// Call of Cthulhu //

13.起動
どこまでも続く真っ暗闇に、1つだけ明るく光を放つ場所があった。鋭く白いそれに向かって、少年は一歩足を踏み出す。地面がある訳でもないその空間は、歩く度 足に奇妙な感覚を伝えてくるが、永くそこに存在している少年にとって、そんなものは慣れ以前に想定通りだった。
やがて光へ近付くにつれ、それがコンピュータのモニタから放たれていることが認識出来た。皓々と光るモニタには様々なウインドウがいくつも開かれ、備え付けのキーボードを少女が細やかな指捌きで操作をしていた。赤いマニキュアが塗られた長い爪で器用にキーを叩いている。少年は長い前髪の隙間からそれをじっと見つめた。
「何を…しているのですか?」
「あのさー、見て分かんないワケ?」
「ゲーム、ですか…」
「分かってんならイチイチ聞くんじゃねぇっつーの」
彼女は振り向きもせず、舌打ち混じりで少年に答える。まるでケンカでも売っているような態度だが、少年は特に気にする様子もなく、彼女を後ろからただ見ていた。その顔からはあらゆる感情が抜け落ち、何も読み取ることが出来ない。完全なる無だ。
「それはまた……、ツマラナイことをしますね」
「ツマルかツマラナイかはアタシが決めんの。ちょいウッセーからあっち行ってろ」
そう言った少女は少年にしっしと追い払うようなジェスチャーをすると、またモニタに食い入るような体勢でキーを叩く。少年は逆らうことなく、また元いた深淵の奥へと踵を返そうとする。が、モニタに映る見覚えのある焦げ茶色の髪をした少年を視界に捉えると、紅玉の瞳を見開き、その足を止めた。
「………」
「? あー、こいつか。アンタのお気に入りだもんね。何なら見てけば?」
「……では、お言葉に甘えて。少しばかり見学していきます」
少年はしばらくモニタを凝視した後、長い髪をさらりと揺らしながら、深い深い闇にスゥと姿を消した。彼の後姿を見送った少女は、顔を歪ませながらまたモニタに視線を戻す。「うぷぷぷぷ…」と薄気味悪い笑みを浮かべながら、ギラギラとした瞳でウインドウの文字列を素早く追いかける。静まり返った黒い空間にカタカタとキーをタイプする音だけが響いた。


……
………

『狛枝クン、大丈夫? まだどこか痛い?』
「ありがとう、苗木クン。みんなには心配掛けちゃったね。大分痛みも引いたし、セッションを再開しても平気だよ」
心配そうな面持ちの苗木に、狛枝が半笑いで手をパタパタと振った。狛枝が図書館の梯子から落下したのは、つい15分ほど前のことだった。腰を強かに打ったらしく、直後は苦痛に顔を歪ませていた狛枝だったが、どうやら痛みは落ち着いたようだ。
「後で湿布でも貼った方がいい…かもしれない」
「そうだね。セッションが終わっても痛かったら、罪木さんに貰うことにするよ」
『じゃあ、そろそろセッションを再開するね。シーンは病院に到着した所からかな。時間は昼頃だね』


【苗木 誠/GM】
『時刻は午前12時過ぎ。探索者の2人は狛枝 凪斗の治療と検査を終え、検査結果を待っている所です』
【七海 千秋/PL2】
「レストランの状況と狛枝くんの症状から判断するに、おおよその見当はつくけど…。ううん、結果を聞くまでは分からない…かな」
【日向 創/PL1】
「七海の知り合いの医者が検査してくれたんだよな?」
【七海 千秋/PL2】
「うん、そうだよ。仕事上で知り合った人で、たまに捜査にも協力してくれたりするんだ」
【苗木 誠/GM】
『2人が話をしていると、検査を終えた狛枝 凪斗と医師と思わしきふくよかな男性がやってきました。医師は白い白衣に身を包んでいましたが、その体格の良さからボタンは閉められないようです。さらさらの金髪で、色素の薄い瞳には眼鏡が掛けられており、顔は脂肪でパンパンに膨れていますが、理知的な雰囲気を持ち合わせた頼りがいのありそうな男性です』


「! もしかして、十神か!?」
モニタに医師であるNPCが映る前に日向は声を上げた。その予想に違わず、画面に現れたのは白衣を着た十神の姿だった。未来機関にいるのが本物の超高校級の御曹司である十神 白夜なのだが、日向にとっては修学旅行を一緒に過ごしたふくよかな彼こそが十神 白夜だった。


【狛枝 凪斗/PL3】
「2人ともおまたせ。終わったよ。何だか大変なことになってたみたいだね。迷惑かけてごめん」
【七海 千秋/PL2】
「大事に至らなくて何より…だと思うよ。それで検査の結果はどうだったのかな?」
【十神 白夜/NPC】
「検査の結果だが、ここ最近過食症状があったようだな。胃と喉と血液に異常が見られた。特に血液の白血球数がかなり増えていたぞ」
【日向 創/PL1】
「他に何か分かったことはないのか?」
【十神 白夜/NPC】
「そう焦るな。診断結果はまだ途中だ。1番厄介な物がレントゲンと胃カメラで見つかったぞ。…ちょっとショックを受けるような内容かもしれないけど、どうする? 患者自身が無理に見る必要はない。ただお前達の誰かには見ておいて欲しいな」


