いが漂う。 「はっ、はぁー…、あっ、ふ、……っ、ごめん、狛枝…」 「あふぅ…、ん、……良いんだよ、日向クン」 「…顔に掛けちまった。ティッシュ…、いや洗ってきた方が早いか?」 「あーあ、日向クンの精子…零しちゃった」 狛枝は残念そうに顔に飛び散った精子を指先で掬って、ペロペロ舐め始めた。バカっ、何やってんだ!! 「こ、狛枝! 吐き出せ! ペッて!」 「何で?」 「何でじゃない! 汚いだろっ!?」 「んぅうう〜…。日向クゥン、そんなことよりボクを叱ってよ」 「はぁ!?」 どうしてそうなるんだ!! どこでどう狛枝を叱る流れになったんだ!! お前が何言ってるんだか、ちっとも理解出来ないぞ!? 狛枝は顔に飛んだ精子を残らず綺麗に舐め取ると、「ねぇ、日向クン…叱って?」と甘えるように小首を傾げる。 「そんなこと言ったって…、お前を叱る理由がないじゃないか」 「理由ならあるよ! ボクは日向クンの犬なのに、キミの精子を全て飲めずに無駄にするという愚行を犯した…。だから叱られないといけないんだ!」 「そ、そうなの…か?」 フンフンと鼻息荒く力説する狛枝に押されて、俺は咳払いをする。そして「めっ! 狛枝、ダメだぞ?」と狛枝を叱ってみた。けど彼はガッカリだとでもいう風に大袈裟に肩を落とす。 「はぁ…。日向クンさぁ、優し過ぎるよ…。そんなんじゃ飼い主の威厳保てないよ? 犬に舐められて、ヒエラルキーの最下層に落とされちゃうって。飼い主ってそういうもんじゃないでしょ? ちゃんとダメなことはダメだって、お尻叩いて言い聞かせてあげないとさ…」 俺って、狛枝の飼い主だったのか? 呆れたように蔑んだ目を向けてくる狛枝に、俺は全くついていけてない。っていうか犬に説教される飼い主って斬新だよな。とりあえず狛枝的には俺に叱ってほしいらしい。中途半端な叱咤じゃまた怒られるよな。ここは心を鬼にしなければ…。 俺は狛枝を横向きに伏せさせて、ランジェリーの裾を捲った。筋張ってて硬そうな男の尻だけど、毛穴すら見えないほどのつるつるとした見事な美尻だ。極めつけは中央にある慎ましやかな窄まりに入っているしっぽバイブ。…本当に、入ってるんだな。風呂場で見つけた透明のやつより細いみたいだけど、こんな質量の物を尻の穴に入れるなんてすごい。拡がった穴は綺麗な肉色でローションか何かで濡れてるのか艶やかな光を帯びている。エロい…! しっぽバイブを咥え込む尻穴もエロいし、自主的にこれを突っ込んでくる狛枝もエロい。 「ふぅー…」 狛枝の尻に掌を当てて、叩く体勢は整った。サンタ犬は大人しく俺に従って、伏せのポーズをしたままだ。俺は手を振り上げた。パンッと乾いた音の後、「ひぅ!?」と引き攣った狛枝の声が漏れる。 「悪い。痛かったか、狛枝…」 「ふぁあ、んぅうう…ひぁたクン、もっと、もっとぉ…!」 「っ、分かった!」 パンッと叩く度、狛枝は小さな悲鳴をあげた。平手を押し返すような張りのある尻の感触は爽快感すら覚える。それに良い音だ。乳白色の尻たぶにほんのりと赤い痕が残る。少し可哀想だが、叩いてほしいと言うのなら止める訳にはいかない。俺は何度も狛枝の尻を叩いた。 「ひぐっ、んひぃ…! つよく、してぇ…ッ、あぅ…」 「強くって…」 「はふぅ…。いたいのが、っ…いいんだよ…。お願い、日向クン…!」 涙ながらに訴えて、急かすように尻を振る狛枝。犬のしっぽもふわんふわんと左右に揺れた。さっきよりも力を入れて、バシッと狛枝の尻を叩く。ビクンとランジェリーに包まれた体が震える。