// R-18 //

全知全能にして白痴
暑い…。まるで灼熱地獄だ。マーケットからコテージへと続く帰り道、短く息を切らせながら俺はひたすらに歩いていた。両手に提げたビニール袋の重みが意外と辛く、二度手間にならないようにと詰め込んでしまった数分前の自分を少し怨む。顔の輪郭をなぞるように一筋の汗が流れ、顎からぽたりと落ちていった。アスファルトをギラギラと照りつける太陽を忌々しげに睨み付けてやるが、何の意味もない。ふらつく足をただ前へと動かして、涼しさの欠片などどこにもない空間を進んでいく。
「はぁ、…はぁ、…っ」
ドッキリハウスから漸く解放され、閉じ込められていたそれぞれが自分のコテージへと戻ってきたのが昨日のことだ。室内に変わった所はなかったが、数日が経過していた影響で持ち込んだ食料や飲み物は全てダメになっていた。そのため俺は今、マーケットで必要な物を調達してきたのだ。日差しの弱い朝方に行けば良かったのだが、疲れが溜まっていたこともあり、すっかり寝坊してしまった。新しい島の探索を経て、やっとのことで確保した自由時間を補充に宛がっている。
時刻は昼を少し過ぎた所だ。どうやら1番暑い時間帯に外に出てしまったらしい。遠くの景色が歪み、視界の色が滲み出す。陽炎、またはシュリーレン現象といっただろうか。その歪みの向こうに白いホテルの屋根が見えて、俺は目的地に到着した達成感から大きく息を吐いた。
「はっ、やっと……着いたか、」
木製の扉を潜り、さぁベッドで一休みしようかなどと考えながら、角を曲がった所―――コテージの前に人影があり、俺はビクリとして足を止める。そこにいたのは予想だにしない人物だった。
「やぁ」
「……狛枝」
うだるような炎天下にも関わらず、狛枝はいつもの深緑色の長袖のコートと黒いズボンという何とも暑苦しい出で立ちだった。ドッキリハウスに入る前なら、爽やかな笑顔を俺に惜しげもなく向けてきていたが、今は唇の端を微かに上げるだけの素っ気ない態度だ。俺に微笑むだけ無駄。抜けるような白い顔にそう書いてあるのがハッキリ分かる。
「…どいてくれよ。コテージに戻るんだから」
「キミと話がしたいんだ」
しおらしく長い睫毛を伏せて、彼はポツリと呟いた。裏切り者は誰か? それを暴くために俺達とは別行動をとっていた狛枝が姿を現すなんて…。何だか不穏な雰囲気を感じた俺は訝しげな視線を狛枝に投げかけた。俺の纏う空気を敏感に察知した狛枝は手をヒラヒラさせながら、作り笑顔を浮かべる。
「あはっ、そんな怖い顔しなくても。ただキミに聞きたいことがあるんだよ」
「…何だよ?」
この場で聞けるのなら早く話を済ませて、コテージで休みたい。その欲求からか言葉尻も投げ槍になっている。だが狛枝はふわふわの髪と共に首を振って、悩ましげに言葉を紡いだ。
「今はちょっとね…。夜は時間あるかな? というか空いてるよね? 予備学科は暇だもんね。ふふっ、ボクとしたことが余計なことを聞いちゃったね。キミのコテージの鍵が壊れているのは知っているよ。そうだな…、9時くらいにお邪魔するね!」
一方的にペラペラと話を押し付ける狛枝。俺が超高校級の才能を持たない予備学科だと分かってからの扱いは散々なものだった。こちらが反応を返す前に勝手に予定を決めてしまう。
「誰かを殺す計画ならお断りだ…!」
「そうじゃないよ。予備学科について色々と、ね」
「……俺は、何も知らない」
「分かってるよ。別にいいでしょ、話をするくらい。…それじゃ、夜に」
擦れ違いざまにふっと微笑した狛枝は外へ出るのか、両開きの門の方へ歩いて行ってしまった。何なんだよ、あいつは! イライラしながらコテージのドアを乱暴に開けて、ローテーブルにビニール袋をドスンと置く。それから傍らのベッドへと思いっ切りダイブした。
「何だろう…、話って」
狛枝は予備学科についてだと言ってたけど、俺には希望ヶ峰学園に関する記憶はあまりない。自分が予備学科だと思い知らされた直後はショックで死んでしまいたい気分になったけど、しばらくして才能がないと理解してしまうと妙な収まりの良さを感じてしまう。普段の生活において、目立った趣味趣向が自分でも窺い知れなかった理由。それに答えが導き出されて、肩の力が抜けてしまったのだ。
「才能、か…」
狛枝が予備学科を限りなく下に見ているのは知っている。どうせ話した所で良い気分にはならないんだろうな。攻撃的な言葉でもって罵倒されるかもしれない。俺は夜時間に交わす狛枝との会話を想像し、ウンザリとした気分で嘆息した。


……
………

あれ? …俺、何やってるんだっけ? 今は何時だ? 薄らと目を開けようとして、瞼が異様に重いことに気付く。ベッドに横たわった状態なのは分かる。中途半端な浮遊感が体を支配していて、意識が宙に浮いたままだ。少しだけ冴えてきた頭で周囲を見渡すが、コテージの室内は薄暗く色味がない。夜か…?
