// M→F //

07. 今のボクらの関係は、友達とどう違うの?
採集が終わったばかりのまだ明るい時刻。窓際のブラインドからは陽光が射していて、コテージの中はかなり明るい。ベッドの縁に腰掛けた俺は目覚めたばかりの狛枝を抱き締めている。何だか現実味がない。長く過ごした自分のコテージなのに、知らない場所にいるような感じだ。…未視感ってやつだろうか。
俺、狛枝に告白したよな? 好きだ。付き合ってほしい。確かにそう言った。それからどうなったんだっけ…? 腕の中にある体を確かめるように背中に置いた手でそっと撫でると、狛枝はビクンと跳ねるように反応した。遅れて聞こえてきたのは、唇から漏れるくぐもった吐息で。俺は耳から首筋に掛けて、ゾクゾクとした感覚に襲われた。
「狛枝…」
「ん…、なぁに? 日向クン…」
鼻にかかるようなうっとりとした響きの声だ。狛枝の体から力が抜けて、俺の肩口にゆっくりと凭れかかる。猫のように甘えて擦り寄ってきたのが分かった。じわじわと伝わってくる体温にきゅーっと心臓が締め付けられる。これは…、現実だ。
『キミだけが好き…っ』
泣きそうな声で狛枝はそう言った。やっと両想いになった実感が湧いてきて、俺は狛枝を抱いていた腕を緩める。狛枝もそれを察したのか体を離してくれた。あどけない表情で小首を傾げる狛枝と真正面から目が合った。何か、近いな。顔を合わせたその距離は10cmも離れていない。ちょっと顔を近付ければ簡単にキス…出来そうだけど。…ヤバい、緊張してきた。今更になって心臓がうるさいくらいバクバクと存在感を主張する。目の前の狛枝は俺に蕩けるような表情で、桜色に色付いた唇を開く。
「日向クン…。あのね、」
「な、何か眠くなってきたなー。俺、今日の採集場所 山だったから…っ。はは、」
「………」
一瞬の沈黙がコテージ内を支配する。度を越した緊張感に耐えられなくなって、俺はどうでも良いことをテンション高く言い放ってしまった。自分でも分かる。今、俺はすごく引き攣った笑顔を浮かべている。多分これはチャンスだった。狛枝とキスが出来る。でもまだ心の準備が出来てないんだ…! 告白もして、抱き締めてもいるのに、更にキスなんて。ああああ!! 考えただけでも頭が沸騰するじゃないかっ! 現に顔がおかしいくらいに熱い。テンパってる俺とは逆に狛枝は肩透かしを食らったのか、目を細めて蔑むような眼差しを俺に向けている。視線が痛いとはまさにこのことか。
「日向クン」
「………はい」
「眠いの?」
何だ、このプレッシャー。流れのまま、俺はこくんと無言で頷く。狛枝は俺の返事に表情を険しくする。禍々しいオーラが背後に見えるような気がして、俺は冷や汗を掻いた。明らかに格下を見下すような目だ。思わず体を固くして畏まっている俺に、狛枝は頭に手を当てて「はぁ」とあからさまに呆れたように溜息を吐いた。
「さすがは超高校級の童貞。ここでそう言われるなんて思ってもみなかったよ。予想外だ」
「俺は…、…っ」
「………ボクのこと、欲しくないの?」
言葉が上手く出てこない俺に痺れを切らしたのか、ギシリとベッドを軋ませて、狛枝は悩ましげな眼差しを俺に近付けてきた。良い香りのする蠱惑的な白い肢体に、可愛らしいエプロンドレス姿も相まって、クラクラするほどの魔性を漂わせている。狛枝の指先が俺の胸元から肩口までするりと撫でるように上がってくる。肌が、粟立つ。背中に走るゾクリとした戦慄を顔に出さないようにして、俺は狛枝に視線を合わせた。心臓は相も変わらずうるさい。
「えっと、それはまだ早いんじゃないか…? 告白してすぐにキスとかってさ」
俺はまだ誰とも付き合ったことがないから、そういうのには多分疎い。だけど付き合って即キスってのは普通ないよな? いくら今まで友達だったからって言っても、色々と段階を踏んでいくべきだと思うし。自分の中で一般的な考えだろうことを口にすると、狛枝の表情は見る見る内に変わっていった。分かりやすく言うと悪い方向に…。
「はぁ? キミって悠長に付き合って3ヶ月経ったらキスするタイプ?」
「…いや、その。別に3ヶ月とか具体的な期間は考えてないけど。何て言うか、そういうの目的で告白した訳じゃないんだ。お前のこと、大事にしたい」
「………あっそ。というかボクがしたかったのはキス以上のことなんだけど?」
「狛枝…? ちょっ……!!」
俺の首元に顔を埋めて、すんすんと匂いを嗅いでくる狛枝に、俺は反射的に彼の肩を掴んで 体を離す。突然の俺の反応に始めは目を丸くした狛枝だったが、やがてクスクスと困ったように笑い声を漏らした。
「え、ええっ、キ、キス以上って…っ!?」
「ウブ過ぎるよ、日向クン。全く、キミって人はどうして…。まぁ、欲しいからって欲張ったらダメってことかな。…いいよ。もう寝たら?」
狛枝は肩を竦めて、片目を瞑ってみせた。…許してくれたのか? 機嫌を直したのか、少しだけ穏やかになった口調で俺に語りかける狛枝。何だかいつものペースだ。俺には恋愛はまだ早かったのかな。半分勢いに任せたような告白だったけど、後悔はしていない。俺は狛枝が好きだ。興奮だってする。いずれは抱きたいとも思う。でも狛枝が考えるような、その…肉欲的な感覚は今のところおぼろげなものしかなくて、彼とこれからどうやって向き合っていくかも全然考えていなかった。
「俺は…、お前と一緒にいられればそれで十分なんだ。手を繋いだり、どこかに出掛けたりさ。狛枝がいてさえくれれば、それだけでも幸せだって感じる」
「ふぅん。まるでおままごとだね。確かにキミは満足かもしれない。でもボクは…それじゃ足りないよ」
狛枝はしょんぼりしながらも、俺を挑発しているのか性的な発言が多い。何だかおあずけを食らった子犬みたいで可哀想になってきた。炎のように揺らめく白い髪に指を通すと、狛枝は濡れた瞳を俺に向けて「…日向クン」と小さく名前を呼ぶ。
