// R-18 //

01.起
天井近くに取り付けられた通風孔からは潮風の匂いがした。それに嗅ぎ慣れない船独特のどんよりと湿気を含んだ空気が混じり合って、今ボクがいる場所はお世辞にも快適とは言えない。でも窓の外からは澄み切った綺麗な青空とキラキラと太陽の光を反射して輝く大海原が見えて、ボクはその美しさに心の中で密かに称賛を贈った。
世界中に絶望が蔓延している今、あの女を信望する奴らに何処も彼処もメチャクチャに壊されていた。でもこれほどまでに、あるがままの姿を保てている場所が未だにあるんだ。無機質な鉄の額縁に納まった、ガラス窓の向こうの揺れ動く蒼の絵画。生命力溢れる雄大なその様にボクは目を細める。ああ、何て素晴らしいんだろう! そうだ、希望は絶望なんかに屈しない。いくらあの女の存在が強大であろうと、この世に希望がある限りボクは負けない。負ける訳にはいかないんだ。そう、『彼』に報いるためにも…。ボクは忌々しい冷たい左腕に爪を立てた。
ぐらぐらと地面が揺れている。不規則に揺れる船の中で、ボクは対角線上に座っている同室者に視線を向けた。窓からの光が届かない壁際に背を持たれ掛けている1人の人物がいる。最初に目についたのは血のように赤い瞳だった。暗がりにいるにも関わらず、その深紅だけがキラリと光っている。腰よりも長く伸びた黒い髪を持ち、身に纏っているのはやや着崩した漆黒のスーツ。彼は立て膝を突いて、つまらなさそうな顔をしていた。…いや、良く見るとその表情は少しだけ変化しているようだ。小さな揺れの連続の後にぐらりと大きく揺れると、ハッとしたように鮮やかな赤が僅かに見開かれる。
「船…、好きなの…?」
ボクは思わずそう声を掛けていた。いい加減、長い船旅にも退屈していた所だ。自分1人だけなら仕方ないけど、他に誰かがいるのなら話でもして気分を紛らわせたい。ボクの声に相手は鬱蒼と顔を上げた。でも彼はチラリとこちらを一瞥しただけで、返事をしてはくれないらしい。そうだよね、ボクみたいに矮小な存在に誰も興味なんて持たないよね。でもボクは諦めずに更に言葉を続ける。
「あはっ、何だか楽しそうな顔だったから、そう思ったんだけど…。ねぇ、船が好きなんでしょ?」
「…船? あぁ、そうそう…そうでしたね。これは船でしたね」
抑制のない落ち着いた声が静かな船室に響く。やっと相手から返事を貰えて、ボクは嬉しくなった。いくらゴミムシとはいえ、シカトされるとさすがに傷付くからね。それにしても面白いことを言う人だ。ボクらが船に乗ったのはもう何時間も前のことなのに。冷静な声色でそんなことを言うから、尚更そう感じてしまう。
「あは…。今更何言ってんのさ?」
「………。…笑うほどおかしいですか?」
彼の態度は相変わらず素っ気ない。少しだけまた船が波に揺れ、窓からの光が彼の顔貌を浮き彫りにした。長い髪に覆われた輪郭と目鼻立ち。それが記憶の片隅にいる『彼』の面影とふいに重なる。…違う。ボクは緩やかに首を振った。これはただのデジャブだ。『彼』がこんな所にいるはずもない。だってもう…、キミはこの世にいないんだもんね? 脳裏に浮かんだ『彼』の悲しげな表情に、ボクは胸がぎゅうっと押し潰される。『彼』は才能に憧れ、嫉妬し、渇望していた。世界中の若き才媛が集まる私立・希望ヶ峰学園。自分の平凡さにコンプレックスを抱いていた『彼』にとって、その場所は生きるのに酷過ぎた。
「……………。ねぇ、良かったら少し話さない? ちょっと沈黙に飽きてきちゃったんだ」
「………」
真っ直ぐに見つめてくる深いカーマインに、何だか体中がゾクゾクする。まるで心の内を全て見透かされているようだ。全知全能の神様と対面し、跪いて懺悔をしているような感覚。まぁ、ボクは神様なんて信じていないんだけどね。
「はじめまして…。ボクは狛枝 凪斗っていうんだ。それにしても…ボクはツイてるなぁ。ボクの話し相手になってくれる人は久しぶりだよ。そんな人と相部屋になれるなんて…。うん、ボクはやっぱりツイてるね!」
「…ツイてる? あぁ、それがあなたの才能ですか。…ツマラナイ才能ですね」
半ば吐き捨てられるような物言いだ。うーん、結構辛辣なことを言うんだね。ボクは「あはは…」と乾いた笑いを漏らす。
「ツマラナイ才能って…。まぁ、確かにその通りなんだけどさ…。でも、初対面の人からいきなりそんな風に言われるとはね…」
「だって、"幸運"なら僕も持ってますから」
「…え?」
「"幸運"程度のツマラナイ才能なら、僕だって持ってるんですよ」
「も、持ってるって…。ねぇ、キミって何者なの!? 何だか興味が湧いてきちゃったよ! もちろん希望ヶ峰学園にいた人なんだよね? じゃあ、ボクらの仲間なの? あ、でも変だな…。ボクはキミの事をみるのは初めてだよ…?」
記憶力には自信がある方だけど、目の前の彼の姿にはやはり覚えがない。荒廃した土地を転々と彷徨って、何人もの絶望に会った。個性的な人達ばかりだったから、自然と頭に焼きついちゃうんだよね。彼のような長髪にスーツという出で立ちなら目立つから、一目見たら忘れるはずもないんだけど。ボクが考え込んでいると、「僕は…」と淡白な響きで彼が切り出す。
「あなたを見たことがあります。確か…1週間ほど前に、とある廃ビルで」
1週間前、廃ビル…。その2つの単語を手掛かりに記憶を遡ると、大して労せず該当する出来事が頭の中から引き出される。ああ、アレを見られていたんだね。…ちょっと恥ずかしいな。記憶が正しければ、その時間にその場所で…ボクは男3人相手に奉仕してたはずだ。もちろん、性的な意味での。セックスに熱中していると周りが見えなくなっちゃうから、もし彼が目撃したとしてもボクは気付かなかっただろう。普通の人なら気分を害しそうな光景を目の当たりにしたはずなのに、彼から感情の揺れは読み取れない。本当に不思議な人だなとボクは思った。
「ごめんね? 気持ち悪い所見せちゃったみたいで」
「別に…。秩序なんてとうに崩壊していますから。あの程度のことは日常茶飯事に行われている…。一緒にいた男達はどうしたんですか?」
問い掛けられて、そういえばと思い出す。
「ああ…。セックスの後にボクを置いて廃ビルを出て行った所で、"偶然"向かいの建物が崩れてきてね。…ふふっ。3人とも瓦礫に潰されて、ペシャンコになっちゃった! 彼らについていかなくて良かったよ」
「………。本当にツマラナイ『才能』だ…」
ボクの言葉を聞き、彼は一言そう呟いた。すごい…。さっき会ったばかりだと言うのに、彼は物の見事にボクの才能がどういうものなのかを理解した。まるで最初から答えが見えていたかのように、あっさりと。
「それにしてもご大層な趣味ですね。男と寝るなんて…」
「…穢らわしいって思ったでしょ?」
「さぁ、どうでしょう。あの行為を見ても見ていなくても、僕のあなたへの印象は恐らく変わらないと思います」
「うん…。そうだね」
きっとボクの体からは『男に自分から脚を開く淫乱野郎』ってオーラが滲み出ているんだろう。でもね、最初からそうだった訳じゃないんだ。色々と人生山あり谷ありだったけど、希望ヶ峰学園に入る前まではこれでも純潔を保っていたんだよ。きっと今のボクからは想像もつかないかな。
彼は波の揺らぎを楽しむかのように目を閉じている。どんな才能を持っているのか分からないけど、途轍もなく大きな何かを秘めている人。ボクが彼に興味を抱く一因は恐らくそれだ。だけどそれだけじゃない。髪に隠れている輪郭のラインとか男らしいゴツゴツとした手とか少し高めの声とか…。彼の持つ小さな欠片1つ1つが琴線に触れ、ボクに『彼』を想起させる。
埃っぽくカビ臭い体育用具室、傷付けられて体に走る鈍い痛みとそれを慈しむように撫でる優しい手…。胸の内に仕舞い込んだボクの忘れられない思い出だ。目の前の彼にそれを吐露したくなって、ボクは考えるより先に口を開いていた。
「ねぇ、お願いがあるんだけど。もし良かったら…、ボクの話を聞いてくれないかな?」
「……あなたの話を?」
「あ、ごめん。聞いてくれだなんておこがましいよね。その…勝手に話すから、聞き流してほしい」
「………」
物言わぬ深紅の瞳がこちらへ真っ直ぐ向けられる。船が軋む音がふいに遠のいた。その赤から目を逸らせない。何故、ボクはこの人に話したいと思ったんだろう? 今まで誰にも話したことなかったのに。ぎゅっと膝を抱えながら、ボクは少しずつ話し始めた。