「あ……」
そうだ、夜なんだ。夕食を食べ終わり、狛枝との約束の時間になって、奴は俺に告げた通りにコテージを訪ねてきた。そこまでは分かる。ドアを開いた先に狛枝が立っていて、招き入れるため背中を向けたその瞬間、体に衝撃が走った…ような気がする。何だ? 狛枝が…、何かしたのか?
「おはよう」
「っ…!?」
思考を巡らせていた所為で、近くに人がいたことに気付かなかった。そこに立っていたのは他でもない狛枝だ。俺を訪ねてきた時とは違い、彼はコテージ備え付けの真っ白なバスローブを身に纏っていた。ここは俺のコテージのはずだ。だとしたらそのバスローブも勝手に着ているのだろう。そもそも何で着替えてるんだ? 疑問に思ったものの、それを声にすることは叶わなかった。
「やっと目が覚めたみたいだね」
不気味な笑みを浮かべている彼に、俺は全身に鳥肌が立った。遅れてゾクリと怖気が走る。今の状況は、恐らくヤバい。狛枝に殺されるかもしれない…!
「…あ……っ?」
一瞬で頭が冷える。逃げようと手足を動かしてみたが、上手く動かない。何で、どうして…? おかしいぞ。体は鉛のように重く、ベッドに沈み込んだままだった。ただでさえ体が動かないのに、更に両手は上方で何かに拘束されている。顔が上げられないから良く見えないけど、拘束しているそれは布のような質感で捻る度に手首に食い込む。微かに俺が身じろいだのが分かるのだろう。狛枝は穏やかな瞳で俺を見下し、余裕な表情を見せた。
「な…っ、こま、えだ…!」
「……まだ、体痺れてる?」
狛枝はベッドの縁に腰掛けて、俺の頬に冷たい指先を滑らせる。体が痺れる…? 俺に何をしたんだ? 唇が戦慄くが言葉は出てこず、代わりにキッと狛枝を睨み付けた。その視線の意味を理解したのだろう。彼は「ふふっ」と小さく笑みを零し、手にしている黒っぽい四角い機械を俺の目の前で振って見せた。その先端部分にある金属からバチッと音がして、青白い火花がパッと飛び散る。その光で狛枝の血の気のない顔が一瞬だけ截然と見えた。
「これだよ。スタンガン…。改造してあるから出力は高めかな。でもキミ死んでないし、結果オーライだよね」
「っ!!」
口にしている結果論に俺は震え上がる。殺されていたかもしれない。あるいはこれから殺される可能性がある。話がしたいなどという狛枝の言葉を信じて、安易にコテージのドアを開けた自分は何て愚かだったのだろう。俺は心の底から後悔した。クスクスと楽しそうに声を立てながらスタンガンを枕元に置き、狛枝は何を思ったのか俺の体の上に跨ってきた。ギシリとベッドが軋む。軽くはない男の体だ。腹筋に力を入れないと内臓が潰れてしまいそうな重量感に、俺は息を詰めた。
「な、に…?」
「言ったでしょ? 予備学科のことを聞きたいって。日向クンのこと、教えてよ」
「…っおしえ、る……?」
「そう。ああ、辛いだろうから無理して話さなくていいよ。こっちに聞くから」
殺すんじゃないのか? 何が何だか分からない。混乱している俺を余所に、狛枝はするりと着ていたバスローブを脱ぎ去った。
「…ぁ、うわぁ…っ!」
パサリとシーツの上に落ちていくそれ。狛枝は全裸だった。下着すらつけていない裸の体。突然のことに俺は情けなくも呻き声を上げてしまった。月光の薄明りで狛枝の白さがぼうっと浮かび上がる。シミ1つない雪のような白さの肌。虚弱体質なのか可哀想な程に痩せていて、あばらや腰骨がくっきりと浮かんでいる。そして括れた腰は折れてしまいそうなほどに細い。白い肌とは対照的に乳首は綺麗な桃色をしていて、先はツンと尖っている。ペニスの色素は全体的に薄くて、先端は少しだけ赤っぽい。つるりとした質感はまるで果実のようで、毒々しさはなかった。
何故か、目が離せない…。別に見たくもないのに、視線が不思議と吸い寄せられる。同じ男の体なのに、隅々まで凝視してしまう俺は異常なのだろうか?