「これってSAN値が減るとしか思えないよね。ごめん…。ここは日向クンか七海さんにお願いしたいな」
視線を下に向けて、おずおずと遠慮がちに狛枝は言った。日向はすぐに「俺が見るよ」と苗木に話しかける。SAN値が減るような行為はなるべく狛枝に取らせないつもりだったし、1番SAN値が高い自分がそれを引き受けるのは当然のことに思えた。
「一応狛枝くんのプライバシーに関わるし、私は病院の外に出るよ」
「ボクも結果を聞いて、発狂はしたくないからね。七海さんと一緒に外で待ってようかな」
『分かったよ。じゃあその場には日向クンと検査をした医師が残る』


【十神 白夜/NPC】
「さて、まずはこれを見てもらおうか」
【苗木 誠/GM】
『医師はシャウカステンに1枚のレントゲンを吊り下げました。どうやら狛枝 凪斗の胸部レントゲン写真のようです。白い肋骨部分の中央を靄のように大きな黒い影が覆っていました』
【日向 創/PL1】
「!? 何だこれは。腫瘍…にしては大き過ぎるぞ?」
【十神 白夜/NPC】
「今の所は正体不明だ。何か新しいウイルス…いや、もっと別のものかもしれない。申し訳ないが、現在は治療方法に見当がつかないな」


日向は腕を組んで「うーん」と唸った。レストランで消えた『口』がどういう訳か、狛枝の体内に潜伏しているようだ。現代医学での解明は期待が薄いかもしれない。そういえばSANチェックはなかった。一応の覚悟はしていたが、ないに越したことはないなと日向はひっそり息を吐いた。
「残念だけど、直接的な解決にはならなそうだな。俺達で狛枝の経過を見守るしかない…。GM、話はこの辺りにして七海と狛枝に合流する」
『了解だよ。日向クンは病院の外で待っている七海さんと狛枝クンに合流するよ』
モニタには病院の正面口が映っていた。周囲には青々とした木々が生えており、ここで探索者の3人は落ち合ったらしい。思えばここまで長い時間を掛けたが、やっと調査が出来る。今の所、手掛かりは謎の『口』くらいで他には目ぼしい情報がない。小泉の自宅で何かしら見つけられれば良いのだが。
「ねぇねぇ、狛枝くんの治療はどうだったのかな? 病院ならそれなりの治療が受けられるよね、GM」
『治療は病院側の<応急手当>ってことで、自動成功。狛枝クンは2ヶ所怪我をしてるから、2D3回復くらいかな』
「ねぇ、何でボクのHPこんなに減ってるの?」
「夜にお前が暴れたから俺が2、3発殴って止めたんだよ。『口』に取りつかれた所為だと思うけどな」
「……日向クン、ボクのこと殴ったの?」
投げ槍に言い放った日向に、狛枝はハッとしてこちらを見た。ショックなのだろうか、顔を悲痛に歪ませている。ロールプレイ上仕方なかったとはいえ、殴ったなんて可哀想だったかもしれない。謝るべきかと迷っていたが、それより先に狛枝が口を開く。
「……ボクが知らない間に…そんなことが、あったんだね。………。っあ…、はっ、んぁ……日向クンに殴られるなんて、はぁ…、くぅっ……最っ高、じゃないかっ!! この超絶幸運な出来事を、ボクは見逃してしまった…。あああ、何て不運なんだ…。ボクは一体どんな風に殴られたんだろう? 頭を殴られたのか、頬を殴られたのか、腹を殴られたのか…。いや、それとも?」
ブツブツと独り言を紡ぎ続ける狛枝に、日向はうんざりと視線を送った。殴られるという妄想だけでここまで深い思考が出来るとは恐れ入る。だがこのままでは苗木が困るし、セッションも進まない。既に日向の中では、狛枝に何を言えば黙るか察しがついていた。
「狛枝。いい加減戻ってこないと、これから先2度と殴ってやらないぞ」
日向は静かに言うと、途端に狛枝はピタリと独り言を止め、キリッとした表情で真正面に向き直った。
「GM、<回復>ロールだったよね。…面倒だから、1D6でも構わないかな?」
『えっ、狛枝クンがいいなら別に問題ないよ。ロールしてね』
狛枝は大きく左右に腕を振りながら、ダイスを放った。紫色のダイスはすぐにその動きを止める。

<回復>
探索者名  範囲  _出目
狛枝 凪斗 (1D6) → 5

<耐久 現在値>
探索者名  元   現在_増減
狛枝 凪斗  4 → 9 (+5)