白かった尻は更に赤くなっていった。それでも彼は「いいっ、いいよぅ…」と悦びながら泣きじゃくる。それを目の当たりにした俺の心がざわついた。平手打ちする度に未知の感情が沸々と湧き立ってくる。沸騰した感情が煮えくり返った時には既に、俺は義務感という物を捨てていた。 「狛枝っ…! 痛いのが、良いんだろ!? ほら、どうだ! もっと叩いてやるからなっ」 「はぁああんッ! わふっ、きもちっ…イっちゃいそ…アぁッ!」 「イくのか…!? 尻叩かれて、イくのかよ! どうしようもないな、お前は…ッ」 「んぁッ、ひぁたク…そのまま…アッ、出るっ…おちんちん、からぁ、でるぅ……! あんっ、いっいっ、イぐぅうう〜っ!! ふぁ…ぁあぁんっ!!」 ビリビリと響く嬌声に、俺は尻を叩く手を止めた。狛枝は泣き叫びながら背中をクッと撓らせる。そしてぶるぶると小刻みに震えた後、くたぁ…とシーツに突っ伏してしまった。な、何だよ…。どうしたんだ、狛枝…。まさか、本当に…? 「こ、狛枝…?」 「ひっ、っん…ひぅ……、はっ、はぁ…! はひっ…、あー…あ…」 肩を揺さぶってみても何も言ってくれない。俯せでは顔が見えなかったのでひっくり返そうとするが、狛枝は人形のようにされるがままになっている。開いた口からは舌がでろりと覗いていて、目は焦点が合っていなかった。尋常じゃない彼の状態に俺は頭が真っ白になったが、シーツの濡れた感触に若干の思考を取り戻す。池のような大きな染みがそこには出来ていた。 「………」 「はぅ……んっ、ひ、なた、クン…。ン、あ……ボク…、」 指先で池に触れると、くちゅりと音がして白い粘液が吸い付いてくる。これは、狛枝の精液だ。狛枝の脚はカエルのように力なく開いている。赤い紐パンの中心はびしょびしょに濡れていて、中のチンコはピクピクと痙攣していた。尻を叩かれて、イったんだ…。初めて会った時の印象と180度違う。清楚で優しくて奥ゆかしそうに見えた狛枝が…、自ら犬プレイをお願いして尻を叩かれて悦ぶ淫乱だったなんて。 「………っ」 体が再び熱を持ち始める。1度射精して萎えていたチンコは硬さを取り戻して、天に向かってそそり立った。くそっ、この熱情をどこにぶつけたら良いのか分からない…! またフェラチオしてくれないかな。熱くなったチンコを緩く扱きつつ、ムラムラした勢いで「狛枝…!」と切羽詰まった声で彼の名前を呼ぶ。 「なぁ、…また勃ってきた…! どうすれば良いっ!?」 「くぅう…? わぅ〜…、わん!」 「? 舐めて、くれるのか…?」 犬語で返事をされて狛枝が何を言いたいのか分からなかったが、とにかく俺の破裂しそうなチンコをどうにかしてくれるようだ。ゆっくりと起き上がって、俺の顔をベロリと一舐め。そしてはっ…はっ…と息を短く吐きながら、嬉しそうに股間に顔を埋めた。生温かい舌と唇でちゅぷちゅぷと愛撫されて、射精感がじわじわと高まる。あぁ、ダメだ…! またすぐに出る! 発射に向けて神経を集中させようとした瞬間だった。 「こま、えだ…? な、何で…」 「……ふふっ」 俺はまだ出していないのに…。狛枝はフェラチオを止めてしまった。ボロッとチンコを口から吐き出すと、俺を見て不敵な笑みを浮かべる。何かを企んでいるのだろうか…。仰向けに寝転がった狛枝は両足の膝裏を自分で持ち上げた。俺にしっぽの埋まった尻穴を見せつけるようなポーズだ。そして彼は目を閉じて「んっぅうううう〜…!」と唸り始めた。眉間に皺を寄せて力んでいる。俺には何をやっているのかさっぱりだった…。 