// Mirai //

15.花見の話 : 3/27
電車から降り、駅のホームに立つと春の風が優しく頬を撫でた。もう大分温かくて、陽気も安定している。電車の乗客もコートを着ている人は少なかったな。人の流れに乗って改札を抜けると、チラホラと薄ピンク色の欠片が空を舞っている。ふわりと軽やかに漂う桜の花びらに、隣の麗しき恋人は柔らかく微笑んだ。


「わぁ、すごい! 桜、見事なまでに満開だね…」
はしゃいだような弾んだ声を上げて、狛枝は桜を見上げた。そしてこちらを向いて、「ほら、行こうよ。日向クン!」と無邪気に俺の腕を掴んで引っ張る。彼の背後に咲く桜はそれはもう息を飲むほどの美しさだった。淡い色合いのそれは全体的に白っぽい狛枝にとても良く似合う。美しく妖艶で儚げな狛枝。桜の精みたいだな、と俺はうっとりと目を細めた。
「本当に綺麗…」
ほぅと感動したように溜息を吐く狛枝。お前の方が綺麗だよ。そんな言葉を飲み込みながら、その言葉に同意する。
「そうだな。今年は例年よりかなり早いってニュースで言ってたっけ」
「ふぅん、良いタイミングだったのかな。あ、日向クンの髪に花びらついてるよ。ふふっ、取ってあげる」
俺の髪に綺麗な細い指を伸ばして、優しく梳かれる。摘まんだ花びらを俺に見せた狛枝は、それにふっと軽く息を吹きかけ飛ばした。今日は花見デートだ。男2人でしかも今は昼間だから、普通に桜並木を歩くだけなんだけど。デートっぽいデートなんて久しぶりだから、俺的にはかなり盛り上がってる。
「屋台とか結構出てるな。昼まだだったし、何か買ってこようか?」
「…たまにはそういうのも良いかもね。普段食べないし…」
「遠慮なんてするなよ。好きなだけ買ってやるからな」
「……えっと、たこ焼きとかじゃがバタとかかな」
顎に指を添えてしばらく考えていた狛枝の口から、希望のメニューが飛び出す。屋台は衛生面がどうのこうのと言い出すかと思えば、意外とそうでもないらしい。狛枝は興味津々で、周囲に掛かっている暖簾を目を皿のようにして観察していた。こいつは少食なクセに食い意地が張っている。食べたい物を少しずつ食べて、残りを俺が平らげるというのはいつものことだ。
「じゃあ買ってくるな」
「お願いします」
空いているベンチに座った狛枝に笑顔で見送られる。……俺ってホント尽くしてるよな。
それにしても絶景だな。俺達が来ている公園は大きな池の周りに沿って桜が植えられていて、毎年枝が下がるほど花が咲き誇る。今は満開から少し過ぎた頃だ。地面に花びらが落ちて、桜色の絨毯のようになっている。俺は屋台へと近付き、狛枝が食べたいと言っていたたこ焼きとじゃがバタを買った。狛枝が残すのを見越して、自分のは少なめにイカ焼きだけを買う。飲み物も必要か。自販機で2人分のお茶を買い、足早に俺は恋人の元へと引き返した。
狛枝は人目を惹く容姿をしているためか、少しでも目を離すと誰かしらに声を掛けられている。所謂ナンパだ。女にされてもやんわりとかわすことが出来るクセに、男だと途端に無防備になる。前にチャラい感じの男に口説かれていたから、俺が追い払ったんだ。その時に「何で断らなかったんだ?」って聞いたら、きょとんとした顔で「あれナンパだったの?」と首を傾げていた。あいつは自分がどう見られているか少しは自覚してほしい。
「お待たせ」
「ありがとう。隣、どうぞ」
まずはたこ焼きを受け取って、狛枝は串で熱々のそれを1つ突き刺す。てっきりそのまま口に運ぶのかと思っていたら、彼はニッコリ微笑んで俺にそれを差し出してきた。
「え? お、おい…っ」
「日向クン、あ〜ん!」
「…あ、あーん……。っ!? あっつ!」
「わ! …ごめんね、大丈夫かい?」
ポケットからハンカチを取り出して、狛枝は心配そうに俺の口元を拭いてくれる。為すがままの俺。………。ハッ、いかんいかん。外なのにアパートの中と同じようにイチャついてしまった。…まぁ、たまには良いか。折角都心から離れた公園までわざわざ来たんだし。狛枝はたこ焼きをはふはふと冷ましてから口に入れた。モグモグと上機嫌に頬張り、俺を見てニコニコ笑っている。ものすごく、かわいい…。
2人でベンチに座り、のんびりと桜を愛でつつ、腹を満たす。狛枝は俺が食べていたイカ焼きを「ちょっと食べさせて」と横からパクッと食べた。狛枝の噛みついた場所には小さな歯型が残っている。はぁ…、俺のもパクッとしてほしい。そんなことを考えていたら、素直な体はすぐに反応を示し始める。耐えろ、息子よ。帰るまで我慢だ…!
「……日向クン、お腹いっぱいになっちゃった。あげる」
「おお」
案の定、狛枝に食べかけのたこ焼きとじゃがバタを渡される。俺は少し冷めたそれにかぶりついて、全部胃の中へと入れるのだった。


食休みの後、2人並んで桜並木を歩く。大きく枝を広げた桜は上空を囲うように花を咲かせている。すぅっと息を吸い込むと僅かに甘い香りが鼻を擽った。
「桜ってさ…、桜餅の匂いしない? 日向クンは平気なの?」
狛枝はひょいっと前屈みになりながら、俺に言葉を投げかけた。彼なりに俺の苦手な食べ物について心配してくれてるらしい。というか桜と桜餅、逆だろ。
「ああ、匂いだけなら全然平気かな。物にもよるけど、俺はあの食感が苦手だ…」
「そっか。桜餅美味しいのに…。日向クンって変わってるよねぇ」
お前に言われたくないぞ。マイペースな狛枝に呆れつつも、俺は苦笑した。
「日向クン、ところで花粉症は?」
「いつもより強めの薬飲んできた。その所為でちょっと眠いかな」
狛枝とのデートのためなら、花粉症くらい何てことはない。その程度で狛枝を諦めるようでは恋人の名が廃る。
「みんなとの花見、流れちまって残念だな。折角澪田が声掛けてくれたのに、全員の予定が見事なまでに合わないんだもんな…」
「だからこうして2人で来たんじゃないか。お花見、去年はあったの?」
「あったよ。……そういえば、去年の今頃は…狛枝とはまだ付き合ってなかったな」
そうだ。狛枝は一昨年の2学期にこの学校に転任してきた。初めてマトモに言葉を交わしたのが体育祭の時だ。ギクシャクと一緒に仕事をしてた時期もあったな。今思うと懐かしい。飼い始めの猫のように警戒心が強かった狛枝。全然懐いてくれなくて、苦労した覚えがある。俺の方が一方的に話しかけて、それに段々と返事をしてくれるようになって…。やっと本音を聞けたと思ったら「キミみたいなタイプ、好きじゃないんだよね」って冷たく言われて、本気で泣きそうになった。
「嫌な奴だったでしょ、ボクって。何考えてるか分からないし、付き合いだって悪くて…。なのに何で日向クン、ボクに構ってくれたの?」
「ん? ……どうしてだろうな。1人でいる時のお前見てるとさ、何でか放っておけなかったんだよ」
周囲に透明な壁を作り、閉じこもっていた狛枝。追いかけようとすればするほど逃げてしまう彼はいつも寂しそうだった。友達の輪に入れず、おどおどと様子を窺っている幼い子供のように傷付いた目をしていたんだ。何とかして彼を笑わせたくて、素っ気なくされても俺はめげずに話しかけた。やがて彼の複雑な内面を知る内に心惹かれて、最後にはどうしようもなく好きになっていた。
「日向クンってさ、ボクの周りにいなかったタイプだったんだよ。だから初めは…慣れなかったし、少し怖かった」
「………」
「冷たくしたらすぐにいなくなるだろうって思ってた。今までボクに声を掛けてきた連中は大体そうだったからさ。だけどキミはずっと離れなかったね…。ボクなんかを好きになってくれた。それがすごく、嬉しかったんだ…」
「狛枝……」
目尻を下げ、静かに微笑む狛枝。それだけでも俺にとっては致死量ギリギリの愛しさだった。この気持ちを言葉でどう説明したら良いのか分からない。好きだ、好きだ…。狛枝が、好きだ。想いが溢れてきて、息が苦しい。
そんな中、突如として強風が吹いた。人々のざわめきと共に、ザッという風音が耳の傍を駆け抜け、辺りの桜を巻き込んで、空へと花びらを舞い上げる。桜吹雪。ああ、桜に彼を攫われてしまう…。俺は咄嗟に狛枝を抱き締め、目を瞑った。
「っ!」
ビュウッと一陣の風が過ぎ去り、俺は慌てて狛枝から手を離す。…人前なのに、無意識でやってしまった。でも周りの人は、俺達の方をちっとも気にせず普通に歩いている。どうやらみんな強風に目を瞑ってたみたいだな。
「すごい風だったな」
「…ひなた、クン……」
隣から弱々しい狛枝の声が聞こえる。風に吹き飛ばされて転ばなくて良かった。俺はホッとして、彼を見やる。目にゴミは入ってないだろうか。きっと髪の毛は風でくしゃくしゃになってるな、などと思いながら。
「……こま…、えだ…?」
そこには…、神秘的な美しさの桜の精がいた。あまりの衝撃に、周囲の喧騒が耳からスッと遠のいていく。目元、唇、髪、そして服…。薄く色付いた桜の花びらをふんだんに纏った狛枝は、頬を微かに朱に染めていた。うるうるとした灰色の瞳で、上目遣いに見つめる彼に俺はくらりと眩暈がする。ああ、何てことだ。