「ああ、5か。6が出ると思ったのに…」
あっさりと良い数字を出した狛枝は特に喜ぶ素振りも見せない。さもその目が当然だとでも言うような佇まいだ。小さくあくびをしながら、前のめりに姿勢を崩している。斜め前からの日向の視線に気付いたらしく、口の端を吊り上げるだけのニヒルな笑みを垣間見せて。
「GM。私が狛枝クンに<応急手当>を使うのは、すぐには無理そう?」
『病院で治療した直後だからねぇ。ある程度時間を置いた後で、ボクが追加の治療が可能かどうか判断するよ』
七海は常にゲームでHPを満タンにしておかないと気が済まない性格なのだろうか。日向はある程度残っていたら、回復は温存するタイプだ。
「狛枝の治療も終わったし、いい加減に小泉の自宅に行こうぜ。GM、時間と場所を進めてくれないか」
『よーし。それでは、日向クン達3人は小泉さんの自宅に向かうよ』


【苗木 誠/GM】
『時刻は午後3時半ば、探索者達は今は主亡き、小泉 真昼の自宅の前にいます。太陽は南西に位置し、冬に近い季節ともあり、その動きは思ったよりも早そうです』


モニタにはやや新しめのメゾネットタイプのアパートが表示された。ここが小泉の自宅らしい。ホワイトとグレーを基調としたシンプルな外観で、同じ戸建てが連なって4つある。どれも2階建てのようだ。扉の脇には鉢が備え付けられており、色とりどりの花が植えられている。小泉が世話をしていたのだろうか。
「小泉の部屋はどれだ? 高校時代の友達なら、俺達が知っていてもおかしくないよな」
『向かって左から2番目のドアが小泉さんの部屋だね。鍵は閉まっているみたいだ』
「ふふっ、そんなことだろうと思った。ここはボクの出番だよね。<鍵開け>するよ」
狛枝は余裕綽々にダイスを摘まみ上げた。左手で頬杖を突いたまま、ポンポンと軽く右手の上でダイスを弾ませる。そしてコロコロ…とそれを転がした。狛枝の<鍵開け>技能は70%ある。大体においては成功するはずだったが…。

<鍵開け>
探索者名  技能   出目  判定
狛枝 凪斗 (70) → 83  [失敗]

「あれっ、失敗!? 嘘……。ボク、結構自信あったんだけど」
「…何でそのフリから失敗するんだよ」
「ごめんね。こういうこともあるってことで、許して?」
日向がからかうように軽口を叩くと、狛枝はバツが悪そうに苦笑いした。しかしその後で彼がひっそりと溜息を吐いたのを日向は見逃さなかった。どうやらロールに失敗したことに落ち込んでいるらしい。何となく放っておけなくて、日向は有り合わせの言葉で狛枝にフォローを入れる。
「狛枝…、その、何だ…。開かなくても、管理人に鍵借りに行けば良いだけの話だろ?」
「……そうなんだけどね。あーあ、日向クンにカッコいい所見せたかったなぁ」
「………」
狛枝はしょぼんと表情を暗くする。日向は少し驚いた。そこで自分の名前を出されるとは思わなかったのだ。彼が見ているのは、自分…。それを意識してしまうと、心臓が微かな痛みを訴える。狛枝は純粋に日向を想ってくれているらしい。冗談ではなく本気で。コロシアイ修学旅行の時の歪んだ思考とは違い、今の彼は素直でストレートだ。根っからの希望厨ではあったが。
「………もう、十分かっこいいだろ…」
ボソッと呟いた日向の言葉は小さ過ぎて、狛枝には届かない。届けようとも思わなかった。こんな恥ずかしいこと、彼に言える訳がない。
自分は狛枝をどう思っているのだろう。日向はチラリと斜め前の白い少年を見やった。相手はどこからどう見ても男だ。抱き合った感触もしっかりと同性のものだった。男を好きにはなれない。今もその気持ちは変わらない。だけど狛枝に対しては、何故か心が揺れてしまうのだ。
コロシアイ修学旅行の時からそうだった。狛枝が強く望めば、それを許してしまう日向がいた。彼が自分を純粋に慕うからか、ただ快楽に流された結果か、凄惨な死に様を悔やんでいるためか。頭の中がこんがらがって、雁字搦めになりそうだ。

「しょうがないから管理人さんに鍵を借りに行こう」
『管理人の部屋は隣。1番左側のドアになるね』
妥当過ぎる七海の提案に、苗木は管理人の部屋をモニタに示した。
「何て言って説明するんだ?」
「んーっと、………。とりあえずピンポンしてから考えようか」
首を傾げて考える素振りを見せた七海だったが、具体的にどうするのかは考えていなかったらしい。戦闘前にはあんなに慎重に下準備をしていたのに、命に関わるような出来事でないと案外適当なようだ。