「予備学科がどんな風に感じるのか、ボクに教えてくれるよね? 日向クン…」
「ふ、…あっ…!」
狛枝が俺の上に乗ったまま、妖艶な動きで腰を揺らした。服の上からペニスを擦られて、俺は引き攣った声を上げる。それに満足したように舌舐めずりした彼は更に腰の動きを激しくした。
「! …あっ、やめ…、こま、え…っ」
「んっ……あんッ、はぁ……っハ、あァん、んふっ…んんぅ……ッ」
眉を下げ、頬を赤らめ…、蕩け切った表情で俺を見つめている。ぐるぐると狂気を含ませた灰色の瞳はどんよりと濁っていた。円を描くように腰を動かし、狛枝のペニスがぷるんぷるんと揺れる。くぐもった声を漏らしながら、彼は右手で自分の乳首をくりくりと弄っていた。鼻にかかる声が小さくコテージに散っていく。
「う…ンんっ……ふぁあ、……ン、やぁ…あはっ…ハァ、」
深く息を吐きながら、ビクビクと体を引き攣らせる狛枝。淫らな彼の姿に俺は段々と体の中心に熱が集まるのを感じた。大きく膨らみ、ズボンの布地を押し上げている俺自身。ズボンとパンツを隔てて、狛枝のペニスと擦れているという事実に倒錯的な快楽を感じる。
狛枝ははぁはぁと息を切らしながら体をずらし、俺のズボンに手を掛けた。ベルトを外され、ジジッとチャックを下ろす音が静まり返ったコテージに響く。ダメだ、止めろ…! 心の中で叫んでも当たり前だが伝わらない。呆気なくそこは開放され、狛枝は震える指をそっと中に滑り込ませた。
「あ……っ」
「あはっ。ふっ…、日向クンの…半勃ちなのに、おっきい…ね。ンンっ…予備学科のクセに。生意気だよ…」
俺の才能の無さを卑下するようなセリフとは逆に、その声色は興奮しているのかどこか上擦っていた。抵抗することも出来ず、俺のペニスが狛枝によってボロッとパンツの中から引き摺り出される。ちょ、何考えてんだよ!? 驚く俺を無視して、彼は愛おしそうに白い指でペニスを撫でた。口の端からは涎がつっと垂れてきていて、美しい灰色の瞳は月光を浴び、爛々と輝いている。俺の痴態を見た狛枝は堪らないといったように、唇を吊り上げた。
「はぁ、…こうしたらもっと大きくなるのかな? どう? …日向クン」
「うっ……あ、は……ぁ、く…っ」
指でやわやわと擦り上げながら、狛枝が上目遣いで俺に問いかける。鈴口と裏筋を集中的に触れられ、ドクンと全身の血流が波打つのが分かった。ゾワゾワと体の中で何かが這い回っている。ヤバい…、すごく気持ち良い…! やがて俺の意思を示すかのように、狛枝の指にぬるぬるとした液体が絡み付いて、ヌチャヌチャと卑猥な音が聞こえてきた。
「んぅ、ふっ…あぁ…ぐ……!」
くそっ、狛枝相手に何で感じてるんだよ俺は! 狛枝は片頬を歪ませながらこちらを見ている。そして躊躇することなく、俺のペニスに桜色の唇を近付けた。
「! ああ…っ」
体に深く切り込んでくる衝撃に俺は声を震わせる。何だ、これ!? こんなの今まで感じたことがない。柔らかく湿った何かが纏わりつくように亀頭に触れ、ぬるりとした感触に俺はビクッと大きく仰け反った。狛枝の、舌か…?