…完全に、致死量を超えた。

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16.夜桜の話 : 3/27
ここ…、どこだ? 真っ暗だ。どこまで続いているか分からない黒い空間に俺は立っている。見渡す限り何もないからか、相対的に自分が真っ直ぐ立てているかどうかすら不明だ。現実離れした場所にいるのに不思議と恐怖は感じない。そういえば狛枝はどこにいるんだろう? いつも隣に寄り添ってくれていた彼だが、今はいないようだ。狛枝、捜したら見つかるかな。じっとしている気になれなくて、俺は足を動かして歩き始めた。


どれくらい歩いただろう。視線の先にぼんやりと明るい光が見える。白っぽいそれは愛しい恋人を連想させて、自然と俺の足は速くなった。どこにいるんだ? 狛枝…。何故だか分からないけど、あいつがこの場にいないという考えは俺の頭の中になかった。絶対に近くにいるはずだ。ほのかに光る白へと近付くにつれ、段々と暗闇に変化が訪れる。
さらさらと静かに風が流れる音が耳に入ってくる。温かくもなく冷たくもない優しいその風が甘い香りを運んできた。…何だろう、この匂い。最近嗅いだことのある気がする。やがて踏み締める暗闇がサクサクとした青葉の感触を伝え、空には皓々と美しい満月が姿を現す。そして目の前にはたくさんの白い花をつけた桜の樹が数本、大きくそびえ立っていた。
「………っ!」
すごい…。この世のものとは思えないほどの美麗さに、俺はハッと息を飲む。満開のそれは風にゆっくりと枝を靡かせ、チラチラと無数の花びらを落としていた。ゆらゆらと風に舞い散る桜の花は柔らかな月光を浴びて、スローモーションのように俺の視界を横切っていく。桜の樹の下には死体が埋まっているだなんて、手垢のついた定番話を思い出してしまった。誰かから聞いたら失笑に付すその話も、目の前にある幻想的な光景を目にしたら信じてしまうほどだ。
「………」
眩い月光の下、白くぼんやりと佇む桜。目が覚めるような美しさは何だか怖いとさえ感じる。吸い込まれてしまいそうだった。見入ったままでは桜に囚われて、絶対に逃げられなくなる。桜の魔力ってやつかな。静穏な誘惑を振り切ろうとするも、目が離せない。重く垂れ下がった枝は少し背伸びをすれば届きそうな高さで、俺は思わずその可愛らしい花びらに手を伸ばした。
「後…、少し……。……ッ!?」
視界の端に何かが見えた気がして、俺はギクリと伸ばしかけていた手を止めた。桜の枝とも花とも違う白。
「な…っ!」
だらんと枝から投げ出されているのは人の脚だった。桜色の綺麗な爪、細まった足首、程良く筋肉の付いたふくらはぎ。その先を追っていくと剥き出しの太ももが見え、不思議な光沢の薄い布地へと辿り着く。太い桜の枝に寝そべり、眠るように目を閉じているその人物に俺は見覚えがあった。
「……誰、だ…? …こまえだ、か?」
ふわふわとしたクセ毛もそうだが、男にしては長い睫毛も品の良い整った作りの顔立ちも桜色の薄い唇も、狛枝そのものだった。だけど着ている物がいつもと全然違う。学校で着ているようなスーツでもないし、俺と一緒にいる時の私服でもない。色白の肩を大胆に曝け出した着物のような格好だ。
俺の声が耳に入ったのか、木の上の彼は僅かに瞳を開けた。そして寝惚け眼で目下にいる俺へと視線を投げかける。
「あ、あの…、俺……」
『…ぁ……!』
目があった瞬間、彼はパッと花が綻んだような笑顔を見せた。美しく微笑まれ、俺はカッと顔が熱くなった。あまりにも綺麗過ぎて、直視することが出来ない。そわそわと俺は落ち着きなく視線を泳がせてしまう。俺の様子に目を細めた彼は気だるげに体を起こし、こちらにスッと手を差し伸べる。…いや、木から飛び降りた!?
「ちょ、おい、危なっ!!」
ふわっと着物が風に翻る。俺は咄嗟に彼を受け止めようと手を広げた。無駄なような気もした。だってあの高さから飛び降りたら、俺が受け止められても反動できっと地面に頭をぶつける。来たる衝撃にぎゅっと目を瞑ったが、軽やかな何かが腕の中に収まっただけで、特に痛みは感じない。恐る恐る目を開いてみると、乳白色の滑らかな首筋が視界に映った。
『……やっと、来てくれたね…』
頭に反響するのはこの人物の声なのだろうか? 俺は首に腕を回され、彼に抱き締められている。羽のように軽い体は地面に沈むことなく、空中に浮いていた。彼の瑞々しい肌からは匂い立つような桜の香りがする。やがてゆっくりと腕が解かれ、彼は地面に音もなく着地した。
「っ!」
間近で再び見たその顔に俺は言葉を失う。彼は、狛枝にとても良く似ていた。狛枝に何もかもが瓜二つで、良く似ているというより同じ人物に見える。だけど俺には彼が狛枝には思えなかった。瞳の色が、違う。狛枝は緑がかった灰色をしているけど、目の前の人物は灰色に薄ピンクが混じったような色味だったのだ。
「狛枝…なのか?」
『………』
彼は黙ったまま何も答えない。ただ俺に向かって、華やいだ笑顔を見せるだけだった。襟刳りが大きく開いた着物は胸元で合わさり、腰に巻かれた帯で申し訳程度に押さえられている。桜があしらわれた生地は薄いのか肌色が透けていて、見てはいけない2つの薄紅色がやたらと目についた。俺はさり気なく顔を背ける。腰より下は胸元と同じように開いていて、艶めかしい白い脚が覗いていた。
どうしよう。話を続けるにも、何を話すべきか全く頭に思い浮かばない。彼はそんな俺の手を取り、両手で軽く握った。愛おしむように手に頬擦りをし、桜色の唇を押し当てる。長い睫毛が瞬いて、こちらをじっと見つめられた。
『ずっと、待ってた…。……キミを、キミだけを…』
「え…っ」
不可思議に響く囁きに、俺は引き攣ったような声しか出なかった。
『気が遠くなるほどに恋焦がれて、化石になってしまいそうだったよ』
「こま、えだ……?」
『キミに逢えて、嬉しい…。とても、うれしい……!』
するりと肩に腕を回されて、またも抱き締められた。鼻腔を刺激する甘い桜の香り。壮絶な色気にくらくらしながらも、俺もゆっくりと彼のキュッと括れた細い腰を抱く。俺を見てニコッと笑った彼は目を瞑り、顔を近付けてきた。
「ん、……」
柔らかい唇が触れ、小さく吐息が漏れる。狛枝じゃないと分かってるのに、逃げられなかった。顔を角度を変えながら何度も何度も口付けられ、俺の方が我慢出来なくなる。そっと舌で彼の桜色を舐めた。
『ぁ…っ、あ……ん、ふ……っぅ』
切なげな喘ぎを漏らしながら、相手も舌を絡めてくれた。匂いだけじゃなくて、味も甘いんだな。俺は唇を離し、男にしては細い首筋に歯を立てる。白い喉仏がゴクリと動いた。ああ、ここも甘い…。はぁはぁと彼の息が乱れ始めた。気分が高揚してきた俺は、清らかな肢体を優しく撫でる。敏感な部分を指が掠めると、『んっ』と彼は小さく声を上げた。
『ふぁ…、う…ン、ンんッ、あっ……あ、あ、あ…ッ!』
「…は、きもちいいか?」
目をぎゅっときつく閉じて、彼はこくこくと真っ赤な顔で頷いた。可愛い。力の抜けた彼の体を押して、桜の樹に背中を預けさせる。すんなりとした形の良い脚を割り開くと、下着はつけてないようで、トロトロと蜜を零している彼の本能が目に飛び込んできた。ひくひくと小刻みに震えているそれを俺は迷うことなく口に含む。甘くて、濃密な、桜の味。湧き出る蜜を零すまいと俺は丁寧に舐め上げる。
『アアっ、あ、はぁ……んあッ…ひっ……んん、あうぅ…』
視線だけ上げて彼の顔を窺うと、目に涙を浮かべて唇を噛み締めていた。堪えがたい快楽に負けないように必死なようだが、それも徒労に終わりそうだ。段々と声に甘みが増し、やがて感じ入るように蕩けた顔で涎を垂らし始めた。
『……アン、あぁ、…ハ、ぁあッ、あぁんっあンッ、……はぁあ』
俺の頭に触れる彼の指に時たま力が入るのが分かる。投げ出された脚もビクビクと俺の舌に反応して痙攣した。俺も既に抑えられないくらい興奮していた。ズボンを寛げ、大きくなった欲望を引き摺り出すと、彼は目を大きく見開いた。きょとんとした顔で濡れた先端に白い指で触れる。
「うぁ…ッ!」
俺から漏れた声にビクリと手を引っ込めて、不思議そうな顔で彼はただ俺を見ていた。
「…頼む。これ、触って、…くれないか?」
『え……?』
しどけなく唇を開いていた彼だけれど、小さく頷いて俺の言う通りにそっと触れてくれた。絡まる指の気持ち良さが更に欲望を大きくする。このまま進めてしまって良いのか、確かに迷いはあったけど、心に反して体は勝手に動いてしまう。彼にもっと触れていたいという強い思いに逆らえない。俺は着物の下の胸元へと手を入れた。
『!? ……ん、あ……はーっ、はぁ…あ、んッ、んー……』
溜息を漏らしながら、彼は俺の手から確実に快楽を拾っていった。涙ぐんだ桃灰色が不安と興奮に揺れている。だけど俺の手が余す所なく彼を撫で回し終えた頃には、瞳からは不安が消え去っていた。さっきよりも荒く呼吸を繰り返しながら、真っ赤な顔で俺に身を委ねている。Yシャツを力なく掴んだ白い手は、敏感な部分に触れられる度にきゅっと力が入った。
「良いよな……? 狛枝…」
『え……っ。あっ! あっあっ……ああッ、んっ、んんぅ…』
ポロポロと流れる涙を舌で舐めとりながら、俺は彼の下肢に手を滑らせた。鮮やかに色付いた秘密の入り口に指を差し入れ、内側をゆるゆると解していく。思ったよりも柔らかくて、楽に指が入る。しっとりと濡れた感触を楽しみながら指を増やしていき、十分過ぎるくらいに潤った窄まりに己の欲望をひたりと宛がった。
「行くぞ…!」
『!? あっ、ぐ……、んッ、い、やぁ……ハッ、はー…ぅう…!』
「……うっ……、ぁ…っはぁ…! 狛枝…!」
ぐっと腰を前に突き出し、彼の内側へと攻め入る。今まで何もかもが朧気だったのに、きつく締め上げるその部分の感覚だけはやけに生々しかった。纏わりつく肉に意識を持ってかれそうになりながら、俺は空を見上げた。狂ってしまいそうなほど美しい桜が月の光を浴びて、風に棚引いている。頭の上からはらはらと薄ピンクの花びらが儚げに散っていた。
『や、ぁ…、やだぁ……! あっ、やめ、やめてぇ…ッ、ひっ、い、うぁぁッ』
「ごめん、…ごめんな。狛枝、…ごめん。好きだ、…すきだよ」
俺も狂いかけているのかもしれない。いつもなら嫌がっている狛枝にこんな酷いことをしたりしない。でも止められない。全部、桜が悪いんだ…。
桜の樹に凭れるようにして、体を貫く快楽に涙を流す妖艶な男がいる。彼は桜の精だ。清純で穢れを知らない無垢な彼を、桜と月が見守る静かな夜に、手酷く犯している。倒錯的な情景にゾクゾクと体の奥から白い熱が広がっていった。腰を掴んでいる手に力を込め、揺さぶりも段々と激しくなる。もう、ダメだ…!
『ああっ、ああ! あンッんっ…はぁああっ…あ…ッあっあっあっ! やあああ!』
「、ふぁ…っ…あ、も、もう……ふっ、ん、ハッ、っ! う…っ」
一点目掛けて弾け飛ぶ。真っ白に染まった視界は全てを奪っていった。明るく照らす満月も、淡く優しい色合いの桜も、腕の中で淫らに喘ぐ美しき桜の精も…。俺の目の前から一瞬で消え去ってしまった。