「今のボクらの関係は、友達とどう違うの?」
「…それはっ、」
鋭く指摘された事実に、ぐうの音も出ない。狛枝の反論に俺はしどろもどろになりながら、考えを巡らせる。でも答えなんて出なかった。当たり前だ。狛枝が言っていることは全くもって正しい。世間一般で言う恋人とは彼の言うように肉体的な繋がりを持った者が大半だろう。何の違いがあるのか。きっと傍目から見たら、違いなんてない。沈黙を守ったままの俺を見て、狛枝は宥めるような優しい口調で静かに語りかける。
「…無理を言ったみたいだね。キミの考えは分かったよ。これからゆっくり進めていけばいいんだね?」
「ああ、すまない。狛枝」
「うん、分かってる。…ボクも願いが叶ったんだ。折角の日向クンとの関係を壊したくない。キミに嫌われたら、ボクは狂ってしまうかもしれないから」
「狛枝。怖いこと、言うなよ…」
こいつが言うと冗談に聞こえない。俺は知っている。彼が狂ってしまいそうなほど不幸な人生を辿ってきたことを。むしろ今の狛枝は彼の語る半生を思えば、異常なくらい整然としていた。傍に置かれたほっそりとした狛枝の白い手に俺の手を重ねる。指を絡めるようにして握ると、狛枝は消え入りそうな声で「日向クン…」と俺の名前を呟いた。表情が翳っていたのも一瞬で、狛枝はすぐにパッと明るい笑顔になった。
「ボクはね、それくらい…キミのことが好きなんだよ。溺れてしまいそうなくらいにね。だからもういいよ。意地悪しないから」
「………あ」
「これくらいなら、いいでしょ?」
狛枝は俺の頬に触れるだけのキスをした。ちょっと掠めただけなのに柔らかさが伝わってくる。ニコッと微笑みを向けてくる狛枝に俺はただ生返事を返すだけだった。

結局、狛枝が折れる形で話は収まった。だけど俺は心の中で引っ掛かっていた。本当にこれで良いのか? 相手を大事にすることと、相手の願いを叶えること。どちらがより重要なのか? 狛枝は俺に大事にされることを望んでいない。それどころか俺の行動で彼を不安にさせている。
「…ほら、ベッドに入ったら? 疲れてるから寝るんでしょ?」
クスクスと軽い笑い声を立てながら、狛枝が俺を見上げる。俺は腰掛けていたベッドの縁から立ち上がって、狛枝がベッドから降りてくるのを待った。てっきりこちら側に体をずらしてくると思ったが、狛枝は奥側に向かって俺から離れていく。頭に疑問符が浮かぶ俺に狛枝は不敵な笑みを浮かべ、空いているスペースに軽く手を置いた。
「狛枝…?」
「添い寝、しよ?」
静かな落ち着いた声が心地いい。俺は狛枝に差し出された手を無意識に取った。ゆっくりと引かれて、ベッドに体を沈めた。天蓋付きの大きなベッドだったが、2人で寝るにはギリギリかもしれない。ああ、そうだ。狛枝を落とさないようにしないとな。何の気なしに狛枝の細い腰を掴んで、こちら側に引き寄せる。狛枝は驚いたように顔を上げて俺を見た。
「ひ、日向クン…!?」
「お前がベッドから落ちないようにだよ。また頭にこぶ作りたくないだろ?」
「うん、…そうだね」
狛枝の顔は何だか幸せそうだ。ああ、落ち着くな…。こんなに好きな人と距離が近いのに、不思議と緊張はしていない。そっと息を吐くと、俺は目を瞑った。すごく眠い。採集の疲れが体に圧し掛かって、どんどん落ちてゆくような感じだ。繋いだ手から狛枝の体温が伝わってきて、意識に霞がかかり朦朧としてくる。ウトウトとまどろみに漂っていると、狛枝が更に体をくっつけてきたのが分かった。心地いい体温に晒されて、強烈な睡魔に襲われる。
「おやすみなさい、…日向クン」
「ん、…おや、すみ」


……
………

どのくらい時間が経っただろうか。静かで物音1つ聞こえない。体から疲れがかなり抜けていたから、大分寝入ってたんだと思う。頭は起きてるけど、瞼が重くてどうしても開かない。もう少し寝てても大丈夫か?
「………すぅ」
狛枝の寝息だろうか。鼻を抜けるような微音が耳に入った。だんだんと体の感覚が戻ってきて、自分がどういう状態なのか分かってくる。俺は狛枝を抱き締めて寝ていた。顔に彼のふわふわとした髪が触れている。思っていたよりも体が密着していてドキドキしたけど、相手が寝てるってだけで少しは余裕がある。
目を開けるとやや下の方に狛枝の寝顔が見えた。目を閉じているから睫毛の長さがより強調されている。…いつもは大人っぽいのに何か幼いな。口が半開きになってて、涎で唇が濡れている。両手はしがみつくように俺のシャツの胸辺りを握っている。今まで見たことのない可愛らしい一面に、俺は口元を緩めた。このまま彼の寝顔を見ているのも悪くない。無理矢理起こすのも忍びなくて、俺は狛枝を観察することにした。
こんなに顔をまじまじと見るのも、狛枝が女になってからだな。男に戻ってもこんな風に傍にいたい。男とか女とか関係なく、俺は狛枝 凪斗を好きになったんだから。そんなことを考えると、ふいに腕の中にいる狛枝が身じろいだ。
「ん〜……」
「!? ぅ…」
狛枝はまだ寝ている。だけど体勢を変えたらしく、太ももが俺の脚の間に割り込んできた。深く深く絡まった脚がゆっくりと上の方へとずらされていく。その先にあるのは俺の敏感な部分で。グニグニと柔らかかったそれは狛枝の脚に刺激されて、あっという間に硬度を増していく。ズボンを押し上げて、痛いくらいだ。
「はっ、……〜〜〜っ!」
闇雲に動けば、寝ている狛枝を起こしてしまう。興奮の波が押し寄せてきて、血がドクドクと中心に集まってきているのが分かる。きもちいい…。額に汗が浮かんできた。このまま狛枝を抱いてしまえば、楽になれるのか? だけど、俺は…!
「へぇ、結構粘るね。すぐに音を上げると思ってたのに…」
「!? …こ、狛枝? お前起きてたのかっ?」
狛枝の涼しげな双眸はパチリと開かれ、俺を上目遣いで見上げていた。一体いつの間に起きていたんだ!?