「はぁっ、…やめろ、は、なせよ…! 狛枝っ」
「うん、喋れるようになったみたいだね。んッんっ…。…ねぇ、きもちい?」
ペニスを口に咥えたまま喋るから、狛枝の熱っぽい吐息が直にかかって、何とも言えない気持ち良さが生まれてくる。剥き出しの本能を撫でられて大人しくしているほど、俺は快楽に強くはない。意識が飛びそうなほどの心地好さと興奮。俺の体は彼が言葉を発する度にピクピクと小さく痙攣した。
「っう…、こ、狛枝! 何がしたいんだよっ、早くどけって…!」
「ふふっ、キミのおちんちん…またおっきくなった。口に入り切らないよぉ…」
激しい水音を発しながら、狛枝は喉の奥深くにまでペニスを飲み込んでいく。唾液を嚥下しているのか、口内がコクコクと振動する。狛枝は夢中になって頭を動かし、溢れてくる俺の先走りと自分の唾液をジュルジュルと吸い上げた。竿を横から唇で挟んで、根元にある双球にもレロレロと厭らしく舌を這わせる。
「はぁ、すごいよ…。日向クン。こんなにおちんちん勃起させちゃって。ボクなんかに舐められて、感じてるの?」
「……く、この、バカ…はやく、どけって…ハァ、あッ」
「っ、…また先から、ヌルヌルしたのが出てるね…。……ぁん、零れちゃうぅ…。んっ、んちゅ…ふぅ」
「うぁ……、あ、あ、は…。こま、えだぁ…」
腰にカッと熱が湧いてきて、俺は堪らず声を上げた。フェラチオ自体もすごい気持ち良かったけど、ペニスを美味しそうに頬張る狛枝がエロ過ぎて、今にも射精してしまいたい気分だった。出したい出したい出したい…! 相手が狛枝だろうが何だろうが構わない。限界まで振り切ったこの苦しさを解放させたい。俺の腰は自然と揺れていた。
「出そう? 出したい? …ボクの口の中に真っ白な精液をさ」
「あっ、…だし、たい……。イかせ、てくれ、…よ。狛枝……!」
「……ダメ。日向クンはゴミクズ以下の予備学科なんだよ。ボクがキミの要望に応えると思う?」
俺のペニスから顔を離し、狛枝は冷然と微笑む。与えられていた気持ち良さを取り上げられて、俺はぶるりと身を震わせた。もっと、して欲しい…。指に付いた先走りを舌で舐めとる狛枝の仕草に、彼が俺のを口に入れたという事実が垣間見えて、どうしようもない熱情が体を包み込む。
「こま、えだぁ……っ! 俺…、」
「はしたない顔だね。しょうがないなぁ、予備学科は…」
必死に呼びかけて懇願するも、狛枝は呆れたように肩を竦める。このままだと辛すぎる。せめて手の拘束を外して、1人でさせてほしい。股間をドクドクと血潮が流れている。歯を食い縛りながら抑えようとする俺を余所に、狛枝はその白い肢体を撓らせ僅かにその細い腰を上げた。そして前屈みに体を倒すと、俺に顔を近付けるような体勢になる。うわ…っ。俺はビクリと体を跳ねさせた。キスしてしまいそうなくらい近くに狛枝の顔があった。シンメトリーで、恐ろしいまでに整っている。何だかドキドキしてきた…。
「…はぁ、はぁ……、んぁ…日向、クゥン…」
「狛枝……っ」
男なのに何て顔をするんだ、こいつは…! 蕩け切った物欲しそうな表情で、狛枝は俺の名前を呼んだ。湿っぽく熱い息が頬にかかっている。あまりの厭らしさに俺の脳髄に痺れるような感覚が走り、治めようとしていた本能が鎌首を擡げた。呼び掛ける声は少し掠れていて色っぽい。長い睫毛に縁取られた切れ長の双眸。そこに収まっている灰色の瞳は不思議な光を宿し、俺はその美しさに見惚れてしまう。
「ちょっとだけ、待っててね……」
そう言うと彼は左手を背中側に回し、小さく呻いた。その手を何やら動かしつつ、苦悶の表情を浮かべている。狛枝の声に混じって、濡れた水音が少しだけ聞こえてきたけど、何の音なのか俺には分からなかった。
「ん……、ふっ……んんッ…ぁ…はぁぁ…ッ」