……
………

「―――クン! ひなたクン…!」
「…ふぁ? こ、まえ…だ?」
聞き覚えのある声にハッと目を覚ましたその場所は、満月が輝く夜桜の下ではなく、薄暗いアパートのベッドの上だった。すぐ傍にぼんやりと白い体が見える。そこには一糸纏わぬ狛枝の姿があった。あれ…、桜の精どこ行った? 暗がりをキョロキョロと見回す俺に、狛枝は「大丈夫?」と心配そうに声を掛けてくる。
「日向クン、寝言言ってたよ。もしかして変な夢でも見てたの?」
「………。いや、大丈夫だ」
「ひょっとしてさ、エッチな夢とか見ちゃった……?」
「!?」
悪戯っぽく笑う狛枝に、俺はギクリとする。まさか夜桜の下で狛枝に似た桜の精を犯してる夢を見てましたなんて、言えない。心の内を探るような狛枝の視線から逃げるように俺は俯いた。
「なっ、べ、別に何でもない、から…っ」
「……嘘だね。あんなに感じちゃって、いっぱい出したのに…」
ふふっと笑って舌舐めずりをした狛枝は俺の下腹部にひたりと手を当てた。するすると下へ降りていくそれに俺は思わず体を引く。
「こ、狛枝…!?」
「日向クンの下のアンテナ、寝てるのに大きくなってるんだもん。食べてほしそうに震えてたからさ。わざわざ起こすのも忍びないし…、そのまま頂いちゃったんだ」
狛枝は微笑んで、「ご馳走様…。すごく美味しかったよ!」とにべもなく言い放つ。………。つまり狛枝は…、俺が寝ている間にアレを口に含んでいた、ということだ。桜の精のリアルな感触はそういう訳かと俺は妙に納得してしまった。
「キミの夢の中までボクが登場するなんて、おこがましいにも程があるけど…、やっぱり嬉しいな♪」
「!? え…っ、お前何でそれ…!」
「あはっ。日向クン、寝言でボクの名前を呼んでたんだよ」
狛枝は上機嫌で裸のまま俺に抱き着いてくる。うーん…。相手は狛枝のようで、狛枝じゃなかったんだけどな。何だかちょっとだけ浮気したような気分だ。狛枝に夢の内容を白状しようとも考えたが、何でもかんでも正直に話すのが正しいとは限らない。小さな秘密が1つくらいあっても良いだろう。無理矢理自分を納得させた俺は、しな垂れかかる狛枝を優しく抱き返した。

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17.真実の話 : 4/1
今日は3月最後の日。高校教師の春休みは忙しいのが一般的だけど、ボクらが勤めている学校は私立だからか比較的待遇が良く、今の時期も教師に余暇が十分に与えられている。偏差値が60程度のそこそこな進学校にしては、生徒から回収出来る学費は思いの外高い。校舎の立地や設備も制服の可愛さも文句のつけようがないレベルで、中学受験・高校受験共に倍率は2倍を超えるらしい。校長である霧切先生の手腕が飛び抜けて優れていることが、この学校を盛り上げている大きな要因だろう。教師陣も校長自ら選び抜いている人材で、その中でも新卒で採用になった日向クンは特別な存在だと、他の教師達が実しやかに噂していた。