……
………

季節は秋で、オレンジ色の暖かい夕焼けの熱が体を優しく照らしていた。でも素肌を撫でる風は凍るほど冷たくて、ボクは鳥肌が治まることがなかったのを覚えている。体が…固まったまま、動かない。
「ん……ぐっ……、っ、…んぅッ……〜〜〜っ!」
喉の奥までガツガツとペニスで突かれ、餌付きそうになるが、目の前の男は腰の動きを止めない。胃が変な動きをした。
「あ…、でる、出る…、……うっ…!」
ジュボジュボと突き立てていたそれをボクの口から引き抜き、相手が小さく呻き声を上げる。ピシャリとボクの顔に生温かい液体が飛び散った。髪から頬にねっとりとした白が垂れていく。臭い、汚い、予備学科の精液だ…。すごく、気持ちが悪かった。才能すら持たない、希望ヶ峰学園の最下層に位置する予備学科。そんなものには1秒たりとも触れていたくない。ボクは顔を背けて、思いっ切り咳き込んだ。
「ゲホッ、かはっ、はー、…うぅ……、あ、…ぁ…っ、」
「いやー、出した出した。次、誰よ?」
「オレ。もう脱がして良いよな?」
ニヤリと意地悪く笑ったもう1人が、ボクの制服を脱がしていく。抵抗が無駄に終わることなんて、初日に思い知らされた。ボクは体力に自信はなかったし、何より相手は4人もいる。外は静かだった。ボクに近付いていく男の短く呼吸を繰り返す音だけが鼓膜に響く。ああ、こんな奴らに好き勝手にされるなんて…最悪だね。言い知れない悔しさからか体に僅かに力が戻り、地面に突いた掌に砂がジリジリと減り込んだ。
放課後の体育用具室で、宴が密かに行われている。誰も来ない。誰も気付かない。バカのクセに、こういう場所を探し当てる時には何故か頭が回るんだよね。
「外ってスリルあるよなー。しかも学校って!」
先ほどボクに顔射を食らわせた奴が、ズボンを上げながらバカみたいにゲラゲラ笑う。


どうしてこんなことになっちゃったんだっけ? そうそう、彼らと出会ったのは学園にある中央広場だった。ボクはあの場所が結構気に入っていた。噴水のある場所は人が多くて落ち着かないから、大きな木が木陰を作っている隅の方の芝生に座って、1人静かに本を読むのが好きだった。前は別の場所にあるベンチを利用してたんだけど、先客がいたり、読書に夢中になって長時間座っているとおしりが痛くなったりしたから、芝生の上で読むことにしたんだ。気味の悪い虫なんていないよ。希望ヶ峰学園は植木の手入れも行き届いているからね。唯一欠点があるとすれば、中央広場は本科専用ではないことかな。制服が似ているからパッと見じゃ分からないけど、この中にのうのうと闊歩している予備学科がいるんだろうなって考えると、本当に腹が立つ。
…ああ、話が戻ってごめんね。もうキミなら分かってると思うけど、本を読んでる時に声を掛けられたんだ。「お前が今年の幸運か? ちょっと話があるからついて来い」って。ボクみたいなゴミムシに用事があるなんて、酔狂な人もいるんだね。その時のボクは深いことを考えずに話し掛けてきた男子についていくことにしたんだ。他の超高校級とは比べ物にならないくらい地味だけど、ボクはこれでも『幸運』という才能を持っている本科生だ。もし予備学科生だったらこんな風に気安く話し掛けられないよね? 今思えば彼らを過大評価しちゃってたみたいだけど。