「日向クンのすごい熱くなってる。苦しいでしょ? 楽にしてあげようか」
吐息混じりの彼独特の静かな声が、隙間を縫うようにして俺の心を刺激する。淫らな光が宿る視線にゾクゾクと背筋が逆立った。ペロリと唇を舐める仕草にペニスが反応して、更に大きさと硬さを増す。狛枝の手が俺の中心をまさぐるように撫でてくる。まるで娼婦だ。
「いいっ、俺は…性欲処理が目的で、お前と恋人になったんじゃない!」
肩を掴んで狛枝を自分から引き剥がす。中心に触れていた手も離れて、俺は内心ホッとする。あれ以上弄られていたら、出してしまうところだった。爛々と輝いていた狛枝の瞳はやがて普段の色を取り戻した。肩を掴まれた狛枝は「残念」と呟いて、俺に柔らかい微笑を送る。
「……そう。ちょうどエプロンドレスを着てるし、ご奉仕しようかと思ったけど…。そこまで言われちゃったら、ボクは論破出来ないね。超高校級の童貞を見くびっていたよ」
「だからその言い方止めろって」
「何で? 事実でしょ? 童貞力を計測出来る機械でもないかな。日向クンは53万を優に振りきってると思うよ!」
ウインクしてみせる狛枝に俺は言葉が出ない。そんなスカウターあって堪るか。ここまで馬鹿にするような言い方ってことは…。
「狛枝、やっぱり怒ってるか?」
「…何て言うんだろう。怒ってるとも言えるし、怒ってないとも言える…かな」
「どういうことだ?」
「日向クンの言ってることが半分くらい分かってきたってことさ」
狛枝はそこで言葉を切った。俺の気持ち、もしかして伝わってないのか? 何となく不安になってくる。普段は誰も気付かないことを鋭く指摘するような奴なのに、人の情に関してはどうも鈍いらしい。
「心では分かってても…、体は違う。ボクはキミが欲しくて欲しくて堪らないんだ。体が疼いて仕方がない。全身でキミと溶け合って、1つになりたい。前後不覚に陥るくらいに、めちゃくちゃにしてほしいよ…」
「………こま、えだ」
赤い顔をしたままそんなことを言うなんて、反則だ。彼の言葉が麻薬のように俺の脳内に染み渡った。萎え始めた俺のペニスがピクリと小さく反応する。だけど狛枝は気付かなかったようで、「お腹空いたね」とあっけらかんとした口調で体を起こした。確かにそうだと、コテージの中を見渡す。外からの光は薄暗く、部屋も置いてある物の色彩が辛うじて見えるくらいの暗さだった。時間は6時を過ぎた頃だろうか。そろそろ花村がレストランで夕食を作っているだろう。
「ボク、エプロンドレスのままだし着替えてこなきゃ」
「悪い。そのまま寝たからちょっと皺になってるな」
パリッとしていた黒いブラウスやスカートは、ベッドに寝た時の皺がくっきりと残っている。でも皺にならない方法なんて、服を脱ぐくらいしかないし、これで良かったんだよな? そう自問自答をする。狛枝は衣服には頓着していないようで、「あはっ」と軽快な笑い声を出した。
「これくらいなら、洗ってアイロンかければすぐに直るよ。それじゃボクはコテージに戻るね!」
「狛枝…!」
「ん? 何かな」
ベッドから降りる狛枝に声をかける。彼は着替えなきゃいけないから、コテージから一緒にレストランに向かうことは出来ない。でも俺はどうしてもレストランで狛枝の近くに座りたかった。
「ロビーで待ってるから。レストラン、一緒に座ろう」
「……う、ん」
狛枝は立ち止まってその場でモジモジしていたが、やがて「後でね」と手を振りながらコテージから出て行った。あの格好で大丈夫だろうか。外に誰もいないことを祈るだけだ。パタンとドアが閉じられる音がして、俺はベッドにドスッと腰を下ろした。何か気が抜けたな。狛枝がいなくなった部屋は何だか空虚で、無性に寂しさを感じる。
俺、自分のことばかり考えてるのか? エゴを突き通して、狛枝を蔑ろにしている? 愛してほしい。そう訴える狛枝を俺は拒絶してしていることになる…。考えを遮るようにして、腹の虫が鳴り響いた。とりあえずロビーに向かうか。俺はベッドから立ち上がった。



プールサイドを抜けて、ロビーに足を踏み入れると何人かがそこで寛いでいた。ゲーム機を占領して1人インベーダーに熱中する七海。それを腕を組みながら興味深そうに見ている辺古山。左手のソファーには小泉と西園寺が並んで座っており、受付カウンターには田中が寄り掛かって、目を閉じている。
ここで狛枝を待たないとな。俺は空いているソファーに座った。小泉が「日向?」と屈むようにして、隣のソファーから呼び掛けた。
「誰か待ってるの?」
「ああ。その…、狛枝を待ってる」
嘘を吐いても仕方がないから、俺は正直に待ち人の名前を告げる。小泉は意外そうな顔をして、口を片手で覆った。だけど一拍置いて、彼女は安心したように破顔した。
「何だ、狛枝の悩み…もう解決したのね。まぁアンタなら何とかしてくれるって思ってたわ」
「? 何の話だよ」
狛枝の悩み? 話の筋が読めなくて、俺は首を傾げて小泉に言葉を返す。小泉は上に視線を向けながら思い出すような仕草を見せ、困ったように笑った。
「昨日、日向との距離の取り方が分かんないって言ってたのよ。正直意外だったわ。アンタと狛枝って普通に仲良かったじゃない? ケンカでもしたのかと思ったけど、そうじゃないみたいだったし」
「そうか…」
「アンタの周りにいる人達に嫉妬しちゃうんだって。女の子になった影響かしら? 友達を他の人に取られたくないって、男にはない考えだと思うんだ。多分、日向の1番の親友になりたかったんじゃないかな」
顎に手を添えながら、小泉は自分の見解を話してくれた。うん、解釈的には間違ってないような気もする。だけど俺と狛枝はそれを通り越した関係になってしまった訳で。小泉にそうなった事実を話すべきかちょっと考えたけど、狛枝に知らせずに勝手に喋るのはフェアじゃないと思って、黙っていることにした。
「ええー? おねぇはそう言うけどさ、わたしはガチで狛枝おねぇがおにぃを狙いに行ってると思ったよー。あいつって基本的に異常じゃん!」
「こら、日寄子ちゃん! そういうこと言うんじゃありません」
西園寺が小泉の膝にぐてっと横になりながら、口をタコのように窄めた。それを小泉が軽くいなしている。そんな彼女達のやりとりに俺は乾いた笑いを漏らすだけだった。…この場合、西園寺の方が合ってるな。
「2人ともありがとう。後で他の奴にもお礼言わないとな。狛枝、素直になったんだよ。前は少し捻くれた所あったけど、今はちゃんと考えてること言ってくれる。俺は聡い方じゃないから、すごく助かるよ」
「協力出来たんなら、こっちとしても女子会を催した甲斐があったわ。他に出来ることがあるなら何でも言ってよね。今更遠慮するような間柄じゃないでしょう?」
「そうだな、その時は頼む」
小泉達とそんな会話をしていると、コテージのドアがキィと音を立てて開いた。深緑色のコートと白いシャツ、黒いズボン。いつもの服装を身に纏った狛枝がそこに立っている。別にポーズをとっている訳でもないのに、ただ立っているだけで様になる奴だ。端正で美しい顔立ちに、等身の高いスリムなモデル体型。視線を左右に走らせた狛枝は俺を見つけると、ふにゃりと表情を崩したが、やがて隣にいる小泉と西園寺に気付くと僅かに眉間に皺を寄せた。
「お待たせ、日向クン…」
「狛枝!」
「ところで彼女達と何喋ってたのかな?」
「へ? 別にただの世間話だぞ」
「ボクという存在がいるにも関わらず、他の女性に現を抜かすなんて…! 日向クンはモテるって分かってたけど、こうして見せつけられるとさすがにショックだよ」
狛枝は顔を歪めて、悲しそうに俯いた。ええっ!? 本当に他愛もない話をしてただけだぞ。近くにいる小泉や西園寺はもちろん、興味なさそうに控えていた田中や辺古山までこちらに注目している。七海はゲームに集中しているようだったが。
「え、日向…。これってどういうことなの?」
「いや、俺もさっぱりなんだけど」
「…ボクはキミの特別じゃなかったんだね」
消え入りそうな声で狛枝はポツリと呟いた。ロビーが変な空気に包まれて、シンと静まり返る。西園寺から痛い視線を感じる。俗に言う修羅場ってことか? でも俺は何もしてないし、狛枝の誤解だ。俯いた狛枝はブルブルと体を震わせている。もしかして泣いているのか? 一瞬そう思ったけど、狛枝から漏れる嗚咽がどうもおかしい。低い咽るような音だ。すぐに気付いた。狛枝……。お前、笑ってるのか……?