「はぁっ、はっ…んっ、んぐぅううう…!」 ぜぇぜぇと1度息継ぎをして、また力む狛枝。声を掛けるのも戸惑われたので俺は黙ってそれを見守るだけだ。苦しげに歪む狛枝の顔はそれだけで美しかったが、それで性的快楽が得られるかと聞かれればそうではなく、俺の息子は少しずつ萎んでいってしまう。2回目の息継ぎだ。微かにグチュン…と濡れた音が響いて、俺はハッと音の発信源に注目した。 「あっ…尻から、しっぽが…?」 尻穴に詰まっていたバイブが少し抜けてきていた。しっぽの根元から2、3cmほどピンク色の芯が見えている。ひょっとして狛枝は手を使わずにバイブを抜こうとしているのか? 歯を食い縛って力む狛枝に近寄り、俺は頬にそっと手を当てる。 「…狛枝」 「くぅうん……」 すりすりと俺の手に頬擦りをして、力なく笑う狛枝。口元から溢れた涎を指先で拭ってやると、赤い舌を出してチロチロと舐めてくれる。きっとバイブを尻から出したら何かしてくれるんだろう。 「頑張れ、狛枝!」 「…わん! ……んふぅううう〜、うっ、うぁ…ハァ…、んんっ! んぐ〜…!」 尻から生えていたピンク色がぐぐぐっと更に押し出されてきた。すごい…、手を使わずにここまでやるなんて。固唾を飲んで見守る中、にゅるにゅるとバイブが排出される。サーモンピンクの穴がヒクヒク収縮する動きがすごく卑猥で、縮こまっていた俺のチンコもあっという間に膨らんでいった。 「もう少しだぞ!」 「ふぁっ、ひぁたクン…! うっん、ひぅ、んんんんんん〜ッ!!」 狛枝が一際苦しそうに唸ったその時、とうとうバイブが尻穴から抜け落ちた。ぽとっとシーツに転がるそれはぬらぬらと濡れた色をしている。ローションか何かなのかトロッと透明な液体が穴から伝っていてすごくエロい。バイブを産み落とした尻の穴は、パクパクと呼吸をするように開閉を繰り返していた。 「狛枝、良くやったな。偉いぞ!」 「わぅ〜…! …あはっ、これで日向クン…気持ち良くなれるね!」 狛枝が起き上がろうとしたので俺は背中を支える。やり遂げた顔で狛枝は俺に笑顔を贈った。ん? 彼が何を言っているのか分からない。バイブを出したことと俺が気持ち良くなることが何か関係あるのか? 考えている途中だったが、狛枝が甘えるような仕草で俺に唇を近付けたから結論は一時保留にした。ちゅっと触れてくる柔らかい唇に角度を変えて、何回もキスをする。細い腰を抱いて、狛枝の唇を貪っている時だった。 「んちゅ…んぅ、はふぁ…、ひぁたクン…?」 「んっ、ん、…? あぁ、何だ?」 「ねぇ、ボク……日向クンの、おちんちんが…ほしい…」 「!?」 俺の両頬を手で包んで、エッチなサンタが潤んだ瞳で訴える。チンコが、ほしい…? それって舐めたいってことか? 俺が理解してないことを見抜いたのか、狛枝は黙ってベッドサイドに這い蹲っていった。小さなコレクションケースから出してきたのは透明なボトルとコンドームだ。 「そういえば日向クン、スエット脱いでなかったね」 「脱いだ方が良いのか?」 「出来ればそうしてもらいたいなぁ。キミの体、見たいし…」 「そっか…。そんな大したもんじゃないけど、お前もそんな格好だし脱ぐよ」 体をじっと見つめられて、何となく視線から逃げるように俺は背中を向けた。上下のスエットを脱いで、緊張感から丁寧に畳んでいると、狛枝が後ろから話し掛けてきた。 「日向クン、コンドーム…自分でつけられる?」 「あ、ああ…」 確か先端の精液溜まりを摘まんでつけるんだよな…。