結局のところ、気に食わない人間を校舎裏とか屋上とかトイレに呼び出すアレだった。あはっ、昭和の学園ドラマみたいだね。見たことないけどさ。目の前に敵意を持った男子生徒が4人。壁際に追いやられる定番のシーンだ。ボクは腕っ節に自信がないから、絡まれても波風立てずにどうにかするべきだったんだけど、その時は地味に頭に血が上ってたんだ。だって静穏なる読書の時間が奪われたんだよ? しかも予備学科なんかに! 頭にきて当然だよね…。
「お前なんて、ただ抽選で選ばれただけだってのに…! 幸運が才能だって? バカにしてんのか?」
「…そうだね。幸運が才能って良く分からないよね。ふふ…、ボクもそう思うよ。でも希望ヶ峰学園が選んだんだから、文句があるなら、ボクじゃなくて学園側に言えば良いんじゃないかな?」
「てめぇっ!!」
ボクの提案にリーダー格っぽい奴が目を血走らせる。そしてボクの左頬に衝撃が走り、脳みそが揺れた。遅れてジンジンと痛みが伝わってくるのを感じて、殴られたことを理解した。ピリピリと残る痺れに耐えながら正面に向き直ると、「ふーっ、ふーっ」と毛を逆立てた猫のようにそいつは怒り狂っていた。反論があるなら口で返せば良いのに、すぐに暴力に訴える。これだから予備学科は…。
「いつまでも良い気になってんじゃねーぞ? 本科様…」
耳元でそう囁かれる。熱っぽい吐息に鳥肌が立った。ボクって本当に不運だな。でも別に構わない。だってすぐに幸運が来てくれるんだから!
殴られて、蹴られて…。持っていたお気に入りの本もビリビリに破り捨てられた。バサバサと無残に落ちていく紙片を見て、『ごめんね』と心の中で謝る。可哀想なことをしてしまった。服が汚れようが、痣が残ろうが、それだけならまだ良かった。下手に抵抗して、余計に痛めつけられたくない。尻餅を突いたボクは嵐が過ぎ去るのを静かに待つ。でもふと誰かが言い出した言葉に、場の空気が変な方向に動いた。
「…おれ、こいつならイケるかも」
一瞬のざわめきの後に、ボクは8つの瞳でねっとりと舐めるように見つめられる。その時、ボクは初めて本能的な恐怖を感じた。今まで決して向けられることがなかった雄の視線に、ゾゾゾッと怖気が走る。逃げなきゃ…。よろりと立ち上がり、フラフラの足で逃げようとするも無駄だった。すぐに反応した1人にボクは倒され、引き摺られるように近くにあった体育用具室に放り投げられた。
「はな…っ、離せ…!! ボクに、触るな…っ」
「天下の本科様は汚らしい予備学科に触られたくないって? ははははは…っ」
腹を抱えて笑うリーダー格。その両脇から別の2人がニヤケ顔でボクに近付いてくる。首筋から胸にかけて、厭らしい手付きで撫でられて、吐きそうになった。3人とも自分の股間を膨らませて、鼻息荒くボクを見ている。男相手に勃ててるなんて、頭がおかしいよ。
「……きもち、わるいんだよ」
「何だって!?」
乱暴に胸倉を掴まれ、ボクはそれっきり口を閉じた。ボクを犯すんだろ? だったらさっさと吐き出せよ。キミ達の汚い精液をさ。服に、体内に、顔面に。ベルトを外されて、パンツごとズボンを下げられる。少しは期待してた。ボクにだってペニスはついているんだから、それを見て正気に戻ってくれるんじゃないかって。でも1度入ってしまった性欲のスイッチはそう簡単にはオフにならないらしい。
「挿れるぞ…。くっ…」
「うぁっ……いたっ、……う、ぁ…痛い、痛いよッ…やめ、っあ」
前戯もそこそこに、1人目がいきり立ったグロテスクなペニスをボクの中に無理やり捻じ込んでくる。もう1人は口の中に入れてきた。上手に息が出来なくて苦しいけど、ボクは体を劈く痛みにじっと耐えた。早く終わってよ。そしたら幸運が来るんだ。こんな不運がちっぽけだと思うくらい、素晴らしい幸運がボクに訪れる…! 信じられるのは己の才能だけだ。
「ぅおおおおっ!! すっげキモチ〜! ア〜っまたイクッ、イクイクーーッ…ッぁ、ああ〜」
ガツンガツンと体を打ちつけられ、ボクの頭はセメントブロックに擦りつけられる。相手が動物のような雄叫びを上げながら、精液をボクの中へと発射させた。アナルはグチュグチュと音を立てて、男の一物を飲み込んでいる。ブピュッブピュッと溢れ返った精液が隙間から染み出して、砂に白濁が混ざっていった。
「…ん……、ふっ、…ぐ、…ッんんん、……!」
「く…、も、イク、…、あっ、…うぅッ…!」
口を突いてた奴がボクの顔に精液を撒き散らす。引き抜かれたペニスが目の前にあって、噛み千切ってやりたい衝動に駆られる。でもそんなことを考えられたのも一瞬で、今度は別の奴に鼻を抓まれ、口を開いた隙に別のペニスを突っ込まれた。髪を掴まれ、ジュポンジュポンと腰を打ちつけられる。しばらくの律動の後、口内に温かいぬるぬるの何かが広がった。苦みと酸味が混じり合った変な味だ。最悪…。
「おいおい、マジケツ穴キモチーん? ちょっ、こっちと代われよ!」
「待てよ…っ。もう1回、イキそーだから。…あ、アアあぁッ! 出る、出る…っ!!」
抜かないまま、また熱い液体が体内に注ぎ込まれる。もうアナルの周りの感覚がない。でも精液が体に染み渡るのは感じ取れた。全ての欲望を出し切ると、入れ替わりに別の奴がボクの空洞を埋める。
「入れっからな。…ぅおッ! スゲぇ〜。絡みついてくるぜ…っ」
「…ふ、ぅう……、ぁ……やっ、…んぐ……、あ、あぁ…」
「これっ、ヤベぇよ…ッ、アっ、サイコー!」
繋がっている部分が焼けるように熱い。皮肉にも最初の奴が中出しした精液が潤滑剤の代わりになったし、ボクのアナルはこの短時間に少し拡がってしまったようだ。確か無理矢理挿れられて血が出たような気がしたけど、今は痛みも感じない。ズルリと引き抜いたエレクトしたそれを顔面に擦りつけられる。しばらくしてそいつは唸り声を漏らしながら、ボクの顔に生温かい液体がビチャビチャと放った。
「…次、オマエの番だろ」
上擦った声が頭の上から降ってきた。ああ、まだいるのか。才能もないクズのくせに数だけは多いんだよね、予備学科って。するんだったらさっさと済ませてほしい。もうボクには抵抗する力も残っていなかった。関節人形のように首を持ち上げた先に、ボクは初めて4人目を認識する。天井近くの窓から夕日が降り注いでいた所為で、逆光だった。同級生2人の陰に隠れてて見えなかったけど、制服を着た黒いのっぺらぼうがこちらを見ている。誰も動かない。一瞬、時間が止まったのかと思った。
「なーに固まってんだよッ。早くヤっちゃえって。ほらほら」
「でも…、俺…」
「いーじゃん。こんなん童貞捨てた内に入んねぇって! オナニーと一緒っつーの」
「ソレ言えてるわ。キモチいんならどれも変わんねぇよ。こいつはキモいけどな」
ギャハハッと唾を飛ばしながら、股間丸出しで腹を抱えるバカ3人。そんな中最後の1人は、静かにボクを見つめていた。
「こいつ、女みてぇに体細いしー、ケツ穴すげぇ締まるしー」
「アハハ! いつまで持つか、タイムでも測る〜? って何だよオマエー!」
「まーだヤってねぇのかよー。早くしろって!」
背中をドンッと押され、ボクの目の前に佇むそいつ。光が翳って、彼の顔が確認出来るようになった。特徴らしい特徴が特に見受けられない平々凡々な顔立ちの男子生徒だった。強いて挙げるなら、焦げ茶色の短髪からクセ毛のような髪が飛び出ているくらいだ。目尻を下げた悲しそうな表情に、ボクは段々と苛立ってきた。…何だよ、見るなよ。ボクをこんな目に遭わせたのはお前らだろ。なのに後から憐れむなんて卑怯だ…。やがて覚悟を決めたのか、彼はボクの視線に合わせて跪き、真正面からジッと覗き込んできた。枯葉色の瞳が悲痛さに歪んでいる。
「………」
無言のまま、静かに頬を撫でられた。少し汗ばんでいる掌がボクの顔に掛かっていた精液を拭う。綺麗になった満足感からだろうか、相手はホッと安心したように顔を緩ませた。でもそれだけでは終わらずに、尚も彼はボクを撫で続ける。さっきまでとの乱暴な扱いとは真逆の優しい労わるような手付きに、ゾクゾクとボクの背筋が反応した。
「何かこいつ勃ってねぇ? 感じてんの? ウケるー!」
「そういや、写メ撮ってなかったな。記念撮影しようぜ」
周りから電子音が聞こえて、撮影してるのが分かる。全体から、顔や局部をズームして、好き放題だ。煩い外野はお構いなしに、ボクを抱くそいつは首筋にちゅっちゅとキスを落としていく。何だろう、こんなの今までに感じたことがない。触れられた所が熱くなる。
「んっ……あぁ、…ふぁ……んぁ、う…、っ」
口付けは下へ下へと下りていき、乳首を舌でなぞられる。ちゅうっと吸われると、ビリビリとした心地好い刺激が体に走った。乳首なんて触られても何も感じなかったのに、どうして…? 思わず相手の顔に手で触れると、彼は目線だけでボクを見てきた。舌で乳首を舐ることは止めない。ボクははぁはぁと息を切らしながら、彼の舌先から生まれる不思議な感覚に身を委ねた。
彼に体を触られて、ボクのペニスは何故か大きくなっていた。あいつらは男の象徴なんて好き好んで触ってこなかったけど、彼は空いてる手でそれをやんわりと握ってくれる。浅ましいボクの欲望はゆるゆると膨らみ、溢れ出てきた先走りでくちゅんくちゅんと卑猥な音を響かせた。これって、レイプ…だよね? どうしてボク、感じてるの?
「………っ」
いよいよ挿れられる時になって、頭を抱かれた。壁にぶつけないようにとの配慮かもしれない。ただ苦痛に耐えるだけの性行為に、ジワリと何かが染み込んできた。彼のペニスはこの中の誰よりも大きくて立派だった。ボクを労って憐れんでいるクセに、しっかり興奮してるんだ。彼に目で「入れるぞ」と訴えられた気がして、ボクは言葉もなく首を上下に振る。
「はぁ…、ぁ…、ふっ……ン、んんっ、んぅうう…!」
メリメリとアナルが割り開かれる。染みるような内側の痛みにボクは目を瞑った。ぐぐっと中に攻め入られ、お腹が苦しい。ズブズブと進んでいき、彼のペニスが奥まで突き刺さった。ボクのアナルが限界まで拡がって、浅黒いペニスを飲み込んでいるのが見える。
「あっ……、っ…、ん、……ふぁ…っ!」
ずっと無言だった彼が初めて声を上げた。息を荒げながら、信じられないといった表情でボクの顔と結合部分を交互に視線を動かしている。もしかして、初めてだったのかな? 眉間に皺を寄せて、苦しげに呻きながら、彼は腰をゆっくりと動かし始めた。緩慢な動きで翻弄され、ぐちゅぐちゅと中をかき混ぜられる。時折意識を失ってしまいそうなくらいに、気持ち良いと感じる時がある。最奥のある1点だ。そこを硬いペニスで突き上げられると、体がふわりと浮かび上がるんだ。表現出来ない気持ち良さに、ボクはただ熱い息を漏らした。
「はぁ、…、あ、ハッ、はぁあッ、ん、はぁはぁ…!」
「ぅ……クッ」
数秒も経たない内に精液を吐き出し、そいつはずるりとペニスを引き抜いた。足元が覚束なかったが、膝に手をついてふらりと立ち上がる。ボクは更に疲労して、指先1つ動かせなくなっていた。
「明日も集合な」
「あー、もー腹減ったー」
「今何時だよ?」
好き勝手言いながら背中を向ける3人に対し、最後に抱いたあいつだけはボクのことを見つめたまま、呆然と立ち尽くしている。でも頭を下げるでもなく何かを言う訳でもなく、そのまま逃げるように体育用具室から出て行ってしまった。…何だよ、ふざけるな。ボクが幸運だから? だから避けようもなかった? 何で、ボクが。ボクは……。
「うぅ…ふっ…」
胸を押し潰す、言いようのないこの気持ちは何だ。あいつらは何も感じないのか。目からはダラダラと涙が流れる。顔に残った精液と合わさり、不快なベタつきを残す。止めどなく溢れるそれは、徐々にこびり付いた粘液を溶かしていった。
大丈夫、大丈夫…。これから幸運が来るんだ。ボクの信じる、ボクだけの才能。これは絶対なんだ…。
「死ねば、いいのに……っ」
漸く動けるようになった時には、辺りは既に真っ暗になっていた。体を引き摺りながら、ブツブツと呪いの言葉を吐く。柔らかい月の光に心が洗われるようだと感じたのは初めてだった。