そんなことは置いておいて、だ。昨日は休日出勤をしたけれど、今日と明日はボクも日向クンもお休みだ。まだ桜も咲いていることだし、「もう1回お花見行こうか」と日向クンを誘ってみたけど、彼は少し顔を赤くして「桜は、もういいや」なんて言って断ってきた。まぁ別にボクもこの間ので満足してたし、ものすごく行きたい訳じゃなかったから良いんだけど。それにしても何か怪しいなぁ、あの反応…。
買い物に出かける、一緒に料理を作る、借りてきたDVDを見るetc…。ボクと日向クンの休日の過ごし方と言えば、大体こんな感じだ。今日も日向クンとイチャつきつつ、お昼ご飯を一緒に作って食べて、借りっぱなしだったDVDを2人で見ている。日向クンが胡坐を掻いているその足の間にボクが収まり、彼の体に背凭れよろしく寄り掛かって映画を視聴するのがお決まりのスタイルだ。
背中からじわじわと感じる日向クンの体温が気持ち良くて、まだ夕方だと言うのにボクはうとうとしてくる。映画はお粗末にも程がある超がつくほどの王道展開で、ボクとしては退屈極まりない内容だった。だけど日向クンは先が気になるようで、琥珀色の瞳を興味津々にテレビ画面へと向けていた。ボクは欠伸を噛み殺す。ダメだ、瞼が落ちかけている。後もう少しで完全に目を閉じてしまう…と考えた所で、突然傍にあるテーブルの上で何かがガタガタと音を立てた。
「!?」
「あー…、電話みたいだ。ごめん、狛枝。出て良いか?」
「いいよ…」
眠気混じりなボクの声に、背後でクスリと日向クンが笑う。体を伸ばして、ケータイを取ったらしい。ボクに対するのとは違う若干畏まった様子で、日向クンは電話口の相手に話しかけた。
「もしもし、どうした? 珍しいな! お前から、電話だなんて」
日向クンの明るく楽しそうな声に、ボクは嫉妬に駆られて眠気がすっ飛ぶ。相手は誰だろう? 砕けた口調から仕事関係の人間でないことは分かる。彼には友達が多い。思い当たる人間が多過ぎて、ボクには電話の相手が誰か見当がつかなかった。ああ、悔しいな。折角2人きりでまったりしてたのに…。ボクと日向クンの時間を邪魔するなんて、何て空気の読めない人なんだろう。他人が電話をしているのが不快なのは、片方の会話しか聞こえないかららしい。ボクはイライラしながらも体勢を変えて、日向クンと向かい合うように座り込む。
「うん、うん…。最近か…? 俺は別に、普通だぞ。そっちは?」
電話をしている日向クンに抱き着いて、ケータイを当ててない方の耳を舐める。彼の体がピクッと小さく反応した。こういう時って悪戯したくなるよね。ボクは唇で優しく日向クンの首筋を食んで、Tシャツの裾から手を滑り込ませる。ふふっ、どこまで耐えられるかな…。
「ん…ッ、…いや、何でもない。聞いてるよ。そっちは、ぁ…賑やかだな」
「…日向、クン…。ふ、んぅ……、」
逞しい胸板を撫でて、やがて辿り着いた柔らかい突起を指でくにくにと摘まむ。日向クンは会話をしながらも、小さく息を漏らした。可愛いなぁ…。首から唇を離すと、半ば快楽に溺れかけた瞳にキッと睨まれる。ズボンの中心が僅かに膨らんでいるけど、ここは触らない。日向クンは中途半端な気持ち良さに身を捩らせた。早く話を終わらせないと触ってあげないよ?
「え? ああ、ッ、…そうなのか。へぇ…。ん、…えっ、今からか?」
日向クンは目を見開いて、ボクの方を見た。今からってどういうことだろう? ボクが首を傾げていると、日向クンは「また連絡する」と相手に伝えて、電話を切った。
「小泉から。今、シェアハウスのメンバーで飲み会やってるんだけど、来ないか?って。西園寺が俺を呼べってうるさいんだってさ」
日向クンはやれやれといった感じでボクにそう告げた。小泉さんと西園寺さんか…。彼女達はソニアさんと同じく、七海さんのシェアハウスで共同生活をしている。高校は違うけど、七海さん繋がりでボクも2人のことは知っている。家族でも恋人でもない友達同士4人で生活をするなんて、ボクには想像つかないな。西園寺さんは日向クンのことが大のお気に入りで、『日向おにぃ』と彼を呼んで慕っている子だ。日向クンは妹みたいだって喜んでいたけど、恋人のボクから見たら何だか面白くない。ボクだって、やきもちくらい焼く。
「ふぅん。……行けば?」
「狛枝、怒るなよ。俺はお前と一緒にいたいんだ。お前が嫌だって言うなら行かないよ」
「………」
それって逆に考えると、ボクがOKしたら行くってことじゃないの? ボクが1番なら最初からすっぱり断れば良いのに…。日向クンは相も変わらずお人よしなんだなと思った。日向クンと抱き合ったまま、ボクはふぃとそっぽを向く。
「…行きなよ。待ってるんでしょ? 西園寺さん」
「だから、行かないって言ってるだろ!」
「言ってないじゃないか。小泉さんには後で返事するって伝えたんでしょ?」
「あー、もう! じゃあどうすれば良いんだよ!!」
ぐしゃぐしゃと焦げ茶色の短髪を掻き乱して、日向クンは吠えた。多分、彼はボクが不機嫌な理由を分かっていない。選択を迫られたら迷わずボクを選んでほしいのに、日向クンはそうしてくれなかった。ボクはキミの中でその程度の存在なのかな。友達と天秤に掛けられても、すんなり取ってくれたら良いのに…。
そうだよね、分かってる。キミは誰にでも優しいから。だからみんな日向クンのことが好きだし、ボクだって誰よりもキミが好きで愛している。恋人のボクは日向クンを独り占めしている。つまり彼はボクに独占されている状態で、自由などないのだ。まるで鳥籠に閉じ込められた小鳥のように。
「……ボクも行く」
「え」
意外なボクの返答に日向クンは呆けたような声を出した。ボク自身、驚いてるよ。数分前だったら、想像もつかない考えだからね。
「ボクも行けば、日向クンの望みも西園寺さんの望みも叶う。…何、その顔。不満でもあるの?」
「いや、ないけど…。初めてだなって思って。お前が人前に進んで行きたがるの…」
日向クンは嬉しそうに顔を紅潮させた。ああ、ボクはキミの笑顔が大好きだ。それだけで全てを許してしまえる。鳥籠の扉を少し開けてあげよう。外へ出ても良いんだよ。だけどボクが知らないどこかへ飛び去ってしまわないか、心配で胸が苦しいから。ボクもキミを追いかける。それで良いよね?
「ありがとな。小泉に『これから狛枝と一緒に行く』って伝えるよ」
「うん…」
日向クンはボクの頭を優しく撫でて、そのまま抱き寄せてきた。自然と重なる唇。日向クン、日向クン…。大好きだよ。ずっと傍にいて、離れないで…。胸に溢れる想いを口に出せないまま、ボクは日向クンと何度もキスを繰り返した。


……
………

「おい、狛枝。大丈夫か? 何か顔が引き攣ってるぞ」
「そ、そう? あはは…、何だろう。緊張…してるのかな。大丈夫だから、気に、しないで…」
ボクの消え入りそうな声に、日向クンは気遣わしげな表情で「嫌なら帰ろうか?」と問いかけてくる。が、ボクはぶんぶんと首を振った。ここまで来て逃げたら、負けのような気がしたからだ。ボクらは既にシェアハウスの前で、インターフォンを鳴らそうかという所だった。
「無理しなくていいぞ、狛枝」
「…べ、別に無理とかしてないよ。だって日向クンと一緒だし」
「そうか。分かった。でも俺は帰りたくなったら、無理せずお前を連れて帰るぞ」
日向クンはきっぱりと言い切って、インターフォンを人差し指で押した。ピンポーンという音に、ボクは日向クンに声を掛けるタイミングを完全に見失ってしまう。彼はボクの限界を見計らって、一緒に帰路についてくれると言ってるのだ。押し付けがましくない気遣いにボクは涙が出そうになった。
『はーい。あっ、日向くんに狛枝くん。こんばんは〜』
ふわふわとした眠そうな声がスピーカーから聞こえてくる。これは、七海さんかな?
「こんばんは、七海。途中で酒とかつまみとか色々買って来た」
『ありがとう! 急に呼び出してごめんね。もう玄関開く…と思うよ』
しばらくしてジーッと隣のガラス扉から機械音が聞こえて、カチリと開錠される。日向クンは何回も来ているのか、慣れた様子で中へと入っていく。その奥のドアが開いて、ひょこっと顔を覗かせたのは罪木さんだった。
「あれ? 罪木も来てたのか?」
「は、はいぃ…。ソニアさんに誘われたのでご一緒してましたぁ」
「…ということは、後は誰がいるんだい?」
「ええとですねぇ、七海さん、小泉さん、西園寺さん、ソニアさん、私ですぅ」
「お2人ともようこそ! さぁ、中へどうぞ。後から澪田さんもいらっしゃるそうです!」
罪木さんの後ろからソニアさんが出迎えてくれる。思ったより大人数なんだ…。ボクの緊張は更に増していった。