【苗木 誠/GM】
『探索者達は小泉 真昼の自宅の鍵を借りるために、隣の管理人の部屋へ向かいます。七海 千秋がインターフォンを押しました』
ピンポーン♪ … …… ………ガチャ
【花村 輝々/NPC】
「ンフフ、待たせちゃったかな? 子猫ちゃん…。このぼくの部屋を訪ねるなんて、一体何をお望みなのかな?」
【苗木 誠/GM】
『そう言って部屋から出てきたのは、背が低く小太りな愛嬌のある顔立ちの男性でした。髪はロカビリー風のリーゼントで左側に流しており、血色の良い頬はピンク色をしていて、ニコニコと笑顔を浮かべています』


「ここで花村か…」
これで半分の5人目だ。テーブルの下で指折り数えて、日向はホッと表情を柔らかくする。仲間の顔を見る度に安心する。今回は狛枝が<鍵開け>に失敗していなければ、会えなかったかもしれない。さっきのは不運じゃなくて、幸運だったのか。そっと心の中で1人ごちる。
「あははっ、管理人さんは花村クンなんだね。このゲームってボクらの仲間ばかり出てくるけど、何か意味があるのかい?」
『えっと、特に他意はないんだよ。その怒らないでね…。小泉さんのことは、本当に悪かったと思ってるし…』
「え!? そのことはもう気にしてないから、そんな泣きそうな顔しないでよ。ほら、セッションを続けよう?」
歯切れの悪い苗木にニッコリと微笑んで、狛枝は続きを促す。もしかしたら狛枝がこのセッションの本当の目的に気付くのも、時間の問題かもしれないな。日向はズボンの裾をギュッと握り締める。寧ろ最初がすんなり行き過ぎていたのだ。


【七海 千秋/PL2】
「えっと、私達は小泉 真昼さんの友人でして、ちょっと彼女の部屋の鍵をお借りしたいんですけど」
【花村 輝々/NPC】
「んん〜…。いくら美しい女性の頼みとあっても、それはねぇ…。ほら、最近物騒でしょう? 知らない人にホイホイ鍵を貸す訳にはいかないし。ンフフフフ…、でもお嬢さん次第で、貸してあげないことも…ないんだけどね?」
【苗木 誠/GM】
『と言いながら、管理人は七海 千秋の体を舐めるように上から下まで見ます。特に鼻息荒く胸辺りを凝視していました』
【狛枝 凪斗/PL3】
「巨乳好きなのかな? 奇遇だね。ボクも胸の大きい人が好みなんだよ…。理想の胸囲は91cmだね!」
【日向 創/PL1】
「こっちみんな」
【狛枝 凪斗/PL3】
「あはっ、まぁ冗談は置いといて…。正直、そういうのは困るかな。ねぇ、どうしても無理なのかい?」
【花村 輝々/NPC】
「んん? ふぅん…、そちらのお兄さんもかなりの美形じゃないか! うん、中々ぼくの好みだよね。顔は文句のつけようがないし、その細い腰とかもう堪んないよ。ンフフ、どう? 今晩ぼくと過ごすって約束してくれたら鍵を貸すけど?」
【苗木 誠/GM】
『と言いながら、管理人は次に狛枝 凪斗の体を見て、不気味な笑みを浮かべています。狛枝 凪斗は僅かに眉を顰めました』
【日向 創/PL1】
「おい! いくら何でも失礼だぞ。こいつらをそんな目で見ないでくれ!」
【花村 輝々/NPC】
「おや…? 君は顔に似合わず、良い体をしてるね。そのシャツを押し上げてるはち切れんばかりの胸…、是非揉ませてもらいたいよ!」
【苗木 誠/GM】
『と言いながら、管理人は今度は日向 創の体に視線を走らせ、鼻血を出しています。日向 創はゾクゾクと得体の知れない悪寒に襲われました』