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02.承
1週間経っても、悪夢は終わらなかった。学園から生徒1人1人に配布されているスマートフォン。そこには生徒専用のイントラネットSNSアプリが入っていて、それを利用すれば学番だけで連絡を取り合うことも可能だった。最近の世の中って便利だね。でもそのお陰でボクはあいつらに写真をネタに脅されて、また体育用具室前に呼び出されてしまった。
「…おい、脱がせろ」
リーダー格の奴がもう1人に指示した。腰巾着的な存在の2人目はボクの制服に手を掛ける。陰鬱な目で睨み付けると、その男はニヤニヤと笑いながらブレザーを脱がせ、内ポケットに入っていた希望ヶ峰学園の指輪を取り出した。
「さっすが本科様! 学園に対する忠誠心の高さはオレら予備学科とは違いますね〜」
指輪をしげしげと眺めていたそいつはリーダー格にポイッと投げて渡し、ブレザーのジャケットをバサリとボクの方に投げ付ける。
「かっ、返せよ!!」
指輪を奪われて、ボクは半狂乱で相手に掴みかかろうとするが、片手でいとも簡単にいなされてしまった。
学園から入学式の時に貰ったスクールリング。指には嵌めてなかったけど、それはボクの宝物だった。初めて手にした時、希望ヶ峰学園の一員になれたんだなって誇らしくて、失くさないようにいつも大事にブレザーの内ポケットに入れていたんだ。リーダー格の奴は指輪を鼻で笑い、ズボンのポケットに仕舞った。嫌だよ、返して…。ボクの…、ボクの希望なんだ…。悔しくて、涙がポロポロ零れてきた。
「あーあ、泣いちゃった〜。そんなに返してほしいか? ん? ん〜?」
「うっ…、かえ、し、ひっ…く……ッ、んっ、…ふ、う…」
そんなボクの様子を、傍で立ち尽くしている4人目がジッと見つめている。その視線が居心地悪くて、ボクは彼と目を合わせられない。スラッとした体躯で、ネクタイをキッチリ上まで締めている。染めていない髪と真面目そうで地味な雰囲気。パッと見だと模範生然とした風貌で、他の奴らとつるんでいるのが不思議に見えた。
「何、帰ろうとしてんだ?」
後ずさりするボクをガシッとリーダー格の手が掴んだ。もう1人はもう興奮しているのか、舐めるようにボクの体を見回して、息を荒くしている。校庭からはこの場所は見えない。誰も助けてくれない…。
「さ、行こうかー」
両脇を2人にガッチリ押さえられ、引き摺られるようにして歩かされる。ボクは嗚咽を零しながら、地獄の門を潜った。