そ、それくらい…童貞だって知ってるぞ! 狛枝からコンドームを受け取って、ピリッと封を切った。中のピンク色を慎重に見極める。裏表間違えたら恥ずかしいからな。でもどうしてコンドームなんてつけるんだろう? 狛枝は男だから挿入とかそういうのは出来ないはずだ。 「…狛枝、付けたけど」 「そう? じゃあ、ボクのここに…おちんちん、ぶち込んで?」 ふわんとランジェリーの裾を翻して、狛枝は後ろを向く。彼が両手で拡げて示したのは、さっきまでしっぽバイブが入ってた尻の穴だった…。え、そこに…? 俺のを挿れるのか!? 「なぁ、いくら何でもそこには…」 「日向クン、知らないの? 男同士はここ使うんだ。ボクがずっとバイブで拡げてたし、今ローション塗り足したから、すんなり入るはずだよ」 「……本気で言ってるのか?」 本当なのか? 男同士ってそうだったのか!? …知らなかった。男ってただ裸で触り合ったり舐め合ったりするイメージしかなかった。俺のチンコが狛枝の中に…。もしかして、今夜…童貞卒業出来るってことか? 「もちろん、本気さ。日向クンの…すごく、おっきいけど、ボク頑張るよ! ……あっ、ごめんね。しっぽ入ったままだったら、犬としてキミに犯してもらえたけど…流石にそこまでは難しいから」 「いやそれまず入らないだろ」 「とりあえず今はここに日向クンのおちんちんを挿れて、グジュグジュ…って掻き回してくれ」 「お、おう…」 狛枝の顔は蕩け切っていて、厭らしいことこの上ない。脱童貞にテンパりつつも、俺は狛枝の後ろに膝立ちした。ランジェリーを捲ると、赤い紐で割られた真っ白い尻が現れる。紐をずらして中央のヒクヒクとした尻穴に、ドキドキしながらチンコの照準を合わせた。クリスマス・イブに、好きな人で童貞卒業って奇跡じゃないか? そりゃアブノーマルなプレイに付き合わされてちょっとついてけない所もあったけど、狛枝が俺のために一生懸命それをしてくれたんだって思うとすごく心が温まる。それって俺に対して心を開いてくれてるってことだもんな。単純に嬉しい。俺も、俺も…その気持ちに答えたい。 「い、いくぞ…狛枝!」 「うんっ…! きて…、日向クゥン」 トロトロとローションが滴る穴にチンコの先端をクチッ…と押し込む。中が狭くて微妙に痛いけど、我慢して少しずつ中へと進ませた。狛枝はきっともっと痛いはずだ。いくら拡げたと言ってもここは本来なら受け入れる場所じゃない。背中を撫でてやりながら、じわじわとチンコを埋めていく。 「んぐっ…う、ぅ……、あ、はぁ…、んっ、んぅ…あ、…ひ、いっ…!」 「狛枝、ごめんな…」 「ひっ、ひぃ…、ら、いじょう…ぶ、だから…ひぁたク、おちんちん…アンっ…!」 挿入に少し勢いがついて、狛枝から悲痛な声が吐き出される。痛みに耐える彼が可哀想になって、俺は堪らず四つん這いになってる背中に抱き着いた。呼吸音と背中の温かさを肌で感じながら挿入を続ける。最初はキツかったけど、段々と解れてきたのか痛みが引いてきたような気がする。中はじんわりと温かくて、溜息が出るほど気持ち良かった。 前に回した手を弄ると、ふわふわのファーに触れることが出来る。だとしたら胸元だろうか。さわさわと掌で撫で回すと、狛枝は溜息とビクンビクンと体を跳ねさせる。あ…、今尻の穴が柔らかくなったぞ? 感じさせれば狛枝も気持ち良くなれるし、そしたら穴も緩んで挿入が深くなる。手をランジェリーの裾から入れ直して、狛枝の肌を堪能する。 「んっ、んふっ…あぅ…、やぁ、…ひなた、クゥン…!」 