「おにぃが狛枝おねぇを泣かせたぁー。これどう見ても親友じゃないよねぇ〜。ただならぬカンケイだよね! キャハハッ」
「日向、女の子を泣かせるなんて最低だよ! とにかく謝りなさい」
「俺様という特異点がありながら、珍獣と契約を果たすとは…。クッ、何だ? ぐおおお、視界がぼやける…っ!」
「どうやらややこしい現場に遭遇してしまったようだ。拗れるようなら喧嘩両成敗、私が蹴りをつけよう」
周囲は好き勝手に発言している。どうやら狛枝の笑みに気付いていないようだ。確かに傍目から見たら、彼は涙を堪えているようにしか見えない。でも俺だけは分かる。しおらしくしてても狛枝は狛枝なんだ。メンドくさくてトリッキーで訳が分からなくて、何の前触れもなく悪意を露わにするような奴。今の今まで忘れてたけど!
さて、どうする? 俺は自身を抱き締めるようにした狛枝を前に冷静に考えた。彼を宥めて、その場を誤魔化すか。冗談だからとみんなを説得するか。無視…は当然ありえない。なるほどな。狛枝はきっと試してるんだ。俺がみんなの前で恋人である自分をどう扱うのか。俺はぎゅっと拳を握り締めた。隣で見ていた小泉がイライラと俺達を見ている。
「ちょっと、日向? 黙ってないで何とか言いなさいよ!」
「………。狛枝、ごめんな…」
「…っ、日向、ク、ン……?」
彼の跳ね上がった語尾から察するに、この展開は考えていなかったということか。俺は狛枝のことを抱き締めた。その存在を確かめるようにきつく。狛枝の細い体は何の抵抗もなく、すっぽりと俺の腕の中に収まる。安心させるように背中を撫でると、くにゃりと体から力が抜けた。
「日向クン…!」
名前を呼びながら、狛枝は恐る恐るといった感じで俺の背中に腕を回した。狛枝、これでいいか? 心配してたのかもしれないけど、別に他の奴にお前を恋人だって明かすこと、俺は恥ずかしいなんて思ってないぞ。むしろ自慢したいくらいだ。人前だろうと何だろうと、お前が望むなら何回も言ってやる。俺は狛枝が好きだ。お前だけが好きなんだ。
「…狛枝」
腕を解くとぼぅっとした熱に浮かされた狛枝の顔が間近にあった。桜色の唇が何かを呟くように僅かに動いたが、何を言ったのか聞き取れない。2、3度ふわふわの淡い髪を優しく撫でて、俺は狛枝から体を離した。そしてポカンと俺達を凝視しているロビーにいる面々に向き直る。
「あの、こういう訳だから…。俺と狛枝は付き合ってる」
「日向、狛枝…。何、アンタ達……。いつの間にこうなってたの?」
「うーん、それはさっきかな。ね? 日向クン」
狛枝はニッコリと微笑む。泣いていた演技はどこかへ飛んで行ってしまったようだ。狛枝の笑顔を見た小泉は唇を噛みしめて、ツカツカと俺の前まで歩いてきた。パンッと乾いた音がロビーに響き渡る。遅れて俺の左頬がジンジンと熱く鈍い痛みを主張した。……え。俺……小泉に、ビンタされた?
「…日向、何してんのよ。狛枝が女の子になったから、今までの関係を利用して手を出したんでしょ!? 狛枝なら断らないって踏んでたの?」
「そ、それは違うぞ! 小泉。告白したのは俺からだけど、狛枝がこうなる前からずっと好きだったんだ」
「本当かしら。男ってこういう時つまんない言い訳するのよね。………狛枝、日向はこう言ってるけど実際はどう?」
「そうだね。ボクも彼が好きで、彼もボクが好き。ただ単にそういうことだよ。小泉さん、ボクなんかの心配をしてくれてありがとう。でもボクは日向クンと恋人になれたこと、後悔してないから」
穏やかに語る狛枝に、小泉は目を丸くしてみせた。そして呆れたように溜息を吐く。キッと俺を睨み付けると、人差し指を鼻先に突きつけた。
「日向!」
「はい!」
「狛枝に手を出したら、承知しないからね。狛枝を泣かせない、嫌がることは絶対にしない。望むことだけしてあげなさい」
「!! ああ…! そのつもりだ」
「よろしい。……叩いて悪かったわね。日寄子ちゃん、行こう」
レストランへと続く階段に足を向ける小泉を、西園寺が「わ〜ん、おねぇ待ってよぉ〜」とトタトタと後を追う。狛枝がそっと俺の指を摘まんできた。目を合わせるだけで狛枝が何を言っているのか分かる。
「なるほど、2人は夫婦(めおと)となった訳か。何はともあれめでたい。祝福するぞ」
「あー…、まぁ同じようなもんかな。俺は狛枝から離れるつもりないし」
「フッ、見せつけてくれるな。私は似合いの組み合わせだと思うぞ。幸せにな…」
「辺古山も九頭龍と仲良くな!」
辺古山はレストランへの階段を上ろうとして、ややこけそうになっていた。殺気に塗れた赤い眼光が鋭くこちらを睨んでいる。…怖いな。
「日向よ。俺様とは別に狛枝と二重契約を交わすなどと…。フハ、フハハハハハッ、戯言を抜かすな! 貴様…制圧せし氷の覇王を舐めると、どうなるか分かっているのだろうな…!」
「ごめん、田中。俺のこと…嫌いになったか? だとしたら俺との契約は破棄してくれて構わない」
「な、何を言う! 俺様との契約は貴様の身に既に刻まれたのだ。解除することは叶わん! 永久的に持続するのだ。…それを忘れぬことだな。目覚めの刻は来た…。さて、レストランに向かうとしよう」
田中はしっかりとした足取りで階段を上って行った。俺達が騒いでいた場所から離れているゲーム機から七海が立ち上がる。キョトンとこっちを見つめてたが、やがて「みんなは?」と小さく首を傾げた。
「みんなならもうレストランに行っちゃったぞ」
「そうなんだ。…狛枝くん、良かったね。日向くんなら、きっと狛枝くんに答えを示してくれる。何となくだけど私はそう思ってたよ」
のんびりとした調子で目を細めた七海は、「先に行くね」と階段を上がっていってしまった。ヒントと答えか。七海は俺達がここに辿り着くことを予想していたのかな。2人きりになって、狛枝は俺の指をそっと離した。
「ごめん、日向クン。ボクの所為で…。痛かったでしょ?」
「これくらい何ともねぇよ」
「………ありがとう」
「え?」
「ボクは早くに両親を亡くして、愛された記憶もあまりない。誰かに愛されるということは、体を重ねることしか頭に思い浮かばなかった。だけどキミの行動の節々で、ボクを好きで大事にしたいってことがすごく伝わってくるんだ。最初は良く分からなかったけど。もしかしてそれが、愛なのかなって…」