女3人集まれば姦しいと言うけど、5人いる場合はどうなんだろうとボクはどうでもいいことを考えた。
「ねぇ、日向。これ…アタシが作ったんだけど、味見してくれないかな?」
カウンターキッチンから、甲斐甲斐しく料理やお菓子を運んでくれる小泉さん。
「おねぇが作ったんだから美味しいに決まってるよ! 不味いだなんて言ったら、おにぃどうなるか分かってる…?」
その小泉さんにべったりかと思えば、日向クンにも甘えてくる西園寺さん。
「ちょっとゲロブタ! それわたしが狙ってた瓦煎餅だっつーの!」
「ふぇぇっ。だ、だって…まだ西園寺さん…、お皿に取ってなかったじゃないですかぁ…!」
西園寺さんに罵声を浴びせられ、涙を浮かべながらも、健気に耐えている罪木さん。
「うふふ、西園寺さん。こちらにもお菓子はまだまだたくさんありますから」
「…うーん。回復されちゃったかぁ。もうちょっと細かく削った方が良かったのかな?」
ソニアさんはそんな2人のやりとりを見て、ニコニコと笑っているだけだし。七海さんは携帯ゲーム機から絶対に目を離さない。そこに放り出されたボクは混乱の極みだった。もうすぐ日付を越してしまうという時間帯のはずなのに、何て騒がしいんだろう。そんな中、ピンポンピンポンとけたたましくインターフォンが鳴る。
「あ、唯吹ちゃんが来たみたい! あたし、ちょっと見てくるね」
何てことだ、更に煩くなるのか。ボクはすぐそこまで迫ってきている竜巻の気配に思わず身を縮めた。ボクは七海さんの隣に座って、静かにチューハイに口を付けている。日向クンはというと、西園寺さんに引っ張られてほぼハーレム状態だった。罪木さんに注がれるままビールを煽っている。彼は体質的に顔は赤くならない。だけど相当酒が回っているように見える。いつもはキリッとしている目が大分据わってるし。
「うっきゃー! 創ちゃんに凪斗ちゃん、久しぶりっすー!! ギター戦士・唯吹、ただ今参上っ!!」
バンッと勢い良くドアが開いた先に、ハイテンションの澪田さんが現れて、一気に空気が変わる。ビシッと鋭く決まったポーズに何故か黄色い悲鳴が飛んだ。一応、彼女は素面らしい。だけどメンバーに端からハグをしている様子はどう見ても酔っ払いだった。
「真昼ちゃん、ぎゅーっ!!」
「はいはい。お腹空いてるでしょ? はい、あーん」
パカッと開いた澪田さんの口に、苦笑いの小泉さんがお菓子を放り込んだ。
「んんんんっ! クッキーおいひいっす!! 次は〜、ソニアちゃん、ぎゅ〜!!」
「まぁ、お仕事だと聞いていたのですが…。澪田さん、元気ですね。ジーザス、ビックリです!」
パチクリと大きな蒼い瞳を瞬かせるソニアさんに、澪田さんは鼻高々に腰に手を当てる。
「えっへん! 疲れてる顔なんて、唯吹に似合わないっすからね! はい、日寄子ちゃんと蜜柑ちゃんもぎゅーっ!」
「ちょっと、澪田おねぇ!! 抱き着かれたら、食べにくいじゃん!」
「澪田さん、お帰りなさぁい。夜遅くまでご苦労様ですぅ…!」
犬猿の仲の2人を取り持つように、澪田さんが腕を回した。西園寺さんは責めるような口振りだったが、口を窄めるだけで本当に怒ってはいなさそうだ。罪木さんはえぐえぐ泣きながら、澪田さんを抱き返す。女の子ってみんなこうなのかな。友達同士で手を繋いでも抱き合っても変に思われないだなんて、ちょっと羨ましい。
「さてさて、次は創ちゃんっすよ! 唯吹、創ちゃんと凪斗ちゃんが来てるって聞いて、マッハで来たんすからね!」
澪田さんはソファに座ってる日向クンに向かって両手を広げた。そしてあっという間に日向クンに抱き着いてしまった。
「ああ…っ!!」
「…? 狛枝くん?」
ボクは反射的に立ち上がっていた。隣に座ってた七海さんが不思議そうにボクに声を掛けてきて、その場は水を打ったように静かになった。驚いたように向けられるたくさんの瞳にボクは居心地が悪くなる。
「……ぁ、ボク…」
「ああ〜、凪斗ちゃんも唯吹にぎゅーってしてもらいたかったんすね! 言われなくてもしちゃうぞ☆」
ウインクした澪田さんの明るい声で、静寂は消え去ってしまった。ニヒヒッと笑いながらボクに近付いた澪田さんは「えいっ」と声を上げながら、ボクの胸に軽く抱きついた。日向クンの隆々とした体つきとは違う、柔らかくて小さな女の子の体。彼女の角のような髪型越しに、日向クンの強い視線を感じる。
「お次は千秋ちゃん、行ってみよー! ぎゅっぎゅ〜!!」
「ふぁあ〜…。澪田さん、今大事な所だから。もうちょっとでこの隠しボスが…」
「日向クン……」
口の中で呟いたボクの声に誰も気付かない。日向クンの瞳が不機嫌そうに歪められている。その目はボクを責めているようにも見えた。何でそんな目で見るの? キミだって同じように澪田さんに抱き着かれたじゃないか。ボクは彼から視線を逸らす。
「…狛枝、こっち来い」
日向クンがすっくと立ち、ボクを手招きする。機嫌が悪そうな表情のまま。正直言って、行きたくない。
「何で?」
「良いから」
「………」
有無を言わさない日向クンの言葉に、ボクは唇を噛み締めながら彼を見た。酔いで剣呑としている琥珀の瞳。キミは何て自分勝手な人なんだ。そうは思っても、ボクは彼に逆らえない。彼にお願いされたら、ボクは何でもしてしまう。そう、何だって…。ボクは仕方なしに、のろのろと足を動かした。
「………おいで、狛枝…」
「日向クン…?」
どういうつもりなのだろう? 日向クンの行動の意図が読めず、ボクは誘われるがまま彼に近付く。
「はぁ、こまえだ…」
「ふぁっ!? ちょ、ひ、な…!」
目の前まで来たボクの腕を掴み、日向クンが思いっ切り引っ張る。ふわりと酒気を帯びた吐息が鼻を掠めた。背中に馴染みのある力強い腕の感覚。腰元に回る大きな手。え、ちょっと待って。どうなってるのか全然分からない。ボク、今…、日向クンに抱き締められてる?
「え、え、…あの、日向クン、離して…? ねぇ、どうして、」
「みんな聞いてくれ。………。俺は、狛枝が…好きだ!!」
ええええええっ!! それ言ったらダメだよ、日向クン! ボクとキミが付き合ってる事実を知っているのは左右田クンと九頭龍クンと花村クンだけなんだよ!? それをこんな、みんなの前で…っ!
「ひゃっはー、マジっすかーーー!? 創ちゃん!!」
「ああ、マジだ。大マジだ…!」
「もんのすごいアイの告白っす!! 唯吹、テンション上げ上げ〜!!」
澪田さんだけはノリノリでエアギターを始めてたけど、それ以外のメンバーは誰しもが顔に戸惑いの文字を浮かべている。そんな中、小泉さんが微妙そうに日向クンに話しかけた。
「えっと、日向…どうしたの? 突然」
「好きってのは友達の意味じゃないぞ。俺は狛枝のことを、1人の男として…愛してるんだ!」
日向クンの叫びにソニアさんがハッと息を飲んだ。
「何と…、アンビリーバブルですっ! ということはお2人は黄金のマカンゴを…」
「これから倒す!!」
マカンゴって何。
「うゆぅ……。日向さん、すごく酔ってるみたいですぅ…。は、早くお水を…」
「酔ってない!!」
ボクを抱いたまま、日向クンは罪木さんに怒号を飛ばす。…うーん、本当にどうしちゃったんだろう?
「……ちょっと、日向おにぃマジ…? キモーい」
「何とでも言えよ。世界を敵に回したとしても、こいつが一緒にいてくれるなら俺は全然怖くない…!」
ボクの背中にある日向クンの腕に力が込められた。ドキドキする。みんなが見てる前で日向クンに堂々とこう言われて、戸惑いもあるけど言葉に表せないくらい嬉しい。腕を解かれて、うっとりと彼を見上げれば、優しい微笑みを返してくれる。本当にボクなんかで良いの? ねぇ、日向クン…。
「ああ、なるほどね…」
ずっと携帯ゲーム機の画面に釘付けになっていた七海さんが漸く顔を上げ、ぽつりと呟いた。ソニアさんがその言葉に首を傾げる。
「七海さん? どうかされたのですか?」
「……今日ってさ、何日かな?」
「え? 何日って…。3月31日の日曜日だよ。だからこうしてみんな…、………。あ…!」
小泉さんは何かに気が付いたのか、口に手を当てた。最初はきょとんとしていた西園寺さんも罪木さんもしばらくして『なるほど』といったような面持ちに変わっていく。…3/31って何かあった? 考え込んだボクの手を取り、日向クンはずんずんと玄関へと歩いていく。
「えっ、えっ? 日向クン、どこへ…」
「狛枝、帰るぞ。じゃあな、みんな!」
玄関へと歩いていくボクらに次々と声が掛かる。
「終電は終わってる…と思うよ」
「おにぃ、近い内にまたわたしが呼んであげるからねー」
「さようなら、気をつけて帰って下さいねぇ…」
「ご機嫌よう。また学校で」
「駅近くまで行けば、タクシー拾えるっすよ!」
「日向、狛枝! また来なさいよ」
ボクは何が何だか分からない内に、外へと連れ出されてしまった。何でみんな納得してくれたんだろう? 深夜0時を過ぎた住宅地はひっそりと静まり返り、街灯の光も何だか薄暗い。日向クンの後を追い、ボクは無心に足を動かす。春なのに少し肌寒いかも。コート持ってくれば良かったかなとボクは両腕を擦った。そんな素振りを見た日向クンは自分が着ていたジャケットをボクの肩にバサッと掛けてくれる。
「これ着てろ」
「あ、えっと、ありがとう。…じゃなくて、何だったの!? さっきのは」
「別に。ただ、言いたかったんだ」
日向クンはぶっきらぼうにそう答えた。言いたかったから言ったって、何て幼稚な言い訳なんだ! やっぱり彼は酔っている。至近距離で顔を合わせると分かった。目の焦点が右に左に揺れている。
「ど、どうするの? ボク達の秘密が…」
「今日は、何日だ?」
「そんなの、今は関係ないじゃないか!」
「良いから答えろよ」
「…七海さんが言ってたのと同じ。3月31日…、でしょ?」
「それは違うぞ…。今日は4月1日だ」
「あ……っ」
4/1…、エイプリルフールだ。そうか、あの時みんなは壁に掛かった時計を見ていたんだ。0時を過ぎて、日付が変わった。それに気付いたから、全員が日向クンの発言を嘘だと認識したのか。
「嘘じゃないからな」
「え?」
「俺は嘘吐いてない。全部、本当だ。好きなんだ。狛枝が、どうしようもないくらい…好き。頭がおかしいんじゃないかってほど、いつも考えてるよ、お前のこと。学校にいる間、いつも目で追ってる。姿が見えなくても、何してるのか勝手に想像してる」
日向クンは穏やかに笑って、ボクを見た。大好きな彼の笑顔のはずなのに、背筋がゾクゾクするような感覚があった。自慢じゃないけど、ボクは割と聡い方だ。だからかな。日向クンから狂気めいた何かを感じ取ってしまったんだ…。
「こんなに愛し合ってても、男同士ってだけで世間は受け入れてくれないんだ。気持ち悪いとか憐れだとか何とか言って、挙句の果ては精神病扱い。何がいけないんだよ! 悪いことしてる訳じゃないのに、隠れるようにしてコソコソ付き合うだなんて、間違ってないか?」
「日向クン…」
「世界中に叫びたい。大声で自慢したい。こいつが俺の恋人なんだ!って。春の妖精みたいに綺麗で、食べちまいたいくらい可愛い。幼い子供みたいに無邪気で、なのに夜になるとすっごく厭らしくて、おまけに賢いし色んな事を知ってる。どうだ、最高だろ! 羨ましいか!? でもやらない。狛枝は俺のだから…。誰にも、やらない。絶対に…。ははっ、ははははははっ!」
「………」
静かな黒い夜に彼の高笑いが反響した。日向クンは楽しそうに、両手を広げて踊りながら道を駆ける。ボクは言葉が出なかった…。フラフラと千鳥足の彼をただ追いかけるだけだ。優しくて温かな愛情をボクへと注いでくれる彼が全てではなかった。思わず引いてしまうほどの恐ろしさがその瞳に宿っている。どす黒くて薄気味悪い、纏わりつくような独占欲。抑圧された彼の感情を、ボクは今初めて思い知った。
くるくると天を見上げて、軽やかに回っていた日向クンだったが、やがてピタリとその動きを止める。だらりと腕を下げ、彼は悲痛に塗れた顔でボクへと向き直った。
「でも出来ないんだ…。分かってるさ、俺達は許されないんだってこと。俺が引き摺りこんだんだ、狛枝を。お前が普通の幸せを手に入れる可能性を、俺が潰した。ごめん…、そうだと知っていて、諦められなかった。どうしても狛枝のこと、手に入れたかった…!」
「……ボクはキミに引き摺りこまれただなんて、思ってないよ。ボクの性格、知ってるでしょ? 頑固なんだ。何とも思っていない人間に愛を囁かれたって、ボクの心は動かない。キミだから、日向クンだから…好きになったんだ。これはボクの意思。だからさ、日向クンが後悔することなんて何1つとしてないんだよ」
「……こまえだ、」
日向クンは潤んだ瞳でボクを見つめる。キミは悪くない。ボクは全部許すよ。いつも日向クンの首に回している腕を腰に回した。逆に日向クンはボクの首に腕を添える。彼の体をぎゅっと抱き締める。何だか日向クンに縋られてるみたいな体勢だ。肩口からは鼻を啜るような音が聞こえる。
「日向クン、あのね…、ボクは今幸せ、だよ。キミと一緒にいられて、しあわせなんだ」
「…ほんとうか?」
「うん、本当だよ」
少し体を離し、彼の顔を見る。日向クンは泣いていた。泣き顔で、ふにゃりとボクに笑いかける。
「ありがとう、狛枝。俺もしあわせだ。お前とずっとずっと一緒がいい。狛枝、こまえだ…!」
「ボクも…、ボクもキミの傍にいたい…」
日向クンは1人で抱え込んでいたんだ。大丈夫。ボクはキミのこと、絶対に離さないから。ずっと一緒にいようね。人気のない夜の住宅地の隅で、ボクは日向クンの体を更に強くかき抱いた。