閉じられた体育用具室は、埃っぽくて土の匂いが纏わりついてくる。3人に囲まれ、ボクは仕方なくマットの上に座った。臨戦態勢なのかズボンは下がっていて、ギンギンに反り返ったペニスが晒されている。
「ぁう、…ふ、ム……、んっんっ…」
「ん……、ぃいぞ。舌もっと絡めて…。そう…」
頭を押さえつけられ、ペニスを口に入れられると、ボクは無意識に舌を這わせてしまう。作り変えられたのかもしれない。反吐が出るくらい大嫌いなこいつらに。口と右手と左手にペニスを1本ずつ。両手を機械的に動かしながら擦って、頭を激しく動かして、ペニスをチュボチュボと音を立ててしゃぶる。何も感じなければ良いんだ。さっさと精液を出させて、満足させる。その一心でボクは先端を舌で突っつき、出てきた先走りをペロペロと掬いあげる。もちろん両手のペニスを可愛がるのも止めていない。上下に扱いて、感じそうな部分を擽ってやると、気持ち良いのか彼らは息を荒げた。
「んっ、む、〜〜〜っ、ふ、んんっ、ん、」
フェラの合間に、外れてしまった4人目を横目でチラリと盗み見る。彼は体育用具室の扉に背を預けて、こっちをチラチラと気にしていた。少し顔を赤くして、下半身を膨らませている。本当は仲間に入りたいのかな? 彼はいつもそうだった。積極的にボクを犯そうとはしない。他の奴に促されて、初めてボクを抱くのだ。
「ァ、…なぁッ、こっちも…!」
髪を引っ張られ、次は右手のを舐める。慣れって恐ろしいよね。憎み切った同性の性器を何の戸惑いなく、口に入れてしまうんだから。チュバチュバと吸い上げて、鈴口を刺激してやると、そいつはあっさりと射精した。白濁が勢いよく口の中にぶちまけられる。
「エロくなったなぁ、オマエ。イイコイイコ」
頭を撫でられて、鳥肌が立った。少しだけ心の奥底がざわめいたんだ。こいつらを嬲り殺したい衝動に。
「痛…! 歯立てんなよ、バカ!!」
腰を引いた相手がボクの横っ面を平手で殴った。それを受けられないくらい弱いボクはあっさりとマットに倒れ込む。リーダー格はその状況を鼻で笑い、ボクのYシャツのボタンを1つ1つ外していく。引き千切られないことに内心安堵した。ボクは裁縫が得意ではない。シャツを開かれ、露わになった肌に彼は満足そうに手を滑らせた。
「ホンット、肌すべすべだよなぁ。Hして新陳代謝活発になってんじゃね?」
「言えてる。ってか冗談抜きで、精液って美肌効果あるらしいぜ!」
「マジかよ。つーか、狛枝ちゃん泣いてるし」
「早く突っ込んでほしーんだろ」
何、大笑いしてんだよ。ボクは全然楽しくもない。乱暴に足を広げられ、入口に熱い物が宛がわれた。ただそれだけのことなのに、性行為に慣れてしまったボクのアナルはヒクヒクと収縮を繰り返しながら、ペニスを受け入れようとしてしまう。
「んぅ……ふっ…ぅ、」
「ぁああー…、相っ変わらず…よく締まる…ッくぅ、」
男が抜き差しを繰り返すと、ボクの内側は熱を帯びてきた。それはどんどん広がってきて、体を覆い尽くし、汗が滲んでくる。ヌプヌプと肉壁を擦られ、ボクは息を切らしながら、荒々しいピストンを受け入れた。
「ヤベぇ。やっぱキモチいー…。なぁ…っオマエも、感じてんだろ?」
「あ、あ、ハァ…。ぃや…アアッ…」
「前は声すら出さなかったのに進歩したよなー。ま、開発したのオレらだし。感謝してほしいくらいだって。な?」
相手は最後の問い掛けで、グッと腰を押し入れてきた。アナルの1番奥までペニスの先端を深く突き入れられ、ボクは悲鳴を上げる。堪え切れない痛みに懇願の視線を投げかけても、相手は笑いながら律動を繰り返すだけだ。
「い、たい…! うぅぅ……ン、はぁ、ひ…ひぃぃアぁぁッ! っひっんんッ…あぅ…やめ、深いぃ…!」
「…はは、感じてきてんじゃん」
鼻で笑って吐き捨てられた言葉。にゅちゅにゅちゅとアナルを拡げられ、痛みとは違う何かが体中を這い回る。
「ンんッアッ…んひぃ……っ。ん、あっあっ! なに……アアアッ!」
内股を押さえられ、奴が体勢を変えた所為で、あられもしない部分が丸見えだ。腹を抉るように突き上げられ、体が痺れて反り返る。こんなの、知らない。ボクは、知らない。乳首を摘ままれ、意識が飛びそうになる。快感を無理矢理絞り出そうとしているような嫌な感じだ。
「うぁあ……い、ぁぁ…っひ、…ぐ、……や、ぁ…ッ!」
「ハハッ…こいつ、イクんじゃね? チンコめっちゃ勃ってる」
イク? イクって何だよ。こんな奴らに犯されて、ボクが快楽を得られる訳がない。開けっ放しの口にまたペニスが突っ込まれた。舌を這わすなんてそんな余裕はない。涎が垂れるだけのその穴に2人目がピストンをしてきた。上を向いて、ペニスで喉を突かれるのは苦しい。でもそれ以上に体が熱かった。前も後ろも焼き切れそうなくらい。
「んんッ…むぅ…ん……ンんッ! …ア、!!」
「あっ、いく、いく、…ッ、ぅおおおお…っ!!」
口からペニスが引き抜かれ、思いっ切り顔射される。毎日精液を体に撒き散らされているからか、色は薄い。とろりと流れた青臭いそれは、目元から零れて頬を伝う。ボクの後ろを犯している奴がニヤニヤしながら、後ろを振り向いた。体育用具室の扉にいる4人目に呆れたような声を投げ掛ける。
「日向、お前またそんなとこに…。ほら、早くヤれよ」
「………いや、俺は…っ」
「何良い子ぶってんだよ。お前が1番才能に憧れてたんじゃないか。悔しいだろ? あんなに努力してんのに、報われなくて…。代わりにこんなモヤシみたいな奴が、何の苦労もなく"超高校級の幸運"になれてんだぜ? おかしくないか?」
"才能"。その言葉を聞いた途端、日向と呼ばれた彼は顔に影を走らせた。ぐっと拳を握り締めて、ボクに憎しみの籠った視線を送る。歪み切った枯葉色の瞳。ボクに対して憐れみを抱いていた時とまるで違う。ぐちゃぐちゃと汚らしい憎悪と加虐心を混ぜ込んだ醜い色をしていた。底知れない闇が彼の瞳の奥に透けて見える。
2人目と入れ替わりに、『日向』がこちらにやってきた。半開きにした口から荒い息が漏れている。もたつく手でベルトをガチャガチャと外し、ズボンを下ろすと『日向』はボクの顔を跨いで腰を沈めた。大きくぶら下がったペニスが降ってきて、丁度鼻の上に毛に覆われた双球が柔らかく置かれる。彼のを口に入れたことは今までなかったかもしれない。ボーッとしている内に、『日向』は69の要領で、ボクのペニスにそっと口付けた。
「ひぅ……!」
行き場のない熱が出口を見つけたみたいに、食い留められていたモノが溢れ出す。その時に後ろを締めてしまったのか、体内に収まったリーダー格の奴のペニスが容積を増した。呼吸を乱しながら強く最奥を突き、ボクの中にドロドロの液体を発射させる。
「ぅおおっ! まだ出る…ッ! あああっ、射精が、止まんねぇよ!!」
「ひっ…ふっくぅぅ…! あ、アンっ! はげし…ッ! はむ、んんんっ!!」
ガクガクと揺さ振られ、ボクは喉を仰け反らせた。目の前にあった『日向』のペニスを反射的に口に含み、先端をペロリと舐める。
「ぅ、」
少しだけ彼が反応した。それが面白いと感じたボクは半分壊れていたに違いない。丁寧に口の中で揉み込むと、ペニスが硬さを増して、喉に突き刺さる。ボクのペニスを舌で転がす『日向』。見えてないけど、それを脳裏で展開するだけで眩暈がした。気持ちいいのだろうか。腰もユラユラ動いている。でもボクに余裕があったのはここまでだった。
「ひゃううう…ッ!」
欲望を吐き出したリーダー格と入れ替わりに、3人目のペニスがボクのアナルに突き刺さった。先に放った精液のお陰ですんなり侵入を許してしまい、あの痺れるお腹のポイントをチュグチュグと突かれる。頭がおかしくなりそうだ。全身が熱く、ビクビクと痙攣する。挿れられたペニスをぎゅうぎゅうに締めつけ、ボクは頭を振り乱した。気持ち悪いのに、嫌なのに、…感じてしまう。
「ぃやあ…、ああッ!! あああ、や、んん、ひ、ぎぃいっ!!」
口を離して、ボクは悲鳴を上げた。『日向』がボクのペニスを飲み込んで、ヌルヌルした口内でベトベトに舐め上げる。唾液が滴る少しざらついた舌で裏筋から皺まで撫でられ、ゾクゾクと背筋が逆立つ。それからはもう夢中だった。ボクは我を忘れて、『日向』のペニスを舐め回した。
「んんう、むぅ…チュク、ジュブッ…チュブチュッ!」
ボクの口からは2人目の精液と『日向』の先走りが混ざり合った水音しかしない。『日向』の舌使いも腰の動きも速くなる。競い合うようにボクも舌を激しく動かし、『日向』のペニスをしゃぶりまくった。じゅぽじゅぽという口淫の音が鼓膜に反響する。
「お前のケツ穴は…っ、オレらのなんだからな!! この淫乱、」
「チュプっ、ん…、んん、グチュ、じゅるじゅる…ッ」
「だすぞ、だすぞぉおおお! しっかり受け止めろよ! く、アアアアアっ!!」
熱い液体がアナルの奥の奥まで注ぎ込まれた、その時だった。じんっとした痺れが最高潮に達して、ボクは『日向』の口の中に出してしまった。連鎖するように、あいつもボクの喉に射精する。初めて、イってしまった。この狂宴の中で。今までとは違う脱力感。足が震えて、下半身の感覚がない。これが、快楽というものか? 跨いでいた胴体を退けられ、視界に映ったのは嘲笑うような表情のリーダー格だった。勃起したペニスを、擦りながらボクの顔に近付ける。
「オマエ、もう戻れないかもな…っ」
鈴口がひくついているのが分かる。ビュルッ! 咄嗟に目を瞑ることが出来ず、ボクの世界は真っ白に染まった。