「はぁ…、狛枝。気持ち良いか?」 「う、あはぁ…、いっ、いい……そこ、アッ、んっ、あぁんッ」 手を動かす度、狛枝は甘い声で鳴いた。見えないけど分かる。上向きの臍、薄い腹回り、ツンと尖った乳首…。焦らすようにじっくりと触れば、尻穴はヒクヒクと反応し、俺のチンコを嬉しそうに飲み込む。中でも乳首はすごく感じるらしい。くりくりとこねくり回すだけで、腰を動かさなくてもチンコがずぶずぶと沈む始末。 「んんぅ、おっぱい…やぁん…! あっ、だめ…感じちゃう…んっ、んふっ…!」 「う……、ふ、…んっ、こまえだ…? 大丈夫か? 全部、入った…ぞ」 「はー…、ぜ、んぶ? あんなに、おっきぃ…おちんち…が…?」 「そうだぞ。ほら…、分かるか? 俺のが、根元までお前の中に入ってるの…」 「…んぁ、わ、かるよ…。きこえる…日向クンの、ドクドクって…ボクの中で、いってるのが」 安堵したような狛枝の声。きゅっきゅと尻穴が不意に絞まった。わざとだな…。チンコに走る刺激にゾクゾクしていると、狛枝はクスクスと笑いながら後ろを振り返った。 「ねぇ、動いて…?」 「動く?」 「女の子にするのと同じだよ。おちんちんを出し入れして、ボクの奥を突くんだ! …ほら、腰持って」 「分かった…。突けば良いんだな?」 促されるまま折れてしまわないか不安になるほどの細さの彼の腰を掴む。ずるずるとチンコを抜くと、狛枝は「んぁあ〜…ッ!」と仰け反って喘いだ。抜くのも気持ち良いのか。カリが抜けそうという所で、おれはずんっと尻穴の奥を思いっ切り突く。ずぶっ、ズチュッ…ジュブッ、にゅぷっ…。結合部から響く淫靡な穴の音と狛枝の嬌声が引っ切りなしに響く。 「アァンっ、んっあ、アッ、ひぁあッ、いっ、きもちいっ! すごいっ、あぁ…ッ!」 「ふっ、ふっ…んっ、フ…ッ、くっ…」 「奥が…んんっ、当たる…! かたいのっ、イイっ…あはぁんッ! ひぁたクンっひぁたクン!」 狛枝も俺に合わせて腰を一生懸命振ってくれた。すごい、俺と狛枝が…セックスしてる。1つになってる。温かい穴の中でチンコがぎゅうぎゅう絞られて、もう最高に気持ち良い。段々コツが掴めてきて、リズミカルに腰を振れるようになっていた。部屋にはパンパンと打ち付け合う音も響いている。 「あー…っ、あっ、いいぞっ、狛枝っ! もっと、もっと…!」 「ひぐぅ…、ひぁたクンっ! しゅごいっ、あひっ…ひぃんッ! あっあ、そこ、んぅううう〜!」 「うぁッ…あ、んぁ…ッ、ヤバい、…こまえだっ、こまえだぁ…!」 俺は尻を揉みながら、夢中で腰を動かした。ダメだ、何も考えられない。ただ狛枝にチンコを突き刺すだけ。結合部をズチャズチャと犯すグロテスクな俺の一物。こんなに太いのに、狛枝の穴は限界まで拡がっていてそれを美味そうに咥え込んでいた。 …すごい、すごいぞ! セックスすごい…セックス気持ち良い…! ああっ、チンコ気持ちいいー…! 尻穴ヤバい! 最高だ! ずっとしてたい、ずっとずっとセックスだけしてたい! 狛枝と…ずっと…。あっ、また絞まった…あははっ。狂っちゃいそう、もう…。気持ちよすぎて、頭おかしくなる…! 狂っていいか? ははっ…、いっか…。今俺、感覚がチンコしかない。他は、真っ白…。あー…、イきそ…。尻穴ジュブジュブいってる。濡れやがって…くそっ、…もう出るぞ? 射精したいっ、したい…あっ、出したい、狛枝に、射精する…する…! 「はぁ、あっ、あ、ふ……う、うぅ…ッ!」 「アアッ、ひぁたク…、ボク、出る…! あっ、ふぁ、あぁああ〜…ッ!」 