狛枝は考え込むように話した後、俺を見て顔を赤くした。釣られて俺も恥ずかしくなる。自分が狛枝をどう扱ったかなんて、意識してなかったけど、彼はそう感じてくれたようだ。
「じゃあ、狛枝。行こうか」
「うん!」
狛枝と手を繋ぐ。階段の先にいるメンバーの反応が気になったけど、狛枝と一緒なら何を言われても平気だ。きっと狛枝も俺と同じ気持ちだと思う。弾むように階段を踏んで、俺達はレストランへと向かった。

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08. お前を、抱きに来た。
あの時のレストランのやかましさはこの修学旅行始まって以来かもしれない。小泉…というより恐らく西園寺だろうが、さっきあったロビーでの出来事はみんなの耳に伝わっていたようだ。げんなりとした視線、物珍しそうに遠慮のない視線、ニコニコと穏やかな視線、揺らめくような戸惑いの視線。視線の色は十人十色だった。でも冷やかされただけで、他は何も言われなかったし、俺達も気にしなかった。
食べ終わり、コテージに戻ってきたのが1時間ほど前だ。満腹感も大分落ち着き、シャワーでも浴びようかと備え付けのソファーから腰を浮かせた。今日は色んな事があったな。服を脱ぎながら今日あったことを思い返す。狛枝と両想いになった。彼を抱き締めて、添い寝をした。付き合ってることが知られて、レストランでみんなに騒がれた。湯の熱がじんわりと体に染み込んでいく。
『狛枝を泣かせない、嫌がることは絶対にしない。望むことだけしてあげなさい』
小泉の言葉が頭の中に響いている。狛枝が、望むこと。体を繋げることだけが愛とは限らない。俺がそう考えていても、狛枝にとっては違うのかもしれない。…意地になる必要なんてないんだ。あいつを泣かせないためにも俺がするべきこと。漸く、決意出来た。思い立ったらすぐに行動だ。
俺はシャワーのコックを捻ると、バスタオルを手に取った。体を拭いて、部屋着ではなくいつもの制服に着替える。行くべき場所なんて1つしかない。狛枝のコテージだ。


……
………

もう勢いだけで来てしまった。夜風が湯上りの体を心地良く冷やす。白く明るい月明かりの下、俺は今狛枝のコテージの前にいる。狛枝を幸せにするって決めた。その決意は揺るがないけど、これからするであろう行為は俺にとっては未体験で、暗闇を探るような感覚が間近に迫っているのを感じた。全身が心臓になったように自分の脈がうるさい。深呼吸をした後、俺は狛枝のインターフォンを押した。
「…誰? !? 日向クン…っ!」
少しだけ開いたドア。そこから顔を覗かせた狛枝は、俺に気付くと大きくドアを開いた。パッと華やいだような綺麗な笑顔を見せられ、俺の鼓動は更に速くなる。ううっ、これだけでドキドキしてたらこの先俺はどうなってしまうんだ…!
「狛枝…。ちょっと話があって、その…っ、中入っていいか?」
「もちろんだよ! キミの涙が出るほどありがたい誘いを断るなんて、ボクに出来る訳ないだろう…!」
拳を握り締めて力説する狛枝。単に俺が話に来たと思ったのか、快く部屋に通してくれた。狛枝のコテージは俺の部屋の謎の雛段がある位置に、本棚があるくらいで他は大体同じようだ。左右田はメカを解体する工具、弐大はトレーニング用品が置かれていたりしたが、それと比べるとやや無個性な感じはする。
「どうしよう、日向クンがボクの部屋に…! ああっ、緊張して変な感じになってきたよ!」
「ああ、涎が出てるな」
「だってキミがボクを訪ねて来てくれるなんてっ。持て成すにも何にもないよ! えーっと、スーパーから飲み物とか取ってこようか」
「いや…、このままでいい」
狛枝は混乱しているのか瞳をぐるぐるさせて、「え? え?」と半笑いになっている。頭の中で何回もシミュレーションしてきたけど、どう伝えれば良いのか。『好き』、それは何度も言っている。『愛してる』、ちょっと照れ臭い。『お前だけだ』、これじゃ伝わらない。『お前の好きにしていい』、違う…俺から伝えたいんだ。
戸惑っている狛枝の両肩に手を置いた。もっとストレートに。何をしに来たのかを伝えるんだ。唇が震えて声にならないのを無理矢理奮い立たせて、俺は口を開いた。
「お前を、抱きに来た」
「……………え」
ピクリと狛枝の体が動いた。遅れて気の抜けたような声が漏れる。言った。ついに言ったぞ。全身が熱くなる。目の前の灰色の瞳が揺れて、小さな唇が俺の名前を呼んだ。
「ひ、ひなたクン。それ…本気?」
「本気だぞ。…あれから考えたんだ。俺の理想をお前に勝手に押し付けてたんじゃないかって。一般的とか世間とか、そういうのに囚われ過ぎてたのかもしれない。俺は俺の手で、狛枝の希望を叶えたいんだ!」
「〜〜〜〜〜っ」
くしゃりと顔を歪ませて、狛枝は目に涙を浮かべた。俺は思わず抱き締める。ベッドとの位置を確かめるため、チラリと視線を外した。大丈夫、すぐ傍にある。このまま自然に移動するぞ。そう考えつつ真正面に顔を戻すと、悪戯っぽい表情の狛枝とぶち当たった。目尻には涙の粒が光っている。
「そんなに1人で頑張らなくてもいいよ。ボクも一緒にするんだから…。ね? 日向クン…」
「ぁ…こま、えだ…っ」
リードしようと気張っていた気持ちは、一瞬の狛枝の囁き声でヒビが入る。耳をカプリと甘噛みされて、俺は上擦った声を出してしまった。ヌルリとした何かが耳に纏わりついている。狛枝の舌か? 頭が熱くなって、マトモに思考できなくなる。
「ベッド、行こうか。ほら、日向クン。おいで…」
熱に浮かされた体を引きずって、狛枝に引かれるまま足を動かす。完全に形勢逆転だ。主導権は狛枝が握っていた。狛枝はベッドに乗ると妖艶な笑みを向けながら、俺の手に指先を滑らせて誘う。フラフラとベッドに体を乗せて、本能のままに狛枝を押し倒した。
「狛枝…っ! こまえだ、こまえ、だ…」
「ふふっ、そんなに慌てなくても…ボクはここにいるよ? ぁ、ん…ふぁ」