「帰ろうぜー」
ゴソゴソと衣服を正すと、奴らはダルそうに体育用具室の扉を開ける。外は案の定暗くなっていた。ぞろぞろと3人が出て行き、用具室内はボクと『日向』だけになった。埃と土の匂いに、精液の臭いが加わったこの空間で。
「………」
まただ。ボクを憐れむように見つめてくる。その視線が一層ボクを惨めにするんだ。覚束ない動きでシャツのボタンを留めようとするボクを見て、『日向』は地面に落ちていたジャケットを拾い上げる。差し出されたそれをボクは引っ手繰るように受け取った。
「……ごめん」
「………」
何がごめんだ。許さない。ボクは、必ず、お前らを…! 目頭が熱くなり、涙がじわりと溢れそうになる。視界がぼやける。何を泣いてるんだ、ボクは。こんな奴の前で。さっさと出てけよ、下衆め。そう言いたいのに、ボクの体は言うことを聞いてくれない。ただポタポタと白濁が口から零れるだけ。ボクは土で汚れたマットを力強く握った。涙は止まらなかった。
「狛枝…」
近付く手の気配を感じ取って、パンッと叩き落とす。レイプした張本人であるキミが、ボクに同情だって? 笑っちゃうね。『日向』は苦しそうな顔で叩かれた手をじっと見ていた。2人の間に沈黙が落ちる。『日向』は黙ったまま立ち上がり、1度は振り返るも用具室を出て行った。そしてボクだけ残された。今日もやっと終わった。1人になり、ボクはガクリとマットに横たわる。
体がくたくたに疲れて、立つことが出来ない。ちょっとだけ眠らせて…。そう心の中で呟いて、目を閉じようとしていた所で、ガラッと体育用具室の扉が開く。鉄の無機質な灰色の向こう側に、夕闇と夜が混じった逢魔が時の空の色が見えた。そこに立っていたのは、さっき出て行ったばかりの『日向』だった。
「……、な、何…? ボクを…、笑いにでも来たの?」
「違う」
彼は静かに首を振って、それを否定した。何で戻ってきたんだろう? もしかして犯し足りなかったとか? はは、今日はまだ終わってなかったんだね。でも1人くらいならそこまで疲れないかな。ボクは溜息を吐いて、鬱蒼と体を起こした。
「…ヤるなら、早くしてよ」
「っ!! お、俺は別に、そんなつもりじゃ…っ」
「……じゃあ、何で戻ってきたの?」
「体を綺麗にした方が…良いかと思って…。お前、動けないだろ?」
何を言ってるんだろう、こいつは。今まで散々好き放題に犯してきたくせに、偽善者気取りでさ…。ここで優しさを垣間見せて、ボクを手懐けようという魂胆かな。いずれにしろ、ボクはこんな奴に心を開いたりなんかしない。
「…余計なお世話だよ。そんなの必要ないから。ボクのことは放っておいて…」
「タオル、濡らしてきたから。俺のことはどう思っても良い。……体、拭かせてくれないか?」
「………」
ボクが黙っていると、『日向』は了解と受け取ったのか、マットに膝を突いた。そして手に持った濡れタオルでボクの顔をそっと拭った。火照った体にひんやりとした刺激が走る。
「冷た…っ」
「あ…、悪い。そこの水道、お湯が出なくて…」
申し訳なさそうに彼は俯いて、今度はボクの首筋をタオルで拭いてくれる。気持ち良い。胸や腹、下腹部。予備学科の汚い精液を全てタオルで取り去ってもらって、ボクは爽快感から目を閉じた。
「その…、狛枝。下、も…、拭いた方が、良いと思うんだけど」
「? …ああ。散々中に出されたからね」
「……それは、自分でやってくれないか? 俺みたいな予備学科にされるの、嫌だろ?」
「日向クン、だっけ? キミが綺麗にするって言った以上、最後まで責任を持つべきなんじゃないかな?」
ボクが足を広げてアナルを見せつけると、彼は顔を真っ赤にして、「わ、分かった…」と震える声で頷いた。69なんて大胆なことをしておいて、意外と初心なのかもしれない。日向クンは恐る恐る精液の滴る穴に指をつぷりと埋め込んだ。
「んっ…、ふ…、」
「こ、狛枝…!? ごめんっ、痛かったか?」
「大丈夫だよ…。良いから、早く掻き出して、よ…」
ぷぴゅっぶちゅっ…。くの字に折り曲げた日向クンの指が抜き差しされる度に、中に出された精液が卑猥な音を立てながら、マットに染みを作っていく。最初こそ日向クンは恥ずかしそうに指を動かしていたけど、やがて真剣な表情で精液を掻き出してくれた。ボクは声を漏らさないように必死だった。すごく気持ちが良いからだ。くにくにと肉壁を優しくマッサージされるこの感じは、まるで小さな快楽の波に揺られているようだ。
「…これで、全部出せたと思う、けど。…狛枝?」
「え、あ、…ああ。……ありがと」
迷いに迷って、ボクは日向クンにお礼を言った。レイプの被害者が加害者に「ありがとう」ってありえないよね? でも何となく言いたかったんだ。ずっと辛くて重くて暗い道を1人で歩いてた。1人ぼっちのボクに手を差し伸べてくれたのは、日向クンが初めてだったから。うーん、ストックホルム症候群? それとも、これが幸運なのかな? こんなショボい幸運じゃ割に合わないんだけどな。そう考えながら日向クンを見上げると、彼は目を細めて穏やかに微笑んでいた。


それ以来、レイプされた後に日向クンが残ってくれて、彼がボクの体を綺麗にすることが暗黙の了解になった。日向クンは口を開けば謝罪の言葉ばかりで、「もう謝らないで」とボクが説き伏せて、漸く彼は黙ってくれた。それからどちらが口火を切ったか忘れたけど、ボクらは少しずつ話をし始めた。日向クンは本科の話を聞きたがった。どういうカリキュラムが組まれているのか、どんな才能を持つ人がいるのか。それからボクの才能のことも…。