最奥を突き上げた瞬間、ドクンと狛枝の中にぶちまけてしまった。狛枝もワンテンポ遅れて射精したようだ。絶叫したのと同時に穴がきゅって絞まったから。精液を全て出し切り、ずるりとチンコを抜くと、狛枝はトサッとベッドに倒れてしまった。シーツには新たな水溜りが出来ている。きっと狛枝が出した精液だ。 「はぁ……、っ…、ふぁ…ッ!」 「…ん、……あぅ、う…、んんぅ…」 会話すら出来ないくらい体が疲労していて、呼吸をするのが精一杯だった。装着してたコンドームにも白く精子が溜まっていたが、もう取るのも面倒臭いほど。ぐったりと横になっている狛枝はごろんと仰向けになった。目は虚ろだ。赤いパンティからはみ出たチンコは萎えてぷるぷると揺れている。俺は寝そべってる狛枝に並ぶようにして横になった。 「狛枝、ありがとうな…」 「日向クン…。うん、こちらこそ…ありがとう」 投げ出された彼の手に俺の手を重ねる。吐精後で力が入らないながらも狛枝は俺の手を軽く握ってくれた。犬耳サンタ帽と赤いランジェリーを纏ったエッチなサンタ。俺にとってのクリスマスプレゼントはこのサンタ自身だったのかもしれない。でも狛枝は…? 今日の彼は望み通りのプレゼントを受け取れたのだろうか? だったら…。俺はある考えを胸に、狛枝の頭からスポっとサンタ帽を取った。そして迷うことなく自分の頭にそれを被せる。 「ひ、日向クン…!? どうして、帽子…」 「お前のサンタは終わり。今度は俺がサンタだ! ほら、プレゼントは何が欲しいんだ?」 「んっ、んぅうう…!」 狛枝は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。う…、セリフがクサかったか? でもそれは杞憂に終わってしまった。彼がそれはもう嬉しそうにへにゃへにゃと顔を緩めたから。 「あのね、クリスマスプレゼントはね…」 「うん」 「ひ、なたクン…が、ほしいな…」 もう1回ってことか、それは! さっき散々ヤったのにまだヤり足りないのか…。狛枝の貪欲さに圧巻しながら、俺は視線を落とす。ランジェリーの生地を通り越して見える彼のミルク色の肌…。まだ俺はその味を堪能していない。体中に印をつけて、止めて!って泣くまでやってやる。そう決意して、俺はランジェリーの肩紐を下ろしにかかった。 … …… ……… 「うう……、腰、痛い…。声も……出ない…」 「ごめん、流石にヤり過ぎた…」 「…どうしよう。ボク恥ずかしくて、もうキミの顔…見られない…」 「俺も恥ずかしいから大丈夫だ」 「ああ…、酔っていたとはいえ、犬プレイなんて…。ボクはバカだ…!」 「…俺は好きだぞ、犬の狛枝」 「………」 「何だよ、その顔」 「な、んでもないよ…。……あ、電話だ。っ……」 「? ……おい、そいつってもしかして」 「出ないよ。もう、彼には会わない…。安心して、日向クン」 「それで良いんだな?」 「…うん。もう背伸びは止めるんだ。ボクは、キミと一緒に歩きたい…」 「狛枝…、その、何だ…。……ありがとう、な」 「ううん、こちらこそ。素敵なクリスマスにしてくれてありがとう。……あ、まだ言ってなかったね」 「ん?」 「日向クン、メリークリスマス!」 狛枝が、目を細めて笑った。今まで見た中で1番美しい微笑みだ。朝陽に照らされ、モスグレイの瞳がキラキラと煌めく。偶然は時として運命になる。うん、俺もお前の隣を歩くよ。メリークリスマス、狛枝。聖夜に出会った待ち人に、俺は愛のキスを贈った…。 | |