言葉を遮るようにして、狛枝の唇を奪う。口を開けて、舌を出してきた狛枝に俺も舌を出して絡める。むしゃぶりつくようなキスだ。ジクジクと中心がムズ痒くなってくる。ズボンをギチギチと押し上げてきて痛い。狛枝は合間に熱い吐息を零しながら、俺のキスに答えてくれる。お互いの短い呼吸音と絡まる唾液の水音だけが、コテージに小さく聞こえる。
「ごめん、狛枝…。俺、初めてだから…っ」
「知ってるよ。服、脱ごうか。あ、ボクは自分で脱げるから大丈夫だよ」
顔を赤らめた狛枝の頬に、髪の毛が纏わりついてすごくエロい。俺は自分のネクタイを緩めた。いつもならすぐに解けるのに、手が震えるのか時間が掛かった。シャツのボタンを手早く外して、ベッドの端にパサリと置く。
「………」
「? 狛枝? どうしたんだよ」
「すごい…。キミって着痩せするタイプなのかな。胸囲91cmって嘘じゃなかったんだね」
「…嘘ってお前なー」
狛枝は俺の裸を見て、目を輝かせている。性欲とはまた別の種類の視線だ。単純な興味だろうか。俺の体つきを確かめるようにペタペタと胸を触ってくる。
「綺麗に筋肉がついてる…。腹筋も割れてるし。いいなぁ、ボクは貧弱だし。男として理想の体つきだよ!」
「そ、そうか?」
「うん! 憧れるよね、男らしい体って」
ニコッと笑って俺の胸を撫でる狛枝。厭らしい意味はないと分かっているのに、触っているのが狛枝というだけですごく感じてしまう。
「狛、枝…っ。もうっ…」
「あ、ごめんね。ボクも脱ぐんだった。ちょっと待ってて」
少しだけ体を起こして、狛枝はバサリとコートを脱ぎ、それを床に投げる。Tシャツの胸の膨らみが現れて、俺はゴクリと喉を鳴らした。
「クスッ、そんなに熱の籠った視線で見られたら、ボクも正気を保てなくなっちゃうよ。触りたいんでしょ? ハァ…っボクも、日向クンにさわられたい…ッ」
蕩けたような表情で狛枝はダラリと はしたなく舌を出す。唇は濡れて、テラテラと妖しく光を反射させていた。俺はもつれそうになる指先を押さえながら、狛枝のTシャツの上に手を滑らせる。腹から撫でるように上へと動かすと、狛枝は目を瞑ってビクンッと体を反応させる。感じてるんだ、狛枝も。
緊張で汗を掻いた右手が胸に辿り着くと、狛枝は「はぁぁっ」と声を漏らした。指先が埋まる感触。狛枝の胸はとても柔らかく、力を入れて握ったりしたら崩れてしまいそうだ。痛くしないようにTシャツの上から胸を優しく揉む。やがて1点がコリコリと硬く突起しているのに気付いて、俺は何の気なしにそれに指を押し付けた。
「ひぃっ、ひぅぅっ! あん、あ、ぁあ…っはぁあ…」
「狛枝? 気持ち良いのか?」
「ひ、ひなた…クンっ、そんなに、したら…ボク……んぅ」
さっきまでの余裕はどこに行ってしまったのか。狛枝は焦ったように声を引き攣らせる。もう片方の胸にも手を伸ばして、同じように優しく触ると、狛枝は面白いようにビクビクと体を跳ねさせた。ヤバいな。我慢出来なくなって、Tシャツを捲ると桃色の乳首と共にぷるんと柔らかい胸が顔を出した。ブラジャーは付けてないようだ。ちょうど片手にすっぽりと収まるくらいのサイズだろうか。横になっていても形が綺麗なのが分かる。
「はっ、ハァん、日向クンがっ、ボクの胸…見てるぅ……」
「…直接、触るぞ」
「うん、んんんッ。あっあっあっ…」
しっとりと濡れた吸いつくような白い肌。硬くなった乳首を突いて、マシュマロのように柔らかい胸をその手で堪能する。指の間から零れる柔らかい肉が気持ちいい。ああ、でもそれだけじゃ足りない。口の中に溜まった唾を飲み込んで、俺は狛枝の胸に唇を寄せる。
「あ……、日向クンっ」
ぺロッと軽く舐めると、狛枝の汗の味がした。下の方から中心に向かって、ねっとりと舐め上げる。乳首をしゃぶっていると、狛枝が右手で触れられてない自分の胸を揉んでいた。どこまでも性欲に忠実な狛枝。空いている手を狛枝の右手に重ねて、一緒に揉んでやる。ぷっくりと勃ち上がった乳首をきゅっと摘まむと、狛枝は大きく体を仰け反らせる。
「っひぁ…! あぅ、……っひなた、ク、ン。きもちぃよぉ! ボク、アぁっんッ」
「はぁはぁ…ああ、狛枝、狛枝…! ん、んくっちゅ、んんっ、」
左右の胸を順番に味わっていく。クソックソッ! こんなに厭らしい反応するなんて!! 俺が唇を胸から離すと、狛枝は名残惜しそうに眉をハの字にした。俺はガチャガチャとベルトを外しにかかった。狛枝はそれを察したのか、さっと起き上がって手伝ってくれる。ベルトを引き抜き チャックを下げると、硬くなった俺のペニスが勢いよくブルンと飛び出してきた。途端にピタリと狛枝の動きが止まる。
「………。………あはっ、あははははははっ!!」
「!? ど、どうしたんだよ、いきなり」
「……ァはッ、おっきい…っ。素晴らしいよ、日向クン!」
「え?」
「キミのおちんちんが超高校級だったなんて! はぁぁッこれを食べられるなんて、ボクは何て幸運なんだ…!!」
息を荒げながら、狛枝はボタボタと涎を垂らす。ベッドに座った俺に覆い被さり、狛枝は捲れたTシャツを脱いだ。動きにくいのか自身のズボンにも手を掛ける。だけど全身が汗で薄ら湿っているのか、肌に布がくっついて脱ぎにくそうだ。俺が手伝おうとする前に何とかそれを脱ぐと、その下には灰色のボクサーパンツが見える。
「お前、女になってもそのパンツか…」
「んー…、やっぱり自分の穿き慣れたのが1番だからかな」
「もっと女の子らしいのが良かった?」と聞いてくる狛枝に俺は首を振った。狛枝はそれに安心したように微笑むと、俺の脚を割り開く。慈しむようにそっと竿を撫でると、亀頭にチュッと軽くキスを落とす。それから一気に飲み込んだ。
「うぁ!? 〜〜〜っ! く……ッん、ハッ」
「ぬむぅ、ふむ、チュルッじゅる、あむ、むむぅぅうっ!」
あまりの衝撃に声を上げる。狛枝の唾液塗れの舌がペニスに巻きついて、ジュルジュルと吸われる。狛枝はくぐもった声を交えながら、喉の奥深くにペニスを飲み込む。目には鈍い光が宿り、病的なまでに夢中になって舐めていた。亀頭の割れ目や括れを集中的に責めつつ、手は竿や双球をやわやわと撫でる。ヌルヌルと絡みつくような巧みな舌遣いに俺は意識が飛びそうだ。すごすぎる…!