「…とまぁ、こんな感じかな。色々あったけど、こうしてボクは希望ヶ峰学園に入学出来たんだ。…あれ? 日向クン、顔色が悪いよ?」
隣に体育座りをしている日向クンは顔が真っ白になっていた。首を傾げるボクに彼は泣きそうな顔を向ける。
「……狛枝。…お前、何で笑っていられるんだ? そんな辛い目に遭ってきたのに、どうして、」
「ん? どうしてって…。ボクには才能があるからね! 不運の後にはね、必ず幸運が来るんだよ! これは…絶対なんだ…」
ボクに纏わりつき、決して離れることのない幸運。もちろんその才能を恨んだりもした。だけどどうしようもないんだよね。ボクは一生『幸運』と付き合っていかないといけないんだ。信じるしか、ないんだ…。日向クンはボクから目を背けて黙っていたけど、やがて絞り出すように声を発する。
「…遺産が幸運なのか? 宝くじが幸運なのか? …それが、両親の死と釣り合うほどの…幸運?」
「そうだよ? 当たり前じゃないか。ボクが超高校級の幸運たる所以さ。…何でそんなこと聞いてくるの? 変な日向クン」
ボクの言葉を聞いた彼は唇を噛んだ。「狛枝…」と名前を呼ばれ、何を言われるかと待っていたけど、その後は続かない。
「日向クン…、」
改めて水を向けようとした所だった。日向クンが腕をこちらに伸ばし、ぎゅっとボクの体を抱き締める。男らしいしっかりとした温かい体に包まれて、ボクはただおろおろとするだけだった。ビックリしたけど、別に嫌じゃなかった。日向クンはボクの肩に顔をくっつけて、震えている。
「どうしたの? …日向クン。もしかして泣いてるの?」
…まさか、ボクなんかのことで泣いてくれてるの? 聞いても彼は首を横に振るだけで何も答えてくれない。どうしたものかと考えて、ボクもそっと日向クンの背中に手を回す。
彼と話し始めた頃のボクなら、腸が煮え繰り返っていたことだろう。加害者のクセに同情される筋合いはないって。でも今の気分は不思議と心穏やかだった。自分の才能を自覚してから、ボクはそれを嘆いて泣いたことがない。だって泣いたら、ボクが不幸だと認めてしまうことになるよね? だから絶対に泣かなかった。日向クンはぎゅっとボクにしがみ付き、嗚咽を漏らしている。何だか彼が泣けなかったボクの代わりに泣いているような、そんな気がした。
「ごめん、ごめんな…。っ狛枝…。怖がらせてごめん、傷付けてごめん、痛い思いさせてごめん。ごめんごめんごめん…」
「……ボクなら大丈夫だよ。きっと来るから。幸運が来るから。それまで頑張れる…」
ボクをきつく抱き締めて、彼はずっと泣いていた。ぶつぶつと「ごめん、ごめん」と繰り返し呟いて。ボクは彼が泣き止むまで頭を撫でて、「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせた。幸運はまだ来ない。あれ? ボクの幸運って…。腕の中の彼を見やったけど、すぐにその考えを打ち消す。こんな予備学科のことを一瞬でも幸運と思うなんて。バカみたいだ。ボクはどうかしているね。


……
………

ずちゅんずちゅんとペニスがアナルの奥まで打ち付けられる。ああ、本当に最低だね…! 腰を掴まれおしりを上げさせられて、バックスタイルで獣のようにボクは犯されていた。
「あっ、あッ…! あひぃっ…いッ…んっ、…、あぁ…んッ! あ…はぁあッ」
「いい調子じゃん、狛枝ちゃん…! ほらっ、きもちいかッ!?」
「…んんぅううッ! や、…ぁ…ッふぁ、…いたぁ、ぃ…う、あぁ…ッ! さけ、ちゃうぅ…」
「マジ、やばい…っ! たまんねぇよっ…ああっ、ああッ」
「いやぁ、も、アンっ、いやだよぉ…! あっ、終わってぇ…。はぁっ、はうぅ…ッ」
体を貫く楔がボクの肉を乱暴に抉って、痛みに生理的な涙が出てくる。痛い、痛い痛い痛い…。痛いよ。ボク、壊れちゃう。止めて、お願い…。もう止めて。助けて、助けて…っ!
「く、出る、出るっ! 全部、受け止めろよ…!?」
「やめ…、出さ、ないでぇ…っ! …やだぁ、きたなぃ、予備学科のせいしがぁ、」
「……ううっ、はぁ…!! ああ、すっげぇイイ…。ケツがきゅうきゅういってやがる…、」
「っ!! あっ、はぁう…、でて、るよぉ…。あ…、ああ、ん…っ!」
中にたっぷりと精液を注がれてから、ずるりとペニスを引き抜かれた。アナルを埋めていた熱が出ていき、ぽっかりと空洞が空く。ボクはガクリと腕を崩し、マットに突っ伏した。お腹に力を入れると、中からトロトロと白濁が零れていくのが肌を通して分かった。毎日のように犯されて、予備学科の精子を種付けされている。もしボクが女の子だったら、とっくに妊娠しているだろう。虚しさと遣る瀬無さに、ボクは惨めにもその場で泣き崩れた。
「う、うぅ……。やだ、っやぁ、だ…。ひっ、く…うっ、も、中出し、やらよぉ……!」
「日向、お前行けよ。……今日まだ1回もシてないだろ?」
日向クンの名前が聴こえて、ボクはピクリと体を跳ねさせた。今まで何回もレイプされてきたけど、彼とのセックスが1番マシに思えた。乱暴にボクを犯す他の奴らと違って、日向クンはいつも優しくボクを抱いてくれる。彼に抱き締められると温かくて安心して、全てを委ねてしまいたくなるんだ。認めたくないけど、ボクはきっと彼に対して、特別な感情を抱いている。
「狛枝……」
「…あぅ、ひぁたクン……」
振り向いた先には日向クンが地面に立て膝を突いて、こっちを見ていた。彼はボクの体を反転させて、正面を向かせる。そして汚いのにも気にせず、ボクの顔にこびりついた精液を手で拭き取った。悲しげな枯葉色の瞳が近付いてきて、耳にふんわりとキスを落とされる。軽いリップ音と僅かな吐息が耳を掠めて、ボクは筆舌に尽くし難い感覚に深く息を吐いた。
「んぁ……ふ、んんっ…あん、あぁ……ひなた、クン…ッ、うふぅ…」
さわさわと胸を揉まれて、その中心の乳首をくりくりと指で抓まれる。そこから生まれる快感に耐えきれず、ボクは日向クンにしがみ付いた。彼は一瞬驚いたようだけど、すぐにボクの頭を腕の中へと抱き込んでくれる。温かい。日向クンと抱き合ったあの時の感じが蘇って、良く分からないけど胸がいっぱいになるんだ。
耳から首筋を通り、キスの雨を降らせる日向クン。指でこねくり回していた乳首に舌を這わせて、チロチロと舐めてくる。舌先が突起を掠める度にビリビリと全身が甘く痺れて、ボクの口から女の子みたいな嬌声が飛び出た。気持ち良い…。視線で日向クンにそのことを伝えると、彼は理解したとばかりに小さく頷く。そしてボクの半勃ちのペニスをクチュクチュと扱き始めた。
「あっ……、はぁん、…ン、ん…、やぁ…! そこ、ぁん…」
「嫌、か…?」
問いかけにぶんぶんと首を振って、否定する。さっきまでの強制的な外側からの快楽とは違い、ゆっくりと育む内側からの快楽。アナルが疼く。ヒクヒクと痙攣し、侵入者を待ち侘びている。ボクは初めて男のペニスが欲しいと思った。いや、男じゃない。目の前にいる、日向クンのペニスじゃないと嫌だ。学生服のズボンを押し上げているそれに熱視線を送っていると、日向クンは上の空になっているボクに首を傾げた。どうしよう。無理矢理レイプされているのに、キミのペニスが欲しいだなんて、そんなこと言いたくない。
「…狛枝?」
心配そうな日向クンの声にドキッとする。…言っても良いかな? ボクはそっと彼の背後にいる3人を見やった。奴らは飛び箱と平均台にそれぞれ腰掛け、スマホを弄っている。こっちには注目していないようだ。小声なら気付かれないはずだ。自分からおねだりするなんて、何て浅ましいんだろうね。ひっそりと自嘲しつつも、ボクは日向クンの首にしがみ付き、耳元に唇を寄せた。
「……ひなた、クン…。ボク…キミのが、ほしい」
「え……?」
オブラートに包んだ言葉では鈍感な彼には伝わらなかったようだ。呆けた彼の声にボクは思わず焦慮する。
「〜〜〜ッ。だから、…日向クンの、お、おちんちん……挿、れて?」
ボクは噛みながら、決定的な単語を口にする。それを聞いた彼はバッとボクから体を離し、顔を耳まで真っ赤に染めた。それから扱いているペニスの下方にある、ひくついたボクのアナルを戸惑ったように見つめる。
「良い…のか? こまえだ…」
返事をするのも恥ずかしくて、コクコクと首を上下に振る。ボクのこと、軽蔑するかな? 少し心配だったけどそれは杞憂のようで、日向クンは嬉しそうに目を細めた。既に3人の予備学科に中出しされて、グズグズに蕩けているボクのアナルに日向クンは指を入れる。そのまま突っ込んでも痛くないくらい拡がってるけど、ちゃんと解してくれるのは彼なりの優しさなんだと思う。日向クンはズボンを下ろし、中から完全に勃起したペニスを取り出した。赤黒くつるつるとした亀頭と血管の浮いた竿。太くて、熱くて、たくましいそれを彼は入り口に押し当てる。
「行くぞ、狛枝…!」
「…っうん、来てぇ…。日向クン…」
ちゅぐっと水音がして、日向クンのペニスがボクのアナルにみちみちと入っていく。散々男達に犯されて、拡がっていたはずなのに、彼ので更に内側が拡がる。ああ、すごい…!
「あぁッ、あ……、んぁ、はぁはぁ…、あ、ん、んぐ、…ひぅうッ」
「…平気か? 痛くないか?」
「あんっ…へぃ、きだから…。おちんちん……奥まで、ぜんぶ…いれて…?」
お腹を抉る凶器に意識が朦朧としつつも伝えると、日向クンはボクの望み通りにズズッと腰をゆっくりと進め、全てを中に収めてくれた。穴の周りにチクチクとした彼の下生えが刺さる。日向クンのペニスがボクの中でビクビクする度、奥の1番感じる部分に先端が当たった。しばらくしてから彼は必死な表情で突き上げを始める。
「あっ、あッ…! あひぃっ…あんっ、ん……あぁんッ。…あはぁ……あッ」
「……く、狛枝っ、こまえだぁ…! あ、あ、うぁ…、んっ」
「はぁっ、ハ、あ…! ふ……、んぁあッ、…あーっ、あぅ…、ンぅう、」
自分でもハッキリと分かった。他の奴に犯されていた時と声がまるで違う。ボクの声じゃないみたいだ。明らかにセックスを悦んでいるような、善がり狂う雌の喘ぎ声。日向クンの腰の動きが激しく速くなっていく。ぐじゅぐじゅとアナルから精液が飛び散る音と、パンパンッと肌と肌がぶつかり合う乾いた音。それにボクと日向クンの繽紛たる息遣いが交錯する。
「はぁっ、はぁ、…こまえだの、中…きもちい、あっ、腰が、止まらな…ッあ」
「ふぁあ…っあ、あっ、ひぁたクン…、んはぁあッ、ボクも、…んっんッ」
振り落とされてしまいそうなほど強烈な気持ち良さ。薄らと目を開くと、歯を食いしばってなりふり構わず腰を振っている日向クンが見えた。額には玉の汗を浮かべている。結合部を高速で出たり入ったりしている濡れた色のペニスを見て、ざわりと肌が粟立った。体が融けてしまいそうなほど熱い。柔らかかったボクのペニスが段々と膨らんでいっているのが垣間見えて、ボクは目を疑った。嘘…っ、だって今は触られてないのに…!
「狛枝、…おれ、イきたい…ッ! イっていいか…、く、……ッあ」
「ボクも、ぁ、はぁ……ん、出ちゃ、ぅ、んん、あ、あ、あ、〜〜〜っ」
まただ。またあの体が宙に浮かぶような錯覚。キンキンとした体内の刺激が引っ切り無しに続いて、自分でも何をしているのか分からなくなってきた。何だっけ、これ。そうだ、セックスだ。ボクと日向クンがセックスしてるんだ。あんなに遠かった山の頂上がすぐ近くにある。1人で越えるのは怖いけど、キミとなら大丈夫そうな気がする。日向クンに合わせるようにボクも必死に腰を動かした。
「あふっ、あ、んぁ…あ、ふっ……ん、ひぃ、…あっあっあああああッ!!」
「っ!! きつ、…ん、あ、イく…、イくっ!!」
ボクは強烈な快楽に悲鳴を上げ、お腹の上にビュクビュクと射精した。堰き止められていた大波が一気に解放されたかのように、白濁の勢いは止まらない。日向クンもボクの腰をグッと掴み、奥に熱をぶちまける。じんわりと広がる体内の温かさにボクは何だかすごく安心してしまった。
「日向、終わったか? じゃあ次、おれだな。早くどけって」
「あ…っ」
行為が終わったのを見届けた1人が日向クンの肩を掴んだ。後ろに引かれた弾みで、ボクのアナルからぬぷぷ…と日向クンのペニスが抜けていく。入れ替わるようにしてボクの前に陣取った奴が下卑た笑みを浮かべた。咄嗟に閉じようとした脚を無理矢理こじ開けて、エレクトしたペニスをずるりと中へ入れる。
「やっ、抜いて、ぬいてよ……あ、やだっ、やらぁ…!」
「うるっせぇんだよ、この肉便器が!!」
髪を乱暴に掴まれ、バシッと頬を殴られる。いつの間にかこっちに来ていたのか別の1人がボクの顎を掴んで、ペニスを唇に捻じ込んでくる。ボクが口を開けないことに焦れたそいつは、指を挟んで口を開かせると喉の奥までそれをグッと突っ込んだ。
「自分の立場分かってんのか? おらっ、さっさとチンコ咥えろ!」
「んぐっ!? んんっんぅ〜〜! ん、んッ、んん…!」
力なく日向クンに手を差し伸べるも、その手は別の奴に掴まれて壁にダンッと打ち付けられた。
「やめ、止めろ…! こま、こまえだ…、こまえだ…っ」
「日向ぁ〜。オマエは今ヤったばっかだろ? また明日ヤらせてやっからさー」
今の季節と同じ…秋の色の瞳は悲壮感に暮れ、その持ち主である彼の慟哭が聴こえる。日向クン、お願い。見ないで、見ないで…。ボクはその枯葉色から逃げるように目を閉じ、意識を空へと放り投げた。