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18.部員の話 : 4/10
今日の狛枝は張り切っている。恒例のモーニングコールでは1回の呼び出し音で出た上、「今電車を待ってる所だよ」と爽やかな声で返答があった。いつもは寝てる時間なのに?と驚いて、慌てて腕時計で時間を確認したくらいだ。気の所為かと流そうとしたが、どうやらそうではないらしい。彼と職員室で顔を合わせた時も、メガネ越しのネフライトはキリリと凛々しく、その美麗さに俺は思わず惚れ直した。
「狛枝先生、今日は何だか…いつもと違いますね」
「えっ、そうですか…?」
女性職員から声を掛けられて、狛枝は柄にもなく上擦った声で返事をした。やはり俺以外にも分かるのか。あれだけいつもと違えば気付く者は多いだろう。狛枝を気にしている人間は特に。
始業式も終わり、新しい受け持ちで授業はスタートしている。俺も狛枝も高校2年の担任を受け持っていて、担当学年が違った前年度より話す機会が増えた。不自然かもしれないと用心して避けていた会話も、今は普通に出来ている。学校の中なのに、会話以上のこともたまに強請られる。狛枝の瞳から放たれる濡れた視線は、いとも簡単に俺の本能を揺り動かすのだ。そういえば昨日も…と、俺は自分の机で書類を纏めながら、脳裏に色濃く残る記憶を振り返った。


……
………

下校時刻をとうに越えた夕方に、朱色の光が差し込む廊下で。擦れ違いざまに『日向先生…』と名前を呼ばれ、それに振り返ると、案の定スーツ姿の彼が立っていた。
『……狛枝、先生?』
『夕焼けがすごく綺麗ですね…。ほら、外が全部…太陽の色に染まってる』
『ああ、本当だ』
窓の外を指差されて、俺は染みるような明るさに目を細めた。冬の頃より随分と陽が延びた。地平線に落ちようとしている太陽はその形を楕円に蕩けさせ、その下に広がる街は狛枝の言う通り、全てが朱色に染まっていた。俺は窓際に一歩近付く。中々、こうして夕焼けを眺める時間も余裕もない。たまにはこうして夕日の美しさに気を落ち着けるのも良いだろう。狛枝も俺と同じように隣に並ぶ。しばらく2人で夕焼けに浸された風景を眺めていると、ふいに彼は口を開いた。
『でも光が届かない場所もある』
『?』
掠れた声がすぐ傍で聞こえて、隣をチラリと見やった。色素の薄い彼の髪や顔も優しいオレンジ色だ。彼が言っている言葉の意味が分からず、きょとんと首を傾げていると、ジャージの裾をくいっと指先で掴まれた。
『行ってみませんか? すぐ近くですから…』
囁く声にゾクリとする。真正面から狛枝の顔を見て分かった。顔が赤いのは、夕日の所為だけじゃないって。彼のしたいことが手に取るように分かる。メガネの奥の潤んだ瞳と吐息混じりのセクシーな声に、俺は誘われるがまま歩き出す彼の後に続く。締め切られた非常階段への扉は少しだけ奥まった場所にあり、窓からの光は届かない。人目を盗んで、体を忍ばせて。差し伸べられた白い手を掴んだ俺は、壁に体ごと狛枝を押し付け、しどけなく開いた薄い唇に吸いつく。
『……ふ、ん、ひなた、せんせ……んぅ…っ』
『もうちょっと、我慢、…出来ないのか。お前は…』
『…ゃ、むりぃ……だって…ッ、あっ…』
むしゃぶりついてくる狛枝に答えるように激しく口付けを交わす。くちゅくちゅと彼の口内を蹂躙して、舌をじゅるりと吸い上げる。狛枝はビクビクしながら、腰を揺らした。そろりと這わせた彼の左手が俺の股間をやわやわと撫でるのを、手首を掴んで止める。
『あ……ん、何、でぇ……日向、クン…!』
『…バカ。ダメに、決まってるだろ…』
そう、ダメに決まっている。ここは学校で、俺達は教師。とろんとした泣き出しそうな表情で抗議されるが、絶対に折れてはいけない。彼にそれを求められたら、堪え症のない俺は我慢が効かない。最後まで応じるしかないのだから。天文部で犯した秘め事の二の舞になる。ただでさえあの時以来、狛枝と校内でキスをすることが多くなったのだ。
『帰るまで、大人しくしてろ。…分かったか?』
『ん、ぅん……分かった、からぁ……んぁ…ッ』
腰砕けになりそうな狛枝の体を支えてやりながら、名残惜しくも唇を離す。涙を浮かべながら上目遣いに見つめる狛枝が憐れで、最後に軽く触れるだけのキスを送る。
『はぁ…っ。今夜は…、キミを離さないからね…!』
『………狛、枝…っ』
彼なりの気遣いなのは分かってる。俺が何もかもぶちまけたあの夜から、狛枝は俺に対してストレートに気持ちを告げるようになった。黙ったまま俺の胸元に縋りつく狛枝をきつく抱き締め、彼の香りを思いっ切り吸い込む。腕を解いてから先に行くように促すと、狛枝はふらふらとした足取りで歩いていった。俺は壁に背を預け、短く息を吐く。
『先週のようには、いかないんだぞ…』
ぽつりと漏らす独り言はとうに姿を消した狛枝に届くことはない。先週までは春休みだったから毎日のように媾っていたが、仕事が始まった今ではそう簡単に体は重ねられない。だけど…。
『今夜は、君を離さない…か』
何て、殺し文句だ。そんなことを言われてしまったら、平日だからと誘いを無下には出来ない。狛枝に触れられた体はその感触を蘇らせ、俺に熱情を訴えた。静かに目を閉じ、それをやり過ごした俺は壁から体を起こす。そしてすぐ先に見える陽の光に向け、漸く一歩を踏み出した。


……
………

「もうそろそろか…」
職員室の壁に掛かっている時計を一瞥し、俺は席を立った。何人かの教師が俺と同じように職員室を出ていく。もちろん狛枝もだ。綺麗に背筋が伸びている後ろ姿を追いながら、俺も講堂へと向かう。
高校1年は中学からの持ち上がり組と外部から受験組が半分半分だ。年度の初めには部活紹介として、授業とは別にコマを取って、講堂でそれぞれの部活が発表をする。1つの部活の持ち時間は5分と短いが、それがきっかけで入部を決める者も多く、部活紹介は部員数の少ない部活にとっては天王山とも言えるイベントなのだ。
俺が顧問を務める陸上部は何もしなくても毎年大量の新入部員が入ってくるので、主将副主将共に適当に構えている。茶道部の副顧問も担当しているが、オーソドックスに女子人気が高く、部員には困っていない。だが、狛枝が面倒を見ている天文部は別だ。昨年3年が引退してから、部員は残り2人。1月の時点で廃部だったのを見逃してもらい、ここまで何とか持ち堪えたと彼から話を聞いている。これが最後のチャンス。部活紹介で人が集まらなかったら、天文部は廃部決定。修了式の日に卒業したOBに頭を下げられたことが相当心に残っているのだろう。今日の狛枝が張り切っている理由はそこにある。