「何なんだよ! こいつは!!」
日向は図書館のテーブルを、力いっぱい叩いて立ち上がった。まるで進展しない。全て花村の変態要素が原因だ。3人とも彼の下卑た視線の餌食になるだけで、鍵を渡されるような素振りが一切ない。APP(外見)が高い七海と狛枝は分かるが、まさか自分にまで欲望の矛先が向かうなんて。日向は怒りも露わにモニタに眼を飛ばす。
「さすが花村クンだね。ゲームの中でもストライクゾーンの広さが再現されるなんて…」
「…お前もさり気なく変態発言してたけどな」
「「冗談だってば。うーん…彼の気持ち、ボクは分からなくもないなぁ。玄関開いた所に日向クンが立ってたら、ボクなら速攻で部屋の中に連れ込んじゃうよね! それで誰にも知られないように部屋に監禁するんだ。毎日毎日ボクが日向クンにご飯をあげて、下の世話もしてあげて。もちろんセックスだって毎日さ。日向クン相手なら、ボクは上でも下でも構わないからね。ふふっ、警察の目を欺いて、一生飼い殺してあげる…」
「ひぃ! 何それ怖いっ!!」
日向が顔を引き攣らせて粛然とすると、狛枝は頬をポッと赤く染めながら、両手で自身を掻き抱くようにしてぶるぶると興奮に体を震わせた。灰色の双眸を卑しく歪めて、「ハァ…」と熱く重い息を吐き出す狛枝に、日向は諦めにも似たような気持ちでドッとイスに腰を落とす。こっちも負けず劣らずの希望厨だ。
ニコニコ顔でモニタの横に立っている苗木。イライラとイスに座って、忙しなく足を動かす日向。テーブルの下で手を動かし、「あっ、あっ」と小さく喘ぐ狛枝。そんな3人を余所に、フードを被り思案していた七海は「やっぱり…」と口火を切った。
「ここは技能で突破するしかない…かもね。私が警察手帳見せて、小泉さんの自宅を調査したいってお願いするのはどうかな?」
「というか、それしかなさそうだよな」
「GM、技能の<信用>に<法律>も上乗せしたいんだけど」
『七海さんの<信用>は61%、<法律>は55%だね。合算したら100%を超えるし、ここは自動成功で構わないよ』
「うん、それを見越しての値なんですけどね…」
七海は満足気にどやぁと視線をこちらに向ける。可愛いなと思って 笑いを漏らすと、狛枝もクスクスと楽しそうに笑っていた。


【七海 千秋/PL2】
「すみません。私、こういう者です。小泉さんがとある事件に巻き込まれたので、部屋の調査をしたいんです。ご協力願えますか?」
【花村 輝々/NPC】
「あぁ、何だ! 警察の人だったんだね。ンフフ…、それならそうと言ってくれたら良かったのに。どうぞどうぞ、これが合い鍵だよ」
【苗木 誠/GM】
『七海 千秋が交渉すると、管理人は急に腰を低くし、風のような速さで合い鍵を差し出してくれました』
【七海 千秋/PL2】
「管理人さん、ありがとうございます。それじゃ、小泉さんの部屋へ行ってみようか」
【花村 輝々/NPC】
「あっ、警察官のお嬢さん! あの良かったら、電話番号とか教えてくれないかな? ぼくはこう見えても料理が得意でね、今度は手料理なんかを君にご馳走したいなぁ」


「…狛枝」
「分かってるよ。GM、<言いくるめ>」
『あ、うん。どうぞ』

<言いくるめ>
探索者名  技能   出目  判定
狛枝 凪斗 (90) → 25  [成功]


【狛枝 凪斗/PL3】
「管理人さん、止めておいた方が良いよ? 彼女のお父様はそれはもう厳しい人なんだ。目を付けられた男達はみんなマグロ漁船に乗せられて、……2度と帰って来ないらしいよ」
【花村 輝々/NPC】
「ええっ、そうなの? …う〜ん、それじゃ諦めようかな。鍵は帰る時に返しに来てね!」
【苗木 誠/GM】
『そう言って、管理人は部屋に戻りました』


シーンが途切れ、一段落がついた所で日向は「ふぅ」と大きく息を吐いた。見渡せば、七海も狛枝も何とかやり遂げたといったような顔つきでそこにいる。狛枝は片目を瞑り、不機嫌そうに頭を掻いた。
「やっと小泉さんの部屋の鍵が手に入ったね。はぁ、全く花村クンには参ったな。日向クンはボクのなのに…」
「ロールプレイ上ではなっ! …ったく、俺はお前にも参ったよ」
「ありがとう」
「っ褒めてねぇよ!!」
日向はピシャリと狛枝をねめつけた。苗木は『お疲れ様』と労いの言葉を掛けながら、指揮棒でモニタを指す。
『今回の管理人である花村クンは、言葉による交渉が一切通じないんだ。その代わり、権力と色仕掛けには弱いかな。NPCは色々なタイプの人がいるよ。警察が嫌いだったり、性別で態度を変えたりね。そういったことを探索者達が見抜いて、切り抜けなきゃいけないんだ』
「中々難儀なゲームなんだな」
『テーブルトークならではだね。さて鍵を手に入れたから、小泉さんの部屋を調べることが出来るよ。早速入る?』
「もちろんだ」
何としてでもここで手掛かりを手に入れたい。暗転するモニタに日向は意識を集中させた。

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14.部屋
【苗木 誠/GM】
『小泉 真昼の部屋です。多少荷物が多いようですが、スッキリと片付けられており、パッと見では特に不審な点はありません』


「パッと見…でしょ? それじゃ小泉さんの怪死の手掛かりになりそうなものを探していくとしようか。んー、まずは七海さんとボクで<目星>かな?」
『うーん…。だったら<目星>じゃなくて、<アイデア>ロールに成功した数だけ、何かありそうな場所を提示するよ』
苗木はそう言って、人好きのする笑顔を見せる。怪しい場所を直観力で絞り出す…。何か刑事ドラマっぽい。<目星>の値が低い日向の出番はないと思っていたが、苗木は<アイデア>で情報をくれるらしい。日向の<アイデア>は50ある。それなら確率は単純計算で1/2だ。ダイスを振るのも戦闘以来だなと考えながら、日向はダイスを転がした。