「じゅるるるっ、ぢゅ、ぐぐぐ、んぐ、ぷはっ、ひぁた、フン…、ひもひぃ?」
「ん、はぁ……あ、あ、っ!」
狛枝はツンと尻を突き出したスタイルで屈んでいて、目下にはシミ1つないミルク色の背中が見える。上目遣いに見上げてくる彼に俺は切れ切れに短い呼吸を繰り返すだけだ。急かされるように刺激されて、腰が揺れてしまう。じわじわと射精感が込み上げてくる。腰から広がったそれは全身を包み込んで、真っ白になっていった。体の境界が消えて、ドロドロに溶けてしまいそうだ…!!
「ん、こまえだぁ、ハァ、もう…、イくぅ…。ハッ、んっア…! うっ!」
「ふぁっ!? ぁ……」
ビクビクと腰が動く。額から冷や汗がブワリと浮かんだ。責められて限界に達したペニスが痙攣して、鈴口からビュクビュクッと精液が吐き出される。狛枝はちょうど口を離していたのか、髪と顔面に粘り気のある白濁がビチャリとかかった。
「っ! 狛枝っ、ごめんな! どこかタオル、」
「ハァぁ、ん、日向クンの精子だ…!! あったかい…、いっぱいいっぱいボクにかかってるよぉ。んくっ、日向クンの、希望の種…っ」
狛枝は歓喜に体を震わせながら、顔に付着した精液を指で掬って ピチャピチャと舐め始める。どこか異様な行動を俺は朦朧とした頭のまま眺めた。狛枝の髪に飛んでしまった俺のを取ると、その手を掴まれて指先をねぶるように舐められる。
「ちょ、狛枝っ」
「ひなたクンの…おいひぃ…。ああ、でももったいないなぁ。…先にボクの中に挿れてもらえば良かった」
「…なぁ、顔洗ってきた方が良いんじゃないか? 俺の結構飛んでるぞ」
「後でいいよ。それより日向クン……、キミのが欲しいな……」
うっとりとした表情の狛枝が指先にキスをしながらそんなことを言うもんだから、俺の中心はむくむくとまた大きさを取り戻す。俺も、狛枝が欲しい…。気だるげなゆっくりとした動作でペニスを跨ごうとする狛枝を俺は制止した。俺は童貞だけど、何でもかんでも狛枝にやってもらうんじゃ立つ瀬がない。ちゃんと彼を愛したい。肩を軽く押すと何の抵抗もなく、狛枝はシーツの海にポスンと倒れ込んだ。
ズボンを脱ぎ捨てて、裸になる。鼓動の大きさは最高潮だ。ドクンドクンと全身に音が響いて、指先が振動しているような錯覚を受ける。額から頬、唇に触れるような優しいキスを落としながら、片手で狛枝のパンツを脱がせようとしたけど。
「…んっ、さすがに片手は難しいんじゃないかな」
「う…、そうだな」
狛枝に腰を上げてもらいながら、パンツを抜き取る。そこには髪よりは幾分か濃い色の下生えと、蜜が滴る薄桃色の入り口が見えた。ほんのり赤く、中はひくひくと脈打っている。トロトロと溢れ出る透明な液が尻を伝って、シーツに染みを作っていた。すごいな…。女性器が濡れるってのは何となくの知識で知ってたけど、こんなになるもんなのか?
「狛枝。触ってみても、いいか?」
「えっ、うん…。ぁあっ、んっんっんんぅ…、はぁ…ッ」
ぐずぐずと熱く潤んでいるその穴を、恐る恐る指で触れてみる。くぷりと指を入れてみると、ヌルヌルと蠢く肉壁が指に纏わりついてきた。狛枝は額に汗を浮かべて、体をびくつかせ、苦しそうに喘いでいる。ある程度までは入ったが、その先はきつくあまり深くまで進めない。
「やぁっ、ゆび、やっ、アンっ、日向、クン…っひなたクぅ、ン……ッ」
「悪い。痛かったか? もう抜くから…」
「指じゃ、やだよぉ…っ、あ、アっ、日向クンの、早く、ボクの中に…!」
グチュリと入口を広げながら、必死の形相で狛枝が誘う。欲望に満ちた薄桃色の肉が呼吸をするように蠢いている。俺は肩で大きく息を吐いて、蜜が滲む狛枝の裂け目へ自分のペニスをあてがった。狛枝がビクンと体を大きく痙攣させる。
「日向クン…、来て…。はぁ…、ん、ボクうずいて…っ。日向クンの、おちんちん…ッ」
「…じゃあ、行くぞ」
ゆっくりと慎重に。俺はじわじわと腰を押し進めていく。最初は柔らかく誘いこむような内側の動きだったが、やがて指を入れた時と同じようにそれ以上進まなくなった。無理に入れたら痛いかな。僅かに動きを止めると、息を乱した狛枝が俺の腰を掴んで、自分の方に押し付けてくる。少しずつ、中に入ってく…!