講堂へ足を踏み入れると、ざわざわと騒がしかった。席に座った生徒達は、落ち着きなく周囲の友人達とお喋りをしている。担任教師に注意され、首を竦めるも、すぐに隣とコソコソと囁き合う。そういうものだよな、この年頃って。自分が高校生の頃はどうだったろうか。その時の俺は、狛枝のことまだ知らなかったよな。当の彼は俺よりも舞台に近い所に立っていて、先ほどから女子生徒の視線を集めまくっている。愛想を振りまいていなくとも、相変わらずの人気だ。
壇上に司会らしい学年主任が登り、新入生を歓迎する言葉を述べる。短く切り上げた祝辞の後、舞台に合唱部の面々がズラリと並び、ピアノの音色と共に美しい声を奏でる。それを境に、講堂にいる生徒達からはお喋りの声がふつりと消えた。


「将棋をやっていると、物の考え方が変わります。一手二手先を読むことが日常でも自然と身につきます。もしかしたら未来を予知出来るかもしれません! 地味で暗そうだと敬遠せずに、まずは見学してみて下さい! よろしくお願いします!!」
将棋部が一礼して、反対側の袖へと引っ込んでいった。どこも工夫して、発表しているなと感心してしまう。我が陸上部は何やら訳の分からない陸上コントを発表していたが、あれは良かったのだろうか。ウケていたようだけど、部活紹介としては微妙だ。放っておかずに顔を出しておけば良かったと俺は少し後悔する。
『次は天文部の発表です』
淡々と読み上げる生徒の声に、狛枝の白い髪が揺れたのが分かった。真剣な表情で固唾を飲んで見守っている。やがて1人の女子生徒が緊張した面持ちで舞台に立った。ペコリとお辞儀をして、マイクを握り締めている。大きく息を吸った彼女は声を震わせながら、新入生に挨拶をした。
「こ、こんにちは! これから天文部の発表を行います。わ、…私達の主な活動は、天体の観測と観望です。具体的に思い浮かばない…という皆さんのために、卒業生を含めた先輩方がこれまでに撮った天体写真をお見せします」
彼女は真っ直ぐ前を見て、頷いた。その視線の先は、着席している1年生を飛び越えた奥にある管制室だ。すると講堂内は照明が落とされ、舞台上に用意されたスクリーンに澄んだ天空の写真が浮かび上がった。舞台の天井に取り付けてあるプロジェクタを使っているらしい。説明を交えながら、画面が切り替わっていく。真っ暗な空間に映る色とりどりの星々はとても幻想的だ。
俺の記憶が確かなら、去年の天文部は大きく引き伸ばした天体写真を持ちながら、発表していたはずだ。スクリーンを使うのはきっと狛枝が考えたのだろう。これはかなり興味が惹かれる。俺は狛枝のアイディアに感心した。
「皆さんも記憶に新しい、昨年の金環日食です。部活で使っているカメラで撮りました。冬に良く見るオリオン座。こちらは望遠鏡で撮ってます。ちょっとぶれてますね…」
天体写真を前に段々と自信が出てきたのか、発表している口調も滑らかになってきている。全ての写真を見せ終わったらしく、講堂内は再び明るさを取り戻した。
「星や天体に興味がありましたら、是非お越し下さい。カメラや望遠鏡の扱いも一から丁寧に教えます。全然難しくないです。なので、あ…っ」
マイク越しの声がそこで途切れ、後からゴンッと鈍い音がした。どうやら緊張のあまり、舞台下にマイクを落としてしまったらしい。恥ずかしさに顔を真っ赤にさせ、慌てて壇上から降りようとする彼女の前に、誰かが颯爽と歩いて来た。
「狛枝……」
背が高く浮世離れした美丈夫の登場に、会場がざわ…と湧いた。彼は天文部員が落としたマイクを拾い、壇上に登っていく。そして何やら彼女に一言二言告げて微笑んだ後、マイクを口元に当てた。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。私は天文部の顧問の狛枝です。天文部の発表はどうだったかな? 星、綺麗だったでしょ? 今日発表した以外にもたくさん天体の写真がありますので、気軽に部室に遊びに来て下さい。それと…」
「あっ、は、はい! えっと、春と夏に合宿を予定してます。春は学校ですが、夏は長野の合宿場でやります。すっごく星が綺麗で、心が癒されます。お、お願いします!!」
一生懸命声を張った彼女はまたペコっと頭を下げる。隣に立っている狛枝も軽くお辞儀をし、顔を上げた。
「あ…っ」
思わず俺の口から声が漏れる。狛枝が客席を見渡し、ニッコリと笑ったのだ。それも学校では滅多に見せない蕩けるような笑顔。万物全てを魅了するような美しさに、またも1年生がざわざわと湧き立つ。女子生徒だけではなく、男子生徒までが顔を赤くしている。狛枝は俺のなんだ! あいつの笑顔は俺以外に見せちゃダメなんだ! そうは思っても、天文部を救いたいという狛枝の思いは尊重してやりたい。ギリリと俺は奥歯を噛み締めた。
発表を無事に終えた天文部は舞台袖へと消えていく。もちろん、狛枝も一緒だ。講堂はしばらく1年生の興奮気味の声が収まらなかった。