<アイデア>
探索者名  技能   出目  判定
日向 創_ (50) → 38  [成功]
七海 千秋 (70) → 54  [成功]
狛枝 凪斗 (90) → 43  [成功]

『うん、みんな順調だね! 3人とも成功だから、「仕事机」「資料棚」「ゴミ箱」。この3ヶ所を提示するよ』
「調べる場所が3ヶ所で、私達も3人。調べるには時間が掛かるだろうし、分担した方が効率が良い…と思うよ」
そうなるとどの場所を誰が探すかが問題だ。『仕事机』『資料棚』『ゴミ箱』か…。日向は探索系の技能を持っていない。他の2人が優先的に重要そうな所を調べるべきか、とモニタを見ながら日向は考えた。狛枝は隣の七海に、「七海さん、先に決めて良いよ」とニッコリ笑いかけている。彼は女子には特に優しい。自然な素振りでスマートに立ち回る。
「狛枝くん、ありがとう。私は仕事机が気になるかな。1番手掛かりがある…ような気がする」
彼女は探索技能的にも申し分ないし、この3人の中では1番セッションに慣れている。ゲーム的な勘―――メタ推理とも言うが―――も鋭い。仕事机にパソコンがあったら、<コンピュータ>を持っている七海が適役だ。
「じゃあゴミムシであるボクは、ゴミ箱を調べるとしようかな」
「ちょっと待て。俺は探索系の技能がないから、狛枝が資料棚を調べてくれないか?」
「そっか、分かったよ。GM、後で別の人間が場所を変えて探すのもありかな?」
『OKだよ。ただし、それに見合った時間は掛かるから注意してね』
「了解。もし<図書館>ロールが必要なら、後で七海さんに手伝ってもらうよ」
ある程度の役割分担は決まったようだ。日向は満足気に腰に手を当てる。
「俺がゴミ箱か…」
予想はしていたし、この分担に反論は1つもない。しかしゴミ箱を調べている所をイメージすると、どうも格好がつかない。まぁ仕方ないかと日向は割り切ることにする。自分が仕事机や資料棚を調べても、何も出てこない可能性があったからだ。
「ゴミ箱を漁る日向クンかぁ、…それもまた加虐心が刺激されるね。ふふふっ」
狛枝は呟いて、妖しげな笑いを図書館に小さく響かせた。彼の汗ばんだ肌は興奮からだろうか。日向は彼の欲情スイッチがどこにあるのか良く分かっていない。結局のところ、日向が何をしていてもこんな調子なのだ。

『えーっと、七海さんが「仕事机」、日向クンが「ゴミ箱」、狛枝クンが「資料棚」で良いかな? それじゃ順番に進めていくね』


[@仕事机]
【七海 千秋/PL2】
「さてと、仕事机には何があるかな?」
【苗木 誠/GM】
『七海 千秋は仕事机に近付きます。机の上には最新型のノートパソコンがありました。ただしロックが掛かっているようです。それと最近の仕事に使ったと思われる書類や写真、新聞や雑誌の切り抜きなどが15cmほどの高さに積まれています』


「積まれてる資料って、全部調べるのにどのくらい時間が掛かる?」
『これらを調べて、小泉さんの怪死に関連性のある情報を推測するには、2時間ほどの時間を要するね。それと<図書館>ロールに成功する必要があるよ』
むぅ…と七海は頬をリスのように膨らませて、腕を組んだ。ダイスロールがあるのは分かっていたが、2時間とは意外と時間が掛かるようだ。
「ノートパソコンは一先ず置いておいて、資料から探してみるよ」
『了解だよ。それじゃ<図書館>ロールしてみてね』
七海は「よしきたー」と棒読みで言って、ダイスをそっと投げた。カランカラン…と白と黒がテーブルを叩く。

<図書館>
探索者名  技能   出目  判定
七海 千秋 (99) → 81  [成功]

「極振りしたから、失敗するはずもないよね…。逆にちょっとつまんないかも」
『まぁまぁ、失敗してモヤモヤするよりボクは全然良いと思うよ』
苗木がフォローを入れる。そして手元の資料を捲りながら、ダイスの結果を口にした。
『結果だけど、まず最近の小泉さんの取材内容が分かるよ。「斑井 一式」という製薬会社社員と「音無 涼子」というカウンセラーを取材していたようだね。経歴も調査済みみたい』
七海は「あれ?」と首を傾げた。聞き覚えのある名前に、日向は探索者シートの裏の走り書きに視線を落とす。確か小泉と食事をしたレストランに残された手帳に、今の名前があった。しかし1人足りない。
「確か罪木さんの名前も手帳にあったはずだけど、ここにはないみたいだね…。GM、とりあえず資料の結果を聞きたいな」