「何…、してるんだ? おい、狛枝!」
呼び掛けても彼は虚ろな瞳で視線を落したまま、喘ぎ声を口から漏らすだけだった。密着しているからか狛枝の体温が手に取るように分かる。仄かな温みを抱いていたそれは、今や燃えるように熱い。時折ピクンと体を跳ねさせながら、痛みに耐えるように固く目を瞑っている。吐き出す息は荒く、飲み切れなかったらしい涎が顎を伝い、俺の喉元にポタポタと落ちていった。
俺、何してるんだ? 相手はあの狛枝だぞ!? 捕まっているとはいえ、男と…こんなことするなんて。許されるはずない、いけないことだって分かってるのに。嫌じゃ、なかった…。狛枝に片足を掴まれ、ずるずると引き摺りこまれていっているのに、マトモに抵抗出来ない。全身が心臓になったように鼓動が体中に鳴り響いて、俺は狛枝から目が離せなくなっていた。
「あはっ、準備出来たよ…。キミの精液の行き先は、ココ」
「……えっ」
涙目のまま微笑んだ狛枝は体を起こす。そして俺の勃起したままのペニスを右手で支えると、そこ目掛けてゆっくりと腰を下げていく。嘘だろ? そんな所に、挿れるだなんて。止めろと抗議しようにも声が出ず、パクパクと力なく唇が戦慄くだけ。パニックになってる俺を無視して、狛枝は切なげに吐息を零しながら更に腰を落とした。俺のが狛枝の中へと少しずつ入っていく…!
「…あっぐぅうううっ、ひぅ、んっうぁ……ハァ…、くぅ、ん…!」
「あっ! あ、…狛枝、い、痛い! 止めろ…! バカっ、どこに」
血が止まりそうなほどキツくて苦しい。千切れてしまいそうだ。狛枝の熱い肉壁と圧迫するような鈍い痛みがペニスを包み込んでいく。痛い…。マトモに息が出来ないくらい痛い。歯を食い縛りながら、激痛が治まるのを待つが、狛枝が締め上げる所為でいつまでも楽にはならない。狛枝は細く息を吐きながら、楽しそうに俺を見て笑った。
「くぅ…っ、う…、はぁ、規格外の大きさ、だね。キミのおちんちんは…。全部、入る…かな? んふっ、……!」
「あっ……ぐぁ…、、く…っ、はぁ…、いッ、………んぐ、」
「…ああ、はぁああ……! んん、ふぅ…、すごく、おっきいよ。ボク、こわれちゃいそ……アっ」
狛枝は息を震わせながら、更にジリジリと腰を落とす。敏感な皮膚を通して感じる狛枝の温度は、悔しいがとても心地好い。もうペニスの半分以上が、狛枝のアナルに入っている。怖くて見ることは出来なかったけど、感覚で分かる。俺と狛枝は今、繋がってるんだ。童貞を狛枝に奪われてしまったという事実が俺に突き付けられる。絶望的だった…。女よりも先に男を知ってしまうなんて。最悪だ。何もかもが思い通りに行ってくれない。
「んむぅ…、後、もうちょっと……! おちんちん、燃えるように、熱いね…日向クン。ジンジンするぅ…」
「……うう、く……こま、えだ…抜け、よ…!」
「は? 嫌だよ。……あっ、やった。全部入ったよ…、ひなたクンの。はぅ…、おなか、…くるしいよ。ハァハァ」
全部、入った? 纏わりつくような肉の動きがざわざわと俺自身を追い立てていく。娼婦のように、狛枝は淫らに腰を前後に揺らした。みっちりと俺のペニスの形に拡がった狛枝のアナルが、きゅっきゅと全体的に締め付けてきて、痛さの中に気持ち良さが混じり始める。ヤバい…、このままじゃ俺…。
「アンっ……すごいよぉ、また膨らんだ…!、んっ、ふぅ…。あっあっ、ほらぁ、日向クン…見て?」
狛枝の猫撫で声に誘われるまま、俺はその部分に視線を走らせる。丁度狛枝が腰を浮かせた所だった。水音を鳴らしている結合部を、俺は見てしまった。天に向かってそそり立つ俺の怒張が、ぬちぬちと肉を割り開いて狛枝のアナルの中に飲み込まれていっている。分かってはいたけれど、視覚的にそれを認識するということは思った以上に衝撃的で。えげつない光景に俺はガチガチと歯を鳴らせた。