その次の週の月曜日…。
天文部の入部届は異例の20名越え。美し過ぎる顧問の笑顔により、廃部寸前の天文部は存続が決定したのだった。

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19.ミルクの話 : 4/13
今、何時なのかな。ベッドに横たわったボクはぼんやりと考える。部屋の電気が消えていて、光源はベッドサイドに置かれた電気スタンドの僅かな照明のみ。これでは壁時計の針がどの数字を指しているのかが見えない。だけど恐らく0時はまだ過ぎていないだろう。そんな予想を立てた。
「う……、ぁ…、はぁ……! 狛、枝…うぅ…っ」
ボクを組み敷いている真っ黒い獣が低く唸った。昼間は人の良さが滲み出た快活な人間のフリをしているが、夜の帳が下りればあっさりとその本性を見せる。性欲に忠実で、独占欲が強く、意外と嫉妬深い。誰よりも愛しく、世界で1番好きなその獣―――日向クンに、ボクは今食べられている真っ最中なのである。
「っ……ぁあッ、う…ひぁたクン……ぃ…」
「こまえだ……っ、あ…、ハァ……」
気持ちが高ぶっているのか、ボクの上から降ってくる日向クンの声は語尾が震えている。電気スタンドの淡い光では彼の表情までは分からなかったが、きっと興奮に上気した厭らしい顔をしてるのだろうと簡単に想像がついた。
「……ぁ…、あ、っ…あつ、いよ…。日向、クン…ッ」
体が、熱い。彼のモノで奥の奥まで開かれる悦び。腰に鈍く広がる痛みが苦しくて、気持ちいい。突かれる度に仰け反ってしまうほどの強い衝撃が断続的に続く。脚を大きく持ち上げられ、男らしい無骨な手で撫でられた。そして、内側を抉るように一突き。
「…やっ! あ……アッ…今、の……んっ、……ッ」
「ぁ、悪い…っ。痛かったか?」
「ううん……。何か、変…あぁっ……ん、ふっ…く…!」
奥から生まれてくる新しい感覚に、ボクは戸惑いを隠せない。それは体も同じなのか、全身にぞわりと鳥肌が立った。ボクが痛くないらしいことに安心した日向クンは、1度突いたその場所を続けて何度か突き上げた。自分でも分かる。漏れる声に快楽と甘さが含まれているのが。たまに焦らすように浅く小さく刻んで、油断した所に深く重く穿つ。ああ、すごくいい…。彼の腰使いが堪らなく好きだ。
ふとボクの顔に日向クンの手が触れる。汗で顔に纏わりついた髪を取ってくれたらしい。体勢が少し変わったらしく、電気スタンドの光が彼の顔体に陰影をつける。スポーツマンらしい短い焦げ茶色の髪とピンと立ったアンテナのようなクセ毛。スッと真っ直ぐに伸びた眉と凛々しい金色の瞳。鼻の頭には汗が浮かんで、口は忙しなく呼吸を繰り返している。
「………。ここ…前は痛いって、言ってたのにな。感じるように、…なったのか?」
「…ぇ、んんッ、うぁ……、な、に……?」
「はっ…、アっ……すごいぞ、狛枝…。どんどん、感じやすくなってる…」
「っ! アんッ…、ひぅ…! あっ、あはぁ……く……っ」
日向クンは嬉しそうにひくりと唇の端を吊り上げて、腰をグラインドさせた。気持ち良さのボルテージが上がる。ボクの体は日向クンに抱かれるようになって、段々と変化してきているらしい。そう、ボクは彼に開発されたのだ。
日向クンは元々凝り性だ。飽きっぽさとは無縁の性格である。1つのことに集中し、理解出来るまで決して諦めない性分で、興味のあることにはとことん拘る傾向がある。それは対人関係でも同じだったようで、いくらボクが冷たくしてもめげずに話しかけてくれたのはその性格故だろう。
ボクを初めて抱く時も、日向クンは本能のまま勢いよく突っ込むなんてことはしなかった。どうやったらボクが気持ち良くなるかを念頭に置き、3ヶ月もの間彼は試行錯誤を重ねた。ゆっくりじっくり時間を掛け、ボクの体に性の悦びを丁寧に植え付けた結果、ボクはどこもかしこも感じてしまう淫乱体質となってしまった。
「きもちいい、か? 狛枝…」
「ぅあっ、あ……、いい、いいよ…ぉ……ッ、ふ、ん…っう」
「…っ、良かった……。前、…触るぞ」
日向クンの手がボクの中心に優しく触れた。ぬるぬるとした先端をツッと撫でられ、ゾクゾクと背筋が逆立つ。悪寒にも似た感覚に、ボクの舌は思わず彼の名前を紡いだ。
「ひなっ……あぅ…ひぁたクン…アァ…っ」
「…ん……、大丈夫、だから…。脚、閉じるなよ…。狛枝…、イきそうなんだろ?」
「ふぁ…は……ッ、イ、く…? アんっ」
「………。ほら、もう少し……、頑張れるか…?」
「んぁあッ、あ…、ひな、た…クン…、あっあっ……ひっ、ぃ……」
脚を無理矢理広げられた。男の象徴を見せつけるような恥ずかしいポーズだ。前は繊細な手付きでやんわりと擦られ、後ろは激しく大胆に犯される。両方から責められて、ボクの意識は真っ白い峠を越そうとしていた。
「狛枝…」
「ン、ふぁ……う…ハァん……。ひぁ、た、クン…!」
体をこちらに倒してきた日向クンと熱い口付けを交わす。もっともっと味わいたい。一時でも離れていたくない。日向クンが逃げたら、ボクが追いかけて。ボクが逃げたら、日向クンが追いかける。絡まり合う舌と舌。貪るようなキスに溺れて、唇から漏れる涎なんて、気にする余裕もない。ガツガツと打ち付けられ、全身が炎のように燃えている。ダメだ…、もう我慢出来ない…! 熱の解放はすぐそこまで迫っていた。
「あぅ…、んはっ…ひ、たクゥン…。やぁ…もう、出したいよぉ…! あっアっあハァ…ッ!」
「…ん……、分かった。俺も、もう…」
日向クンはボクをぎゅっと抱き締めて、腰の動きを速めた。肌と肌がぶつかり合う乾いた音が室内に響く。ボクの中で彼がぶわりと膨らんだのが分かった。お腹が日向クンでいっぱいになって、イイ所にぐりっと強く当たる。ああっ、きもちいいよ…! 鋭い音を立てて、目の前で火花がいくつも飛び散った。
「ああっ…あ、ああああッ……ん…、〜〜〜〜っ!!」
「う……! ァ…ぐ……っ! ッ! ん…。ハァ…」
腰がドロドロに溶けるような錯覚がした。ビクビクと体が痙攣し、ボクの指先に力が入る。薄らと濡れた日向クンの背中に、爪をきつく食い込ませた。全てを出し切って、ボクはくったりとベッドに手足を投げ出す。うん…、すっごく、よかった…。うっとりと余韻に浸りながら、ボクは目を閉じる。彼に合わせて全身で律動をしていたから、体中の筋肉が解れて良い感じに倦怠感に包まれている。ねっとりとした汗もお腹の上に飛び散った自身の体液も気にならないくらいに疲れていた。
「はぁ……ッ、は…、ぁ……、こまえだ…?」
「ん…。ひなたクン……、あはっ…。ちょっと…っ、あついねぇ…」
息も絶え絶えに隣に倒れ込んだ日向クンに笑いかけると、彼は「そうだな」と苦笑して、中途半端に掛かっていた布団をがばっと捲った。汗が浮かんだ裸の体に仰いだ風が当たって、一瞬だけ涼しさを感じる。だけどすぐに部屋に籠った熱が重く体に纏わりついてきた。今日洗って干したばかりのシーツも2人分の汗で湿って、何だか皮膚に吸いつく感じがする。
日向クンは吐精したばかりだからか、少し気の抜けた顔をしていた。額に浮かぶ汗を乱暴に腕で拭うと、彼は分身を覆っている薄いゴムを外しにかかる。
「ねぇ…、日向クン。いっぱい、出た…?」
「……まぁ、な。1回目、だし」
「…それさ、ちょっと貸してくれる?」
ボクが重い腕を上げると、日向クンは訝しげに首を傾げたが、口を縛ろうとしていた手の中の物を渡してくれた。萎んだ風船のような薄いピンク色の中に、彼から放たれた白濁が溜まっている。透過率0の真っ白な液体。日向クンがボクで気持ち良くなって、吐き出した…愛しくて大事な彼の一部だったもの。ボクは液が溜まっている底を持ち上げ、ゴムの入り口を唇へと近付ける。
「お、おい! こまえ、…!」
伸ばした舌先にとろりとした甘い蜜が落ちる。零さないようにゆっくりと。慎重に傾けて、中身が空になるまで口内へと流し込む。美味しい、美味しい、彼の味。舌で転がし、唾液と混じらせ、こくりこくりと嚥下する。喉に引っ掛かるのはそれだけ濃かったからだ。唇に付いてしまったのも残さず舐める。
「あはっ、おいしい。……日向クン、そんな顔しなくても良いんじゃないかな?」
「…だって、お前っ。いきなり飲むか? 普通…!」
「勿体ないでしょ? 折角キミが出してくれたんだ」
ボクの言葉に日向クンは困惑の表情を浮かべた。明らかに引いている。うーん…。この感覚、キミには分からないのかな?
「……ゴムの中に出たやつだぞ」
「大好きな日向クンのミルクを捨ててしまうなんて、そんなことボクには出来ないよ…。キミだって、ボクが草餅捨てようとしたら止める筈さ」
「〜〜〜っ、それとこれとは話が違う…!」
日向クンはカーッと顔を赤くしながら、空っぽになったピンク色の風船をボクの手から取り上げる。ティッシュと一緒にくしゃくしゃと丸めて、ゴミ箱に放り投げた。シュッとまたティッシュを摘まんだ彼だったが、ボクをじっと見て、何かを考え込むかのように眉間に皺を寄せた。
「日向クン…?」
「…確かに勿体ないかもしれない。栄養価が高いタンパク質でもあるんだし……」
「…えーっと、日向クン? おーい」
何だか違うベクトルで思考が展開しているらしい。日向クンはベッドに手を突いて、ボクのお腹に顔を近付ける。見つめる視線の先はボクが出したばかりの白い液体だ。熱に浮かされたような顔つきで、日向クンはすんっとその匂いを嗅いだ。
「狛枝の…なんだよな。ん…、は……っ」
レロっと舌を滑らせて、白濁を掬い取る。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、日向クンはお腹の上に広がった白を綺麗に舐めていく。濡れた舌先に、鋭敏なボクの体はピクンと震えた。くすぐったいようなムズ痒いような微妙な触感に、腹筋がヒクヒクと微動する。
「ぅ……ん、ひ、ひなたクン…、やらっ、くすぐったいぃ…っ!」
「お前もたくさん…、出たんだな。ぅ、ン……、こんな所まで飛んでるぞ…」
「はぁんっ…だって……、キミが…あんな……ッ、あっん、んッ」
唇で柔らかく皮膚を食んで、ペロペロと舐め取り綺麗にしていく。どうしよう…。次第に頭が朦朧として、熱っぽくなってきた。こんな中途半端な快楽は嫌だ。意識が飛ぶくらい激しく中を擦って、もっと強く責め立ててほしい。もっと、もっと…。
「ん…あぁ……あん…、ンッ……ひぅ…!」
「……んッ…、ハァ、こまえだ…」
しかしそんなボクの気持ちとは裏腹に、日向クンの舌はお臍の辺りをくるりと撫でて、静かに離れていった。え…、嘘…っ。これでおしまい!? ボクがビックリして日向クンを仰ぎ見ると、体を起こした彼は両手を合わせて頭を下げた。
「ご馳走様でした…!」
「〜〜〜っ、日向クンっ!」
「狛枝? …何で怒ってるんだよ。全部舐めたぞ?」
キッと睨み付けるボクに、日向クンが拗ねたように言葉を重ねる。膨らみかけたボクの欲望は部屋が暗い所為で、どうやら彼の視界に入っていないらしい。……日向クン、キミって人は! ボクの気も知らないで、好き勝手にするんだから。彼の舌はボクの情欲を刺激しただけで、その期待に応えないまま去っていったのだ。悶々と熱を抱えるボクに気付くことなく、日向クンはさっぱりとした態度のままである。ボクの髪を撫でつけ整えたり、体を濡れタオルで拭いたりと後始末に余念がない。
「ねぇ…、日向クン」
「ん? 狛枝…、気持ち悪い所ないか? こんな感じで大丈夫だよな」
「うん、ありがとう…」
ニコッと純粋な笑顔を向けられて、ボクは文句を言う気が失せてしまった。ボクのを飲んでくれたというのは素直に嬉しい。でも体内をゆったりと巡り始めた熱の帯は、じわじわとボクの理性を蝕んでいく。この熱を覚まさせてくれるのは愛しい恋人である日向クンだけなのに…。
「少し休んだら、シャワー行こうな。狛枝」
「…そうだね」
目を細めて、日向クンは優しくボクの髪を梳いた。素っ気ない返事も吐精後の疲れと判断されてしまったようだ。ボクのことは隅々まで知ってるクセに、肝心な時に分かってくれない。瞼にキスを落とした彼は、ボクに寄り添うように体を落ち着けて目を閉じる。日向クンの顔、男らしくてカッコいいよなぁ。幸せそうに頬を緩ませた彼は、やがてすぅすぅと寝息を立て始めた。ここで起こしたら流石に可哀想かもしれない。ボクは諦めて、眠ろうと目を瞑った。


………。んぅぅううううっ! やっぱりダメだ。頭では分かってても、体は分かってくれないんだよ、日向クン! だってボクの体をこんなにしてしまったのは、紛れもないキミ自身なんだから。あー、もう! 日向クンのバカバカ! 鈍感! 変態! 絶倫! 分からずや! ……でも、大好き。

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