【苗木 誠/GM】
『斑井 一式。製薬会社社員。資料内容は内部告発に関する物らしいです。しかしかなり慎重にやっていたらしく、資料には会社名がありません。次に音無 涼子。摂食障害専門のカウンセラー。普通の高校を卒業した後、2年前までは中小企業のOLをしていましたが、今は凄腕のカウンセラーとして有名になりました』
【七海 千秋/PL2】
「製薬会社社員とカウンセラー…。資料からの情報はこれだけみたいだね。次はパソコンを調べてみようかな」
【苗木 誠/GM】
『七海 千秋は仕事机の上にあるパソコンを立ち上げました。効果音と共に真っ青なログイン画面が表示されます。どうやらロックが掛かっているらしく、パスワードを入れないと中身は見れないようです』


「パスワード…。………。ねぇ、日向くん。小泉さんの手帳に書かれてた文字、覚えてる?」
七海はすぐに帰着点に辿り着いたようだ。あの文字がパスワードである可能性はかなり高い。日向は頷いて、文字を走り書きした紙を七海に手渡した。


【七海 千秋/PL2】
「………。azlxwq835…。これ入力したら、パソコン使えたり…しないかな?」
【苗木 誠/GM】
『七海 千秋は小泉 真昼の手帳に書かれた謎の数字をパスワード欄に打ち込みます。しばらくしてパソコンのロックが解除されました。すぐにデスクトップに「罪木 蜜柑」という名前の付いたフォルダを見つけます』
【七海 千秋/PL2】
「罪木 蜜柑さん…。都内にある大学に通う女子大生。取材内容はカウンセラーである音無 涼子に関すること。ふむふむ…。過食症に悩んでいた所を、音無 涼子のカウンセリングを受けることで数時間で症状が治まったと」
【苗木 誠/GM】
『フォルダにはURLのリンクがありました。どうやら音無 涼子のカウンセリングを受けた相談者のブログのようです』


『ブログを全部読むには、+3時間掛かるよ。ざっと斜め読みするなら、技能<母国語>に成功した上で、1時間程度で読むことが出来る。七海さん、どうする?』
七海はそれを聞いて、フードをすっぽりと被ってしまった。じーっと下方を見つめ、考え込んでいるようだ。日向は新たに出てきた技能に、苗木に言葉を投げかけた。
「<母国語>…って、日本語のことか?」
『そうだよ。<母国語>はEDU(教育)×5の数値になるんだ。七海さんの場合はEDU(教育)が16だから、<母国語>は80になるね』
日向は探索者シートを見て、<母国語>の数値を計算してみた。どうやら自分は70あるらしい。そうこうしている内に考えが纏まったのか、七海が顔を上げた。
「…GM、1時間で斜め読みするよ」
『それなら<母国語>ロールお願いね』

<母国語>
探索者名  技能   出目  判定
七海 千秋 (80) → 19  [成功]


【苗木 誠/GM】
『七海 千秋は音無 涼子に関するブログを1時間程度で斜め読みしました』


「GM、他の2人の意見も聞きたいから、結果は後でお願い」
上目遣いで七海が苗木を見つめると、彼ははにかんだような笑顔になった。
『まぁ、良いかな。結果はまとめて話すけど、時間は七海さんが読んだ分と2人に伝えた分を換算するからね。仕事机は全部調べたってことで、日向クンのシーンに移ろう』


[Aゴミ箱]
「次は俺か。GM、調べるとなると<目星>ロールをした方がいいのか?」
『ゴミ箱の中には事件に関係ない、いらなくなった書類がそのまま投げ捨てられている。だから<目星>も<図書館>も必要ないよ』
日向は安堵の表情を浮かべる。それは助かった。初期値でどうしようかと悩んでいた所だったのだ。「ゴミ箱を探す」と進言すると、苗木は了解とばかりに大きく頷いた。


【日向 創/PL1】
「何か手掛かりになるような物は捨てられてないかな…」
【苗木 誠/GM】
『日向 創がゴミ箱を覗いてみると、底に小さく丸めたコピー用紙が転がっていました』
【日向 創/PL1】
「これ、あからさまに怪しいぞ…。何が書いてあるんだ?」
【苗木 誠/GM】
『怪しんだ日向 創はコピー用紙を広げます。そこにはヒキガエルの顔にコウモリの耳、体は太ったクマのような不思議な生物のスケッチが描かれていました』


モニタに映ったそれを見て、日向は眉間に皺を寄せた。動物…ではない。きっと神話生物の類だろう。見れば見るほどアンバランスなその造形に、不快感に駆られてくる。
「何だこれ…? …気味が悪いな」
『日向クン、ここで<アイデア>ロールをお願いするよ』
「え、<アイデア>? 分かった」
前触れもなくロールになった。日向は首を傾げながらもダイスを手に取る。何も考えずにポイッとテーブルにそれらを投げた。

<アイデア>
探索者名  技能   出目  判定
日向 創  (50) → 06  [成功]