「あっ…っぐぅうううう…! 痛いぃ…ひぅっんんッ! うんん、はッあっ、ひぃいッ…!」
「クッ、う、ぐぐ…ッ!」
すごい狭くて、キツい…! 狭過ぎる穴をペニスで無理矢理に広げて、強引にこじ開けているみたいだ。食い千切られそうなほど締め付けられているけど、狛枝はもっと痛そうだ。
「あぐっ、…ひっ、あ、あ、あぁッ! ふぁ…、ま、まだ…ちょっと、だよね?」
「ああ……、半分も入ってないぞ…」
「ハァっ、ひなたクンの…っ、んく、おっきくて……ッ 壊れちゃいそうだよ…」
「大丈夫か? …抜くか?」
「はぁッ、ダメっぜったい、ダメぇ…! 奥まで……ッ、全部、いれてぇ! ねぇ…! っ日向クン…」
ぎゅうっと抱き締められて、脚を背中に回される。口をだらしがなく開けた狛枝に、俺は舌を絡めながら口付ける。それから更に腰をグッと進めた。苦しそうな狛枝の体を撫でて、目尻から零れている涙を舌で掬う。ペニスが鬱血しそうにキツいけど、狛枝はもっと痛いんだ。
「ふぁッ日向クン…、あっんんっん、あぁハァんッ日向、クン…」
俺が触れた傍から狛枝の声色が変わっていった。さっきまでの苦しそうな感じは消えて、鼻にかかるような甘ったるい声だ。体もビクビクと震えて、強張っていたのが解けていく。筋肉が弛緩していくのが分かる。狭くて進めるのがやっとだった狛枝の中が少しずつ解れて、うねり始める。隙間から蜜をダラダラと零しながら、燃えるように熱い肉壁が柔らかく俺を包みこんだ。
「…っく、はぁ、はぁ…っ全部、入ったぞ……!」
「き、もちいぃ…ひなたクぅン…、ボク……っ蕩けちゃいそう…ん、あふっ…」
「っん、狛枝…? 痛くないか?」
「……、痛いけど…、きもちぃ…日向クンのが……、ボクに、あっんぁ…う、ひぅ…」
ピンク色に染まった顔で切なげに俺を見上げてくる狛枝。余裕のない表情のせいか、いつもより更に可愛く見える。痛いの頑張って我慢してくれたんだな。キスをしながら「ありがとな」と囁くと、狛枝は泣きそうな顔で笑い返してくれた。
「日向クン…もう大丈夫、だから……好きに動いて…!」
「分かった」
ずぶずぶと最奥まで進めてから一気に体を引く。それを繰り返しながら、段々と速度を速めていく。途中からコツをつかめたのかリズミカルに腰を動かせるようになった。亀頭が内側に良い感じに引っかかって、更に気持ち良くなる。ジュブジュブと水音を立てながら、ペニスを突き立てた狛枝の秘部からは、どちらのものか分からない体液が染み出してきていた。
「んはぁあっ!! あぅ、あっあはぁああッ! すごいっすごいよぉ…! 日向クン、日向クン! あうぅっ!」
「っ…悪い、狛枝。俺、…もう我慢出来ない…ッ、止まらない……!」
「いいっいいよぉ、日向クンのいっぱいっ、奥まで、突いてぇ…! あぁんッああ、あはぁッきもちいぃいいっ!」
涎を垂らしながら、狛枝は乱れた。体をくねらせて、俺の律動に合わせて腰を振る。全身全霊で感じてくれてるんだ。夢中になって、行為に没頭している。俺達はもうただの獣だ。
「はぁッああっふあアッ、感じるぅ…、日向クンのぉ、おちんちんが、ボクを掻きまぜて、んんっんぁっうはぁアッ」
「ふ…く……ッん……あっ……」
「ああぅ、ふああぅ、日向クン、日向クン…!!」
目は虚ろで焦点は合ってない。体をガクガクと震わせた狛枝は俺に抱きつく。俺も狛枝に腕を回した。さっき1回射精したから、まだ余裕はある方だった。だけど狛枝はもう限界みたいだな。ガツガツと腰をぶつける度に、引き攣った狛枝の嬌声がコテージ内に響く。高く大きくなるその声は段々と悲鳴に近付いていった。
「ひぁっ、ボクっ、イっちゃう…っイっちゃうよ、日向クン…! はぁ、イく、イくぅ!!」
「こまえだ、はぁ……っ狛枝、狛枝……っ!」
「ひあ、ああ、あああ、ああああッ!! い、イくぅうううっ!! イくッ! うぁああッう、ひぃ、いいいっ!!」
狛枝は絶叫した。内側がぎゅうううときつく締まってきて、搾り取られそうになるが、そこは意地で凌いだ。…達したのか? さっきより勢いを落として突き上げを続ける。狛枝の様子を窺っていたが、どうやら体の震えは収まってないようだ。
「日向クン、ダメ、おわんないぃ、終わんないよぉ…! はぁ、ずっときもちぃ…っ! ずっとイってる!!」
「狛枝!?」
「やぁあああっ! やだっ落ちる…ッ! 落ちちゃう、やめてぇ……! イけないっ、もうどこにもイけない!! 死んじゃうぅ…!」
ボロボロと涙を零しながら、狛枝はいやいやをするように頭を振り乱す。何だ!? ずっとイくってどういうことだ? 狛枝の中はさっきから締め付けたままで、正直俺も辛い。タイミングを見て、外に出すべきか。そう思って、ピストンの速度を速めてみる。狛枝の白い手が俺の頬に力なく触れた。
「中…、中がいい…! んんっ、日向クンっ、中に、出してぇ……っ!! 日向クンの精液、ボクの中にっ…!」
「!! いや、でも…」
「赤ちゃん、出来てもいいからぁ…。はぁ、んぁっ! キミの希望を、アっうぁあっ、いっぱい注いで……!」
「………」
俺は黙って頷いた。細い腰を掴み直して、奥まで突き上げている。ズチュズチュと結合部からは濡れた音が引っ切り無しに聞こえてきて、頭が麻痺しそうだ。狛枝はうわ言のように俺の名前を呼んで、涙を散らす。狛枝の蕩けるように熱い内側をペニスでひたすらに掻き回した。
「くっ……うぅ、狛枝、好きだ…。好きだ……! こまえだ、狛枝…っ!! あ、ぅ…っ!」
「ああっ、日向クン、あっ、ああっやぁああっ、日向クン! 日向クン…!! すき、すきぃ! ぁあああああっ!!」
全身がカッと熱く燃えて、ドクンとペニスが膨らむ。大きく脈打ったペニスから狛枝に精液が注がれているのが分かった。息を乱しながら、顔を合わせた俺達はどちらともなく深いキスを交わす。やがてずるりと欲望を引き抜くと、狛枝の薄桃色の割れ目からはドロリとした白濁がゆっくりと流れ落ちた。


……
………

「日向クン、日向クン」
「……何だ?」
「ふふっ、呼んでみただけ…」
快楽の余韻からか狛枝の顔は火照ってピンク色だ。2人とも裸で、狛枝は胸を晒したまま俺に抱きつく。いつもなら恥ずかしくて俺も避けるのだが、今は全身が心地良く疲れていて、とてもすぐには動けない。
「日向クン、日向クン」
狛枝がもう1度俺に呼び掛けた。何だよ、また呼んでみただけか? へにゃりと無邪気な笑顔を向けるその表情は、さっきまでの淫らで妖しげな雰囲気が嘘のようだ。きゅっと俺の手を握って、ニコッと笑う。可愛い。天使みたいだ…。
「もう1回、しよ?」
「………」
前言撤回。悪魔の笑顔だ。しかし狛枝のおねだりを断れるはずもなく、結局欲望に飲まれるまま2回目に突入するのであった。

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