「……あ…、ああっ、おい……俺の、が…!」
「あはっ。日向クンのおちんちん、ボクのおしりの中に…入っちゃってるよ? 中でビクビクいってるの…分かる」
「うぁああっ、抜けって…! はッ、嫌だ……、お前なんかに…」
もがく度に腰が揺れ、結果として狛枝を抉るように突いてしまう。感じるポイントに当たるのか、狛枝はゾクゾクと身悶えしながら、涎を垂らしていた。白い肌に桃色の乳首が良く映える。少しだけ舐めてみたいと一瞬でも思った自分が情けない。狛枝は男だぞ? とうとう血迷ったか? そう自分自身に言い聞かせるも、体はちっとも言うことを聞いてくれない。段々と狛枝の動きに呼吸を合わせるようになっていった。白く淫靡な腰が大胆な動きでグラインドし、狛枝の奥深くに亀頭が色んな角度で擦れる。背中からビリッとした衝撃が走り、痺れるような感覚が腰回りに纏わりつく。
「…んっ、いいよ、…キミの。予備学科なのに、おちんちんだけは…超高校級、かな? っあ…いい、いい…」
「やめっ、止めろ…! 動くな…っ、あっ、く……、ぐ、」
「暴れないでよ、ひなたクン…! っ、あ、やぁ…それ以上、おちんちん……ッ、はぁ、大きくしないでぇ…」
本能を刺激する狛枝の甘い声。アナルにペニスを挿れられて感じるという感覚が俺には分からなかったが、狛枝のペニスからは確かに先走りが溢れ、糸を引いて空中にピッピッと飛んでいる。
「……逃げられないって、日向クン…。…分かるよ、キミの気持ち。絶望的だよね、初めてをボクに奪われてさ」
厭味ったらしく狛枝は言い放つ。炎のような淡い色の髪が柔らかく揺らめいて、残像のように白くぶれる。浮世離れした麗しさはどこか夢のようで、この狛枝は幻じゃないか?って思ってる俺がいる。だけど2人の繋がりは卑猥な音を立て、粘液は糸を引き、生々しくその現実を主張している。冒涜的な快楽に俺は溜息を漏らした。狛枝は妖艶に俺を見下げながら、ベッドに倒していた膝を立てる。そして今度はペニスを抽挿するように、上下に腰を動かし出した。
「……んっ、ハッ……う、ぁ……ッ! 狛枝、頼むから…っ」
「あれ? あれあれあれあれ? 腰が揺れてるよ、日向クン…。はァん、…そんなに、ゴミムシの体がイイのかな?」
「ふ……ッんぐ……、いや…だ、アっ……ふぁ…!」
「ンぁっ、段々…滑り良くなってきたみたい…。日向クンのきもちぃ汁が、出てるんだね。……アンっ、やぁ…んっ!」
狛枝の言う通り、繋がった部分からは体液が滴り落ち、そのお陰で滑らかに腰が動いている。耳を塞ぎたくなるような厭らしい音が俺と狛枝の間で反響していた。ビリビリとした衝撃がいくつもいくつも体を駆け抜ける。すごい、すごいぞ…。これがセックス…。俺、狛枝と、セックスしてる…。
「はっ、狛枝…、この……ふっ…くぅ…、んッ!」
俺もやがて狛枝を突き上げるように、大きく腰を振り始めた。亀頭の先端が狛枝の奥深くのざらついた所に当たって擦れる。その度に全身に電撃の如く、快感が巡るのだ。アナルの肉も俺のペニスを逃がすまいと、誘い込むように絡んできている。ああ…、すごく、きもちいい。
「あははっ…、あははははははははっ!! ふぁッ、あッあ……ん、奥が、ごりごり…してるよぉ…、あぁっ」
「こまえ、だ……っ、はぁはぁ、狛枝ぁ…っ! あっは……っ」
「……っ……んんッ…う、ボク…、あ、きもちぃ…! 日向クン、ひなた、クン…、も…きもちぃ、かな?」
熱に浮かされた顔で狛枝が問いかけてくる。気持ち良いか?なんて愚問だ。初めてのセックスが男で狛枝という実情も、早々に投げ捨てていた。窓から降り注ぐ月影が彼を静かに照らしている。細い体が突き上げる毎にクッと撓る。白い喉を仰け反らせて喘ぐ狛枝は壮絶に美しかった。