『成功したんだね? 日向クンはスケッチの生物を見たことにより、得体の知れない恐怖を感じてしまったよ』
「恐怖…? おい、まさかそれって、」
『うん、SANチェックだよ。0/1D3で<正気度>ロール。つまり、成功すれば正気度喪失なし、失敗したら1D3の正気度喪失だ。ではロールどうぞ』
<アイデア>の意味を忘れていた。七海が教えてくれたが、基本的にこれには成功しない方が良いらしい。まさかSANチェックになるなんて…。日向はダイスをぎゅっと握り締めて、念を込めてから、注意深く転がした。

<正気度>
探索者名  技能   出目  判定
日向 創  (83) → 53  [成功]

「セーフか…。怖いな」
『おめでとう。<正気度>ロールに成功したから、喪失はなしだね。これでゴミ箱の調査は終了だよ』
これだけか! 何もない上にSANチェックまであるということは、ゴミ箱は外れだったのだろう。溜息を吐いた日向はイスに反りかえるような体勢でだらりと上を向き、天井を見つめるのだった。


[B資料棚]
「ボクの担当は資料棚。まずはその前にやらなければならないことがある…。GM、<写真術>ロール良いかな?」
『ここで? 別に良いけど、…何を撮るの?』
狛枝の予想外の行動に苗木は歯切れが悪い。尋ねられた狛枝は両手を大きく広げて、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「何をって、もちろんゴミ箱を漁っている日向クンだよ!! こんな貴重なシーン逃す手はないからね!」
「いや、調査しろよ」
日向が狛枝に文句を言うも、馬の耳に念仏であった。GMである苗木も狛枝の行動に対しては、諦めた所もあるのか逆らわずにダイスロールを促す。
『じゃあ携帯に付属しているカメラで撮ったってことで、ロールお願いします』

<写真術>
探索者名  技能   出目  判定
狛枝 凪斗 (30) → 11  [成功]

「何でここで成功させんだよ!」
「あはっ、それはもちろん愛じゃないかな」
呆れたような視線を狛枝に向けても無駄だった。モニタには狛枝が撮ったとされる写真が映し出された。日向がゴミ箱をひっくり返して、中を探っているシーンである。気乗りしないのか不機嫌そうな顔で。そんな所も再現するのかと日向は逆に感心する。写真を見た狛枝は更に「ゴミ箱を漁る日向クゥン…」と両頬に手を当てて頬をピンク色に染めていた。
『えっと、じゃあ本題に戻りまして。資料棚は小泉さんがすっきりと片付けていて、探しやすくなってるから、<図書館>ロールは不要だよ。資料を読むために30分は掛かるかな』
「全部調べるのは大変そうだよね。GM、使用頻度が高いとか、比較的最近目を通したとかそういう資料は分かるかな? 分かるならそれに限定して調べたいかな」
『可能だよ。それには2時間掛かるってことで良いかな』
狛枝はニコッと笑って頷いた。


【狛枝 凪斗/PL3】
「小泉さんが最近読んでいたのはこの辺りの資料かな」
【苗木 誠/GM】
『狛枝 凪斗が棚を調べた結果、摂食障害に関する専門的な書籍、摂食障害に関する新聞や雑誌の記事をコピーしたものが見つかります』
【狛枝 凪斗/PL3】
「ふぅん、彼女は摂食障害に興味を持っていたみたいだね。一通り読んでみようか」
【苗木 誠/GM】
『資料を読み進めた狛枝 凪斗は次の内容が分かります。摂食障害とは、若い女性に良く見られる病気で、異常な量の食事を摂取し、嘔吐を繰り返す「過食症」、食事を拒絶して極端に痩せる「拒食症」。大きく分けて2つがあります。また摂食障害の患者は精神的に不安定に陥り、様々な精神疾患を併発することがあります。それと他人が症状を気付きにくいため、潜在的な過食障害の患者はかなり多いと考えられています』


「小泉さんやボクは十中八九それだろうね。となるとあの『口』が原因かな。GM、分かったことはこれだけ?」
『うん、そうだけど。…どうしたの?』
「ハッキリ言って、この程度のことは当たり前過ぎて情報にもならないよ。肩透かしを食らった気分だね」
『ご、ごめんね…』
素っ気なく言い放った狛枝を見て、苗木は下を向いて半泣きになっている。
「お前な! 苗木を虐めるなよ。セッションでそうなってるんだから、こいつの所為じゃないだろ?」
「だって日向クンとボク、手掛かり0だよ? マトモな情報は七海さんだけ。溜息も出ちゃうよね」
こっちなんか何もない上に、SANチェックまであったんだぞ。そう言いたかったが、言ってしまったら苗木を更に落ち込ませてしまう。
「だからって苗木に当たるのはお門違いだ」
「……そうだね。ごめん、苗木クン。少し言い過ぎたよ」
それを聞いた苗木はすぐに表情を明るくし、「ううん」と首を振る。ここで小泉の家での一通りの調査は終わった。

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