「狛枝……」
全てが終わりマットに打ち捨てられているボクを、日向クンが見下ろしている。返事をしようにも体は鉛のように重く、全くと言っていいほど動かない。彼もそれを悟ったのか、何も言わずいつものように濡れタオルで体を清めてくれた。いつになったら満足してくれるかな? 飽きてくれるかな? 日向クンに為すがままにされつつ、ぼんやりと思いに耽る。でもこれが不運だとしたら、他に来るだろう不運に怯えずに済むからそれでも良いか。
「…あはっ」
「な、何…笑ってるんだよ。狛枝…」
吹き出すボクに日向クンは震える声を漏らす。精液でタオルはべっとりと汚れ、その代わりにボクの頭のてっぺんから足の爪先まで綺麗になっていた。思いの外、ボクは長時間意識を飛ばしてたんだな。
「狛枝、あのさ…」
「何…?」
「…俺が助けるから。お前のこと、絶対に」
「………は?」
苛立ちからか自分でもゾッとするほど冷たい言葉が口から出てきた。助ける? キミが? 今日だってボクが犯されてるのに、何もしなかったじゃないか。ボクを助けるって、冗談だよね? ねぇ、どうやって? 言ってみてよ。無力なキミが、何をどうやってボクを助けるって言うの? そう言葉をぶつけようにも、ボクの唇は戦慄くだけで、声を発してくれない。仕方なくギッと日向クンに鋭い視線を向けたけど、彼の瞳は揺るがなかった。
「大丈夫…、大丈夫だから。俺は、お前の味方だから…」
「ひ、な……た、ク」
「何も心配しなくて良い。……俺が狛枝を、守るよ」
日向クンは引き攣った笑顔でボクの着衣を整える。ぎこちなく口角が上がっていて、頬がひくりひくりと不規則に動き、何とも不気味だった。カッと見開いた瞳で日向クンはボクに笑いかける。そしていつもの優しい手付きで頭を撫でられた。昨日までなら安心して目を閉じてしまうくらい気持ちが良いそれも、何故か今日は彼の瞳から目が離せない。


今思えば、その時ボクが彼に対して感じたのは『恐怖』…だったのかもしれない。

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