「きもち…い…、こまえだ……、お前の、すごくキツ…」
「ふふ…、どうしてキミなんだろう、ね? んっ、何で……ッあ、ボクは、キミに…。……んぁ」
「……何だよ、言いたいことがあるなら、」
「ボクは、信じて、た……アッ、のに…。日向クンは、ボクを……裏切った、っんだよ? ひどいよぉ…、はぁッ」
「っ! 勝手に期待したのが…、いけないんだろ?」
俺がそう言葉を返すと、狛枝は眉をハの字にした後、ぎゅっと目を瞑った。もう今にも泣きそうな顔だ。何だよ、俺が悪いのかよ…。いや、俺は何も悪くない。嘘なんて吐いてなかった。俺は自分の才能を覚えていなくて、それを見た狛枝が勝手に希望の芽を植えつけ、夢の花を咲かせただけ。裏切られただって? そんなの俺だってそうだよ。修学旅行に参加している以上、希望ヶ峰学園の生徒なのは確実だった。1つくらい才能があっても良いだろ? 何となくそう思ってたのに。
「お前は、俺を見なかった…。……才能を持ってたなら、誰でも良かったんだろ?」
「ちがっ……あっんぁ…はァぁあ、ちがう、よ…。ボクは、日向クンが…、あんッ、あ、ああ、ふぁあっ」
「……嫌いだ、お前なんか。……ふっ、…、俺のこと……必要となんて、しないし……」
胸が苦しい…。喉が渇いて、スカスカと空気が通り抜けていく。何やってんだ、俺。自分で自分を追い詰めてどうするんだ。だけど吐き出したくて堪らない。狛枝は嫌がらせのために俺のコテージに来たんだ。理由はただ1つ。俺が予備学科だから。俺の童貞を奪って、好きなように蹂躙して、主導権を握り、完膚なきまでに貶める。お前は本当に嫌な奴だな。最低だ。
不敵に笑う狛枝を想像し、俺が顔を上げる。だがそこには予想とは違った表情の彼がいた。
「ああッ、あっあっあっ…! ひぁあッ、…ボク、……、あ、うぁ……ッ! ひなたクン、ひなたクン!」
「狛枝…? お前、泣いてるのか?」
灰色の瞳からポロポロ涙を流して、狛枝は何度も何度も俺の名前を呟いた。何でそんな顔すんだよ。俺のこと、嫌いなんだろ? 大嫌いな予備学科に嫌われて、万々歳じゃないか。それがなくても俺達とは関わりたくないって、背中を向けた癖に…。自分勝手過ぎるだろ。………。声を引き攣らせながらさめざめと泣く狛枝は少しだけ憐れで、俺の胸はツキンと小さく痛んだ。前に狛枝に言われたっけ。「キミはお人よしだね」って。その時は「そんなことないだろ」って否定したけど。…全く、その通りだよ。
「狛枝! …逃げないから、手…外せよ」
「? ひなた…クン……?」
「〜〜〜〜〜っ。ほら、早く!」
泣き腫らした顔で小首を傾げていた狛枝だったが、ゴシゴシと腕で目を乱暴に拭った後、俺の手首に手を伸ばした。逃げるつもりはない。ただ…このまま一方的にレイプされるなんて、後味が悪いだけだ。両手を縛っていた物が解かれ、顔の傍にパサリと落ちる。それは俺がいつも締めているネクタイだった。
「来いよ、狛枝…」
「……日向クン」
彼を迎え入れるように両手を広げると、狛枝は案外素直に俺に身を預けてきた。背中に腕を回し、抱き締めてやる。微かに狛枝の体が震え、恐る恐る俺の肩口に手を置かれた。そのまま腰の律動を再開させる。俺、今狛枝と1つになってるんだな。別々の生き物なのに、確かな一体感を感じる。狛枝の体内は熱く解れて、肉が厭らしく蠢いていた。俺は爆発しそうな感情に煽られ、いきり立ったペニスを乱暴に突き入れる。
「ひぃいっ、い、いい、…んぁ! 日向クン、はげし、アッあん、……いやっあ、んん、ンっ、」
「…お前も嫌いなんだろ、俺のこと……っ。そうだよな。何の才能もない、ただの予備学科だもんな…。この後、俺のこと殺すんだ…」
「殺さ、ない…、よ…、あアっ、キミは、生き残る……、んだ。ボクが…ッ。日向クン、はぁッ、絶対…、生きるんだよ……」
「? ……狛枝?」
喘ぎ声に混じって、紡がれた言葉は俺には理解出来なかった。狛枝は予備学科である俺を嫌っているはずなのに、彼の言っていることはそれを否定しているようにも聞こえる。
「あのねっ……、日向クン。ボクは、はぁっ…キミが………。…ううん、何でもない、よ…っん、」
「!? 何だよっ、変なとこで止めるなよ、……こまえだ」
「あっ、言えないよ…、……無理、だ。日向クンは……、ボクの希望…、だよね? だから、ふっ、ううッ、」
狛枝は切なげに顔を歪め、それ以上を口にすることはなかった。代わりに飛び出てくるのは悩ましげな嬌声だ。鼓膜を振動するその音に流され、俺も深く追究するのを止める。少しだけ心が軽くなったような気がする。狛枝は俺に殺意を抱いていない。細められた灰色の瞳には慈しみの色が少しだけ残っている。信じていいのか? …俺のこと、嫌いじゃないのか? 狛枝のことなんか、全然好きじゃない。でもこの気持ちは一体何だ? 揺れる想いを抱えて、俺は考えを振り切るように腰を突き上げる。狛枝は声無き悲鳴を上げて、辛そうに身を捩った。
「日向クン…、日向クン……ッ、あ……、あぁ、、んッ、ふ……あはぁ……あぅぅ……っ!」
「くっ…ん、ここ、か……!? 狛枝…、……う…、あ…アぁ、っ」
「アン、そこぉ…! すき、そこ…すきぃ……! おちんちん、…あ、当たって、ひゃ…っ」
「……狛枝、……はぁ、ア…、くそ……ん、こま、えだ……」
「んぁ、やぁあ、……ん、ふぅ……んっんっンんッ、あ、あ、あ、あぁあぁああ…っ」
潤んだ瞳から止め処なく涙が零れる。縋るようにYシャツをきつく掴む狛枝。昼間のあてつけがましい姿が嘘のようだ。胸を締め付けるような啼き声に俺は一層強く狛枝を抱き締める。俺には彼が何を考えているか、全然分からない。知りたいけど、狛枝は何も話してくれない。きっとそれにも理由があるんだ。こいつが抱えているものを、全部俺が受け止められたら良いのに…。
そろそろ、限界に近い。ずちゅずちゅと狛枝を貫く音は鳴り止まず、湧き上がる全身の熱が体の中心に勢い良く集まっていく。堪え切れない熱量が結合部を焦がし、自然と腰の動きが速まった。
「あっ…!? こ、狛枝……俺……、イきそ、あッ、くぁ……うっ」
「んはッ、はぁ、日向クン、……ボク、も…あ、ああッ……ん…!!」
きっと同時だったと思う。俺が狛枝の奥深くへと精を放ったのと、狛枝が俺の腹を白く汚したのは。ぜぇぜぇと呼吸を整えつつ、達したことを認識した俺達は互いの顔を見合わせる。キスが、したかった。だけど俺が唇を近付けるその前に、狛枝は俺の腕からするりと抜け出し、それが叶うことはなかった。


「もう、行くのか…? 泊まっていっても」
「その必要はないよ」
さっきまでの熱情は虚像だったと、狛枝の冷たい声が主張する。彼はシャワーで体を清めることなく、服を着てさっさと身支度を整えた。そして俺の方を振り返る。灰色の瞳は一瞬だけ悲しそうに細められた。
「……ごめんね。もう2度としないから」
「狛枝…、」
「じゃあね、日向クン。……キミに、幸運があらんことを」
まるで儀式のようだった。スッと俺の両頬を包んださらさらとした白い手。狛枝は額に触れるだけのキスを落とす。ふわりと手が離れ、俺は言い知れない不安を感じた。狛枝がこのままどこかへ行ってしまいそうで。狛枝は最後に小さく微笑むと、コテージから静かに出て行く。俺は彼の背中を黙って見送るしかなかった。

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